2戦目:純白パンツは天使の微笑み②
「分かった。受けよう。どんなテストなんだ?」
「なに、簡単なもんじゃ。わたしとストームで勝負し、生き残れば合格じゃ」
また聞き慣れない単語が飛び出した。
「なんだストームって?」
「お前はウィザードのくせにストームも知らんのか!」
呆れた顔で見つめるルル。
すかさずセリアが耳元で囁く。
あ、イイ匂いが……。
「ストームとは決闘の方式の一つで短期決戦を意図したものです。特徴としてはお互い、レベル10から始まり、初期ストックは3枚になります」
「レベル10!? それじゃ本当に一瞬で決まるな」
「ええ。そして、もう一つの特徴はそれぞれ個人のターンがなく、お互いにスキルやスペルを打ち合いまくるというものです」
「まぁ、なんとなく分かったよ。とにかくやって覚えるまでだ」
正直、耳にかかる吐息で話どころではなかった。
「もう良いかの? では、条件はこうじゃ。お互いのHPは1,000、クラスはノービス限定、そしてスキルとアイテムの使用は禁止じゃ。ウィザードらしくスペルでお前の力を見せてみよ」
「言われずともアイテムもスキルも持ってないさ」
「そして、最も重要な条件。1ターン生き残ること。そうすればお前の勝ちじゃ」
「なんだ1ターンで良いのか」
「フッ、やはり理解出来ていないようじゃな。ストームで1ターンを超えるということを。では、いくぞ!」
するとルルからとんでもない魔力がほとばしるのを感じる。
こいつ、見た目とは裏腹に偉そうな口を叩いてるだけのことはありそうだ。
俺も目の前に現れたストックを確認し、気持ちを勝負のそれに切り替える。
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【トウマ】
レベル:10
HP:1,000
ストック:3
【ルル】
レベル:10
HP:1,000
ストック:3
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「先手はお前に譲ってやろう。どこからでもかかって来るが良い」
「ちっ、余裕ぶりやがって」
だが、どうする?
いきなり高レベルのスペルを叩き込むか?
そうするとこのターンに使えるスペルが減ってしまう。
あくまで俺の目的はこのターンを生き延びることだ。
ひとまずここは様子見するか。
「くらえ! ファイアボール!」
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レベル:1
名前:【ファイアボール】
種類:エレメンタルスペル 即時
効果:対象に100のダメージを与える。
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手のひらに浮かぶ火球をルルに向かい勢い良く放つ。
何もせずただ立ち尽くすルル。
初手は難なく成功か。
そう思われた時だった。
「お前も所詮この程度じゃったとは」
火球がルルの顔面に直撃する、刹那。
火球の前に渦を巻く小さなブラックホールのようなものが現れた。
渦の影からにやりと口角を上げたルルの顔が覗く。
「グラビティホール」
直後、俺の放った火球が黒い渦へと吸い込まれ、消えてしまった。
「なに!?」
だが、それだけでは終わらなかった。
なんと俺の眼前にもその渦が現れたのだ。
その奥から光が射し込む。
凄まじい速度でぐんぐんと近付く光。
それは俺が放ったあの火球だった。
「ぐわぁぁあ!!」
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【トウマ】
HP 1,000→900
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「熱っいな!! おい、先手譲るとか言って騙しやがったな!」
「何を言っておる。相対スペルがあることくらい想定出来るじゃろ」
「は? 相対スペル?」
「は? まさか知らんのか?」
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レベル:2
名前:【グラビティホール】
種類:時空スペル 相対
効果:・対象のダメージを100軽減する。
・対象に100のダメージを与える。
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「相対は主に相手のスキルやスペルに対して使われるものじゃ。そして、それは対象に取ったスキルやスペルより先に効果が発動されるのじゃ」
「そうだよ! 俺が先にファイアボール唱えたはずなのに! カウンター決めやがって」
「フッ、残念じゃがお前が助手になれる見込みはなさそうじゃの」
「くそ!」
「トウマさん! 諦めないでください! まだ戦いは始まったばかりです!」
セリアが胸を揺らしながら俺を励ましてくれる。
――癒されるなぁ。
女の子からこんなに声援を受けられるならもうニ、三発くらい食らっても良いかな。
「どうしたのじゃ? もう終わりか?」
俺は現実に戻り、次の手を考える。
だが、先程の相対スペルとやらが頭にチラつきどうも考えがまとまらない。
「来んのならこちらからいくぞ!」
しびれを切らしたルルがローブの裾をバッとひるがえす。
――白か。
いかん、また考えが乱された。
「悠久なる時を刻みし因果の歯車よ……」
ルルの詠唱が始まると、見慣れぬ文字が描かれた光の帯が彼女の周囲を回りだす。
「終末はやがて来たらん! フューネラル・ドゥーム!」
そう唱えた時、暗闇の中から古ぼけた懐中時計のようなものが出現する。
懐中とは言ったもののその大きさはルルの頭より一回り以上も大きく、さらにその文字盤の中央には瞳が一つ見開き、ギョロリと俺を見つめるではないか。
「い、一体このスペルは?」
俺は咄嗟に彼女の反転したストックを確認する。
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レベル:1
名前:【フューネラル・ドゥーム】
種類:時空スペル 詠唱
効果:・詠唱5
・場に出ている全てのスキルとスペルを破壊する。
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「詠唱スペル!? しかも詠唱5? 確かに効果は凄そうだが、なんだってストームでそんなスペル唱えるんだ?」
「詠唱スペルは言わばターンをコストに発動させるものです。なので一般的にはストームに向かないとされているはずですが……」
そんな俺たちの疑問にルルは楽しげに答える。
「当然の見立てじゃな。と、言うことはつまりどういうことか。……布石じゃ」
再び彼女の周囲を文字の描かれた帯が回り始める。
足元には魔法陣がぼんやりと光り、ローブをはためかせる。
――やはり白か。
じゃない!
「布石だと!?」
「フッ、出直してくるんじゃな」
光の帯が力を解放するように眩く輝き、割れる。
「クロノ・ヴォーテックス!!」
空が割れたかと思う程の轟音が頭上に響く。
見上げるとそこには巨大な渦が強大なエネルギーを抑えきれないといったようにバチバチと稲妻を走らせる。
そして、それは次第に収縮していく。
収縮し、収縮し、収縮していったその時。
黒い一粒の点が消え去ったと思ったその時。
目の前が真っ白な光に包まれた。
「……ッ!!!」
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レベル:3
名前:【クロノ・ヴォーテックス】
種類:時空スペル 即時
効果:場に出ているあなたの詠唱カウンターの数×100のダメージを対象に与える。
(最大500ダメージ)
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「……なんて、威力だ」
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【クロノ・ヴォーテックス】スペルダメージ
詠唱5(【フューネラル・ドゥーム】)×100
【トウマ】
HP:900→400
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「これで終わりではないぞ。忘れてはおらんか?」
「なッ! ま、まさか!」
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クラス:【ウィザード】
レベル:1~5
装備:ロッド、本
アビリティ:あなたのターンにスペルを3回以上唱えた時、対象一つに200のダメージを与える。
このアビリティは1ターンに1度だけ使用できる。
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「アビリティ発動! タイムエントロピー!!」
ルルの背後に現れた歯車を噛み合わせたような魔法陣からいくつもの魔力の矢が撃ち出される。
「ぐはッ!!!」
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【トウマ】
HP:400→200
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「……マさん! ……トウマさん! 大丈夫ですか!?」
目を開けるとそこには二つの山が逆さに見えた。
そして、その奥からセリアが心配そうな顔を覗かせている。
柔らかな感触が後頭部から伝わってくる。
――俺は全てを理解した。
なので再びゆっくりと目を閉じた。
『マジック&ウェポン』
~決闘の掟~
「ストーム」:決闘方式の一つで、短期決着を目的としたもの。
レベル10から開始し、どちらかのHPが0になるか、
お互い行動出来なくなった場合、次のターンに移る。
次のターンの開始時にレベルアップは行わない。
「相対」:相手のターンにも使用出来るスキル・スペル。
直前の自分のターンに、未使用のレベルが残っていなければ、
相手のターンに使用することは出来ない。
主にスキルやスペル等の効果を対象とする。