1戦目:童貞のまま死ねるか④
「そんなもん……良い訳ないだろうがーーッ!! いくぞ! 俺のターン! レベルアップ! G獲得!」
==============
【トウマ】
レベル:3→4
所持G:300→400
【ゲヘナフレイム】詠唱:2→1
==============
奴のHPは残り1,200だ。
何とか次の奴のターンを凌ぎ切れば勝機は掴める。
だったら一か八かこのスペルだ!
「受けてみろ! 禁忌の呪法! コープスバインド!」
直後、ドス黒い霧がおっさんの周囲を包み始める。
「な、なにしやがるんだ!」
すると、不快なうめき声がどこからともなく響き出す。
辺りを警戒するおっさん。
だが、次の瞬間。
「うぎゃああああああ!! し、し、死体!?」
なんと地面から這いずり出したゾンビの群れがおっさんの体にがっしりとしがみついているではないか。
「しっかり頼むぜ、ゾンビ共。俺はまだそっちへ行きたくないからな」
=========================================
レベル:2
名前:【コープスバインド】
種類:呪術スペル 即時
効果:次のあなたのターン終了時まで相手はレベル1のスキルとスペルを使用することができない。
=========================================
「そして、スペル使用により追加のリフィル!」
この1枚で運命が決まる。
頼むぜ、神様。
俺はこんなところで死ぬ訳にはいかないんだ。
「来い!!」
空いたスペースにストックがぼんやりと浮かび上がる。
それは徐々にはっきりとした姿を見せていく。
そして、現れたストックが目に飛び込んだ瞬間。
「こ、これは……!? い、いけるのか!? そうか! これを使えばッ!!」
「ごちゃごちゃ何言ってやがる! どうせテメェの命はねぇんだ! さっさとこの気持ち悪いスペルを終わらせろ!」
「ふふふ。せいぜい今の内に吠えてろ。死人に口なし、だからな! スペル! 邪悪なる儀式!」
突如、俺の足元に血で塗られた魔法陣が滲み出した。
薄気味悪い気配が辺りに漂う。
「さらにもう一度! スペル! 邪悪なる儀式!」
今度は魔法陣の各所にロウソクが立ち並び、目の前には台座に乗せられた山羊のドクロが忽然と現れる。
===============================
レベル:1
名前:【邪悪なる儀式】
種類:呪術スペル 即時
効果:次のあなたのターンに唱えた呪術スペルのダメージに+150する。
===============================
×2
「ストックに2枚同じスペルがあったんで2回唱えさせてもらったぜ。これで次のターン、俺の唱える呪術スペルはダメージ+300だ!」
「ちっ! 小賢しいマネを!」
「さらに! このターン、俺はスペルを3回唱えた!」
「げっ! まさか……」
「そう! ウィザードのアビリティ発動だ!」
=========================================
クラス:【ウィザード】
レベル:1~5
装備:ロッド、本
アビリティ:あなたのターンにスペルを3回以上唱えた時、対象一つに200のダメージを与える。
このアビリティは1ターンに1度だけ使用できる。
=========================================
「や、やべぇ!」
「覚悟は良いか!? マジシャンズ・レイ!」
そう叫ぶと同時に手のひらを思い切り突き出す。
直後、耳をつんざく音と共に光線がおっさん目掛け射出される。
「ぎゃあああああ!!」
===========
【悪漢】
HP 1,200→1,000
===========
「き、気持ちいい……」
「す、すごいですトウマさん! アビリティまで使いこなすなんて! それにしても、なぜ光線ですか?」
「いや、手からビームって憧れるじゃん?」
「は、はぁ」
困った顔もかわいいな。
「さぁ、次はあんたのターンだぜ。おっさん! その状態で俺にトドメを刺せるか?」
「うるせーガキが! やってやる! レベルアップ! レベル5! 100G獲得!」
=============================
【悪漢】
レベル 4→5
所持G 400→500
【コープスバインド】効果:レベル1のスキル・スペル使用不能
=============================
「うおりゃああああ! ゾンビがひっついてようが関係ねぇ! ダガースロー!」
おっさんが叫ぶと手にはいくつもの短剣が握られ、俺に向かって投げつける。
「そりゃあああ! もう一丁!!」
さらにもう一度、鋭い短剣が正確に俺を狙う。
==================
レベル:2
名前:【ダガースロー】
種類:短剣技 即時
効果:対象に200のダメージを与える。
==================
×2
「くッ!!」
俺は腕を交差させ、その短剣を身体に受ける。
=======
【トウマ】
HP:500→100
=======
意識がふっ飛びそうになる。
頭上のバーはほぼ真っ白。
だけど、ほぼだ。
まだ俺は生きている。
おっさんはしばらく黙ったままだ。
そして。
「……ターン、終了だ」
その宣告に、思わず俺はにやりと顔を歪める。
レベル5のおっさんが、レベル2のスキルを2回使った。
つまり、あと使えるのはレベル1のスキルかスペル一つ。
だが、それは俺のゾンビが許さなかった。
女に抱かれるよりゾンビに抱かれてる方が似合うぜ、おっさん……。
「悪運尽きたなおっさん。ここからは俺の反撃の時間だ」
俺はすぅーっと息を吸い込み高らかに叫ぶ。
「レベルアップ! レベル5! 100G獲得!」
================
【トウマ】
レベル:4→5
所持G:400→500
【ゲヘナフレイム】詠唱:1→0
================
「ふふふ。詠唱が0になったってことは即ち発動って訳だ。今度こそ! 燃え尽きろー! ゲヘナフレイム!!」
先程、出現していた魔法陣が歯車のように回転し始め、光を放つ。
そして蓄えられた魔力が今まさに爆発する。
轟音。
真紅に燃え盛る爆炎が凄まじい音と共に魔法陣から解き放たれる。
もう叫び声すら聞こえない。
炎が過ぎ去った後には、膝から崩れ落ちたおっさんの姿だけがあった。
==================
【ゲヘナフレイム】スペルダメージ 500
【悪漢】
HP 1,000→500
==================
「そして、これが俺の逆転の一手! 儀式により邪悪なる魂よ、蘇れ! 骸骨騎士ギリアム!」
ガタガタと台座とそれに乗った山羊のドクロが揺れる。
ロウソクの火が突然フッと消え失せる。
背筋の凍るような異様な空気が辺りを支配する。
「……我を喚び出す者は誰だ」
魂を鷲掴みにするような恐ろしい声が彼方より響く。
そして、次の瞬間。
山羊のドクロが宙に浮く。
すると、その下からは見事な鎧を纏った骸骨の体が現れたではないか。
巨大なノコギリのような剣を携えた異様な騎士。
その目が赤く灯る。
「こ、こいつがギリアム……」
「貴様が新たな君主か。なるほど。中々面白い。久々に退屈せずに済みそうだ。貴様に仕えるとしよう」
======================
レベル:5
名前:【骸骨騎士ギリアム】
種類:呪術スペル 召喚
効果:・召喚 200/300
・このスペルのダメージは軽減されない。
======================
「な、な、何なんだテメェは……? さっきからバケモノを操りやがって……」
ぶるぶると震えるおっさん。
「そうだ、忘れるところだった。さっきのターンに唱えた邪悪なる儀式、しかも2回。これがこのターンだけ、ギリアムの攻撃力に+300される」
「あ? と、と、と言うことは?」
==========================
【邪悪なる儀式】効果(×2):呪術スペルダメージ+300
【骸骨騎士ギリアム】
200/300 → 500/300(ターン終了時まで)
==========================
「俺の勝ちだ」
「ひぃぃいいい!! お、俺の負けだ! 頼む! お、お助けを!」
俺はちらりとセリアを振り返る。
「あ、あなたは勝者です。なので選ぶ権利があります。このまま彼の命を奪うか。それとも、敗北を認めた彼に一つだけあなたの言う事を何でも聞かせることができます」
「な、何でも?」
「はい、それが決闘の掟です」
「君主よ。我が剣に奴の血を吸わせろ。幾千年振りの血だ」
「ひぃぃいい! お願いします! お願いします! 何でも言う事聞きます!」
「君主! まさか貴様、このまま手打ちにするのではないだろうな」
「お願いします!」
「君主!」
「お願いします!!」
「君主!!」
「お願いします!!!」
「君主!!!」
「だーッ!! うるせーッ!! だったら決めてやる!」
そして俺はビシッと指差す。
「俺の前から消えろ」
「ひいぃ!」
「君主……」
するとギリアムはすーっと姿を消していった。
「いずれ貴様も命を屠る悦びを見出すだろう。……楽しみにしているぞ」
そんな不気味な予言めいた言葉を残して。
「完全に敵みたいなこと言ってるけど、俺の召喚スペルだよな。……まぁいいか。で、おっさん!」
「は、はい!」
いつの間にか正座するおっさん。
「何でも言う事聞くんだったな?」
「は、はい……」
「たちの悪い人はこの時に自殺を命じたりするらしいですよ」
さらっと怖いことを言うなぁ。
セリアは相当怒ってるのだろう。
「じゃあ、こうしよう!」
ぐっと固く目を瞑るおっさん。
ついに判決が下される。
「今から善人になれ」
「え? 善人?」
「そう、悪いことは一切しちゃダメ。世のため人のため真面目に生きていけ」
「そ、そんな殺生な……」
「当たり前だろ。殺生する代わりの命令なんだから」
「それを言ったらオシマイよ。……はぁ、仕方ない。命あっての物種だ。善人として生きていきますよ」
その瞬間、おっさんの体に光が注ぐ。
「これであなたの言った事が正式に契約されました。彼はもうどうあがいても悪いことは出来ません。悪いことをしようとしても契約の力によりそれは阻止されます」
そして、セリアがにっこりと笑う。
おっさんは立ち上がるととぼとぼとどこかへ歩いて行ってしまった。
「ありがとうございます! トウマさん! あなたは命の恩人です!」
そう言ってしっかりと俺の両手を握るセリア。
――や、やわらけぇ……。
「い、いや当然のことをしたまでだ。それより色々と教えてくれてこちらこそ助かったよ」
「い、いえいえ! そんな! ……トウマさん、優しいのですね」
頬を赤らめ視線を外すセリア。
――うぐッ!
なんだ、この心臓をえぐられるような悶々とする気持ちは。
このままじゃ彼女にトドメを刺されてしまう。
「ところで闘いとは無縁そうなのに何でそんなに決闘に詳しいんだ? この世界じゃそれが普通なのか?」
「いえ、さっきのは私の兄の受け売りです。兄は決闘で勝つために日々、大変な鍛錬をしていましたから」
「お兄さんの影響か。それで? これから家に帰るつもりだったのか? 危ないだろうから送って行くぜ?」
すると、セリアは俯いて黙ってしまった。
しばらくして決意を秘めたような瞳で俺に告げる。
「実は、私、兄を探すため旅をしているんです!」
「お兄さんを探す旅?」
「はい……。決闘のために家を空けるのはいつもなんですが、もう何ヵ月も戻らなくて。こんなこと初めてで。絶対に家には帰ってくるはずなんです。それなのに……。だから、探しに行こうと家を飛び出したのは良いのですが、あんな目に……」
「そうか」
「あ、あの……。初めて会ったばかりの人に言うのも大変不躾なんですが。私をセントルムの街まで連れて行って頂けませんか!? お願いします!」
そう言ってバッと頭を下げるセリア。
「……残念だがそれは無理な相談だ」
それを聞いたセリアが泣きそうな顔で俺を見上げる。
俺はちょっと意地悪く笑って見せる。
「この世界に来たばっかりで街がどこかも分からないんだ。だから、俺を街まで連れて行ってください!」
同じように頭を下げる俺。
すると。
「……っぷ。あはは。もう! ひどい人ですね! 分かりました。私がお連れ致します」
顔をあげるとそこには極上の笑顔があった。
俺もそれに笑って応える。
「じゃあ、改めてよろしく」
そう言って手を差し出す。
「よろしくお願いします」
それを彼女が握り返す。
そうして俺たちは街へと歩き出した。
まずはお友達ってところからかな。
はてさて俺はこの世界で死ぬ前に童貞を捨てられるのか。
まぁ、幸先は良さそうだし。
やるしかないって訳だ。
『マジック&ウェポン』
~決闘の掟~
決闘の勝者は敗者の命を奪うか、どんな命令でも一つだけ従わせることが出来る。
敗者は契約の力により命令に背くことは出来ない。
決闘の掟は絶対。