1戦目:童貞のまま死ねるか③
「ようやく俺の2ターン目か。待ちくたびれたぜ! レベルアップ! レベル2! 100G獲得! リフィル!」
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【悪漢】
レベル:1→2
所持G:0→100
ストック:3→4
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「さっきのお返しだ!」
そう叫ぶとおっさんのストックが1枚飛び出し、反転する。
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レベル:2
名前:【強打】
種類:剣技 即時
効果:・対象に100ダメージを与える。
・対象のストックをランダムに1枚破壊する。
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「ひゃっはー!!」
シミターを振りかぶったおっさんが俺に斬り掛かる。
「くっ!」
衝撃が全身に走る。
恐る恐る目を開けてみるが、どこからも血は出ていなかった。
だが、どこか体の力が先程より少なくなったのを感じる。
「決闘は魂の戦いです」
セリアの言葉に振り返る俺。
「今、あなたは魂を削られたのです。痛みはないかもしれませんが、確実にあなたの命は少しですが失われました」
その言葉に急に背筋が寒くなる。
確かに決闘とはそういうものだ。
頭では理解していたが、まだ心の準備は出来ていなかった。
心のどこかで、小銭を入れればコンティニュー出来るだろうというような甘えがあった。
だが、これは違う。
ここはこれまでいた世界とは違うかもしれないが、あくまで現実なのだ。
死んでたまるか。
そうだ、死んでたまるか。
――童貞のまま、死んでたまるか!
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【悪漢】
【シミター】耐久:2→1
【シミター】効果:【強打】スキルダメージ 100→200
【トウマ】
HP:1,500→1,300
【強打】スキル効果:ストック 5→4
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「俺のターン! レベルアップ! レベル2! 100G獲得! そして、リフィル!」
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【トウマ】
レベル:1→2
所持G:100→200
ストック:4→5
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「ん? 今、リフィルしたコイツなんだ?」
そのストックに触れた瞬間、それは勢い良く飛び出し反転する。
と同時に辺りに不気味な霧が立ち込め始めたではないか。
「こ、このスペルはまさか禁忌の呪法では!?」
「き、禁忌の呪法?」
セリアは怯えるように答える。
「噂でしか知らないのですが、強大な呪文ゆえ、唱えれば術者の身を滅ぼす禁忌の呪法。それが呪術と呼ばれるスペルだそうです。古より封印されてきたそうですが、なぜそれをあなたが……」
俺はストックを眺める。
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レベル:2
名前:【霧消のガイスト】
種類:呪術スペル 召喚
効果:・召喚 100/100
・2ターン後、これを破壊する。
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そこには確かに呪術と書かれていた。
俺はまたぞくりと身震いをする。
これが神様の言ってた特別な魔法だろうか。
セリアは身を滅ぼすとか言っていたが、今のところ体に異常はなさそうだ。
俺はにやりと笑う。
立ち込めていた霧は次第にまとまっていき、時折苦しげな人間の形相を浮かべる。
「行けーッ! ガイストッ!」
「おおおおおぉぉんん」
不穏な霧は俺の命令に従い、おっさんへと襲い掛かる。
「ぐおおッ!!」
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【悪漢】
HP:1,400→1,300
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「い、一体何なんだあのバケモノは!」
見ると霧のオバケはまだ俺の近くでふわふわと漂っていた。
「あれ? スペルは唱え終わったはずだけど」
「それは召喚のスペルだからです」
「と言うと?」
「召喚スペルはその名の通り自分の使い魔なんかを喚び出して共に戦わせるスペルです。なので、破壊されるまでは自分のターンに一度、対象を攻撃させることが出来ます。その際に与えられるダメージが、先程の呪術を例にすると、100/100と書かれていたかと思いますが、前半が攻撃力、後半が防御力を表しており、攻撃力の分だけダメージを与えることが出来ます」
「おお! ということは破壊されるまで永久にダメージを与えられるのか! 心強いな」
「そうです。召喚のスペルはとても強力です。ただし、破壊されなければですが」
「どうしたら破壊されてしまうんだ?」
「同一ターンに防御力以上のダメージが与えられると破壊されてしまいます」
「防御力ってのは、さっきの例でいくと100/100の内の後半の100だな。……どっちも同じ数字で分かりにくいけども」
「それにしても、あなたは一体……」
訝しげに俺を見るセリア。
だが、その瞳は不安よりも好奇に満ちているようだった。
その時、おっさんの怒鳴り声が響く。
「何者か知らねぇがやってやる! レベルアップ! レベル3! 100G獲得! リフィル!」
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【悪漢】
レベル:2→3
所持G:100→200
ストック:4→5
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「このバケモノがーッ!」
そう叫びながらガイストに飛び掛かるおっさん。
ストックが1枚、反転する。
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レベル:1
名前:【アクセルスタブ】
種類:短剣技 即時
効果:対象に100のダメージを与える。
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いつの間にか短剣を手に構えるおっさん。
俺のガイストがそれを迎え撃つ。
「おおおおおぉぉぉぉおん!」
「ぐおおぉ!」
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【アクセルスタブ】効果:【霧消のガイスト】に100のダメージ
【霧消のガイスト】→破壊
【悪漢】
HP:1,300→1,200
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「お? あのおっさんのHPも減ったけど?」
「召喚スペルは攻撃してきた対象に反撃出来るのです。もし、防御力が300の召喚スペルに100ダメージを与えるスキルを3回使った場合、反撃も3回になります」
「へぇ、あと今短剣装備してないのに短剣技使ったけど? 今、装備してるシミターって剣だよな?」
「実際にアイテムを使用しておかなければ関連するスペルは使用出来ないという訳ではありません。あなたももしスキルを習得していたら今の状態でも問題なく使えます」
「ほう。そしたら、関係ないかもしれないけど、あのおっさんの持ってた短剣は? 今はもう見当たらないけど」
「あれは決闘の魔力によって生成されたものですので、スキルを使った時に生まれ、スキルの発動が終わった時に消えます」
「なんというご都合主義」
そして、続けておっさんが叫ぶ。
「これでまたテメェ一人だ! 死ねぇッ!」
おっさんのストックがもう1枚反転する。
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レベル:2
名前【袈裟斬り】
種類:剣技 即時
効果:対象に200のダメージを与える。
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「うりゃああ!」
「くっ!」
肩口から斜めに斬り払われるシミター。
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【悪漢】
【シミター】耐久:1→0 【シミター】破壊
【シミター】効果:【袈裟斬り】スキルダメージ 200→300
【トウマ】
HP:1,300→1,000
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「そらそら、どうした!? HPがどんどん削れてるぜ! ターン終了だ!」
「うるせー! まだまだこれからだ! レベルアップ! レベル3! 100G獲得!」
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【トウマ】
レベル:2→3
所持G:200→300
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「レベル3は……と。お、このスペルか」
俺は1枚のストックを選択する。
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レベル:3
名前:【ゲヘナフレイム】
種類:エレメンタルスペル 詠唱
効果:・詠唱2
・対象に500のダメージを与える。
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「こいつは強いぞ! 喰らえ! ゲヘナフレイム!!」
その瞬間、目の前の宙空に巨大な魔法陣が出現する。
「燃え尽きろー!!」
だが、何の反応もなかった。
「あれ? どういうことだ?」
「それは詠唱スペルですね」
「詠唱? ああ、確かに詠唱2って書いてあるな」
「それは2ターンの間、詠唱が必要ということです」
「なに!? と言うことは発動するのは2ターン後? なんだよ! 燃え尽きろとか叫んじゃったよ! 恥ずかしいな!」
「その分、強力なスペルなのです。ちなみにリフィルは効果の発動のタイミングではなく、スペルを唱えたこのタイミングになります」
「了解。じゃあ、これで俺のターン終了だ」
すると、おっさんが下卑た笑いを見せる。
「テメェには2ターンも渡さねぇよ! レベルアップ! レベル4! 100G獲得!」
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【悪漢】
レベル:3→4
所持G:300→400
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「ひゃひゃひゃ! 死ね死ねー!」
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レベル:2
名前:【二段斬り】
種類:剣技 即時
効果:対象に200のダメージを与える。
【トウマ】
HP:1,000→800
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乱雑に振るわれる凶刃が俺の体力を斬り裂いていく。
「くそっ!」
「もう一丁いくぜ!」
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レベル:2
名前:【ダブルファング】
種類:短剣技 即時
効果:・対象に200のダメージを与える。
・200G消費する:追加で100ダメージ与える。
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短剣を手にしたおっさんが上下からそれを突き刺す。
「ぐわああぁ!」
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【悪漢】
【ダブルファング】スキルダメージ 200
【ダブルファング】効果:
所持G:200→0 【ダブルファング】追加ダメージ 100
【トウマ】
HP:800→500
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「けけけ。次の俺のターンでテメェはオシマイだ! ターン終了!」
体の力がガクッと落ちているのを感じる。
おいおい、本当にマズいんじゃないかコレ。
次のターン、おっさんのレベルは5になる。
そして、俺のHPも残り500だ。
今までの流れでいけば、レベル1のスキルで100ダメージ、レベル5だからそれを5回使われたら……。
背中に嫌な寒気が走る。
俺、いきなり死ぬのかよ。
神様も人が悪いぜ。こんな様見て嘲笑ってるなんてよ。
その時だった。
「トウマさん……。ごめんなさい、わたしのせいでこんな目に……」
か細い声でそう言ったセリアの瞳には涙が溢れていた。
「セリア……」
俺がここで諦めたら彼女はどうなる?
きっとあのおっさんの食い物になるだろう。
そんなことになっても良いのか?
良い訳ないだろう!
一方、俺はどうなる?
やっぱり童貞のまま死ぬだけか。
『マジック&ウェポン』
~決闘の掟~
「耐久」:アイテムの効果が発動する度、数値が1減る。
数値が0になった場合、当該アイテムを破壊する。
「召喚」:使用した後も場に残るスペル。○○(攻撃力)/○○(防御力)が設定されており、
毎ターン、攻撃力分のダメージを対象に与えることが出来る。
他のスキルやスペルは、召喚スペルも対象とすることが可能で、同一ターン内に
防御力以上のダメージが与えられた召喚スペルは破壊される。
ただし、召喚スペルを対象としてスキルやスペルを使用する度、
対象となった召喚スペルはそのスキルやスペルの使用者に
攻撃力分のダメージを与える。
「詠唱」:使用者のターンの開始時、数値が1減る。
数値が0になった場合、当該スペルの効果が発動する。