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1戦目:童貞のまま死ねるか①

 空から人が降ってくるだなんておとぎ話の世界だと思うか?

 かわいい女の子なら、だって?


 ――残念。


 俺はむさ苦しい男子高校生だ。


「うあああああああぁぁぁぁあッッ!!」


 急降下していく俺。

 目の前にはぐんぐんと森が迫る。

 そしてド派手な爆発音。


「いててて……。ったく、また死んだらどうするつもりだったんだよアイツ」


 そう言ってめり込んだ地面から立ち上がる。

 そんな様子をぽかんとした顔で見つめる巨乳の少女。

 その腕を掴んだまま、同じくぽかんとした顔を向ける小汚いヒゲ面のおっさん。

 俺はそいつに向かって高らかに言い放つ。


「その薄汚い手を離せ! 彼女が困ってるだろ!」


 だが、ぽかんとしたままの二人。


 ――いや反応薄過ぎだろ。

 

 確かに登場の仕方は衝撃的だったかもしれないけど。

 今や俺が彼女を困らせてるみたいになってるじゃないか。


「な、何なんだテメェは!?」


 ようやくまともな反応を見せる暴漢。

 やれば出来るじゃないか。


「なに、通りすがりの者さ。彼女の悲鳴を聞きつけてね」


 空から降ってきといて何を言っているんだ俺は。


「生意気な口きくんじゃねぇ! だったら決闘だ!」

「望むところだ!」


 決闘か。

 高校生の俺が。

 いや、元高校生かな。

 どうしてこんなことになってるのか。

 ここに至るまでの数十分前、話はこうだ。


***********************************************************


「ぐえっ!」


 何かが頭に落ちてきた。

 そう思った瞬間、俺は真っ白な光の中にいた。


「あ? 何だここは? 俺は一体どうしたんだ?」


 すると愉快な笑い声と共に突然、男が目の前に現れたではないか。


「やぁ、いらっしゃい」


 陽気に片手を挙げるソイツは俺とあまり歳の変わらぬ風貌だった。

 だが、大きく違うのは金髪で青い瞳のまさに西洋人といった見た目なのだ。


「や、やぁ。ここはどこ? 言葉分かる?」


 恐る恐る手を挙げながら尋ねる俺。

 そんな様子を見てか再び愉快な笑い声を立てる。


「言葉分かるだって? 当たり前じゃん! 僕が創ったんだから」

「は? 創った?」

「そうだよ。君の名前はトウマ・キサラギ、東西高校の二年生、成績は中の上から上の下、運動神経は平均的、女性経験はゼロ……」

「うぉい!! 何でそんなことまで知ってんだ!? あんた一体誰だよ!」

「そうだなぁ、君に分かりやすく言うとすれば……。ここは天国、僕は神様ってところかな」

「何言って……」


 そう言いかけて、はたと周りを見回す。

 辺り一面真っ白な世界が広がって、まるで雲の上にでもいるような感じだ。


「そう言われれば、そんな気もする」

「分かってくれたか!」

「え? ちょっと待って! と言うことは、俺、死んだの?」


 それは当然の疑問だろう。

 俺は真剣に聞いたつもりだった。

 だが、神様とやらは大爆笑で答える。


「死んだ! 死んだ! 最期に覚えてることは何かある?」

「反応軽すぎだろ。最後に覚えてることねぇ。うーん。ああ、そうだ。確かゲーセンにいた」

「うん、それで?」

「いつものように小銭を積んで脱衣麻雀やってて」

「うんうん」

「その日は全然勝てなくてイライラしながらゲーセン出て、道端に落ちてた空き缶を蹴った」

「そしたら?」


 神様とやらは笑いを堪えるのに精一杯のようだった。

 俺は記憶の断片を辿りながらありのままを述べる。


「蹴った空き缶が電柱に当たって、電柱が俺の頭に倒れてきた……」

「うひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


 遂に噴き出す目の前の男。

 神様じゃなかったら殴ってたところだ。


「いやぁ、何て不運なんだろうね。でも、すごく幸運でもあるんだよね」

「死んで幸運ってどういうことだよ」

「君は今まで死んだ人間の中で丁度キリの良い番目だったんだよ! だからこうしてここに呼んでその特典を与えようと思ったのさ」

「マジか! それはそれで確かに幸運かもしれない……」

「でしょ? ちょっと笑える不幸な死に方した人の丁度キリ良い番目だったの!」

「おい! ちょっと笑えるは余計だろ! まぁ、それで? 特典とやらはどんな代物なんだ?」

「なんと今の君のまま蘇らせてあげようという太っ腹な特典さ!」

「蘇らせてくれんの!? マジで!? だったら早く元に戻してくれよ」

「元に? あー、それは無理無理! だってもう電柱に潰されて死んだことになってるし! その事実は変えられないよ! しかも、君の死体は奇跡的に生き返るようなマトモな状態じゃないし。さすがの僕も若干引くくらいグロいから」

「引くくらいグロいって……。マジか。じゃあ、どう蘇らせてくれるって言うんだよ」


 すると神様はふふんと自慢気に答える。


「別の世界にさ」

「別の……世界?」

「君が生まれ育った世界とは丸っきり違った世界さ。人権などまるで無い機械に管理された世界とか、核兵器で荒廃した世紀末な世界とか……」

「何でそんなイカれた世界を推すんだよ!」

「じゃあ、どんな世界が良いのさ。例えば、蘇って何がしたい?」

「何がしたいか……。そりゃ決まってるだろ! このまま女性経験ゼロで死ねるか!!」

「ぶひゃひゃひゃひゃ!!」


 本日、何度目か分からぬ大爆笑。

 もうお前の反応には何の期待もしてないよ。


「いやぁ、良いねぇ! そういう正直な人間好きだよ! 創った甲斐があるね」


 そう言って神様は空中にぽんと一冊の本を出現させた。


「それじゃあ、君の素質を活かして女の子にモテモテになれる世界が良いよねー」

「おぉ! 俺は初めてあなたを神様だと思えました」

「なんだいそりゃ。心外だなぁ。さ、君が活躍出来る世界は、と」


 パラパラと本をめくる神様。


「……うーん、別に身体能力が高い訳じゃないしなぁ。かと言って特別な知識がある訳じゃないから何も出来ないし」

「無茶苦茶言うなよ。こちとらただの高校生だぞ」

「そうしたら……。あっ! ここは結構イケそうかも!」

「あった!?」

「あったあった! ここなら君でも何とか生き残れそう!」

「趣旨変わってる!!」

「冗談冗談! モテモテになれそう!」

「ありがてぇ!」

「ほら、見てごらん! 丁度女の子が悪漢に襲われてるよ! これ助けたら鉄板でモテるでしょう」


 神様がそう言った瞬間、足元が突然透明になる。

 そこから見えたのは遙か真下に森が広がっている光景だった。


「女の子が一つも見えないけど……」

「大丈夫! 目の前にちゃんと下ろしてあげるから! じゃあ、行ってらっしゃーい!」


 その言葉の直後、足場がふっと消える。

 俺の体に、あのジェットコースターで落ちる時のふわっとした恐怖の感覚が走る。


「下ろすってそういうことかいいいぃぃぃいいい!!」

「あ、言い忘れたけど一応ちゃんと活躍出来るように特別な魔法使えるようにしといたから! 面白い君のために心ばかりの餞別だよー!」

「何だ特別な魔法てぇぇええ! ちゃんと説明してから下ろせやぁぁぁあああああ!」


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