転生
魔族と神々が支配していた時代。
竜を殺し、神々に恐れられ、人間の国を滅ぼし、圧倒的な力を持つ、魔王と呼ばれた者がいた。
「ーいかがなさいますか。我が主人」
頭を垂れ、平伏した姿勢で配下であるメルド・グレムエルが言葉を発した。白髪で切れ長の目、身体の至る所には激戦の跡が刻み込まれていた。その姿はまさに魔王の配下と呼ぶに相応しい姿であるといえる。
王座に足を組み座っているのはバルド・ヘレムニウム
魔王である。
低位の魔族ならば魔力に当てられて石化してしまう程だ。
「メルドよ、お前に最後の命令だ。我が城に攻め入る愚かな勇者共を滅ぼせ。
今までよく俺について来てくれた、お前の忠義にいつも救われていた、感謝する。」
バルドは配下であるメルドに対しそう告げ、王座から立ち上がり、城の奥へと去っていった。
城の奥へと去っていく主人を視界から遠ざかっていき完全に見えなくなる。
「勿体なきお言葉、我が寛大な主人に心より感謝を」
城の最深部へ繋がる階段をバルドはゆっくり降っている。
転生するには膨大な魔力が必要だ、その為には我が魔力を溜めてある城の最深部へ行ってその場で魔法陣を書いて転生する必要がある。めんどうだとは思うが転生するのだ、仕方あるまい。
そうこう考えているうちに最深部へ辿り着いた。
「ここへ来るのは二度目だったな」
それでは始めるとしよう、現世に心残りがないわけではないが、それよりも俺は違う世界を観て見たいのだ。まだ自ら足を踏み入れた事のない世界にこれから行くとなると自然と心踊る。
そんな事を考えていると…
「待ってください!」
声が聞こえた方に振り返ってみれば、慣れ親しんだ顔だった。金色で絹を思わせる髪、紫紺の瞳、人間の娘である。
「考えなおしてください!私はバルド様に救われました!バルド様が居なくなってしまったら、私は…!」
気付いたら抱きつかれていた。しかしもう決めた事なのだ、そう思い娘を引き離した。現世に心残りがあるとすればこの娘である。
まだ、名前を聞いていなかったな…それだけでも聞いてから転生したいと思っていたが諦めていた時に現れたのだ。
「名は」
娘が呆けた顔でこちらを見ている。
「名を名乗るが良い」
一瞬戸惑いを見せた後娘は
「…です!ローズです!ローズ・エルメイスです!」
泣き出しそうな顔でこちらを見ながら教えてくれた。
これで心残りは何もないな、安らかに転生出来る。俺は魔法陣を展開し真ん中に立ち、魔術を行使し始めた。
「ローズか、良い名だな」
気がつくと俺は魔法陣の光の中で笑っていた、自分でも驚いてしまうほどだ。笑うことなど何百年ぶりだろうか。心が暖かくなっていくのを感じる。自分ではわからないがきっと俺は今、優しい笑みを浮かべているのだろう。ローズの声が聞こえる、だんだん遠ざかって途切れていく。
「ールド様!ー様!あ…して…ます!
泣きながら叫ぶローズの声が聞こえたが意識が遠ざかっていく中なんて言ったのかはわからなかった。
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