表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔と天使の狂詩曲(ラプソディ)  作者: 井ノ上雪恵
オープニング
9/27

放課後は仕事の時間

 

「あれ?何で僕生きてるの?」


 ロキが首を傾げる。

 クラス内は常軌を逸していた。

 丸ごと全て凍った教室に自殺未遂を起こした教師、人が死にかけたというのに顔色一つ変えない悪魔と天使。ここは地獄か何なのか。

「はぁー、ダメだよ?センセー。勝手に死んだら。せっかく面白いおもちゃ見つけたんだから、せめて僕が飽きるまで生きててよ」

「ひぃい!…ひ、一つ聞きたいんだけど、おもちゃって僕のこと?そんな当たり前のように人のこと『玩具扱い』する?」

 ロキの質問には答えず、ティアラはニコニコとした表情で「それとさぁ」と口を開いた。

「次フィリアの手を煩わせたら……家、燃やすからね」

「ヒィイイ!!」

 突然纏う雰囲気を変えたティアラに、ロキがビクッと肩を震わせる。

 とそこで、ティアラとロキのやり取りを傍観していたフィリアが口を開けた。

「ティアラ、教師を脅しちゃダメっスよ?後、先生も。人に迷惑かけたら“メッ”っス」

 まるで自分よりも幼い子供を優しく叱りつけるようなフィリアの物言いに、ティアラとロキは揃ってシュンと大人しくなった。

「それより、リア。さっさと教室戻せ。さみィ」

「あ、忘れてたっス」

 カイトに言われて素直に頷くと、フィリアは再び右腕を前に突き出した。教室全体が淡く光り出す。

 すると、みるみる内に教室中を覆っていた氷の膜が剥がれていき、フィリアの右腕先に雪の結晶をかたどるように集まっていった。

「な、何だ…ちゃんと元に戻せるのね……焦って損した…戻らなかったら、首括ろうかと…」

 ボソボソ溢すロキに「さっき思いきり括ってただろ」とツッコめる人間はここにはいない。

「アハハ!さっき吊ってたじゃん!」

 否、いた。一人だけ。

 ティアラが笑う隣で、フィリアは教室中の氷を集めて大きくなった雪の結晶を、細かい粒として空気中に散布させた。

「終了っス〜」

 と同時に、一限目の終わりを告げる鐘も鳴る。

 ようやくこの地獄から解放されると、フィリア達以外全員が安堵した瞬間だった。

「は、はい。今日はここまで。全員、さっさと帰って。そしてイブリースはもう二度と来ないで!」

「えぇ〜、つれないなぁ。ねぇ、フィリア?」

「ボクは魔術出ても、あんまり意味ないっスからね〜。来なくていいなら、そっちの方が嬉しいっス」

「お前は楽したいだけだろ」

 そんなこんなで、とりあえずは無事(?)一限目が終わったのであった。



「ふぅ〜疲れたっス〜」

 その後も、一応滞りなく全授業のオリエンテーションを終えると、フィリア達は寮へと真っ直ぐ帰った。

 フィリアは疲れたと言っているが、本当に疲れているのはこの人外達を相手することになった教師達と、同じ空間で授業を受ける生徒達である。

 カイトは心の中で彼らに同情する…が、それは形だけで、本心はフィリアに悪い虫が寄ってくる心配が少なくなったことを喜んでいた。養子といえど、イブリース。他者に対する思いやりなど、殆どない。

「次回から本格的な授業だね!ねっ、フィリア!」

「面倒っスね〜」

「進級できねぇぞ?」

 フィリアの感想に呆れながら、カイトがツッコむ。

 と、その時。

 ティアラのピアスから小さくピピッという電子音が鳴った。

「「「!」」」

 三人は一斉に真剣な表情に切り替わる。

 ティアラはすぐさま左耳のピアスに手をかざして、自身の魔力をピアスに注いだ。

「こちらティアラ・イブリース」

『ヒリスです。王都にラメント堕ちが出現致しました。(クラス)はC。一般人は非難済みです』

「了解……というわけで、仕事の時間だよ」

 淡々と通話を終えたティアラが、クルッと後ろの二人へと振り返る。

「C級っスか〜。ボク、行かなくて良いんじゃないっスか〜?」

 先程見せたシリアスな雰囲気は何処へやら。ラメント堕ちの強さを聞いた途端にやる気を失ったフィリアは、長い袖をプラプラと揺らしながら面倒臭そうに口を開いた。

「フィリアが行かないなら、僕も行きたくないなぁ。カイト一人で行ってきて」

「はぁあ!?」

 フィリアに続いて、ティアラもやる気を失くしたようだ。カイトが声を荒げる。

「おい!俺はダメージを与えることはできるけど、祓えねぇんだぞ!?俺一人だけで行っても、意味ねぇだろ!」

「はぁ…そんなこと知ってるんだけど。冗談の通じない奴だな…後、役立たず」

「誰が役立たずだ!!」

 目を吊り上げて怒るカイトに対して、ティアラは冷めたようにカイトから顔を逸らした。この二人の相性は昔から最悪なのだ。

 と、そこで緩和剤のフィリアが、二人の間に割って入る。

「まぁまぁ…というわけで、ラメント討伐は二人で行ってきてくれるんスよね?」

「……お前、ほんっとに自分から動かねぇな。そこは、せめて三人一緒に行こうって言うところだろ」

「え〜、それは面倒っス」

 フィリアの面倒臭がりは今に始まったことではないが、カイトは大きく溜め息を吐いた。

「…どっちにしたって、リア一人で留守番なんて却下だ、却下!諦めて、討伐参加しろ!」

「過保護っスね〜。でも、カイちゃんの『危ない基準』おかしくないっスか〜?」

 フィリアはジト目でカイトを見つめる。

 普通は一人で留守番よりも、瘴気と負の感情の塊であるラメント堕ちに関わる方が危険だ。

 一般人ならラメント堕ちに近付いた時点で、心の弱い者だと一気に瘴気に呑まれ、自分もラメント堕ちとなってしまう。イブリースの人間がラメント堕ちにならないのは、ひとえに遥か昔に交わされた悪魔との契約のお陰だ。

「?側にいたら、俺が護ってやれるだろ?」

 真顔で言い放ったカイト。フィリアは一瞬だけキョトンとすると、すぐにフワリと微笑んだ。

「カイちゃんらしいっスね〜。仕方ないから、ボクも一緒に行くっスよ」

 フィリアが折れる。そうなると、ティアラも当然行く気が出てくる。

「じゃあ、三人で行こっか!さっさと終わらせて、とっとと帰ってこよう!」

「はーいっス〜!」

「はぁ……」

 既に一仕事終えたような疲労感をカイトは感じたが、大人しくフィリアの隣を並んで歩いた。




読んで頂きありがとうございます!!


本文にあった『C級』ですが、ラメント堕ちにも、人間の魔力と同じで強さが別れます。

元の人間がどれだけ負の感情を募らせていたかで強さは変わりますが、強さのランクは魔力のランクと同じです。一番下はEで、一番強くてS級。

フィリアもティアラもS級を七割くらいの力で倒せるので、Cは雑魚中の雑魚。

ちなみに、一般人ではラメント堕ちを祓うどころか、攻撃すら殆ど通りません。カイトがダメージを与えられるのは、イブリースではないものの、ラメントに耐性があるからです。何故耐性があるのかは、後々出てきます(すっごい後で)

それから、ティアラのピアスは通信の魔道具です。

魔道具の説明は次回します。


長々と失礼しましたー!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ