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悪魔と天使の狂詩曲(ラプソディ)  作者: 井ノ上雪恵
イブリース領編
19/27

一難去ってまた一難

 

「…もう一歩も動きたくないっス……」


 無事にラメントを祓うことができたフィリア達は、無残に破壊された貴族街の一画で座り込んでいた。

 フィリアとティアラは連続の祓いも相まって、ぐったりと瓦礫にもたれかかっている。

 カイトもカイトで、これ程強いラメントと戦うのは初めてなので、随分と体力を持っていかれた。


「カイちゃんとティアラは、怪我大丈夫っスか?」


 ふと思い出したようにフィリアが尋ねる。

 フィリアと違って、二人は多少傷を負ったはずだ。


「うん、大丈夫。もう治りかけてるから」

「俺も大丈夫だ」

「そっスか。良かったっス」


 二人の言葉に安心したフィリアが表情を緩める。

 ティアラとカイトは昔から傷の治りが異常に早かった。

 ティアラの場合は命の属性魔法があるからだろう。

 属性魔法の内、命の属性の主な使い道は“回復”だ。

 怪我や病気を癒したり、植物の成長を促したりすることもできる。そして、命の属性を持つ者は個人差はあれど、全員自然治癒力が高かった。

 特にティアラの自然治癒力は高く、ただのかすり傷だと傷が付いた瞬間から癒えていき、ものの数秒で治ってしまう。

 だが、カイトの治癒力が高い理由は謎だった。

 フィリアとティアラ曰く「瘴気が平気なんだから、一般人と多少違ってても不思議じゃないでしょ」とのことだ。

 要は考える気がないのである。


「リアこそ、どこも怪我してねぇよな?」

「平気っスよ!ちゃ〜んと無傷っス!」


 胸を張って答えるフィリアに対して、無意識に頬を緩めるカイト。

 フィリアには魔法が効かない為、怪我をしても回復魔法が使えず、手当てをすれば後は自然治癒に任せることになる。

 その為、カイトとティアラはフィリアが怪我することを極端に嫌がるのだ。


「よし!フィリアが無傷なら上出来だね!イブリースの城に帰ろうか」


 瓦礫からティアラが立ち上がると、フィリアもそれに続く。

 そうして三人は仲良く帰路に着いた。


 その頃、城では厄介な案件がディルカの頭を悩ませていることも知らずに……。



 *       *       *



「は?警視団が明日城に来る?」


 城に帰った途端呼び出されたフィリア達は、突然「明日警視団が城に来るんでよろしくお願いしますよ」と、難しい表情かおをしたディルカに言われた。

 ただ難しい表情かおをしているのは建前で、本心では何とも思っていないのだろう。

 ティアラの言葉に対して、ディルカは清々しいまでに軽い口調で話を続けた。


「ええ、そうなんですよ〜。先程急に連絡が来ましてね?ほら、領主って忙しいじゃないですか〜。そんなこと突然言われても時間なんて取れませんし、ティアラ達にお任せしたいなぁという訳ですよ」


 やれやれと溜め息を吐きながら、いかにも困ってますと言った様子で話すディルカ。

 つまりは面倒臭そうなので、子供達に丸投げしようという魂胆である。


「はぁ、そうですか。父上の仕事の七割は僕が捌いている筈なんですけど、それでもお忙しいですか。やはり領主というのは大変なんですね」


 ニッコリと良い笑顔で嫌味を吐くティアラだが、ディルカは全く気にせず「ええ、とっても忙しいんですよ〜」と眉を下げる。


「でも突然城に来るって、何しに来るんスか?」

「どうせいつもの捜査協力の要請だろ?」


 フィリアの質問に、カイトが「決まってんだろ」と言わんばかりに口を挟む。


 捜査協力の要請……どこの領地で起こった事件も基本は警視団が捜査するが、イブリース領は少し特別だった。

 警視団だけでは解決できそうにない時、協力要請をすることで、イブリース一族に事件の捜査を手伝って貰えるのだ。ちなみに、イブリースに協力してもらった事件の解決率は百パーセント。

 その為、少しでも難しい事件がイブリース領で発生すれば、すぐさま警視団がイブリースの城の戸を叩くようになってしまったのだ。

 イブリース家としては迷惑極まりない話である。


「はぁ……最近の領内での事件というと“少女誘拐事件”ですか?」

「ええ、そうです。流石ティアラ。話が早くて助かります。その件で明日、警視団の団員二名が城に来るそうなので、適当に話をして、適当に解決しちゃって下さい」


 ディルカはもう既に他人事と思っているのか、ニコニコと軽く言った。


「面倒事が舞い込んで来るっスね〜」

「どうせリアは何もしねぇだろ」

「はぁ…こんなことなら帰ってくるんじゃなかった」


 一難去ってまた一難。

 フィリア達(主にティアラ)は、このタイミングで帰省したことを後悔しながら、明日に備えるのであった。



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