無敵のラメント!?
「……これ…またラメントの級、間違えてるんじゃないっスか?」
カイトと別れ、一番近かった結界の元に来たフィリアは、ステラの背に乗ったまま結界内の瘴気の濃さに眉を顰める。
結界は元が無色透明であることが信じられないくらい黒く淀んでいて、中の様子もわからない。結界を張っていても、空気が重くなっているみたいだった。
結界の中に入ると、瘴気が重石のようにフィリアの肩にのしかかってくる。
……この瘴気の濃さはAA級かS級並っスね〜。ラメントの気配は一体だけっスし、また観測係がミスったんスかね?
首を傾げながらも、フィリアはラメントの気配を頼りに道を進む。
数分走ったところでラメント堕ちを見つけた。
ここ貴族街は平民街と違い、一軒一軒の敷地が広い。
だだ広い貴族の屋敷の庭を這いずり回るように、その化け物はノロノロと動いていた。
大きな屋敷の広い庭にいる所為かやけに小柄に見えるラメントは、亀でももう少し速いんじゃないかと思う程動きがとろい。
そこからわかるのは……。
「あれ?これ普通にD級じゃないっスか?」
拍子抜けした表情を浮かべるフィリアだが、すぐに嬉しそうに口角を上げた。
理由は単純。弱ければ弱い程、祓いが楽になるからだ。
「これくらいならダメージ与える必要もなさそうっスね。さっさと祓って、カイちゃんのとこに行くっス」
それだけ口にすると、フィリアは右足に力を入れた。瞬間、フィリアの足下が青白く光り、瘴気の闇を切り裂くようにラメント目掛けて、一直線に氷の道が伸びていく。
氷の道はラメントの足を凍らせ、完全に動きを封じた。
「――天地海照ラセシ御光…諸々ノ禍事、罪、穢レ有ランヲバ…祓イ給イ清メ給エト申スコトヲ聞コシ召セト畏ミ畏ミ申ス――」
祝詞を唱え始めると、フィリアの声に合わせてラメントの下に光り輝く陣が浮かび上がる。
陣が完成したのを見計らって、フィリアは口を開いた。
「光あれ」
フィリアの言葉を合図に、眩い光の柱がラメントの上に降りてくる。一瞬にして辺りが光に包まれ、光が収まると庭にラメントの姿は綺麗さっぱり消えていた。
それだけ確認すると、仕事は終わったと言わんばかりにフィリアは庭に踵を返す。
「ふぅ〜、次はカイちゃんのてつだ……ッ!?」
背中にゾクリとした感覚が襲い、フィリアは慌てて振り返った。そして一気に顔を顰める。
「……冗談じゃないっスよ〜」
そこには、心なしか少しだけ大きくなった先程のラメントが、無傷で立っていた。
* * *
「クソッ!どうなってんだよ!?」
同じ頃、カイトは斬っても斬っても一瞬で傷が癒えるラメントに、舌打ちを溢していた。
カイトは確かにラメントを祓うことはできない。できないが、それでもダメージを与えることはできるし、つけた傷が瞬時に消えるなんてことは今までなかった。
その上傷を癒す毎に、どんどんラメントの図体が大きくなり、強さが上がっている。
こんなこと初めてだ。明らかに今までのラメント堕ちとは全然違う。
「一撃で祓いをしなくちゃダメなのか?それとも祓い自体効かねぇのか?どっちにしろ、俺じゃ時間稼ぎしかできねぇ」
素早さも上がっているラメントの攻撃を躱しながら、カイトはフィリアがいるであろう方向を横目に見つめた。
……早く来てくれ!リア!
* * *
ティアラは水の矢や土の礫など、少量の魔力でできる攻撃魔法を繰り返し打っていた。
祓いが効かないのも与えたダメージがすぐに癒えるのも、既に実証済み。
小さなダメージや偶に大きな攻撃を与え続け、ラメントをわざと強くしていた。
「……回復スピードは一瞬。与えるダメージが大きければ大きい程、回復後の強さも強くなる。そして…ラメントが回復する程、強くなる程、周りの瘴気が薄くなってる……ということは……」
ティアラは実戦の中で得た情報を整理すると、ニヤッと笑った。
* * *
三人がそれぞれ得体の知れないラメント堕ちと闘っている中、一人の青年が上空からドラゴンに乗って、その様子を眺めていた。
濃い瘴気に覆われた黒い結界の中は、肉眼では確認することができない。それなのに、青年は金色の長髪を靡かせ、アメジストの瞳を楽しそうに細める。
「……あれが今世の“青い鳥”か……」
小さく呟くと、青年は雲の中に姿を隠した――。




