使い魔召喚の儀式
今回から、文と会話文の間に一行隙間を入れました。
少しは読み易くなったと思います。
「えー……『“使い魔召喚の儀式”とは、満十二歳になった貴族の子供が行う儀式であり、成人の儀式の第一歩である。また、使い魔とは自身のパートナーであり、自分の命が果てた時、使い魔もまた命を落とす。学園では、今日から丸々一週間、授業を休みとし、それぞれ使い魔との交流時間を設けている』……はい、説明終了……だいたい、何でこんな周知の事実をわざわざ説明しなくちゃいけないんだ。はぁ…メンド……」
入学式から二日目の一限。
使い魔召喚の儀式の為、一年生達は皆、大ホールに集められていた。監修の教師は、魔術の教科担任となるのでロキだ。
ロキはまるで呪いを吐く死神のように、ステージ端の幕に身体を隠して、ボソボソと説明を終わらせた。
こんな不安しかない監修の中でも、生徒達は使い魔召喚に心を躍らせている。
当然だ。
使い魔召喚は貴族にとって、大事な節目なのだから。
子供の自分達が、一歩大人に近付く為の大切な儀式なのだ。
「えー…それでは、順番適当にやっちゃってください。で、終わった奴からさっさと帰って。ちなみに、イブリースの人間は一番最後にするよう言われてるから、最後まで大人しく待ってて」
「えー!!この人数終わるの、待たなきゃいけないんスか!?」
ロキの発言に不満の声を上げたのは、珍しくフィリアだ。いの一番に文句を言いそうなティアラは、むしろ楽しそうに表情をにんまりとさせている。
「はい、その通りでございますです、はい……僕だって、イブリースの奴には一番最初にやってもらって、とっとと帰って欲しかったよ、コンチクショー…」
ボソッと最後に溢しながら、ロキは何でもない風を装って「ほら、さっさと始める」と儀式を促した。
いくら順番を適当にと言っても、ここに集まっている子供達は、身分の意識だけは上位貴族も下位貴族もしっかりと身に付けている。
こういう場で一番最初に儀式を行うのは、一番身分が高いものだ。
よって、上位貴族の連中が前へと進みでる。
いよいよ儀式が始まるのかと、ホール全体に緊張した空気が伝わっていく……そんな中。
「暇だから、トランプしようっス!カイちゃん!負けた方は、勝った方の言うこと何でも聞くってことで」
「…それは俺がトランプ苦手って知って、わざと言ってるよな!?誰が賭けありでやるか!!」
「え〜!大丈夫っスよ!ポーカーするつもりっスから、カイちゃんが一生分の運をここで使えば、勝てる可能性もなきにしもあらずっス!」
「それ、もうほぼ負け決定じゃねぇか!!!」
人が一生懸命儀式に集中している側で、バカップルのような会話を恥ずかしげもなく交わす人外じみた人間が二人。
いや、イチャつくなら他所でやってくださいと、全員が心の底から懇願する。
しかし、生徒達の祈りも虚しく、当然人外達の心には届かない。
「しょうがないっスね〜」
「しょうがねぇのはテメェだろ!」
「仕方ないから、ポーカーはやめて、あっち向いてホイにするっス」
「チョイスが謎なんだが?」
「細かいことは気にしないっスよ〜!ほら、さいしょはグー…じゃんけん……」
* * *
「「さいしょはグー…じゃんけん…ポンッ!」」
「あっち向いて…ホイッ!」
「「さいしょはグー…じゃんけん…ポンッ!」」
「あっち向いて…ホイッ!」
「「さいしょはグー…じゃんけん…ポンッ!」」
* * *
「ッ〜〜!!おま、いい加減勝てよ!!じゃんけん!!」
「カイちゃんが負けてくれたら直ぐっスよ!!」
あれから二時間。
永遠とあっち向いてホイをしている二人だが、全く勝負がつかない。つく気配すらない。
永遠とカイトがじゃんけんに勝ち続け、何故だかフィリアはカイトが指差す方向と、毎回必ず真逆を向くのである。
もう既に、お互い早く相手が勝ってくれ状態となっていた。
ちなみにティアラは、我関せずといった様子で、他の生徒達が召喚している使い魔を観察している。
* * *
そして更に二時間。
「「さいしょはグー…じゃんけん…ポンッ!」」
「あっち向いて…ホイッ!」
「「さいしょはグー…じゃんけん…ポンッ!」」
「あっち向いて…ホイッ!」
未だに勝負が続いていた。
もう他の生徒は使い魔召喚の儀式を終え、全員寮に帰っている。
「「さいしょはグー…じゃんけん…ポンッ!」」
カイトがパー、フィリアはグーを出した。
カイトの勝ちだ。
本日何百回目かの結果に涙が出そうである。
本来なら、ここでカイトが上下左右のいずれかを指さし、当然のようにフィリアは別方向へ。勝負は続行なのだが、今回は違った。
もうカイトは、終わりの見えない勝負にうんざりしていたのだ。
同じく四時間の“あっち向いてホイ勝負”に疲れているフィリアの顎をクイッと左手で持ち上げると、カイトはその柔らかな唇に自身の唇を押し付けた。
「ん!?」
フィリアは声を上げるが、その驚きの声ごとカイトがフィリアの唇を吸い上げる。
舌で上唇を舐め、そっと口を離す時にはリップ音を残すことを忘れない。
いきなりのキスにフィリアがポカンとしている隙に、カイトは次の行動に移った。
「あっち向いてホイ!」
「…え……」
いい感じに力の抜けたフィリアの頬に右手の人差し指を当てて、掛け声と共に強制的に左を向かせるカイト。
勝負ありだ。
「よし!俺の勝ち!」
「……え、いやいや!今のはズルっスよ!!」
勝利の笑みを浮かべるカイトに、我に帰ったフィリアが文句を言う。
「うるせぇ!じゃんけん激弱の癖に、こんな勝負ふっかけたリアが悪い!」
「ポーカーが嫌って言ったのはカイちゃんじゃないっスか〜!!」
「だからって、何であっち向いてホイなんだよ!!」
そこからは追いかけっこだ。
頬を膨らませて追いかけるフィリアと、そんなフィリアから逃げるカイト。
「…ねぇ、お前らいつまで遊んでるの?僕、もう儀式終わったんだけど」
とうとう呆れたティアラが二人に声をかけた。その肩には、角の生えたハムスターが一匹乗っている。
灰色の毛並みにエメラルドグリーンの瞳。
どうやら、この角付きハムスターがティアラの使い魔らしい。
ティアラの言葉でようやく周りの状況を確認した二人は、動かしていた足を止めた。
「うわぁ〜〜!!とっても可愛いっス〜〜!!」
「フフッ!でしょ?フィリアに気に入ってもらえて良かったよ」
ティアラの使い魔に気付いたフィリアが、早速ティアラの使い魔に駆け寄る。
フィリアが両手の平を差し出すと、ティアラの使い魔も満更ではない様子でフィリアの手の平に飛び乗った。
「先にカイトから儀式始めな?フィリアはしばらくこの子に夢中だろうし」
「ああ」
* * *
ホールの中央にフィリアが立ち、フィリアから少し離れた前方でカイトとティアラが向かい合うようにして立つ。
「それじゃあ始めるっスよ?」
「ああ」
「いつでも良いよ」
二人が頷くことを確認すると、フィリアはそっと目を閉じて、右腕を前に突き出した。
〜 〜 〜
時を遡ること一日前。
昨夜の夕食の時間のことだ。
「そういや、使い魔召喚の儀式って魔力がいるんじゃねぇの?リア、どうやって召喚するんだよ」
「あー、そう言えばそうっスね〜。考えてなかったっス」
「お前、本当に召喚する気あんのか?」
あっけらかんとしているフィリアに、カイトが溜め息を吐く。
そう。
カイトの言う通り、使い魔召喚の儀式には魔力が必要だ。
召喚用の特別な転移陣を描き、その陣に祝詞を唱えながら魔力を流し込む。
それが大まかな儀式のやり方だ。
だが、肝心の魔力がフィリアにはない。
では、どうするのか。
「うーん…陣だけなら氷で描けるんスけどね〜」
事の重大さをわかっているのかいないのか、大して困っていない雰囲気でフィリアが告げる。
それに反応したのはティアラだ。
「じゃあ、フィリアの作った陣に僕が魔力を流してあげるよ。これなら召喚できるだろ?」
「うわぁ!!良いっスね、それ!だったら、カイちゃんも一緒に魔力流して欲しいっス〜!!」
〜 〜 〜
という会話によって、三人で召喚することが決まったのである。
カイトが羽付き黒猫の使い魔を召喚した後、フィリアはすぐに氷によって大きな陣を浮かび上がらせた。
フィリアが普段と違い真面目な表情で、祝詞を唱え始める。
「――天地海照ラセシ御光…我ガ声ヲ届ケ給エ。永遠ノ時ヲ眠リシ、我ガ魂ノ片鱗ヨ…我ガ名ハ、フィリア・イブリース…我ガ声聞コエタナラバ、我ガ元ニ降リ立チ給エ――」
フィリアが一言一言祝詞を紡ぐ度に、魔法陣がだんだんと光り輝いていく。
祝詞を唱え終わると、ホール全体が青白い光に覆われた。
「っん……」
光が収まり、フィリアがゆっくりと瞳を開く。
そこにいたのは――。
淡い空色の体毛にサファイアブルーの瞳。黄金に煌めく立派な角と空色から純白へとグラデーションになっている一対の翼。
世にも美しい“有翼のユニコーン”がそこには立っていた。
読んで頂きありがとうございました!!!
そして、大変お待たせ致しました!
魔道具の説明です!
別に読まなくても、フィーリングで物語を読んでいる方は大丈夫です。
魔道具とは、その名の通り魔法が使える道具。種類は大きく分けて二種類で、人が魔法を使う時の補助をする『補助タイプ』と、その道具自体が魔法を発動させる『機械タイプ』がある。
どちらの種類も、まず木や金属などでできた道具に魔法陣を付け、その魔法陣に自身の魔力を流すことで、魔法の威力が上がったり簡単にお湯が出たりする。
魔道具のメリットは補助タイプと機械タイプでそれぞれ一つずつある。
まず補助タイプのメリットは、少しの魔力で魔法の威力が上がることで効率よく魔法が使えることだ。身分によって魔力差があるので、下位貴族や平民で魔力が必要な人は、魔道具による補助で足りない魔力を補っているし、上位貴族も少量の魔力で強魔法を使うことができるのでよく使う。
機械タイプのメリットは、属性に関わらず魔法を使えることだ。例えば、水魔法。水を魔法で出したい時、水属性がなければ水はどうやっても出すことはできないが、水属性の魔法陣を入れた魔道具を使えば、例え自分の属性が水属性でなくても、水が出せる。
式で表すなら…
火属性の魔力(自分の魔力)+魔道具(水属性の魔法陣)=水魔法
という感じ。
自分の属性が何であっても、魔道具に魔力を流せば魔道具に付けられた魔法陣の属性になって魔法が出る。
ちなみに、どんな魔道具も魔力を流さないと使えないので、魔力を持っていないフィリアは魔道具も使えません。結構不便です(まあ、気にしてないけど)……。
はい説明以上です。
できる限りわかりやすくしたつもりです。
何かわからないことがあれば、質問してください!
それでは、また次回もお楽しみに!!




