痴話喧嘩は悪魔も食わない
「ただいまっス〜」
「!おかえりなさいませ。フィリア様、カイト様」
行きと同じように氷で作った羽付きユニコーンで寮へと帰ってきたフィリアとカイトが、自室の扉を開ける。部屋では、フィリアの専属メイド、メノアが掃除をしていた。
ちなみに、ティアラはラメント討伐の報告をしに、一旦イブリース領の屋敷へと戻っている。
「夕食のご用意ができておりますが、いかが致しますか?」
「夕食はティアラが帰ってきた後、一緒に食べるっスよ。先にお風呂入るっス」
「かしこまりました」
一礼すると、メノアはすぐに湯浴みの準備をしに、部屋から出て行った。
二人きりになったところで、フィリアが椅子に腰掛け口を開く。
「どう思うっスか?カイちゃん。あのラメント、自然にできたものだと思うっスか?」
フィリアが少しだけ真面目な表情でカイトを見つめた。
今回のラメント堕ちは不可解なことが多い。
まず第一に、ラメント堕ちがたったの一体しか現れていないこと。
ラメント堕ちは、人間が瘴気になった負の感情を体内に溜め過ぎて、自我を失うことによってなる化け物のことだ。
負の感情は瘴気を呼び、瘴気は人々の負の感情を煽っていく。人が多ければ多い程感情は伝染しやすいので、人の多い街中でラメント堕ちが出現すれば、余程感情に鈍い人物でない限り、一人や二人は周りの人達もラメント堕ちとなってしまう。
それがC級やD級など弱いラメントならともかく、今回のラメントはおよそA級。ランクが上がれば上がる程、瘴気も当然濃くなる。
どう考えても、あの瘴気の濃い王都の中、ラメントが一体だけなんてあり得なかった。
「さあな。不自然なことはいくつかあるが、故意にラメント堕ちを作ろうなんて粋狂な奴、イブリース以外にいるか?」
カイトが質問に質問で返す。
自然に出現したラメント堕ちが一体だけでおかしいというのであれば、必然的に誰かがラメント堕ちを作ったことになる。
だがそれも、可能性的には低い。下手をすれば、自分自身もラメント堕ちになってしまうからだ。
まあ、そのリスクがゼロになるのが、イブリースの人間なわけだが。
「まあ、そうっスね〜。いたとしてもロクな人じゃないっスよね〜。故意に作ってるとしたら、大メーワクっス!」
「リアは働きたくないだけだろ、サボリ魔!」
「えー!ボクらが働かなくていい状態が、一番平和な状態っスよ?」
「……まあ、否定はしねぇ」
頬を膨らませるフィリアにカイトが目線をずらして応えると、フィリアは頬に詰めていた空気を呑み込んで椅子から立ち上がった。その直後、扉がノックされ、メノアから風呂の準備が終わったと報告される。
「続きはティアラが帰ってきてからっスね」
フィリアはそれだけ言って微笑むと、風呂場に向かって自室から出て行った。
* * *
「そうそう。ラメント堕ちだけど、僕らが一体倒してる間にもう一体、別の場所で出てたんだって。そっちは父上が祓ったらしいけどね」
あの後、フィリアがお風呂から出たタイミングと同時に、ちょうどティアラが帰ってきた。その後すぐ夕食となり、食べ進めながら、今日のラメント堕ちについて話し合う。
「お父様が祓ったんスか!?明日は王都まで津波が来るっスね」
「王都まで来たら、国土の半分が壊滅するわ!」
フィリアの発言にカイトがツッコむ。
真面目な話し合いの中に漫才を入れる二人はいつものことなので、気にせずティアラは続ける。
「同じタイミングにも関わらず、別の場所でラメント堕ちが出現。しかも父上が祓った方は、A級だと判断されていたのに、実際はC級だった」
「ボクらと真逆っスね〜。観測係さん、アベコベで報告しちゃったんスかね」
「そんな馬鹿な奴いるわけねぇだろ」
「カイちゃん、しそうっスけどね〜」
「喧嘩売ってんのか?リア」
ニコニコ微笑むフィリアに、青筋を立てているカイト。
やれやれ全く話が進まないと、ティアラは二人の会話をぶった切って、話の方向を元に戻す。
「まあ二人とも気付いてると思うけど、今回のラメント堕ちは完全に故意だ。誰かが意図的にラメントを作ってる」
「どっちの件もっスか?」
「ああ。両方とも同一犯だよ」
「一気にラメント堕ちを二体か…一般人にできることじゃねぇな」
カイトが言うと、ティアラは「そうだね」と頷いた。
「一般人じゃない。かなりやばい奴が犯人なわけ。しかも、イブリースの人間じゃないのに、瘴気に対して何らかの耐性がある」
「…」
その言葉を聞いて、カイトは今日のラメント討伐時、瘴気が充満した結界の中に自分達以外の誰かがいたことを思い出した。十中八九犯人はその人物だろうが、確かに瘴気に対して耐性があることは間違いないだろう。
「カイちゃんみたいっスねー、その人」
「一緒にすんな!」
笑顔で言い出すフィリアに、カイトが額を指ではじく。それに対してフィリアは「痛っ」と小さく悲鳴を上げ、カイトに「何でデコピンするんスか〜」と文句を言った。
「だってカイちゃんもイブリースじゃないのに、瘴気、平気じゃないっスか〜!」
「だからって犯罪者と一緒にすんじゃねぇよ!!」
ヤイヤイと言い合っている二人を横目で見て、ティアラが一つ溜め息を溢す。
「はぁ…はいはい、また話が脱線してるよ。とりあえず、故意にラメント堕ちなんて迷惑でしかないから、この件に関しては僕が動くよ。だから、しばらくラメント討伐はフィリアとカイトに任せるね」
「だそうっスよ、カイちゃん。ラメント討伐、頑張ってくださいっス!」
「いや、何自分だけサボろうとしてるんだよ!!俺だけじゃ祓えないって、何回も言ってんだろ!!」
「大丈夫っスよ。瘴気が平気なんスから、頑張れば祓いもできるようになるっス!」
「無茶言うな!!」
「ねぇ、ほんと僕の前でイチャつくのやめてくれない?」
フィリアとカイトの痴話喧嘩を目の前で繰り広げられているティアラが、うんざりとした様子で呟く。
その声に反応したのはフィリアだ。
「あ、『イチャつく』で思い出したっス!そう言えば、明日の一限終わったら、しばらく授業お休みっスよね!とっても嬉しいっス〜!」
「いや、『イチャつく』の何処でそのこと思い出したんだよ」
カイトがツッコむが、また不毛な言い合いをされても困るので、先にティアラが口を挟む。
「そう言えばそうだね。明日はとうとう――
“使い魔召喚の儀式”か……」
読んで頂きありがとうございました!!!
魔道具の説明をすると言っておきながら、二話も過ぎてしまいました!!本当にすみません!
というわけで、次回に必ず魔道具の説明を後書きでさせて頂きます!!
次回もお楽しみに!!!




