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悪魔と天使の狂詩曲(ラプソディ)  作者: 井ノ上雪恵
オープニング
10/27

ラメント討伐

「……あそこっスね」

「ああ。C(クラス)の割に、瘴気が濃いね」

 王都の上空。

 氷でできた翼付きのユニコーンに乗ったフィリア達は、黒い幕に覆われた王都の一部分を見つめる。

 あの暗幕は魔術師団によって張られた結界だ。中の瘴気とラメントを閉じ込める為のもので、本来は透明の結界だが、瘴気に触れると黒く見える。黒く見えれば見える程、中の瘴気が濃いということだ。

「…“連鎖堕ち”いるんじゃねぇの?」

 カイトが呟く。

 “連鎖堕ち”とは、一人がラメント堕ちになり、その瘴気に触れて、周りの人達までラメントに堕ちることだ。連鎖堕ちした者が増えていけば、当然その分瘴気も濃くなる。

 そうならない為の結界だが、結界が張られるまでには時間がかかるし、元からラメント堕ちの側にいた者は連鎖堕ちしやすい。

「いたら面倒っスね〜」

「それじゃあ、これ以上瘴気が濃くなる前に、さっさと終わらせようか」

 それだけ言うと、ティアラは幕の方へと馬を翔けさせた。フィリアとカイトもティアラの後に続く。


 幕の天辺から結界の中へと入ったフィリア達は、地面へ降り立つと周りを見回した。

「ラメントの気配は一つだけっスね」

「それでこの瘴気の濃さって、ほんとにCか?」

「違うかもしれないっスね〜」

「あっさり言うな!」

 フィリアとカイトが瘴気に満ちた空間の中、呑気に会話しながら馬から降りる。

 ティアラも馬から降りたことを確認して、フィリアが能力を解除した。すると、氷の翼付きユニコーンは雪の結晶になって、空気中へと消える。

「じゃあ早速、ラメント討伐といこうか。大丈夫だと思うけど、フィリアは絶対に怪我しないでね!」

「はーいっス!」

 素直にフィリアが手を挙げると、いよいよ討伐任務開始だ。

 まずは、気配を辿ってラメントの方へと三人同時に走り出す。ラメントの姿を確認できたら、攻撃体制へと入るのだ。

 人っ子一人いない街の中を迷わず進んでいくフィリア達、その動きが突然止まった。

 周りよりも一段と瘴気が濃い広場の中心、その中に巨大な黒い影がゆらゆらと蠢いている。

 ラメントだ。

「いたっスね」

「やっぱりC級じゃねぇな」

「やれやれ。観測係は何を見てたのやら」

 それぞれに感想を漏らすと、三人は特に気を張る訳でもなく、真っ直ぐにラメントへと近付いていった。

 近くにいくと、ラメントの姿がはっきりと見えてくる。

 灰色の巨体に、ピエロの仮面のような顔。イメージとしては、毛がなくバカデカいオラウータンといったところか。何にせよ丸太のような太くて大きい腕を振り回されれば、当たっただけで即死するレベル。

 自身の二倍以上もある巨躯に対し、フィリア達は見上げる首がしんどいくらいの面持ちでラメントを見据える。

 と、そこまで近くに来て、ようやくラメントがフィリア達に気が付いた。

「死ニタイ……死ニタイ……近付クナ……私ニ…近付クナァアアアアアアア!!!!」

 いきなり叫び出したかと思うと、ラメントはその太い腕を振り上げ、思いきり地面へと叩きつけた。

 ちょうど先程までフィリア達が立っていた場所だが、既にその場には誰もいない。犠牲になったのは、粉々に砕けた石畳の道だけだ。

 素早く横に跳んで攻撃を躱した三人は、それぞれラメントの周りに散って、構えを取る。

 最初に動いたのはカイトだ。

 空間魔法で取り出した剣を片手に強く握り、ノロノロと動きの鈍い(カイト達にとっては)ラメントの懐に入ると、その両腕をバッサリと斬り落としてしまった。

 バランスを崩したラメントは前屈みに倒れていく。両腕の失った状況で、一度倒れて再度立ち上がるのは困難だ。

 中々立ち上がれないラメントの動きを更に封じ込めるかのように、今度はフィリアが動く。

 フィリアの足元が淡く水色に光ったかと思うと、一気に氷の道がラメント一直線に伸びていき、そのままラメントの肢体を半分以上凍らせた。

 完全に地面に縫い付けられたラメントは、最早まな板の上の魚だ。

 煮るなり焼くなり、好きにしてくれ状態である。

 仕上げはティアラだ。

 身動きの取れないラメントの目の前にわざわざ立つと、ティアラはいつもより真面目な様子で口を開けた。


「――天地海(てんちかい)照ラセシ御光(おんひかり)…諸々ノ禍事、罪、穢レ有ランヲバ…祓イ給イ清メ給エト申スコトヲ聞コシ召セト畏ミ畏ミ申ス――」


 ティアラが祝詞のりとを口にすると、ラメントを囲むようにして、巨大な陣が地面から浮かび上がってくる。魔法陣のように見えるそれは、しかし決して魔法陣ではない。それよりも、もっと繊細で崇高なナニかだ。

 陣が完成し、ラメントを眩い光が包み込むと、三人は口を揃えた。


「「「光あれ」」」


 途端に天から光の柱が降りてくる。

 光の柱に呑み込まれたラメントは、光が消えたのと同時にその瘴気と共に、塵も残らず消滅してしまった。

 これで討伐は完了だ。

 後は、街を覆っていた瘴気の残りカスの祓いだが、それはフィリア達の仕事ではない。魔術師団のものだ。

 五分と経たず任務を済ませたフィリア達は、やっと休めるといった表情でグッと伸びをした。

 いくら楽勝とはいえ、ラメントの祓いはかなり体力を使うのだ。主に祝詞を唱えたティアラは、他二人よりもグッタリとした顔をしている。

「ティアラ、大丈夫っスか?」

「うん、平気だよ。優しいね、フィリアは。さ、早く帰ろ」

 そう言って、フィリアの手を借りながら立ち上がったティアラ。

 その時。


「「「!!」」」


 三人一斉に、ある一軒の屋根上を見上げる。

 そこには誰もいないが、確かに人の気配をフィリア達は感じた。

「……結界内にいるのは、ボク達だけのはずっスよね?」

「ああ。実際、さっきまでラメント以外の気配は感じなかった」

 フィリアとカイトが互いに顔を見合わせる。

「……どうやら、厄介な奴がいるみたいだね。まあ、もう気配は完全に消えてるし、追いかけるのは無理だよ。さっさと帰ろう」

「それもそうっスね〜」

 ティアラの言葉に頷くと、フィリアは行きと同じように氷でできた翼付きユニコーンを二体作り出した。

 一頭にティアラ、もう一頭にフィリアが乗ると、フィリアの後ろにカイトも跨る。


 こうして、王都でのラメント討伐は完了した。


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