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プロローグ
国土の半分が森に囲まれた沿岸国―クロアシア王国。
数千年に渡る歴史を持つこの国には言い伝えがあった。
―『命が惜しけりゃ、悪魔にだけは手を出すな
ペロリと命を喰われるぞ
死にたくなけりゃ、心を強く持つことだ』
人々は悪魔を畏怖した。決して怒らせないよう、細心の注意を払った。
彼らを怒らせると、国が炎と血で真っ赤に染まる。
彼ら…人の皮を被った悪魔と呼ばれる伯爵家の一族“イブリース家”。
王族でさえ支配できない彼らは、この国で最も恐れられる存在であった―。
―天使とは「天の使い」である。
―天使とは心の清らかな者である。
―天使とは悪魔の対となる存在である。
今この時、クロアシア王国において“天使”と呼ばれる人間はたった一人だけだった。
イブリース家の次子。この世に一人としていない空色の髪を持った娘―フィリア・イブリース。
これは天使と悪魔の宿命の物語―。