05:美しい白バラ先輩には棘がある
20:40
清掃作業も終了し、更衣室に向かう。
着替えの時間に一番緊張を強いられるのが薫さん。
大学の白衣に白いバラの刺繍を入れるというセンスの持ち主。
まぁ立て看板の有名なあの大学ならアリなのかな…と。
ただ…バイト先の雑巾洗う洗濯機で白衣って洗っていいものなのか未だに突っ込めない…。
そしてひとつしかないシャワールームで2分だけ汗を流して
タオル1枚纏い出てくる168cmのG65…
動揺してしまうのは仕方ないでしょう!
しかもスリット深めの白スーツ(これも白バラの刺繍入り!)着てタクシーでご出勤。
雨が降っている時は駅まで一緒に送ってくれる
愛情溢れるイイ香りのお姉さん。
愛情が溢れすぎて所長を毎回連れ込もうと
「1セットだけ!ちょっとだけ!お願い!」
と言ってる姿だけがものすごく残念なだけ。
夜の街から離れているのでこんな姿を薫さんのお客様が見ることはないとは思うけど
何でそこまで所長に固執するのか不思議で一度質問してみたことがある。
「見た目や先入観で選ばれる事が多い私はね、見た目と先入観で選ぼうと思ってるの」
「私の皮膚や造形が好みだと言う人は、どれだけ世間一般の評価が高い容姿だろうと醜いわ」
私ってばものすごく単純でわかりやすいでしょう?と大輪の花のように微笑まれた。
「一目ぼれなんて告白してきたら、私はあなたの顔が嫌いですって言うわ」
たくさんの人に選ばれてきて取捨選択をたくさん迫られてきた人たちは、
捨の精度が研ぎ澄まされているんだなと感じた。
たくさんの人を切り捨てる度に自分の肉も削いで落としてきたんだろう。
誰が見ても所長も薫さんも見た目というものに苦労している。
分かり合えるからこそ、安心して所長に甘えているのが私から見ても分かる。
どちらに対しても初見で一歩退いてしまった私にも小さな罪悪感が残っているが、
謝るのも失礼な話だし許されようとは思っていないので、
バイトとはいえ真摯に仕事と同僚に向き合うことだけは誓っている。
それがチワワのようだと同僚たちの癒しになっているのは知らなかった。
初見は仕方ないと割り切られているのもこちらとしては寂しいけれど、
次からどう接してくれるのか、というのが薫さん的には大事らしい。女神か。
慈しむような微笑みを向ける彼女に毎回ドキドキがとまらない。
「でもでもやっぱり美人ですよ!好きです!」と嫌われるのを覚悟で口走れば
「ありがとう知っていても嬉しいわ」と喜ばれる。
仲間に好かれているなら容姿が好かれても嬉しいんだって。
人間関係って難しい。
接客業じゃないし、ほとんど人と関わり合わない仕事なのに出勤するたびに考えさせられる。
作業靴から8cmピンヒールに武装し直した薫さんは、これから時給が15倍の戦地へ行く。
何でここで働いているんだろう…と思ってた頃が懐かしい。
自分を見失わない為の場所って絶対必要なんだよね。
それが家庭であったり、友達であったり、帰れる場所やら泣き所は要る。
質問の答えのついでにと薫さんがくれた予言めいたアドバイスは的確だった。
「ゆうちゃんもこの仕事で感じたことを大事にしたら選びたい人は限られてくるわよ」
そう。気付いてしまった。
見た目をきっかけに人を好きになるほうが楽なのだ。
映画やドラマで出る台詞の「見た目より中身」とはどれほど実行するのに難しいことか!
作業服着てうろついているだけで捨てといてとペットボトルを投げられたりもする。
それがカッコイイ人ならものすごく残念にもなるし、
普通の善良な一市民!って感じの人なら絶望すらする。
黒子のような私に無防備に中身を曝してくれるのを最近ではもう面白がっているんだけど
誰しもやっぱり顔を見ているものなのだ!
ということは、作業服を脱いで私個人に戻れば私だって顔ありきの評価が待っているわけで…
うう…考えこんだら人間やめたくなってきた…(逃避)