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【志島恵視点】王政が崩壊する=国が豊かになるという訳ではないらしい。……少なくともアルドヴァンデ共和国では。

 異世界生活一日目 場所エリフォラの町


「迷い人の志島恵、一薫、柊眞由美ね。はい、これ滞在許可証。今回の発行は特別に発行費を免除するけど、再発行には金貨一枚必要だから失くさないように気をつけてくれよ」


「「「ありがとうございます」」」


 門番さんに滞在許可証を発行を発行してもらった私達は、改めてエリフォラの町の中に入った。


「ところで、貴女達はこれからどうするつもりなの?」


 確かにミュラのいうように、これからのことを決めないと何も始まらないわね。

 とりあえず、薫さんと眞由美さんに聞いてみよう!


「ねえ、これからどうする?」


「私は王国に行って王子様達にBLの素晴らしさを広げてみたいわ」


 流石は薫さん、いいこと言うわね。イケメンといえば王子様。そんなイケメン王子様達にBLの素晴らしさを教えて、王子様が素敵に絡み合う眼福な空間を楽しみたいわ。


「でも、今の私達じゃ王宮には入れないと思うわ。私も王子様達が互いに互いを愛する眼福空間を楽しみたいとは思うけど、今はまだ無理よ。ここは、私達でも手が届くかもしれない冒険者とかはどうかしら?」


 ……確かに眞由美さんの言う通り王宮のガードは固いわ。それをすり抜けるにはそれ相応の立場にならないといけないけど……そのために王子様の皇后や妃になるってのもなんだかね。

 別に私達はシンデレラになりたい訳じゃない。寧ろ、私達が居たら雰囲気を邪魔してしまう。……やっぱり王子様は保留かな。


 冒険者の方は私達でもなれそうだ。……というか、なれなかったらどうやって生計を立てていけばいいんだろうって感じだよね。

 魔獣と戦う以外に私達のスキルでできることってないよね? もし、これで「冒険者になれません」とか言われたら、私達おしまいだよ。


「ここは冒険者一択ね。ワイルドな冒険者のおじ様にBLの素晴らしさを広めましょう!」


 薫さんと眞由美さんも同意してくれたし、これで決まりだ。


「決まったかしら?」


「はい、(冒険者の皆様にBLを広めるために)冒険者になりたいのです!」


「冒険者の世界は常に危険と隣り合わせだわ。……それでも、本当に冒険者になるのね?」


「はい、(冒険者の皆様にBLを広めるためなら)どんな危険でも乗り越えてみせます」


 なんだろう、噛み合ってない気がするけど伝わってないのかしら。

 BLのことを話した時にはげんなりしていたのに、今のミュラさんはなんだか嬉しそう。

 ……実はBLに興味があるけど恥ずかしくていえなかったとか? だったら早く言ってよ!


「本当に凄い覚悟ね。冒険者の世界には一旗揚げようと多くの若者が飛び込むだけど、その世界に残れるのはほんの一握り。ほとんどが心を折られてしまうか、強くなる前に殺されてしまって、本当に名のある冒険者になるのはほんのごく僅かしかいないわ。……いい? 自分の強さに驕っては駄目よ。常に謙虚で居ないとこの世界で生き残れないわ」


 ……あれ? 雲行きが怪しくなってきたぞ。もしかして、これってガチなやつ?

 いや、ミュラさんが会って間もない私達に忠告してくれるのは嬉しいんだけど……すみません、求めてたのと違う!



 冒険者ギルドはエリフォラの町のお隣にあるサイフィドルの町にあるらしい。

 ということで、まずはそこまで行かないといけないのだけど、当然道中には魔物が出る。

 ということで、まずは魔物と戦うための武器を手に入れることになった。

 ……服も学生服(ブレザー)のままだと動きにくいしね。というか目立ってしょうがない。

 ……ところで、転移した他のみんなは着替えたりしているのかな? ……流石に学生服(ブレザー)のままで迷宮を攻略した人とかは……いない、よね?


 まずはロールプレイングゲームでお馴染み、武器屋。

 色々売っているけど大体が職業的に装備できないんだよね。


 私と薫さんは魔法の発動時に効果を高めるらしい杖の中で一番安い木の杖を、眞由美さんは木の弓と鉄の矢を五十本買った。

 ちなみに、店にはもっと強い武器があったんだけど、流石にミュラさんにおんぶに抱っこだから贅沢は言えないしね。だけど、眞由美さんが木の矢を買おうとした時に「それだとあんまり戦えないからこっちにした方がいいわ」って鉄の矢に替えてもらっていたからな。……ミュラさんの負担を減らすためにはやっぱり少々お高めでもいいものを選んだ方がいいのかな?


 次に防具屋に移動。ロールプレイングだと皮の服とか皮のドレスとか皮の鎧とかだけど、普通の服も売っているんだね。……というか、服屋も兼ねているみたいだ。靴とかも売っているよ……まあ、確かに防具っちゃ防具だけど。


「そういえば、服は着替えを含めて三、四セットは用意した方がいいわよ。私みたいに【生活魔法】が使える人はそこまで買わなくてもいいけど」


 私達は【生活魔法】を使えないけど、後でミュラさんに魔法を教えてもらう約束をしているので、その時に【生活魔法】を教えて貰えばいいよね?

 ……とりあえず。


「皮のドレスと普段着用の白いワンピースを二つお願いします」


「皮のドレスと普段着用に皮の服を二つお願いします」


「皮のドレスと普段着用にジャージ……はないから、皮の服を二つお願いします」


 ……凄い、皮のドレスが三つ揃った。ゾロ目だから何か貰えないかな?

 しかし、私だけ白いワンピースか。女子力低いのに選んで良かったのかな? 無難に皮の服を選んでいた方が良かったかもしれない。……というか眞由美さん、ジャージって。

 ここでもミュラさんに全額お支払いしてもらった。……後で返さないといけないな。


 次に薬を売っている行商人さんの店に行ったんだけど、薬草とか水薬(ポーション)は魔法で代用できるから、ミュラさんが大量の魔力薬(エーテル)を値引き交渉しながら買ってた。……行商人さんがぎょえーーっっ!! 商人さんになっていたんだけど大丈夫なのかな? というか、最初からミュラさんに値引きして貰えばもっと安く買えたわよね? 失敗したわ。


 その後に近くの宿で軽食を摂って一通りのレクチャーを受けてから、私達はサイフィドルの町目指して出発した。



 異世界生活一日目 場所カエルム街道


 エリフォラの町とサイフィドルの町を繋ぐのはカエルム街道と呼ばれる街道。

 馬車の往来も多い場所なんだけど、町とか村のように魔獣除けの【結界魔法】が掛けられている訳ではないから、普通に魔獣も出現する。


「ゴブリンが三体、向こうは気づいていないようね。貴女達三人で戦えるかしら?」


 これくらいの魔獣を倒せなければ冒険者なんて夢のまた夢だ。

 私達は迷うことなく首肯した。


 といっても、これは私達の初めての戦闘。レクチャー通りに上手く戦えるというのは願望に近いもの。

 ……なんとか戦えるといいんだけど。


 杖を照準を合わせるようにゴブリンに向ける。


「〝真紅の炎よ、火球となって焼き尽くせ〟――〝劫火球(ファイアボール)〟」


 杖の先から火球が生まれ、ゴブリンに向かって放たれた。


「――ゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブゴブッ!」


 火球を受けたゴブリンは「ゴブ」と悲鳴をあげながら慌てふためき、そのまま絶命した。……やっぱり一撃で仕留めるのは無理か。


「えっと……【降雷】?」


 薫ちゃんがスキルの名前を呟いた途端、何もない空から一筋の雷がゴブリンに降り掛かった。……で、そのまま一撃で絶命。もしかして、魔法よりスキルの方が強いの? MP消費しないのに? いいな、私も【雷を従える者】を選んでおけば良かった。


「〝真紅の炎よ、火球となって焼き尽くせ〟――〝劫火球(ファイアボール)〟」


「〝清き水よ、弾丸となって貫け〟――〝水弾(アクアバレッド)〟」


「〝風よ、刃となれ〟――〝風刃(エアブレイド)〟」


「〝凍てつく氷よ、槍となって貫け〟――〝氷槍(アイスランス)〟」


「〝雷よ、球となって襲い掛かれ〟――〝雷球(サンダーボール)〟」


 眞由美さんはスキルのアクティベート中だ。JOBを得てもすぐにスキルは使えない。スキルを得るためには一度そのスキルでできることを試す必要がある。

 もし、JOBの範囲内であればスキルを得ることができて、そのまま魔法を使うことができる。範囲外の場合はその事象は起こらずスキルも増えない。だから、弟子入り(アプレンティシップ)をして、習得できるスキルの領域を広める必要がある。


「【火魔法】、【水魔法】、【氷魔法】、【風魔法】、【雷魔法】のスキルを獲得したわ!」


 どうやら眞由美さんは無事に五つのスキルを獲得したみたいだ。

 【生活魔法】は私達も含めて教えてもらったから、これで三人とも魔法が使えるようになった。


 なんとか無傷でゴブリンを倒し切った。異世界に来て戦えないって展開にはならないみたいだ。良かった。


 そのまま街道を進み、何度か魔獣と戦闘した。

 そして、歩き始めてから三十五分くらい? 経った時、遂にサイフィドルの町に辿り着いた。



 異世界生活一日目 場所サイフィドルの町


「通行料、一人銀貨十二枚だ」


「四人分で銀貨四十八枚です。……しかし、随分高くなりましたね。前は一人銀貨六枚くらいだった筈ですが」


 ミュラさんの記憶に間違いがなければ、通行料が二倍になっているということになる。……明らかに、普通じゃない。


「……申し訳ない。共和政府がまた通行税を上げたんだ。……せっかく王政が崩壊して国が豊かになるって思ったのにな。これじゃあ、クライヴァルト王国の頃と何も変わりはしない! 革命も無意味だったってことだよな」


 門番も好きでやっている訳ではないみたいだ。公務員も大変だな……って異世界に公務員っていう概念はないか。

 ミュラさんと門番は一言二言言葉を交わすと、門番は門を開けて私達を通してくれた。

 しかし、門番さん。凄いイケメンだったな。渋いおじ様って感じの。合わせるならどんな男の子がいいかな? ……あっ、門番が震えた。風邪でも引いたのかな?


 私達は町を北上し、遂に冒険者ギルドと書かれた看板が掲げられた煉瓦造りの建物に到着した。


「ようこそ、冒険者ギルド・サイフィドル支部です。――お帰りなさいませ、ミュラさん」


 金髪の美しい受付嬢がミュラさんに声を掛けた。

 これが、思わず「ふつくしい」って言ってしまう美しさなのかぁ。梓ちゃんなら絶対攻略に動くよね? で、速攻で落としてイベントスチルだよね? そのまま進んで百合エンドだよね?

 ……そういえば、梓ちゃんの好みってどんな感じなんだろう? というか、私達って梓ちゃんの恋愛対象になっていたのかな? な訳ないよね。

 私達は可愛くも美しくもない。白崎さんのようにヒロインにはなれないし、なりたいとも思わない。……でも、梓ちゃんがどんな風に私達のことを見ていたのか、気になるな。同人のことで楽しく話せる仲間として見てたのか、恋愛対象にも含めていたのか、本当は私達のことを疎ましく思っていたのか。……嫌だな、最後のは。


「この三人の女の子達は隣町で会った迷い人よ。冒険者になりたいらしいんだけど、頼めるかしら」


「畏まりました。……では、こちらの書類に必要事項を書いて下さい。その間に私は鑑定士を呼んで参ります」


 そう言い残して受付嬢は奥に引っ込んでしまった。

 ……えっと、書類に書くのは名前、年齢、出身地、身長、体重、職業、(ある場合は)称号か。


「あの、ミュラさん。出身地って正確に書かないといけませんか?」


「……う〜ん。元の世界の住所を書かれても分からないから、空欄でいいんじゃないかしら? 必要事項って書いてあるけど、必要なのは名前、年齢、職業、称号の四種類だからそれ以外は虚偽申告さえしなければ空欄でも良かった筈よ」


 ナイス質問だよ! 薫さん! 身長と体重って最近測ってないから分からないんだよね。

 女性に体重と年齢は聞くなっていうけど、私の場合聞かれても体重は知らないから答えようがないんだよね。ちなみに、年齢も大概ど忘れしているわ。……歳を重ねるって死が近づいていっているようでなんだか嫌なのよね。

 年齢を知らない方が幸せなこともあるのよ。


「お待たせしました」


 戻ってきた受付嬢は、白髪の老人を連れていた。

 老人は私達の書いた紙と私達の顔を見比べながら、用紙に何かを書き込んでいく。そして、それを受付嬢に渡した本人は奥に引っ込んだ。


「虚偽申告がありませんでしたので、問題なく冒険者登録できます。ランクは一番下の藍からスタートです」


 冒険者登録も無事に管理し、いよいよ私達の異世界生活がスタートした。

 ――さあ、本格的にBL布教作戦を開始するわよ!

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