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講義パート、【古典・中古】入門二限目。担当教員、日本文化研究学部国文学科浅野天福教授

◆登場人物

担当教諭: 浅野天福教授

 日本文化研究学部国文学科の教授。

 以下は浅野と表記する。


ディスカッサント:能因草子

 浅野ゼミ非公式ゼミ生。文学に対して多くの知識を有する公立高校一年生。

 以下は能因と表記する。


ディスカッサント:白崎華代

 草子と同じ公立高校に通う一年生。成績は草子に次ぐ二位だが、文学に対する知識は人並み。

 以下は白崎と表記する。


※講義パートは本編とは直接関係はありませんので、読み飛ばして頂いても構いません。本編では絡まない登場人物の絡みと、本作の肝となっている文学に対して理解を深めて頂けたら幸いです。

ちなみに、本講義――【古典・中古】入門を履修した皆様には二単位を差し上げます……冗談ですよ。レポートの提出も期末試験に向けた勉強も必要ありませんから、気軽にお読み頂けたら幸いです。

浅野「草子君の方も仲間が増え、白崎さんのグループとも合流できたようだな。一読者として、これからどのような展開になっていくのかとても楽しみだ」


白崎「……このままだと、全員纏めて草子君に置いていかれるルートですけどね」


能因「しかし、まさか俺を引き止めるために小説を書こうとはな。……ちなみに、あの時語ったオリジナリティの話は作者の逢魔時さんが実際に講義で習った内容を基にして書いているらしい。……考査の勉強のためにプリントを引っ張り出して見ていたら思い出したそうだ」


白崎「まあ、逢魔時さんは大枠だけは決めて後はノリで書いているみたいだから。月一で連載している『転生叛逆』とか『異世界魔法少女』とかもそんな感じらしいよ。……あの人、きっちりしているようで結構大雑把だから」


浅野「舞台裏を語るのはここまでにして、そろそろ講義に移ろう。この第二回で扱うのは『万葉集』と『古今和歌集』だ。……では、草子君。成立について大まかに説明を頼む」


能因「『万葉集』 は『萬葉集』とも書き、7世紀後半から8世紀後半にかけて編まれた日本に現存する最古の和歌集です。天皇、貴族から下級官人、防人など様々な身分の人間が詠んだ歌を4500首以上も集めています。『古今和歌集』は平安時代前期に醍醐天皇の勅命により『万葉集』に撰ばれなかった古い時代の歌から撰者たちの時代までの和歌を撰んで編纂したものです。仮名で書かれた仮名序と真名序の二つの序文を持つことでも有名ですね」


浅野「解説ありがとう」


白崎「あの、浅野教授。この講義では和歌も扱うのですか?」


浅野「和歌も日本文学の一つだからな。……まあ、今後の講義で和歌を扱うかどうかは不明だが。……さて、早速この二つについて学んでいこうと言いたいところだが、ここに収録されている歌を一つ一つ説明していく時間はない。そこで、『万葉集』からは和歌を一つ選んで解説し、『古今和歌集』は序文について触れたいと思う。……早速、『万葉集』に収録されている歌を一つ詠む。この作者を白崎さん、答えてくれ。『天地の 分かれし時ゆ 神さびて高く貴き 駿河なる 布士の高嶺を 天の原 ふりさけ見れば 渡る日の 影も隠らひ 照る月の光も見えず 白雲も い行きはばかり 時じくぞ 雪は降りける 語りつぎ言ひ継ぎ行かむ 不尽の高嶺は』」


白崎「確か、山部赤人の歌ですね。国語の授業で習いました」


浅野「正解だ。この型の歌は長歌と呼ばれている。あまりにも長いため、反歌と呼ばれるものがつく。『田子の浦ゆ うちいでて見れば ましろにそ 不尽のたかねに 雪は降りける』は、この歌にたいする反歌だ。ちなみに、百人一首では『田子の浦に うちいでて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ』となっている。これは、百人一首が編纂された鎌倉期に“ゆ”という助詞が消滅していたからだ。……少し速足だが、次の『古今和歌集』の序文について解説をしようと思うのだが、その前にこの二つを草子君、諳んじてもらいたいのだが、できるか?」


能因「うろ覚えですが。確か仮名序が『やまと歌は、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける。世の中にある人、ことわざ繁きものなれば、心に思ふことを、見るもの聞くものにつけて言ひ出だせるなり。花に鳴く鶯、水にすむ蛙の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌を詠まざりける。力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女の仲をも和らげ、猛き武士の心をも慰むるは、歌なり』、真名序が『夫和歌者、託其根於心地、発其華於詞林者也。人之在世、不能無為、思慮易遷、哀楽相変。感生於志、詠形於言。是以逸者其声楽、怨者其吟悲。可以述懐、可以発憤。動天地、感鬼神、化人倫、和夫婦、莫宜於和歌。和歌有六義。一曰風、二曰賦、三曰比、四曰興、五曰雅、六曰頌。若夫春鶯之囀花中、秋蝉之吟樹上、雖無曲折、各発歌謡。物皆有之、自然之理也』……ここが限界ですね」


浅野「……何も見ずにここまで暗唱できれば十分だと思うぞ。さて、この序文二つには元になったとされるものがある。さて、それは何だと思う? 難しいからどちらか分かれば答えてくれ」


能因「『詩経』の序文の一つ毛詩序、また毛詩大序と呼ばれるものですね。例を挙げるとすれば『動天地、感鬼神』辺りでしょうか? 確か他にもあったような気がしますが」


浅野「草子君は漢文についてもよく知っているようだな。まさか、正解されるとは思わなかった。この毛詩序が書かれたのは紀元前200〜300年頃とされている。仮名序、真名序が書かれたのは平安時代――つまり、千年も昔のものを手本に『古今和歌集』の序文は書かれたのだ。勿論、完全に写したという訳ではない。『花に鳴く鶯、水にすむ蛙の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌を詠まざりける』は『古今和歌集』のオリジナルだ。この違いは仮名序の作者である紀貫之がどのような思いをこの『古今和歌集』に掛けたのか研究する手掛かりになるだろう。さて、本日の講義はこれで終了だ。――草子君、白崎さん異世界での冒険は辛いだろうが陰ながら応援しているぞ!」

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