芳山充〜時を駆ける七賢者〜 その1
異世界生活百七十日目 場所ラグナ・ヴァルタ島、ヴァパリア黎明結社本部
【三人称視点】
「貴女達のお仲間は全員殺したわ。次は貴女達よ」
柴田達が殺した筈の芳山の出現と、さっきまで生きていた春彦、宍戸、葦屋浦、天宮、夢咲、新田、堰澤、吉祥寺の突然の死にショックを受ける中、夏用セーラー服の黒髪ロングの眼鏡美少女――芳山充は自信満々な表情を浮かべながら【時空魔法】の一つである〝次元の刃〟を発動した。
◆
時はかなり巻き戻る。柴田、岸田、八房、高津、常盤、レーゲン、狩野、藍川、春彦、宍戸、葦屋浦、天宮、夢咲、新田、堰澤、吉祥寺は聖達や白崎達、リーファ達とほぼ同時刻に厚い金属の扉の前に到達していた。
「開けるわよ」
全員が頷きを持って肯定したことを確認し、柴田が分厚い金属の扉を押し開ける。
その中に居たのは――。
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NAME:芳山充 AGE:15,000,000,000歳
LEVEL:99999999(DESPERADO)
HP:99999999/99999999(+9999999999999)
MP:99999999/99999999(+9999999999999)
STR:99999999(+9999999999999)
DEX:99999999(+9999999999999)
INT:99999999(+9999999999999)
CON:99999999(+9999999999999)
APP:6000(+9999999999999)
POW:99999999(+9999999999999)
LUCK:99999999(+9999999999999)
JOB:元女子高生
TITLE:【時をかける少女】、【時を超えて愛する者を探す者】、【ヴァパリア黎明結社七賢者】、【超越者の領域に至りし者】
SKILL
【時空魔法】LEVEL:MAX(限界突破)
→時空属性の魔法を使えるようになるよ! 【時間魔法】と【空間魔法】の上位互換だよ!
【物理無効】LEVEL:MAX(限界突破)
→物理を無効にするよ! 【物理耐性】の上位互換だよ!
【衝撃無効】LEVEL:MAX(限界突破)
→衝撃を無効にするよ! 【衝撃耐性】の上位互換だよ!
【魔法無効】LEVEL:MAX(限界突破)
→魔法を無効にするよ! 【魔法耐性】の上位互換だよ!
【状態異常無効】LEVEL:MAX(限界突破)
→全ての状態異常を無効にするよ! 【状態異常耐性】の上位互換だよ!
【即死無効】LEVEL:MAX(限界突破)
→即死を無効化するよ! 【即死耐性】の上位互換だよ!
【因果無効】LEVEL:MAX(限界突破)
→因果干渉を無効化するよ! 【因果耐性】の上位互換だよ!
【時空無効貫通】LEVEL:MAX(限界突破)
→時空無効を貫通するよ! 【時空耐性貫通】の上位互換だよ!
【クライヴァルト語】LEVEL:MAX(限界突破)
→クライヴァルト語を習得するよ!
【ミンティス国】LEVEL:MAX(限界突破)
→ミンティス語を習得するよ!
【マハーシュバラ語】LEVEL:MAX(限界突破)
→マハーシュバラ語を習得するよ!
【ジュドヴァ=ノーヴェ語】LEVEL:MAX(限界突破)
→ジュドヴァ=ノーヴェ語を習得するよ!
【エルフ語】LEVEL:MAX(限界突破)
→エルフ語を習得するよ!
【ドワーフ語】LEVEL:MAX(限界突破)
→ドワーフ語を習得するよ!
【獣人第一共通語】LEVEL:MAX(限界突破)
→獣人第一共通語を習得するよ!
【獣人第二共通語】LEVEL:MAX(限界突破)
→獣人第二共通語を習得するよ!
【海棲語】LEVEL:MAX(限界突破)
→海棲語を習得するよ!
【ヴァパリア黎明結社共通語】LEVEL:MAX(限界突破)
→ヴァパリア黎明結社共通語を習得するよ!
【時間支配】LEVEL:MAX(限界突破)
→時空の支配が上手くなるよ! 指定時間の支配圏を獲得して他者からの支配を無効化する時間支配、自在に時間を停止させる時間停止、時間の流れを加速させる時間加速、時間の流れを減速させる時間減速、時間を巻き戻す時間遡行、触れた対象の時間を際限なく加速させることで消滅させる超時間加速の効果、対象とした空間の時空をめちゃくちゃに捻って消し飛ばす時空崩壊の効果があるよ!
ITEM
・セーラー服
→セーラー服だよ!
・黎明結社のペンダント
→ヴァパリア黎明結社のシンボルである六芒星に十字架を合わせた意匠のペンダントだよ!
NOTICE
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「貴女達は……確か、最終戦争を仕掛けてきた能因草子の仲間達よね? 七賢者相手に戦力を分散させるとか、本当に気に入らないわ。どれだけ私達をバカにすれば気が済むのよ!!」
柴田達は別に七賢者を軽んじていた訳ではない。
寧ろ、強敵として戦力をできる限り均等に分配して、情報のない七賢者と当たっても問題が発生しないように細心の注意を払ってパーティを組んでいる。
超越者に至っている柴田達だが、草子に匹敵する力を持っているかと問われれば否だ。例え、柴田達全員が束になっても草子相手に勝ち目はないだろう。
草子一人でヴァパリア黎明結社と戦う方が安定するだろうが、それでも柴田達は何もせずに最後まで負んぶに抱っこで地球に帰還したいとは思わなかった。草子もそんな柴田達の気持ちを理解していたから一緒にヴァパリア黎明結社の七賢者と戦うことを許してくれたのだろう。
七賢者は草子と戦うつもりでいる。草子は断固として反論するだろうが、柴田達は七賢者にとって草子の添え物として捉えられている筈だ。
そんな柴田達を七賢者の一人と対峙させるのは、それだけで七賢者には侮辱と取られても致し方ないのだろう。
柴田達が誠心誠意説明しても、芳山には理解されないだろう。柴田達にどのような想いがあったとしても、芳山には関係ないのだから。
しかし、それならそれでいい。柴田達は芳山にこの場に草子がいない理由を説明するために、この地に来たのではないのだから。
柴田達がやるべきことはただ一つ――自分達が弱くないと、草子がいなくても戦えること、自分達に実力があることを認めさせ、その上で討伐対象の芳山を討伐することである。
「まあいいわ。【時間支配】の力を使って一方的に蹂躙してもいいけど、それだと腹の虫が収まらないわ。いいわ、私は〝次元の刃〟しか使わない――これだけで十分貴女達に勝てるわ。そして、貴女達全員を倒して能因草子を絶望させてあげる。――私を侮ったこと、後悔させてやるわ!! 〝次元を切り裂く刃よ〟――〝次元の刃〟!!」
芳山が呪文を詠唱し終えた瞬間、柴田がついさっきまで居た場所に次元断層が出現した。
柴田が警戒して動いていなければ、そのままお陀仏になって今頃は神界でミント達とお茶会をしながら草子達を待つことになっていただろう。
(それならそれでいいかもしれないと思ってしまった私って本当にバカ。私は草子君と一緒に戦いたいって思ってここまで来たのよ!! なら、最後まで勝つつもりで戦いなさい! 柴田八枝!!)
一瞬、負けてしまってもいいと思ってしまった自分を自戒し、身を引き締め直す柴田。
「〈飛び出す骨牌〉――〈唐突な爆発〉!!」
慣れ親しんだ技でトランプを取り出した柴田は、トランプを思いっきり芳山に投げ、爆発させた。
「時を止める喜劇の御技!!」
トランプの爆発に巻き込んだ対象の時間を停止させる柴田の超越技が発動し、芳山の時間が停止した。
この超越技の時間停止可能時間は体感で十秒程度とみじかめだが、他の時間停止よりも優先されるため、他の時間干渉能力で無効化させることはできないという優位性を持つ。
芳山の【時間支配】でも無効化できない、奇襲の究極奥義が発動し、芳山が無防備になる。
柴田が至近距離から十状変り闘え=究極大戦装備を振りかざし、岸田が二刀冴え渡れ=究極大戦装備に【神聖剣 極】の黄金の光を宿して斬撃を放つ。
「「「収束して迸れ、魔を滅する聖剣技――《夜明けを切り開く明星》」」」
レーゲン、照次郎、孝徳が聖剣を一振りし、放たれた青の光の奔流が芳山を飲み込み、高津がすれ違いざまに悪鬼斬り伏せ=究極大戦装備を居合抜きして一太刀浴びせる。
「〝前一騰虵火神家在巳主驚恐怖畏凶将〟――急急如律令」
「〝前二朱雀火神家在午主口舌懸官凶将〟――急急如律令」
「〝前三六合木神家在卯主陰私和合吉将〟――急急如律令」
「〝前四勾陳土神家在辰主戦闘諍訟凶将〟――急急如律令」
「〝前五青竜木神家在寅主銭財慶賀吉将〟――急急如律令」
「〝天一貴人上神家在丑主福徳之神吉将大无成〟――急急如律令」
「〝後一天后水神家在亥主後宮婦女吉将〟――急急如律令」
「〝後二大陰金神家在酉主弊匿隠蔵吉将〟――急急如律令」
「〝後三玄武水神家在子主亡遺盗賊凶将〟――急急如律令」
「〝後四大裳土神家在未主冠帯衣服吉将〟――急急如律令」
「〝後五白虎金神家在申主疾病喪凶将〟――急急如律令」
「〝後六天空土神家在戌主欺殆不信凶将〟――急急如律令」
「〝開門せよ、白羊宮〟」
「〝開門せよ、金牛宮〟」
「〝開門せよ、双児宮〟」
「〝開門せよ、巨蟹宮〟」
「〝開門せよ、獅子宮〟」
「〝開門せよ、処女宮〟」
「〝開門せよ、天秤宮〟」
「〝開門せよ、天蝎宮〟」
「〝開門せよ、人馬宮〟」
「〝開門せよ、磨羯宮〟」
「〝開門せよ、宝瓶宮〟」
「〝開門せよ、双魚宮〟」
常盤が式符と霊符を掲げ、蒼玉のついた杖を持った黒髪の仙人風の衣装を纏った女の子、顔に傷がある闘争心の旺盛な軍神、炎に包まれ羽の生えた蛇、朱に輝く火の鳥、金髪碧眼の爽やかな青年、甘雨・慈雨を招くと云われる蛟、羽衣を纏った天仙の女帝、杖を持った聖職者の少女、尻尾が蛇の形をしている巨大な亀、中国の文官風の衣装を身に纏っている女性、細長い体をした白い虎、サングラスをした黒髪褐色のワイルドなイケメン、水瓶を持った小さな人魚の女の子、獅子の力を宿す拳を持つタキシードを身に纏った紳士、タキシードを着た羊の執事、斧を持った牛の戦士、女装した男の子と男装した女の子の双子、なんでも切れると言われる鋏を持ったアフロヘアの男、メイド服の少女、天秤を持った占い師の女性、神経毒の尾を持つ巨大な蠍、ケンタウルスの狩人、漆黒の翼を生やした山羊の悪魔、二対の長い魚を顕現し、十二天将と十二月将と共に一斉攻撃を仕掛けた。
そして、八房の超重力断層生成拳銃《バベル》=究極大戦装備と分子分解砲撃拳銃《メギド》=究極大戦装備を放ったところで時を止める喜劇の御技が解除され、芳山の身体が元素レベルまで分解される。
――草子が最初の時間歪曲を観測したのは、丁度この時だった。
◆
時間とは過去から未来へ続く線であると同時に、無数の写真の連続体である……と言うこともできる。
丁度、スマートフォンの写真アプリで撮った動画を静止し、その一部を切り取れば写真になるように無数の一瞬が一続きになり、経過した時間を線として捉えることができるようになるのだ。
芳山の超越技――死に戻り〜貴方の元に帰るまで、私は死ねない〜とは、存在しないことになっている未来を除く、過去から現在までの流れの中で一つの写真を選択し、そこからやり直しができるという能力である。セーブポイントを自分で定めることができるという点では、既に元祖である無知蒙昧にして天下不滅の無一文を自称する男の能力を凌駕しているように思える。
だが、芳山の超越技の恐ろしさはそこではない。
死に戻りが発生した場合、死に戻りが発生する前と後で世界が分岐すると解釈するのが一般的だ。既に主人公がループ前の記憶を持ち合わせているのだから。
親殺しのパラドックスが、パラレルワールドの存在で解決するように、主人公がループ前の記憶を持っているパラレルワールドに分岐するのであれば、矛盾は解決する。
しかし、ここでどうしても解決できない問題が発生する――超越者という概念だ。
超越者になった者は完全な点となり、過去にも未来にもパラレルワールドにも存在しない、ただ現在という時間を進んでいく存在となる。
勿論、物理的にはあり得ない。過去があるからこそ現在があり、現在は未来に通じ、その未来は無数の可能性によりパラレルワールドが生じるのだから。
その解決策として、残像という概念が生じる。まるで、その超越者がいるかのように世界が認識を修正するのだ。
例え、超越者本人がいなくても、過去が無ければ現在がないのだから、その超越者の行った行為は行われたこととして見做される。また、未来では超越者が将来行うであろうことが行われていると処理されるのだ。無茶苦茶な理屈だが、超越者という存在がそういうものだからという以外には説明することはできない。
それでも、通常であれば問題はない。超越者が過去に渡った場合は過去の自分が存在しないためパラドックスは生じず、過去の者と会うことで過去干渉が起き、そこから影響が出ることはあるものの、それは時間干渉スキルが存在するから生じる問題であって、超越者だからということは関係ない。
二人の同一の存在がいることで発生する時空崩壊も、時空干渉能力がある時点で物理法則の中にその可能性が考慮されていると考えたほうがいいだろう。このタイムパラドックスの問題も超越者には関係ない。
問題は超越者が別の超越者を認識している時点で過去に行ったという場合だ。
例えば、超越者Aは現代にいて、超越者Bは過去にいるとした時、超越者Bは超越者Aがいる地点まで時を進めるまで超越者Aがいない状況の中で行動を起こせるのである。
超越者の軌跡――残像のようなものが成立するのは、別の超越者によって干渉されないという前提の時のみだ。もし、干渉がなされた時、超越者Aのいる現代という時間の一点は……干渉されることはない。ここでパラレルワールドの理論が働くからだ。
だからこそ、ここで芳山の超越技の恐ろしい性質が、効果を発揮する。
超越者がいるのは数多あるパラレルワールドの中の一つである現在という時間の一点だ。芳山の超越技は、一切のパラレルワールドの分岐を許さず、必ずその一点に到達し、自分の改変した過去の改変を上書きすることができる。
そして、トドメは死に戻りによって時間が戻る前に起きた出来事が『運命』として残ること。
それにより、過去のやり直しによって上書きされ、その際に一周目で死亡していたとして、二周目で生存した場合でも、一周目で殺された時点で強制的に死亡判定となる。
この強制的な死亡は因果干渉とは判定されず、通常の死として判定されるのだから尚のこと厄介だ。
強制的な因果律の書き換えではなく、当然の運命なのだから、最早回避のしようがないのである。
◆
さて、これを踏まえた上で現状を理解しよう。芳山は死亡し、戦闘開始の地点に死に戻りした。
しかし、柴田達超越者は芳山が死亡した現在にいる。
すると、この戦闘開始の地点には果たして誰がいるのか……。
春彦、宍戸、葦屋浦、天宮、夢咲、新田、堰澤、吉祥寺――非超越者の面々だけである。
「どうなっている!? 柴田さん達はどこに行った!!」
状況を理解し、困惑する春彦達。さっきまでいた筈の柴田達がいつの間にか忽然と消えているのだから、驚くのも致し方ない。
過去の春彦達は超越者の接触により、本来なら気づかない筈の超越者の不在に気づいたのだ。その結果、春彦達は柴田達が突然消えたと錯覚し、驚いたのである。……まあ、この過去の春彦達は元々いないものをいると認識していただけなのであるが。
「二人以上の超越者が存在し、かつ一人が時間干渉能力を持つ場合に発生する誤差……それを利用した超越者と非超越者の分断。さて、時間はたっぷりとあるわ。貴女達はお仲間のいる時間まで生き残れるかしら? ふふ、まあ、生き残れたところでまた死に戻りすればいいだけのことなのだけどね」
芳山の超越技をどうにかしない限り、死に戻りにより芳山は何度でも復活する。これは一種のゾンビアタックだ。
そして、柴田達には芳山を倒す決定打はない。
(…………やっぱり、草子さんに任せるしかないのかな?)
夢咲は頭の中に浮かんだ考えを素早く振り払った。
何のためにヴァパリア黎明結社との戦いのために同行したのか、このまま草子に頼っていてはこれまでと何ら変わらないではないか。
(でもその前に……どうにか柴田さん達と合流しないといけないわね)
そして、伝えなければならない。芳山の力が死に戻りであることを。
夢咲達は――非超越者達は生き残るために、超越者達に繋げるために、強大な超越者に勝負を挑んだ。