ユェン〜生きたがり仙人な七賢者〜 その5
異世界生活百七十日目 場所ラグナ・ヴァルタ島、ヴァパリア黎明結社本部
【三人称視点】
「九本歯馬鍬、五火七禽扇、火鴉壷、火竜標、火尖槍の力を今こそ一つに! 出でよ、上宝貝! 金鵄焔翼――疾ッ」
ユェンの手の中で五つの宝貝が融合を果たし、上宝貝に至った。
上宝貝のメラメラと燃える金色の焔の翼はユェンの背中に張り付き、ユェンの羽搏きに合わせて金色の焔の羽を飛ばす。
「『――来て、エレメンタル=サラマンディア。力を貸して!!』」
『その程度の焔、アタシの焔に比べたら微温湯だ! そんな焔でアタシの腐女子の親友に攻撃しようとしたこと、後悔させてやるぜ!!』
金色の焔の羽をサラマンディアは顕現するなり霧散させた。
十京度という極めて高温な、異世界カオスの魔法でも到底生成できない圧倒的な温度の熱だが、それでも焔である以上はサラマンディアにも支配することはできる。
相手が草子であれば、焔のコントロールを奪い返すことも可能だろうが、ユェンにも金鵄焔翼にも焔のコントロール権を奪う力も、焔のコントロール権を固定する力もない。
『これで終わりだァ!!』
サラマンディアは霧散の対象を金鵄焔翼に切り替え、再び炎支配の力を発動する。
全てが金色の焔で形成されている翼はサラマンディアの力によって呆気なく四散した。
「まさか、上宝貝をも簡単に無力化してしまうとは……では、これならどうでしょう? 呉鉤剣、万刃車、化血神刀、斬仙剣、青雲剣、三尖刀、如意金箍棒、莫邪宝剣の力を今こそ一つに! 出でよ、上宝貝! 冀聖天劒――疾ッ!!」
金鵄焔翼と同じく【宝貝作成】の力により、八つの宝貝が融合を果たし、上宝貝に至った。
幾重にも刃が現れ、七支刀を彷彿とさせるような武器へと変貌する。
「まだまだこれからでございます! 霧露乾坤網、梱仙縄、乾坤圏、劈地珠、五光石の力を今こそ一つに! 出でよ、上宝貝! 必縛仙網圏――疾ッ!!」
ユェンは五つの宝貝を融合し、術者が命ずるままにあらゆる物質を一つの形に留めたまま必ず対象を捕らえることができる、大地と水の二つの属性が巧妙に編み込まれることで物理的にあり得ない強度と弾力性を共存させている巨大な網を顕現した。
確かに、冀聖天劒では水そのものと融合したリーファを倒すことはできない。だが、必縛仙網圏で捕らえたものにはどのようなもので構成されていてもダメージを与えられるという特性を利用すればユェンは実体があるようでないリーファにもダメージを与えることが可能だ。
「『――きゃぁ!!』」
戦場に必縛仙網圏が広がり、瞬く間にリーファは分身達と共に捕らえられてしまった。
身体は水によって構成されているが、必縛仙網圏で捕らえられている以上、ユェンのただの斬撃もリーファにダメージを与えてしまう。
「『――来て、エレメンタル=ノーミード。力を貸して!!』」
『……!? リーファ様を傷つける者は、例えエルフだろうと許しません! リーファ様、今助けます!』
「『ノーミード、貴女の土を操る力と、私とウンディーネの水を操る力が合わされば、必縛仙網圏を破壊することができるわ!!』」
『畏まりました! ――リーファ様を捕らえる無礼な網よ、壊れなさい!!』
リーファとウンディーネ、ノーミード――一人と二柱の力が合わさり、必縛仙網圏はバラバラに引きちぎれた。
『今だ! 行くぜ、シルフィード!!』
『うん、行くよ! サラマンディアちゃん!!』
『燃えやがれ!! 赤熱地獄爆炎陣!!!』
『援護するよ! 弄ぶ竜巻!』
『『紅煉獄竜巻爆熱陣』』
シルフィードとサラマンディアの力が合わさり、完成した灼熱の竜巻はユェンの足元から発生して焼き尽くす。
『これで終わりですわね!!』
「『いいえ……まだよ。あの生きたがり仙人がこんな簡単に死ぬ訳がないわ』」
そうリーファがルーチェルに告げた直後、空間がひび割れ、無数の蛇が飛び出した。
「山河社稷図でございます!」
本来は通常の0.1秒が一時間に感じられ且つ五感も奪われた状態の空間に敵を閉じ込める宝貝だが、ユェンはその力を逆手に取り、シルフィードとサラマンディアの連携攻撃をやり過ごしたのだ。
しかし、完璧にはやり過ごせなかったようでユェンの身体は多少煤け、途中で取り落としたのか、冀聖天劒は焔の消えた場所で完全に灰と化してしまっている。
「さて、貴女の実力を見定めるのもこれで最後のようですね。山河社稷図と歪空珠の力を今こそ一つに! 出でよ、上宝貝! 歪曲社稷図――疾ッ! 觔斗雲、風火輪、哮天犬、黒琵琶、落魂鐘の力を今こそ一つに! 出でよ、上宝貝! 飛駆哮天狼――疾ッ! 番天印、万里起雲烟、太陽針、開天珠、鑽針釘、降妖宝杖の力を今こそ一つに! 出でよ、上宝貝! 万理自在穿弓――疾ッ!!」
衝撃波のようなものが空間を駆け抜けると同時に歪み、その歪みの中にリーファとシルフィード、サラマンディア、ノーミード、ルーチェルと共に囚われてしまった。
飛駆哮天狼が吠え、魂魄に直接ダメージを与えると同時に敵の神経を撹乱して同士討ちをさせる不協和音が響く。
「『し……シルフィード!!』」
『任せて! 颶風の纏者、襲い来る鎌鼬』
颶風の纏者の効果で風と同化して加速したシルフィードが猛烈な速度で生成した襲い来る鎌鼬を飛駆哮天狼に向けて放ち、首を落とす。
万理自在穿弓を構え、金色の必中の矢を顕現するユェン。
矢を放つと同時に金色の矢が無数に分裂し、リーファの本体と水の分身達に殺到した。
『させねえぜ!! 緋煉焔柱壁!!!』
サラマンディアが抱拳すると同時に無数の火柱が地面から吹き出し、全ての矢を包み込み熔かす。
確かに全てを貫く金色の必中の矢で貫けぬものはない。だが、矢の強度や耐熱性は普通の金製の矢とほとんど変わらなかった。
サラマンディアの火柱の中でも金色の必中の矢は炎を貫いて進んでいた。ただ、炎の熱に耐えられずに炎を貫通する前に熔け切ってしまったというだけである。
「あちぃッ!! 随分と酷いことをしてくれますね!!」
サラマンディアの火柱の一つがユェンの腕諸共万理自在穿弓を焼き尽くし、跡形もなく消し飛ばす。
【真活性通】を発動し、腕をヴリル=プラナで再生するユェン。
しかし、残る武器は上宝貝を含めて歪曲社稷図ただ一つ――何故かユェンは余裕綽々だが、傍目から見れば追い詰められているのはユェンの方だった。
「では、そろそろ私の本気の片鱗を見せてあげましょう! 歪曲社稷図よ、真の力を発揮しなさい!!」
歪曲社稷図が怪しく紫色に輝くと同時に、再び衝撃波のようなものが空間を駆け抜けた。
(…………どういう、ことなの!?)
まるで映像が停止した時のように水滴の一つ一つに至るまで全てが止まり、完全に固まってしまっている。
それは、水滴だけではなくリーファや〈精霊女帝〉達も例外ではない。
「いかがでしょうか? この歪曲社稷図の中では時間の概念も歪曲しているのです。貴女方だけの時間を停止させ、私だけが自由に動くということも可能なのですよ」
草子が持っている【時空無効】があれば効果を受けずにユェンを攻撃できただろうが、リーファのスキルの中には【時空無効】がない。
「褒めてさしあげましょう! 本物の仙人に至った私相手にここまで戦える者がいるとは思ってもみませんでした! いいでしょう! 私の持つ最強の力で貴女を葬って差し上げます!!」
ユェンの手にいつのまにか二重螺旋構造の槍が握られていた。
「これこそが、超宝貝を超える世界で唯一の最強の、私だけの宝貝――真宝貝・創滅鑓!! 見せてさしあげましょう! 世界創造と破壊の宝貝の力を!!」
ユェンが創滅鑓を構え、リーファに突きを放とうとした瞬間、完全密閉空間である筈の歪曲社稷図の一部にヒビが入った。
◆
既に開いていた分厚い金属の扉の先では雪乃、進藤、久嶋、大門、ジューリア、アストリア、リーリス、瀧野瀬、氷鏡、南雲が変態黒竜から変態を抜き取ったような黒の着物を纏った黒髪金眼の超乳の美女と、禿頭の筋骨隆々な大男を相手に死闘を繰り広げていた。
戦場にリーファ、織田、後田、楠木、犬吠埼、木村の姿がない……そして、戦っている筈のユェンの姿もない。
「草子さん、リーファさんが!!」
「アストリアさん、皆まで言わなくても分かっている! 織田、後田、楠木、犬吠埼、木村の状態も確認した。リーファさんのことは俺がなんとかするけど、その前にそいつらをどうにかするよ」
同行している聖、白崎、朝倉、北岡、アイリス、クリプに任せてもいいが、俺がやった方が手っ取り早いからね。
「草子君、ささっとやっちゃって!」
「仰せのままに、マイ・プリンセス! 【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】」
某六畳間を舞台にしたラブコメの台詞を引用して、モブキャラに相応しくない台詞を言ってから次元断層斬で両断した。
不意打ちを受けたからなのか、聖が頬を赤く染め、白崎達が羨ましそうにしている……いや、モブキャラの気取った台詞がそんなに羨ましいかい?
「んじゃ、リーファの方に助っ人に行ってくるよ」
「草子君、超宝貝は回収しなくていいの?」
「白崎さん、そっちは白崎さん達に任せるので回収してから自分で使うなりしてください」
「……草子君にしかまともに使えないと思うからぁ、回収したら草子君に渡すわぁ」
「北岡、珍しく意見が一致したリプね」
犬猿の仲? なクリプと北岡の意見が一致したのか……ってか、そういえばアストリア達が(ジューリアを除いて)クリプ(魔法少女バージョン)に「こいつ誰?」って視線を向けているけど、その辺りは俺が説明しないといけないのかな? まあ、クリプが自分で説明するか、アイリスがしてくれるとは思うけど……ちなみに、ジューリアは無関心でいつも通り小動物のようにどら焼きを食べ始め、アストリアに「まだ戦いが終わってないのに、もういつも通りどら焼きを食べているよ、この子」とジト目を向けられている。
しかし、魔族に対して敵意を持って討伐に乗り出していたミント正教会の秘蔵っ子と、ミント正教会を敵視していた魔族の娘にして現魔王……随分仲良くなったな。一昔前なら絶対に想像がつかなかったと思う。
「【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】-次元断層斬-」
捕捉したリーファとユェンのいる異空間に狙いを定め、次元断層斬を放つ。
ヒビの入った空間の先には二重螺旋構造の槍でリーファに貫こうとするユェンが……ってか、天沼矛!?
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・創滅鑓
→想像したありとあらゆるものを再現することができる二重螺旋構造の槍だよ! 貫いたものを魂諸共完全に消滅させる力があるよ! 世界に一つしかない真宝貝だよ!
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違った……真宝貝。……ん? おい、真宝貝ってなんだ!?
「【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】!!」
リーファ達に掛けられていた時間停止を解除すると同時に創滅鑓を分解して虚数空間に放り込む。
「『…………草子、さん』」
「よう、危ないところだったな。とにかく、間に合ってよかった。……後は任せてくれ」
「『……分かりました。草子さん、後はお願いします』」
リーファ達に空間のヒビから脱出してもらい、歪曲社稷図の中には俺とユェンだけが残った。
歪曲社稷図は既に【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】でズタズタに破壊したので、歪曲社稷図で時間や空間の操作をすることはできない。まあ、したところで歪曲社稷図如きでは【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】を止められないだろうけど。
「ようやく来ましたね! 貴方を殺す日をずっと待ち望んでいました!! あの日、貴方に負けた時から私は屈辱で夜もロクに眠れませんでした。私を殺せる力を持つ貴方がずっと恐ろしかった……ですが、それも今日で最後でございます!!」
「……愚かだな。俺はお前のことを放置しても良かった。別に邪魔をしなければ俺は地球に帰ってお前の命を脅かすことも無かったんだけどな。ヴァパリア黎明結社と手を切らず、俺の前に現れたってことは、七賢者として俺の前にいるってことは、死にたいってことだよな? いいぜ、望み通り引導を渡してやるぜ。生きたがり七賢者のお前は、沢山のエルフの命を奪ってきた……その報いを受ける覚悟はあるよな?」
「バグっただけの貴方如きに負けるほど私はもう弱くない! 見るがいい、これが真仙に至った私の本気でございます!!」
陰陽の究極エネルギーを圧縮した漆黒の球体……求●玉が複数現れ、槍の穂先のような形となって放たれる。
「喰らい尽くせ、【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】」
だが、陰陽の究極エネルギーを圧縮した己の意のままに形を変え、性質を変えることができ、触れることにより対象となった存在を吹き飛ばすことも可能だという仙求道球も【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】の捕食能力の前では無意味。触手を出しても消し飛ばされそうだったので、あえてそのまま捕食した。
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【仙術・如意求道闇球】LEVEL:MAX(限界突破)
→陰陽の究極エネルギーを圧縮した仙道を求道する者の力だよ! 己の意のままに形を変え、性質を変えることができるよ! 触れることにより対象となった存在を吹き飛ばすこともできるよ!
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「現れよ、如意求道闇球!」
「ま、まさか……私の超越技を奪ったですと!?」
スキル化しても威力が落ちないのは、シャリスの時と同じだな……ってか、超越技すらスキル化可能って始まりの一族はどんだけ貪欲なんだよ。
「それだけじゃねえよ。【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】-次元断層斬-」
「なっ!? 私の腕が!?」
ユェンの右手を次元断層斬で切り落として捕食する。そのままユェンを一思いに殺さないのは絶望を与えるためだ。コイツは数多のエルフ達に希望を与え……そこから一気に絶望を与えてきた。
まあ、その対象は全てユェンの力を我が物のように振るい、エルフの支配を目指したエルフ達だったが、そんな奴らでも命を弄ぶのはやはり許されないこと…………ああ、もういいや。そんな建前はどうでもいい。
――リーファを絶望させた、ロビンに力を貸したお前を、俺は絶対に楽に殺したりしねえってことだ。
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【纏極通力】LEVEL:MAX(限界突破)
→ヴリル=プラナを身に纏うよ!
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【真金剛通】LEVEL:MAX(限界突破)
→真の神通力の一つだよ! ヴリル=プラナを身体に纏わせることで防御力を上げるよ! ヴリル=プラナを体の一点に集中して極限の防御力を得たり、時間を凝縮することにより一瞬の刹那の間だけ無敵になることができるよ!
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【真剛力通】LEVEL:MAX(限界突破)
→真の神通力の一つだよ! ヴリル=プラナを手や足に纏わせることで通常では考えられない膂力を得るよ!
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【真神足通】LEVEL:MAX(限界突破)
→真の神通力の一つだよ! ヴリル=プラナを両足に纏わせることで通常では考えられない速力や跳躍力を得るよ! その速度で残像を残すこともできるよ! 十万億土を一秒で移動するほどの速度を出せるよ!
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【真天眼通】LEVEL:MAX(限界突破)
→真の神通力の一つだよ! ヴリル=プラナを両目に纏わせることで十秒先を未来視するよ!
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【真天耳通】LEVEL:MAX(限界突破)
→真の神通力の一つだよ! ヴリル=プラナを両耳に纏わせることで聴覚を強化して他人の心の声を聞くよ!
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【真活性通】LEVEL:MAX(限界突破)
→真の神通力の一つだよ! ヴリル=プラナで肉体を瞬間再生するよ!
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そして、【真金剛通】、【真剛力通】、【真神足通】、【真天眼通】、【真天耳通】、【真活性通】を統合して――。
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【真六神通】LEVEL:MAX(限界突破)
→六神通が使えるようになるよ! ヴリル=プラナを使うよ! 【真金剛通】、【真剛力通】、【真神足通】、【真天眼通】、【真天耳通】、【真活性通】の上位互換だよ!
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【真六神通】に上位互換化させ、【練気】、【浸透気呪術】、【六神通】、【纏呪】、【裏六神通】、【纏極通力】、【仙術・如意求道闇球】と統合を行う。
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【真仙之神】LEVEL:MAX(限界突破)
→真仙を極めた者だけがたどり着くことができる究極能力だよ! 任意で解脱したり解脱する前の人間の状態に戻ることができるよ! 六神通、裏六神通、真六神通を全て完璧に使いこなせるよ! プラーナ、呪力、ヴリル=プラナを同時に扱えるよ! 調息する必要なく自在にMPをPRやVPRに変換できるよ! 纏っているプラーナ、呪力、ヴリル=プラナを直接流し込むことができるよ! 陰陽の究極エネルギーを圧縮した仙道を求道する者の力を使えるよ! 【練気】、【浸透気呪術】、【六神通】、【纏呪】、【裏六神通】、【纏極通力】、【真六神通】、【仙術・如意求道闇球】の上位互換だよ!
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「見せてやるよ、ユェン=シー・ティェン・ズン! これが、本物の真仙の力だ!!」
能因草子の身体から脱皮するように抜け出し、仙人形態となった俺は不敵な笑みを浮かべながら構えを取った。