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クレアシオン〜開闢の魔法少女な七賢者〜 その3

 異世界生活百七十日目 場所ラグナ・ヴァルタ島、ヴァパリア黎明結社本部


【三人称視点】


「昔、この世界に勇者として召喚された方々の中に、人形に自分を大切にしてくれたと思われている人がいました……といっても、本人はただ人形の存在を忘れていたようですが。その人形は、その人の危機に初めて真の姿を現し、メリーさんと名乗りました」


「…………なんの、話をしているの」


 クレアシオンは、突然アイリスが話し出したあまりにも状況とかけ離れた言葉に正気を疑った。大切な仲間を失い、ついに精神がどうにかなったのか、と敵ながら無意識に心配してしまった。


「見た目は幼女で、中身も幼くて……そんな人形の少女に好意を向けられても、少年に受け入れられる筈もなく……結局、少年は正妻を自称するその人形と、途中で拾った娘のようなくノ一少女と、クラスメイトで高嶺の花の、同じく恋愛対象外な少女と三人で旅を続けたそうです。……魔法の国製の魔法少女によって、召喚された国が滅茶苦茶にされ、女教師(先生)だったその人に殺されるまで。……結局三人は殺され、くノ一さんはその魔法少女に復讐を誓いました。ですが、少年達もただ負けた訳ではありません……少年は、尾藤為家さんはメリーさんのことが大切だと思っていたんです。例え恋愛対象ではなくても、人形でも、大切な人に変わりはなかった。だから、為家さんはメリーさんを生き返らせることができた。――メリーさんを人形の付喪神ではない、超越技生命体として蘇生することに成功したのです……草子さんは、この時のためにこの話をしてくれたんだね」


「まさか、クリプをその超越技生命体として生き返らせるというの!?」




「だから、頭が固えんだよ。そんなんだからお前は大切な人達の元に帰れねえんだ」




 黒髪の短髪に目つきの三白眼。でも、その見た目に反して、暖かい優しさを心の裡に秘めているアイリス達にとって命よりも大切な愛する人。


「草子……さん…………」


「おい、折角超因果魔法少女になって可愛くなったんだ。涙で顔をぐちゃぐちゃにするなよ。凛としてろ、笑うなら陽だまりのように笑え。そっちの方が涙よりもお前に似合っていると思うぞ」


「草子君!!」


「白崎さん、みんな……待たせたな。平城坂のことなら神界と屋敷で転生可能状態に入ったことが確認してある。……ここに来る途中にナイアーラトテップは倒してきた。あっちは凛達不良共が命を落としたが、まあ後続参加組としては良くやったと思うよ。あいつらのためにもとっととヴァパリア黎明結社に勝たねえとな。……ということで、アイリス。お前のエゴは分かっているんだろ? なら、とっととクリプを助けてやれ! 大丈夫、今のお前の考え通りならクリプを地球に連れて行ける」


「……うん、ありがとう。…………超越技・魔法少女強制契約! クリプ、私はあなたを魔法少女にする」


 超越技・魔法少女強制契約――フリズスキャールヴ産の魔法少女の契約を相手の許可なく強制的に結ぶ究極の契約能力だ。

 魂が完全に剥離していない死体も対象にでき、例え魂がない存在でも魂があるものとして契約を結び、契約が成立した時点で魂を伴った魔法少女にすることができる。


 本来は魂を歪め、魔法少女という理論上は半永久的にエネルギーを生み出せる欠陥永久機関を作り出す契約を強制執行するという能力だが、アイリスはそれを逆手に取り、魂なきクリプに魔法少女化することで魂を与えた。


「そんな……そんなの滅茶苦茶よ」


 純白の耳と九本の尻尾を持つ真紅の着物をアレンジしたようなフリル多めのドレス風衣装を身に纏った魔法少女として転生したクリプに、クレアシオンが狼狽する。


-----------------------------------------------

NAME:魔法少女クリプ

LEVEL:1

HP:300/300

MP:2900/2900

STR:100

DEX:100

INT:65000

CON:100

APP:69

POW:100

LUCK:30


JOB:魔法少女


SKILL

【稲荷聖女】LEVEL:1

→狐の妖術を使って敵と戦うよ!


ITEM

-----------------------------------------------


「アイリス、クリプにこいつを飲ませておけ」


 そう言うと、草子はどこからともなくカプセル薬を取り出した。


-----------------------------------------------

perfect(ペルフェクト) capsule(カプセル)ALL(オール).S-MAX(エスエムエーエックス)

→全ステータスとレベルのカンスト、HPとMPの全回復が可能な最重要機密クラスの試験薬だよ! 聖薬(ネクタール)至上凝縮薬アルティメット・アップを有り得ないレベルで濃縮した液体を時間を停止させる効果が付与されたカプセルで包んでいるよ! ペルフェクトなのはどこかの壊れ女科学者をイメージした茶目っ気? だよ!

-----------------------------------------------


「…………ありがとう。私達とクリプを助けに来てくれてありがとう」


「いや、巻き込んだ俺の責任だし、批難されることはあってもお礼なんて言われる立場じゃないと思うけど」


「そんなことないよ! 私達は自分で選んで草子君について行くって決めたんだから! ……それに、私達が何もせずに負んぶに抱っこでこの世界から帰ったら、きっと後悔するから。ただでさえ、草子君には沢山借りがあるんだから……結局この世界では返せなかったけど、元の世界に帰ったら必ず返す。約束だよ! 期待していてね!」


「華代も言うようになったな……草子、私も沢山のものをもらったからな。それが異世界を離れたくらいで消え去ると思うな。……ところで、も、もし良かったら、地球に帰ったらで、デートとか」


「あらぁ、朝倉さんが積極的ねぇ。勿論、草子君は私と地球で沢山イチャイチャしてくれるのよねぇ? だって、沢山貰った分は体で返すべきだと思うしぃ」


「か、身体で……だと……まさか、草子が……いや、それはないだろう? カタリナの身体にも興味を持たなかった草子が白崎ならともかく私の貧相な身体に興味を持つ訳がない」


「そうねぇ……だって貧乳だものねぇ」


「…………北岡、私が人からそれを言われるのをどれほど嫌か分かっていて言っているよな。……それに、副委員長にあるまじき風紀の乱れ。地球に帰ったらきっちり治してもらうぞ!」


「えー、これからも私は草子君をエッチな姿で誘惑するつもりなんだけどなぁ……でも、朝倉さんは面倒だし、見えないところで誘惑しよぉっと」


「……それを本人の前で言うとはいい度胸だ」


 大勢の魔法少女とクレアシオンが生存する中、普段の調子を白崎達が取り戻せたのは草子が来たからだろう。


「能因草子――そこの魔法少女とマスコットは貴方を倒してからにするわ! 貴方を倒して、ここにいる全員をもう一度絶望の淵に落としてやる」


「へぇ………………やれるものならやってみやがれ、女神サマ!!」


 超因果魔法少女カタリナ=ラファエルに変身した草子が、かつてないほど獰猛な光を帯びた鋭い視線を、冷たい怒りをクレアシオンに向けた。



 戦術を構成し、クレアシオンの倒す一つの道筋をつける。

 クレアシオンを殺すか否か、その決定はクレアシオンの自身の選択に委ねる。ここまで来て、目の前で見せられて、それでも分からないようならこいつは終わりだ。ナイアーラトテップと同じように殺して糧にする……それをしてしまってもいいと思うほど、俺は怒りを覚えている。


 クリプは大切な仲間だ。そのクリプを一度だって手にかけたこの女をそのまま見過ごすことは俺にはできない。

 それに、この女がいなければ、ユーゼフやシャルミットは……他の世界の魔法少女達はそれぞれの平穏を生きられた。

 少しでも気を抜けば怒りに意識を持っていかれそうで怖い……あくまで冷静に、クレアシオンの選択を見届けなければならないのに……。


「【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】」


 次元断層斬を発動してクレアシオンを除く魔法少女を一人ずつ切り刻み、【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】で捕食していく。

 その度に耳にしただけで気が狂いそうな咆哮とともに闇がしたたり落ちてきたような触手が影から出現する。


『……草子、これはいくらなんでも』


「問題ねえだろ? クリプがあいつにやられた痛みに比べれば……さて、どうする? お仲間の魔法少女はみんな俺の虚数空間()の中だ。まあ、お前はすぐに円環から復活させられるんだろうが……で、それをいつまで続けるつもりだ? いつまでも魂の伴わない、偽物の虚像達に縋るつもりだ」


「できるものなら、できるものならとっくに元の世界に帰っているわよ!!」


 クレアシオンが蓮の蕾をイメージさせる魔法の弓にエネルギーを圧縮した矢を番えてきたか。


「【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】」


 耳にしただけで気が狂いそうな咆哮とともに闇がしたたり落ちてきたような触手が影から出現し、エネルギーを圧縮した矢を飲み込む。


-----------------------------------------------

【開闢の理】LEVEL:MAX(限界突破)

→『魔法少女を生み出す元凶を滅ぼし、全ての時間軸の魔法少女を救いたい』という願いによって因果律を書き換えて〈全知回路(アカシック・レコード)〉を取り込んだ超因果魔法少女の究極能力だよ! 〈全知回路(アカシック・レコード)〉に記録された全ての魔法少女の能力の再現、〈全知回路(アカシック・レコード)〉に記録された全ての悪堕ち魔法少女の呪法の再現、記憶からの物質の再現、エネルギーを圧縮して作り出した矢を放つ【桃矢聖女】、時間を操作する【時間聖女】、他人の心の声を聞く【聞心聖女】があるよ! 異世界カオスに召喚された際に運良く残った自身の固有魔法【桃矢聖女】、親友の固有魔法【時間聖女】、もう一人の親友の【聞心聖女】から復元された〈全知回路(アカシック・レコード)〉そのものだから本物の〈全知回路(アカシック・レコード)〉に記録されている魔法少女の魂は含まれていないよ!

-----------------------------------------------


 情報再編成……【開闢の理】の復元完了。……期せずして主要三魔法を獲得したことで復元できたけど、まあ使いどころは無さそうだし後で【流轉ト惡魔之理之魔法少女神】と統合すればいいだろう。


「お前はナイアーラトテップに似ていると思う。でもさ、根本的には違うんだよ。あいつには帰る場所がない……でも、クレアシオン。お前にはあるだろ? なら何故それをしない。虚像でしかない魔法少女を呼ぶなんて超越技を何故望んだ? 結局お前はどこかで元の世界に帰れないって諦めているんだろう? 自分の力では帰れないからYGGDRASILLっていう得体の知れないものに縋った。……アイリスは物理的には絶対に不可能なクリプの転生を、クリプを救いたいという願いで歪めて復活させた。超越技は不可能を可能にする力、夢を叶える力なんだよ!」


「そんなの……無理だよ。無理だったから他の方法を探し続けたのに……今更そんな簡単に帰れるなんてなったら、私は何のためにこれまで頑張ってきたの……何のために犠牲を出したの。――分かっているわよ! ブルーメモリアの行いがフリズスキャールヴよりも卑劣だってことは……そのクリプってマスコットがフリズスキャールヴの端末の中では異端な、魔法少女に共感して共に歩める存在たってことだって……全部全部分かっている。でも、それを認めたら私がやってきたことが全部無駄だったって認めることになる……」


「何も無駄なことなんてねえけどな……いや、無いわよ! 一つの結論に至るためにはそこまでの道筋がある。それは決して真っ直ぐな道では無いけど、でもそれが大切なの。私はこの異世界転移を結果として良いものだって捉えている。……勿論、二度と転移はごめんだわ。でも、この世界で出会った人達を、その人達と過ごした日々を無かったことにはしたくない。クレアシオン、貴女がどのような結論に至ったとしても、そこに至るまでには異世界カオスでの生活があることを決して忘れないで」


 うん、すっかりキャラを忘れていたんだよ。……傍目から見てさっきまでの俺ってどんな感じだったんだろう? ……言葉遣いの粗すぎる見た目だけは絶世の美貌を持つ魔法少女? ちぐはぐすぎるな。


「“定まらぬ混沌(アザトホート)”――弓となりなさい! いきます、天輪打ち碎く希望の光(ジェネシス・レイ)


 弓に変形した“定まらぬ混沌(アザトホート)”を構え【霊煌ト不見力之妖魂神】の魂消滅エネルギーを収束させた矢を顕現する。


「黒希空さん、空乃さん……助けて……」


 超因果魔法少女すら殺す魂を滅する光の矢を前にしたクレアシオンが淡い桃色の輝きを放ち、二人の魔法少女がクレアシオンの前に降り立った。


「…………ちゃんとできるじゃないか」


 “定まらぬ混沌(アザトホート)”に収束していたエネルギーを霧散させ、俺は再会を果たした少女達に背を向け、アイリス達の方へと向かって翼をはためかせた。



『紫苑さん、ずっと一人で頑張って……ごめんなさい。私達がいれば、紫苑さんにそんなことさせなかったのに……』


『ごめんなさい……私にはもうみんなのところに戻る資格はないわ』


『資格がある、資格がないなんて関係ないわ。紫苑……私達のことをこの世界に呼んでくれてありがとう。これからは、私達もいるから……ずっといるから』


 うん、紫苑、黒希空、空乃……離れ離れになっていた三人の再会に水を差すのは悪いし、白崎達の激励もしたい。

 これからのことは一旦後回しにするか……。


「ねえ、クリプ。クリプの美しい髪の毛、もらってもいい!?」


「はぁ……アイリスは超因果魔法少女になっても相変わらずアイリス、リプね…………いいリプよ。僕の髪の毛なら好きなだけ持っていくリプよ」


「えっ…………本当にいいの?」


「アイリス……そういう反応をするとは思ってなかったリプよ。冗談だったのかい?」


「ううん……違うよ。でも、クリプが許してくれるなんて思わなかったから」


「それくらいいいリプよ。アイリスは僕と一緒に生きてくれるって、絶対に離さないって覚悟を見せてくれたんだ。だから親友として髪の毛の一本や二本、遠慮なく持っていくといいよ」


 ……うん、アイリスとクリプは二人の世界を作っているし……こっちはこっちで居場所がないんだが……。


「カタリナさん、ボクと結婚してください!」


「カタリナさん、能因草子なんて最低な男に戻らないで一生カタリナさんとして一ノ瀬さんの伴侶になってください!」


「……ふゎっきん・ゆー!」


 耳にしただけで気が狂いそうな咆哮とともに闇がしたたり落ちてきたような触手が影から二本出現し、一ノ瀬とジュリアナに巻きついた。


「きゃー、どこ触っているのよ!」「サワッテイマセンシ、サワリタクモアリマセン。トイウカ、ジュリアナサンノカラダニマッタクキョウミアリマセン」


 風評被害甚だしい叫び声をあげるジュリアナにジト目を向けながら、触手を勢いよく逸らして反発を利用して二人を投げる。


「「ギャャャャャャャャャャャャャャ」」


 生娘っぽくない奇声が聞こえるな、と思いながら〝移動門(ゲート)〟を開く。ちなみに行き先は屋敷の森です。


「「「うちの一ノ瀬さんとジュリアナさんがご迷惑をおかけしました!!」」」


 残されたゼラニウム、メーア、コンスタンスの三人は即座に頭を下げ、猛スピードで〝移動門(ゲート)〟を開いて一ノ瀬でジュリアナの救出に向かった……本当にお疲れ様だな。


「それじゃあ、みんなも先に屋敷に帰っていいよ? 後のことは俺がなんとかしておくし」


「それじゃあ、私達は先に屋敷に戻っておくよ」


「さあ、秋桜……帰ってたっぷりイチャつこうか」


 うん、殴っていい? 姫川と氷岡(イチャラブカップル)


「はい、聖ちゃん帰還! やっぱり屋敷で待っているのはつまらないわ」


「ロゼッタ=フューリタンこと、薗部美華。ただいま戻りましたわ!」


 山田と織姫も屋敷に戻り、何故か代わりに聖とロゼッタが戻ってきて、結果的に聖、白崎、朝倉、北岡、ロゼッタ、アイリス、魔法少女クリプというメンバーになった……っていつものメンバーだな。ノルマ? は達成したんだし、屋敷で休んでいればいいのに、物好きな奴らめ。


 さて……紫苑達の件をとっとと解決しないとな。

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