表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

433/550

アリス-ザ・ワンダーランド・ガール〜絶対女王な七賢者〜 その3

 異世界生活百六十三日目 場所ワンダーランド


「〈爆裂する骨牌トランプ・エクスプロージョン〉」


 帽子屋ハッタのシルクハットから無数のトランプが飛び出し、俺に殺到すると同時に大爆発を巻き起こす。


「【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】!!」


 ワンダーランドの中では耐性は全て無効化される。そのまま命中すればかなりのダメージを負うだろう……命中すればだが。


 もし、〈飛び出す骨牌(トランプ・ストーム)〉を使えば万に一つくらいの勝ち目が……あっ、やっぱり無いか。


「〈最終の大喜劇グランド・イリュージョン〉」


「……あっ、逃げても無駄だよ? 〈奇術を見破る奇術師(ブレイク・マジック)〉」


 あらゆる奇術の発動をキャンセルする究極の奇術が発動し、妨害を受けた帽子屋ハッタが〈爆裂する骨牌トランプ・エクスプロージョン〉で発生した爆発に巻き込まれる。


「くっ……【マジカルシルクハット】」


 なんとか爆発の中から生き残った帽子屋ハッタが大量のシルクハットを召喚して、その中から文字通り増殖して現れた。

 HPの残量までしっかりコピーされていたけど、トランプリン❤︎Aとトランプリン❤︎Kの治癒術でさらりと全回復された……あっ、これ振り出しどころじゃなくて、寧ろ開始時点より悪化しているんだが……。


 ジャバウォックが【翼束熱力砲】を放ってきたので【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】で送り返しつつ、弱ったところにエルダーワンドを伸ばして【色慾ト淫魔之魔神】でエネルギーを吸収。HPがゼロになったところで【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】で魂諸共捕食した。


 ハンプティ・ダンプティの熱量の移動の不可逆性を無視する力……ハンプティ・ダンプティの比喩を嘲笑うような力が熱を雷に変化させる……いや、【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】がある時点で熱も雷も効かないんだけど。

 雷をそのままハンプティ・ダンプティに返し、【空間之神】で背後に飛び、【冥府之神】の効果で死の呪いを持つ黒い靄を纏わせたエルダーワンドでハンプティ・ダンプティを両断する。


「【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】……これで二人目か」


 迫り来る増殖した時計ウサギと三月ウサギを次元断層によりあらゆるものを切り裂く次元断層斬で両断し……ってか、時計ウサギって時間操作を無効化できるんだよね? いや、なんで両断されているの!?


 【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】で時計ウサギと三月ウサギを一匹残らず捕食し、圧倒的な速度で迫り、ダイアモンドに匹敵する硬度の爪を振りかざすドードー鳥を――。


「【魔法剣・闇纏(ヤミマトイ)】」


Envelopper(オンブルベ) avec(アベック) les() ténèbres(テネーブル)/concasser(コンカッセ)


 闇を纏わせたエルダーワンドでサイコロ状に切り裂いて【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】で捕食。


Envelopper(オンブルベ) avec(アベック) les() ténèbres(テネーブル)/Croissant(クロワサン) de(ドゥ) lune(リュンヌ) envoyé(アンヴォワイェ)


 そんでもって、何故か棒立ちの(助っ人? で呼ばれたのになんで変身もせず突っ立っているのかね?)バルダンデルスを飛斬撃で倒し。


「死したる者を喰らい尽くせ、侵食する餓えた暴食――【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】!!」


 影のように薄く張り巡らせた闇が泡立ち、不浄な言葉を圧縮したような、耳にしただけで気が狂いそうな咆哮のような音と共に狂ったように溢れた闇がバルダンデルスを一瞬にして飲み込む……怖ッ!!

 なんか、完全にアザトースなんだけど……いや、スキル自体がほとんどアザトースになってた訳だし別に不思議じゃないっちゃあ、不思議じゃないけど……。


 なんか、さっきのでアリス以外全ての存在が狂っちゃったみたいだし(いくらなんでも豆腐メンタルすぎないか?)今のうちに全部ボコしておくか。


「【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】――次元断層斬」


 残ったワンダーランドの住民達を次元断層斬で両断し、再び不浄なる発狂の旋律が戦場を駆け巡る。

 ……よし、アリスが自分の玉座の近くに待機させている二体のトランプリンJOKER以外は全て討伐が完了したな。

 そして、トランプリンの♦︎を捕食したことでワンダーランド内の改変が俺にも可能になった。


 【ワンダーランド】の効果で作り出された全ての存在を捕食したことで【ワンダーランド】そのものの解析が完了したし、これで【ワンダーランド】がアリスの独壇場になることはない。

 【ワンダーランド】には指定された存在を任意で蘇生するなど、明らかに【迷宮創造(チイサ●セカイ)】を彷彿とさせるチートここに極まれりみたいな効果が永続で発動するというオート効果があるようだが、そこにアリスが任意で蘇生させることができるらしく、二重の意味で厄介な無限アリス世界と化している……が、俺が【ワンダーランド】で【ワンダーランド】を書き換えたことでこのオートの蘇生を無効化し、更にアリスがマニュアルで発動する【ワンダーランド】も相殺することに成功した。


 【ワンダーランド】にいるこちらが望んだ存在を消滅させる……ということはできないが、向こうも【ワンダーランド】にいる存在を復活させることはできない。

 つまり、現状維持が永続として続く……残りはトランプリンのJOKER二枚だから向こうも玉座から立ち上がらざるを得なくなるのも案外早いかもしれないな。


 トランプリンJOKER二枚が鎌を構えて攻めてきた……あっ、復活できないから二枚とも消費しちゃおうって話か。


Envelopper(オンブルベ) avec(アベック) les() ténèbres(テネーブル)/Croissant(クロワサン) de(ドゥ) lune(リュンヌ) envoyé(アンヴォワイェ)


 飛斬撃を鎌を使って砕いた黒と赤の対照的な少女――流石はJOKERだ。


「それじゃあ、これならどうかな? Envelopper(オンブルベ) avec(アベック) les() ténèbres(テネーブル)/concasser(コンカッセ)


 放ったのはさっきと同じ【魔法剣】。ただ、この斬撃が今までのものと大きく異なるのは【究極挙動】を発動していることにある。

 流石のJOKERも【究極挙動】は見切られなかったようだ。微塵切りにされたJOKERから鮮血が滴っている。


「捕食せよ! 【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】」


 二枚のJOKERを喰らい尽くし、広大なワンダーランドという世界に俺とアリスの二人だけが残された。


 敵の襲撃もない、静かな世界をエルダーワンドを片手にゆっくりと歩く。

 果てしないと錯覚する玉座を中心とする広大な世界は突如終わりを告げ、いつの間にか目の前にはアリスだったモノの姿があった。



 赤色と黒色で彩られた胴を絞り胸を強調したドレスを着用。スカート部分には赤色のバラが付けられている。

 髪の色は茶髪。髪をくるくる巻きにして短く留めている。髪のあちこちに赤色のハートマーク型の髪飾りを取り付けている。瞳にはハートマークの彩光が映る。


 もし、他者からの干渉を制限できるというチート能力を持った存在が愚かではなかったら……そういう思考実験をしたことがあった。

 その時はどれだけ考えても結果が出なかった。


 勝てる訳がない……ずっとそう思っていた敵だ。それが、玉座から立ち上がり、「致命傷を与える剣」、「真実を貫く剣」と呼ばれる万物を切り裂く最強の剣である一切光を反射しない漆黒の魔剣――ヴォーパルソードを構えている。


 ――何度も負けるかもしれないと思った時はあった。


 一度目はヴァルジャ=ラ迷宮でサイクロプス、ケルベロス、ヨルムンガンドとの戦い。


 二度目は初めて超越者(デスペラード)と相対したクライヴァルト城での戦い。


 他にも幾度となく危機が訪れた……モブキャラなのに? なんか俺ばかり強敵とぶつかっている気がするんだが。

 強大なミュレニム=セイント=エンシェルテとの戦いも、一歩間違えば死んでいた……だが、あの時は超越技――自分の魂の形を確信していたからそこまでの危機ではなかった。


 ……これが恐らく異世界生活三度目の危機。

 倒す手札が揃っていたとしても、それを確実に当てなければ勝ち目はない。敵に気づかれれば一巻の終わりだ。


 アリスは強い。無敵といっても過言ではない超越技をもっているから……ただそれだけじゃない。

 その力を過信せず、胡座をかかず、一切油断しない……そういった力に溺れない強さをもっている。


 アリス-ザ・ワンダーランド・ガール――絶対女王な七賢者。

 俺はその真の強者の中に存在する慢心を突こうとしている……どんな者でも捨てきれない、心の奥深くにある、無意識的な他者に対する嘲りを、他者を見下す心を。


 その無意識を表層に出すためには、相当な計算と、後は時の運が必要になる。……頑張ってくれ、俺のREAL LUCK!!


(〝偽りの破滅の光よ〟――〝ディエスイレ・フェイク〟)


 思えば、俺はこの日のためにセリスティア学園長に弟子入りしたのかもしれない。

 【神魔眼】で俺の心を読めないように幾重にも心にプロテクトをかけ、【無詠唱魔法】で偽りの破滅の光を放つ。


「残念ね、あたしに魔法は効かないわ。……あたしの超越技の効果を一発で見抜いたあなたならと警戒していたけど……分かっていても結局突破はできないということね」


(〝破滅の光の奔流よ〟――〝ディエスイレ・ストーム〟)


 アリスの洗練された剣技を躱し、【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】の時空間移動で距離を取り、偽りの破滅の光をビーム状にして放つ。


「何度やっても無駄よ! あなたではあたしを倒すことはできない。このまま戦いを続ければやがて手札が無くなったあなたが負ける! 最初は期待していたけど残念だわ……クビヲハネヨ」


 最早真面に会話する気が無くなったようで、言葉が全部「クビヲハネヨ」にしか聞こえなくなった。

 完全に俺を礼儀知らずだと断じたんだろう……嗚呼、残念。


「〝DIES IRÆ-UNE LUMIÈRE QUI EFFACE TOUS LES CONCEPTS-〟」


 策の成功を確信した俺は三発目にして、本命の魔術を放つ。


 これこそが、〝DIES IRÆ〟研究の果てに行き着いた究極の魔術。

 根幹となる情報を全て理解した能力に対して発動できる新領域の〝DIES IRÆ〟で、この効果で消滅した概念は全てのオムニバース中から消滅する。

 ただし、完全に同一のモノのみで、新しく同じ概念が生み出された場合は別物としてカウントされるんだけど。


 この〝DIES IRÆ〟の最大の特徴は丸ごと敵を消滅させるのではなく、一つの概念を消滅させることも可能だということ。


「やはり、あたしにあなたの攻撃は……って、なんで!? あたしの超越技が、絶対女王の錫杖〜礼儀知らずは相手にしない〜が……無効化された!?」


「ああ、今の魔術でお前の超越技――絶対女王の錫杖〜礼儀知らずは相手にしない〜の概念を消滅させたからな。そりゃ、存在しないものを使うなんて不可能だろ」


「……そ、そんなのあり得ないわ! あたしの超越技を無効化(・・・)できるのは、ゼドゥーさんだけ!!」


 なるほど……無効化(・・・)、ね。それがゼドゥーの力……ということか。


「それができるんだよ、干渉無効化能力も無効化する防御絶対不可能の必殺技――〝DIES IRÆ〟シリーズにはな。これでアリスさんの圧倒的優位性は失われた。現れよ、真実を貫く剣――ヴォーパルソード!」


 エルダーワンドを虚数空間に戻し、ヴォーパルソードを構える。


 同じ剣、当然同じ強度と重さの刃が衝突する。


「そ、そんな……こんな、こと、って。あたしが、あたしが負けるなんて。……でも、仕方ないかもしれない、わね。あたしの心のどこかに慢心が、あった。あなたを心のどこかで侮っていた……そのツケが、回ってきたということね」


 ヴォーパルソードが両断され、一太刀浴びたアリス。彼女が即死ではなく、こうして口を動かすことができているのは、単に俺がトドメを刺さなかったからだ。


 まあ、集約すれば殺す気にならなかったという腑抜けた答えになる。

 イヴやカンパネラ、紅葉やブルーメモリアのように絶対に殺さないといけない……って心の底から思える相手じゃないんだよね。


 アリス……この少女の根底にあるのは、他者に対する恐怖と拒絶。

 人間にも魔族にもなれず、どちらからも迫害され、頼りたくても唯一の理解者となり得た両親は既にいない。人間達と魔族達によって裏切り者と断じられて殺された。


 アリスの圧倒的なまでの防御に振り切られた超越技は、そんな自分に向けられた理不尽に対するアリスなりの防衛だった。

 ――人間や魔族が身勝手にルールを押し付けてくるなら、こちらも身勝手なルールで一方的に関わりを制限し、常に主導権を握る。


 それこそがアリスの魂。傲慢な女王にならなければならなかった凄惨な境遇が作った歪んだ少女の自己防衛。


 そんなアリスは、ゼドゥーに救われて今のような性格になったのだろう。記憶を読み取った限りでは、ゼドゥーに出会う前と出会う後で大きく変化している。……当事者から支配者にって変化だけど。


 彼女は確かに七賢者として多くの血を流した。でも、それなら俺だって人のことをとやかく言える立場にはない。

 殺すか殺さないか、選ぶ権利は生殺与奪を得た俺にある。じゃあ、誰かに忖度せず俺の望む結果を求めたってバチは当たるまい。


「トドメは、刺さないのかしら?」


「ん? やめたよ。超越技がなければアリスさんは弱い。放置したって問題はないと判断した。まあ、勝者の特権って奴だ。……ヴァパリア黎明結社と手を切れ、いや、切らんでもいいけど、二度と俺の前に敵として立ちはだかるな。次に敵として現れれば容赦はしない。……あっ、言っとくがこれは同情だ。馬鹿にするなって言うならそれでいい。このまま死にたいなら殺してやるよ」


 霊薬(エリクシル)の原液を【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】を使って水の幕でコーティングし、アリスにぶっかける。


「……文句は言わないわ。見逃してくれるのなら、恥も外聞もなくそれに縋るわ。……でも、いいのかしら? あたしを見逃して」


「いや、どうせインフィニットの絶対切断も通用しない訳だし、あの場で俺以外にお前を止められる奴はいなかった。文句があるなら、お前がアリスさんを殺せって話だが、誰にも達成できないだろ?」


「他の人の話じゃないわ。あなたは、本当にいいの? あたしがヴァパリア黎明結社に情報を伝えるかもしれないわよ」


「いや、伝えたところでどうにかなる話でもないだろ? とりあえず、十秒待ってやるからその間に身の振り方を考えろ。逃げるも戦うも自由だ……ただ、俺が【ワンダーランド】を侵食しているからヴォーパルソードは顕現できないけどな」


「……それ、選択肢ないわよね。……そうね、あたしはもうあなたと敵対しないわ。ヴァパリア黎明結社にも情報を伝えない……あなたの方がゼドゥーさんより怖いからね」


 此方と彼方を繋ぐ指輪(ゲート・リング)の効果で〝移動門(ゲート)〟が開かれる。

 逃げの一手を選んだようだ。まあ、一応戦う覚悟もしていたんだけど、する必要が無かったようだね。


「……もし、あの時、ゼドゥーさんじゃなくてあなたと出会っていたら……あなたならあたしのことを……って、そんな反実仮想をしても仕方がないわよね」


 ――アリスが〝移動門(ゲート)〟の中に消える間際に残した言葉が俺の耳朶を強く打った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ