軍社大戦 -マハーシュバラ帝都三陣営激突- Ⅹ
異世界生活百六十三日目 場所超帝国マハーシュバラ、超皇帝宮殿
「――全ての悪意を殲滅せよ。慈悲深き顔と破壊者的性格を持ち合わせる神よ」
「降臨せよ、黄泉国の支配者。比婆山より現れ、生きとし生けるもの全てに死を与えよ」
「全知全能を殺すべく、天をも内包した大地の果てより顕現せよ。星々を砕く百の首で理不尽を殺せ」
「顕現せよ、最大の空母の名を持つ巨竜。最大火力で世界最強を知らしめせ――〈装甲祥瑞・ジェラルド・R・フォード〉」
「――Eochaidh Ollathir、Ruad Rofhessa。破壊と再生を司る良き神の長老よ、今こそその力を我が仲間のために振るえ」
「招来せよ、不老不死の伯爵の名を持つ魔導人形。万種の魔術で敵を討て――〈装甲祥瑞・サンジェルマン〉」
「――夜と闇、破壊と死を司る神の名を持つ竜よ。天空に舞い戻りて破壊の限りを尽くせ」
「大きな犬の姿をした渾沌、羊身人面で目がわきの下にある饕餮、翼の生えた虎たる窮奇、人面虎足で猪の牙を持つ檮杌。四つの禍よ、一つとなりて降り立て」
WOW. 〈装甲祥瑞〉が全揃い……いや、マジかってレベルの戦力差。ありがとさんです。
「第一の特殊武装――三叉の槍」
最初に仕掛けてきたのはシヴァか。【距離操作】――“相手の距離感●おかしくしちゃうよ”のような対象の座標移動と距離の比率を歪める能力で一気に間合いを詰め、三叉の槍で突きを放ってきた。
……なるほど、移動に重力などの慣性がつくところまで同じなのかって、感心している場合じゃなかった。
個人的にあの人はあの作品の中で唯一上司にしたい人だし(他の上司だと陰謀大好きお嬢様とか、礼儀知らずは相手にしない人とか、絶対に上司にしたくない人ばかり揃っている)、結構好きなキャラなんだけどな……って、シヴァも割と上司にしたいタイプかもしれないけど……少なくともインフィニットの下にはつきたくないな。
「【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】!!」
三叉の槍の突きを空間移動で躱し、同時に叡慧ト究慧之至高神に命令を下す。
【――畏まりました。全ては御身の思うが儘に】
ところで、なんか最近叡慧ト究慧之至高神の自我が出てきている気がするんだが……名付けによってシ●ルさん化現象が起こっているのか?
叡慧ト究慧之至高神は俺の記憶を元に望んだ図面を完成させてくれたようだ。
その図面を元にして【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】で望んだものを形成する。
「――大海を象徴する渦巻く海神、荒れ狂う時化より顕現せよ。生と死を象徴する神意で裁きを下せ、〈レヴィアタン〉」
青と銀に彩られた金属の塊が空中で猛スピードで組み上げられ、青い機装神竜が完成する。
「接続・開始」
〈レヴィアタン〉の名を与えられた機竜と接続し、その特殊武装の一つ――〈葬玉の銀剣〉を抜き払った。
「おいおい、マジかよ。お前も〈装甲祥瑞〉を使えるのかよ!?」
「いや、ケリー殿。これは〈装甲祥瑞〉じゃないよ? 機装神竜――差し詰め、祥瑞を狩る竜の化身というところだな」
まあ、元ネタは神●機竜っていう漢字を組み替えたものになるが……ってか、これってインフィニットに対する挑戦のようなところがあるからね。……まあ、当人さんは気づかないだろうけど。
「【神戦陣烈熾――煌牙】」
エネルギーを調律する【戦●・劫火】をコピーした【戦陣・烈熾】に機装神竜の特殊武装の一つ――〈七色の宝玉〉の効果で光を操作して生み出した刀身を組み合わせ、一点集中した高密度の光刃を生成する。
「そう簡単に落とされてたまるかよ!! 祥瑞装――天威! 超越技・暗黒領域!!」
なるほど……「朱●戦姫」の〈天声〉と「悪●る王」の〈黒翼覆〉の組み合わせか。
特に自身を中心とした半径数十mを闇の帳で覆い、その中に存在する生物の五感を消失させるっていう〈黒翼覆〉に酷似した暗黒領域は厄介極まりない能力だが、闇を支配する能力を持つ【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】の前では、その圧倒的力も無力と化す。
暗黒領域の闇を払い、天威の重力を【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】で中和し、高密度の光斬撃を浴びせた。
ケリーはインフィニットの〈装甲祥瑞・テューポーン〉に復活の石版を使っているため復活は不可能。
これで確実に一人落とせたな。
「次は私だ!! 超越技――Écraser le résultat」
自身や自身の触れたもので対象に接触することで、自分の望む結果を上書きできる超越技ってところだな。その力で星穿つ小銃から放たれる光線を瞬時にウルツァイト窒化ホウ素に変化させたか。
「【神戦陣奔流――水壁】」
だが、ダイアモンドを超える強度の武器も流れ続ける水相手ではお手上げだ。
更に、ウルツァイト窒化ホウ素化したビーム諸共水が凍りついたことで、肝心の圧倒的硬度が意味をなさないまま完全に封じられた。
「【神戦陣烈熾――煌牙】」
そのままジュゼットを一閃。復活の石版の効果で〈装甲祥瑞・サンジェルマン〉が復活したものの、強化されるのは特殊武装と祥瑞装のみ。厄介な超越技が強化されないのなら、もう一撃くらい余裕で浴びせられる。
「祥瑞装――原初の闇!!」
「ッ!? リュドミラか!!」
なんか記憶に拠れば仲があまりよろしくない二人だけど、そういう奴に限って共闘すると物凄い相性が良くなるんだよな。
だが、これはよろしくない。原初の闇も結局は闇――【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】で支配下に置くことは可能だ。
「これ、龍神装を発動するまで無さそうだな。……【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】」
原初の闇の闇が〈装甲祥瑞・チェルノボーグ〉ごとリュドミラを呑み込む。
リュドミラの復活の石版は残っていたけど、あれじゃあ復活は無理そうだな。
ケリーに続いてリュドミラも撃破。残るはインフィニット、シヴァ、佳奈、エドワード、シュゼット、劉……まだまだ戦いは始まったばかりだって感じだな。
「超越技――WORLD ERASER」
次に仕掛けてきたのはエドワード。
武器で触れた物を何でも削り取ることができる。削り取られた切断面は、元通りだったようにぴったりと閉じる……っていうどこかで聞いたことがある力で俺との間合いを削って仕掛けてきたか。
「……流石にまずいな。龍神装――絶対王政」
使う必要はないかなと思っていたけど、結局使うことになったか。しかも結構早い段階で。
その瞬間、エドワードの〈装甲祥瑞・ダグザ〉――いや、全ての〈装甲祥瑞〉がその機能を停止した。
「絶対王政の効果は三十秒間の間特殊な電磁波のようなものを放射することで自身を除く全ての機械の動きを停止させるというものだ。ちなみに、名前はイングランド王国のトマス・ホッブズが著した政治哲学書Leviathanから着想を得ている。この龍神装の最大の特徴は――」
【神戦陣烈熾――煌牙】でエドワード諸共〈装甲祥瑞・ダグザ〉を両断する。
〈装甲祥瑞・ダグザ〉の祥瑞装は一度だけ〈装甲祥瑞〉を復活させることが可能な祥瑞修復。それに、復活の石版も未使用のままだったが、どちらも機能せず〈装甲祥瑞・ダグザ〉は戦場からその姿を消し、エドワードの姿が場外に現れた。
「……おいおい、機能停止している間は復活の石版も使えないのかよ!」
「これは……予想外の展開ですね。強力なスキルを保有するとは聞いていましたが、まさかスキル以外にもこれほど強力な力を持っていたとは……絶対王政の効果は三十秒間ですが、再使用までどれほど時間がかかるかは分かりません。……どう致しますか? 皇帝陛下」
「佳奈さん、俺のことは昔みたいに壬とか大黒とか呼んでもらいたいんだけどな……」
「皇帝陛下にそのような無礼な態度を取る訳には参りません!!」
「いや、佳奈さん。別にここには俺達しかいない訳だし、そっちの方がいいって言っているんだから無理に改まった態度を取る必要はないと思いますけどね。……なんならここでイチャついてもいいですよ? 普段ならリア充爆裂死しろ! ってキレますけど、今回は特別です。あっ、絶対王政は十秒で再使用が可能です」
「せ、戦場でイチャつくなんて!?」
「……確かに、それは流石にないな。……佳奈さん、この模擬戦が終わったら大事な話があるんだけど、いいかな?」
「いや、シヴァ陛下! それ死亡フラグ!! いや、ルール上死なないけどさ!! ……って、他人の心配をしている場合じゃなかった!」
仕掛けてきたのはシュゼットと劉。
シュゼットの方は学習したのか星穿つ小銃を散弾のように変化させてウルツァイト窒化ホウ素に変化させている。
劉の方は動きを止めない限り自分に掛かる速度を累積して無限に加速し続けるって感じの超越技で加速したまま祥瑞装の四凶降臨で渾沌、饕餮、窮奇、檮杌の形をした小型祥瑞兵器を生成して突撃しつつ、自分も【格闘真髄】で加速の勢いが乗った拳を放ってきた。
「【神戦陣凶風――洌走】、【戦陣・奔流】」
背後に発生させた水流で自らの推進力を増加させ、突進の威力を倍加させると同時に障壁の力場を瞬間展開して拳を弾く。
「【神戦陣纏属――淼刃】、【神戦陣纏属――垚刃】」
特殊武装の一つ――〈葬玉の銀剣〉をもう一つ顕現し、一振りには水を操作して刀身を形成し、もう一方には岩石を操作して刀身を形成する。
「通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃……そのまんまな攻撃、いきます!!」
展開した水の刃と岩石の刃を【飛斬撃】で飛ばした瞬間、岩石の刃が無数の岩の弾丸となってシュゼットに襲い掛かり、巨大化した水の刃から突き出した水の針が渾沌、饕餮、窮奇、檮杌、劉を串刺しにした。
「……なんか、演出が違う気がするけどまあいっか。残るは三人――特殊武装の一つ〈豪雨の使徒〉を発動するか」
ちなみに、この特殊武装――機装神竜の〈レヴィアタン〉の無人機バージョンを複数生成するという非常に強力なものである。
生み出された十体の〈レヴィアタン〉に〈葬玉の銀剣〉を七振り装備させ(人間の腕に対応するパーツは全部で七本ある)、火、水、風、雷、土、光、闇の属性攻撃を仕掛けさせる。
しかも、その攻撃は全て全体攻撃。……Oh、まさに絶望。
「超越技――不確定操作! 攻撃が当たらない可能性がある以上、私達に攻撃は届きません!!」
「いや、それは無人機の話だから」
自分の力や行動で可能な範囲の事象の結果を自在に操ることができる因果干渉系の超越技を発動した佳奈に狙いを定め、【神戦陣纏属――淼刃】を発動する。
自分の力や行動で可能な範囲の事象の結果を自在に操ることができるっていう絶対的不確定みたいな超越技だが、それじゃあ、自分を起点に巨大化した水の刃の中から逃れるなんてことはできないよな。
佳奈撃破。厄介な因果干渉系の超越技保有者だったが、ここで潰せたのは後々に響いてくる。
自分のできるレベルとはいえ、その中でも最良の結果を得られるっていう状況は厄介だからね。ただの攻撃も可能性があれば致命傷に変えられる訳だし。
「祥瑞装――第三の目」
シヴァが奥の手の万象を焼き尽くす光線を放ってきたが、光線である以上は【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】で操作可能だ。
そのままシヴァに送り返してやろうと思ったが、【距離操作】で避けられたか。
そのまま至近距離から三叉の槍で突きを放ってくるシヴァ。俺は当然【戦陣・奔流】で弾く。でもって、どこかで調達してきたのであろう、前世感応板から雷切丸を顕現して背後から切りかかってきたインフィニットの斬撃を紙一重で躱し、【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】で瞬間転移。
……まあ、転移しても【距離操作】ですぐに距離を詰められるんだけど。
シヴァは【距離操作】で近距離まで詰め、三叉の槍を使って再度連続突きを放ってくる。
俺は〈葬玉の銀剣〉で突きを捌きながらその時を待った。
「な……まさか、躱した筈の攻撃にやられるなんて……」
俺の狙い通り、シヴァは自らが撃った第三の目に貫かれて敗北した。
仕掛けは単純。シヴァが放った第三の目の光線を【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】で操作したものをシヴァに気づかれないように命中させただけた。
実は【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】でこの地点に飛んだのも気づかれないように命中させるための布石だったんだけど、割と簡単に誘いに乗ってきたな。……いや、皇帝なんだし安易に乗るなよって思うけど。
まあ、シヴァも操作が直線的で長期間操作できないだろうと高を括って油断していたみたいだし、これは致し方ないといえば致し方ない……のか?
残るはインフィニット一人……最終的に一番厄介な奴が残ったな。
……さて、今回はどう攻めようかな?