軍社大戦 -マハーシュバラ帝都三陣営激突- Ⅴ
【三人称視点】
「なかなかヤバそうな奴が揃っているじゃないか。超越者だけでひー、ふー、みー、よー……十人か。……まあ、退屈はしなさそうで何よりだ。……本当は俺がお前らの総大将と戦いたかったんだけど、あのおっかねえ女教師が先に手をつけちまったからな。あっ、言っとくが女だからって手加減はしねえぞ? 結社には夜華とか愛梨子みたいなやべえ奴もいるし、一概に性別や年齢で判断できねえからな、超越者」
年齢、性別、国籍――超越者は条件を満たせばどんなものでも至ることができる因果を超えた領域だ。
そこに至った時点で外見は関係なくなる。
光に弱い吸血鬼であっても、超越者に至れば光に怯えることはなくなるように、種族の弱点は消滅する。
性差による体力の問題も、レベルで埋めることが可能な世界。そこに、超越者という際限なく強化できる領域が加われば、種族や性別の違いは身体の機能の誤差だけ。
この領域に至るのは筋金入りの頑固者ばかりだ。自分のエゴを貫き通す……そういう意思を持った者達だ。
全てのエゴは超越者でも叶えられない。他者のエゴと搗ち合えば、他者のエゴを踏み躙っても進むより強いエゴが、覚悟が必要になる。
ナジームはそのようにして男女種族年齢問わず立ちはだかる超越者を倒してきた筋金入りの超越者だ。
そのナジームが、同じ超越者に至ったものを見縊り、結果お約束のように敗北することはない。
「先にネタバレしておいてやるが、俺は龍人族だ。まあ、半分魔獣みたいな種族だな……魔族も似たようなものだが。……お前らの中にも勇者が何人かいるようだが、それと同じだ。超越技の残滓――まあ、俺達よりもずっと昔を生きた超越者達が残した超越技の残滓。始まりの勇者や始まりの魔王がいるように、龍王と呼ばれる勇者や魔王に匹敵する存在にも大いなる力――龍王の系譜があるんだよ。俺はその中でも覚醒龍王に位置する存在――そこらの野良龍王と一緒にしてもらっては困るぜ」
身体の一部を龍へと変化させ、ナジームは不敵な笑みを浮かべる。
「【覚醒之龍神】……勇者の持つ美徳や魔王の持つ大罪と同じタイプの能力ですか?」
「そういうお前は勇者でありながら魔王でもあるっていう結構面倒なタイプみたいだな、唯一魔獣。――んじゃ、龍の頂点に立つ者の実力を見せてやるぜ!! ――龍王剣!!!」
ナジームの掌中に一振りの砂色の鞘の龍の彫刻があしらわれた西洋剣――龍王剣を顕現し、鞘から白銀の刃を抜き払う。
「――◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ッ◾️◾️!! 砂塵龍の終焉咆哮」
最早言葉で表現することができない魂の奥底から響くような叫びと共に龍王剣を薙ぎ払った。
瞬間、暴虐の砂塵嵐がリーファ達に襲い掛かる。
「−273.15 ℃のその先に至りし世界の理を超えた、白と氷で彩られた死の世界の吹雪を今我が前に顕現せよ。――祈るがいい、せめて命があらんことを。【エターナル・アブソリュート・ブリザード】!!」
対する雪乃は【冷氷掌握】と【エターナルフォースブリザード】の統合により生まれた【氷之女帝】を発動し、生み出した【エターナルフォースブリザード】を凌駕する吹雪を解き放つ。
ナジームの竜王固有技を上回った雪乃の攻撃だが、見切りをつけたナジームが真っ先に上空への撤退行動を取ったことで回避された。
「――来て、“精霊王”達!!」
リーファは【精霊鬭術】で間接的に“精霊王”の力を借りるのではなく、“水の精霊王”ファンテーヌ=シュトレームング、“火の精霊王”アオスブルフ=フィアンマ、“風の精霊王”シュタイフェ=ブリーゼ、“土の精霊王”エールデ=スオーロ、“光の精霊王”リヒト=ルーチェを直接顕現して見せた。
「噂に聞く“精霊王”という奴か。……だが、いくら自然に影響を持つ精霊の王といっても所詮は超越者に至っていない矮小な存在……くだらない犠牲を出さないためにもとっとと引っ込めるべきだと思うぞ? エルフの超越者」
「ご忠告ありがとうございます。……ですが、お忘れですか? 私達超越者には超越技というものがある。――私の魂は、戦闘スタイルは、草子さんと共に精霊王巡りをしたその日から、ずっと精霊と共にあるのですよ?」
精霊の頂点に立つ“精霊王”――リーファの力はその在り方を大きく変えるものだ。
リーファの力が発動した時、この世界から五体の“精霊王”が消滅する。
“闇の精霊王”はほとんどこの世界に見切りをつけた状態にあり、姿を現わすとしても常闇の森くらいだ。最早異世界カオスの精霊ではないといっても過言ではない。
「超越技――五大元素の精霊女帝」
魂の形が超越技となって現出し、“精霊王”がその在り方を大きく変化させていく。
“火の精霊王”アオスブルフ=フィアンマ――灼熱の身体の筋骨隆々な大男だった存在は、焔をイメージしたワインレッドからオレンジ色へのグラデーションが美しいミニドレスを纏った赤髪の長髪を持つ勝気そうな少女の姿――エレメンタル=サラマンディアに。
“風の精霊王”シュタイフェ=ブリーゼ――金色の髪の妖精のような見た目の少女は、淡い銀色にエメラルド色を含ませたような髪と碧玉のような瞳が印象的な緑色の文字通り布という以外に形容できない際どい衣装を身につけ、背に妖精の羽を持つ子供のような無邪気さと大人っぽさを両立したような不思議な妖精の少女の姿――エレメンタル=シルフィードに。
“土の精霊王”エールデ=スオーロ――褐色の肌に黒髪の厳めしい男は、ブラウンの髪をシャギーにしたブラウンの瞳の茶色の露出の少ないドレスを身に纏った大人しそうな少女の姿――エレメンタル=ノーミードに。
“光の精霊王”リヒト=ルーチェ――絵に描いたような王子様のような男は、ハニーブロンドの豪奢なロングの髪を持つお高く止まった令嬢のような姿――エレメンタル=ルーチェルに。
“水の精霊王”ファンテーヌ=シュトレームング――青薔薇を彷彿とさせるミニドレスに鎧を合わせたような凛々しい騎士風の少女は、足首よりも長い蒼髪を持つ青薔薇をイメージしたマーメイドドレスを纏った少女の姿――エレメンタル=ウンディーネに。
かつて、“精霊王”と呼ばれていたもの。そして、リーファの力により更なる境地“精霊女帝”に至った彼女達は、“精霊王”の記憶を残しつつも、“火の精霊王”、“風の精霊王”、“土の精霊王”、“光の精霊王”だった者達の性格が大きく変化している。
つまり、そのまま“水の精霊女帝”に至ったのは“水の精霊王”だった者のみ。勿論、ここにはリーファの意思が反映されている。
リーファが望む“精霊王”の姿に“精霊王”を変質させ、超越者の性質を与えるのがリーファの超越技――五大元素の精霊女帝の効果である。
ちなみに、何故BL狂いでありながら男性ではなく女性の姿を選んだかというと、能因草子が口にした「精霊の頂点といえば美少女だよね?」というテンプレとリーファが同志となる腐女子を求めたからである。
つまり、この場にいる“精霊女帝”は大なり小なり腐女子の性質を含んでいるのだが、それを知るのはリーファと……。
『今更だけど、あの腐女子エルフ……とんでもないことするな』
インフィニットと魔梨子の攻撃を捌きながらリーファの心を読むだ草子だけであった。
これまでの“精霊王”とは比べ物にはならない――精霊の頂点に立つ王ではなく、燃え盛る炎、吹き荒れる風と空気、広大な大地、遍く世界を照らす光、生命を育む水――最早自然そのものを手に入れたような圧倒的万能感がリーファを支配する。
“精霊女帝”――その力は“精霊王”のものとは大きく変化している。
一つは精霊武装――以前から比べて基礎の出力が桁違いに上がっている。
一つは属性支配――それぞれの属性に対応する自然を完全に支配することができる……といっても、草子のような同種の力を持っている相手ならば更なる干渉で上書きすることができるのだが……。
一つは【精霊宿身】――【精霊鬭術】で得られる力は“精霊王”から力が供給されるものであり、“精霊王”を召喚して共に戦えば使える力が大きく下がる。
元々“精霊王”を召喚せずに力を引き出す単身精霊武装顕現、契約者が二人同時に戦う単身精霊武装顕現、双身精霊武装という順で精霊武装の出力が上昇しているが、“精霊女帝”に至ったことで新たに追加された【精霊宿身】状態での精霊武装顕現の出力はこれらを大きく上回る。
「力を貸して、ファンテーヌ……いえ、エレメンタル=ウンディーネ!!」
『リーファさんがそれを望むのなら!!』
ウンディーネが無数の小さな青い輝きとなってリーファの中へと吸収されていく。
それと同時にリーファの衣装がスリットの入った扇情的な青のマーメイドドレスへと切り替わった。
「『――精霊武装・水帝宿身』」
「『――暴虐の洌撃・九頭流激』」
顕現した一振りの西洋剣を振りかざすと同時に九つの激流が虚空から吹き出す。
宛ら蛟のように畝りながら水流がナジームへと迫る。
「【砂乾龍之王】――旱魃の嵐」
ナジームはニヤリと笑うと右の拳を前に突き出した。
拳に込められた乾きの概念が迫る蛟を呑み、呑み、呑み、呑み……その全てを呑み込んでしまった。
『なんとなくナジームだし、砂と乾きに関連した攻撃をしてくるとは思ったけど……デッド・エ●ド・ブローと骸●塵嵐の融合みたいなのを放ってくるとは……もしかして、超越技は砂を変形させて、別の物体を作り出す砂●治金みたいな奴か?』
「よく他の戦場で戦っている敵の奥の手を看破できるよな。……ちなみに、俺の超越技――沙漠の創造主は砂で造形したものに造形の元となったイメージを貼り付けることで物理法則を無視して材質を変化させるって奴だ」
『……おいおい、性質の貼り付けかよ! 戦争屋だってそんなチートじゃなかったし、応用の仕方によっては戦争屋を超えられそうだな。ちなみに、相手の殺気が自身に何を命じたか本人よりも早く伝わるっていう超戦●感度みたいなものは持っていないの?』
「……はっ? んな力持っている訳ねえだろ!? ってか、俺を誰かと勘違いしているんじゃねえのか?」
「勘違いではありませんよ。これが、草子さんの戦いです。自分の知識から似たような能力を持つものを引き出し、その能力に対する実際にテクストの中で行われた対策、自分で編み出した対策などで敵の能力を確実に削いで無力化し、徹底的に追い詰めていく……まるで将棋だな」
『レーゲン君、俺はスマホ太郎じゃないし、絶対に一度言ってみたかっただけだよね? 将棋よりどちらかといえば詰将棋だし、お互いのスキル――つまり手札を出し合うんだからポーカーだろ!? 但し、手札が見える状態でやるポーカーだけど』
「但し、相手の手札を見られるのは草子さんのみで、しかも手札が全てJOKERという鬼畜仕様のルールですよね。あっ、 JOKERは最強の方のルールですよ」
『というか、そもそも手札が見えるポーカーとかあり得ないし、 JOKER五枚とかないよね!? ……ってか、 JOKERって言えば鎌を持ったジョーカーちゃんだけど、結局クビハネさんと一緒に処理されちゃったんだよな……うん、文句を言いながらもあの何だかんだで傲慢な女王様について行くっていう雰囲気好きだったんだけど』
「…………お前は一体何を話しているんだ?」
草子の思考の飛躍についていけないナジーム。まあ、草子の話についていけるのはレーゲンなどごく一部に限られるのだが……。
『ってことで攻略方法は分かったよな? 基本は乾きベースの攻撃と砂。砂はエレメンタル=ノーミードでなんとかできるだろうが、乾きの概念はどうしようもない。砂に相性がいいのは水だが、安易にエレメンタル=ウンディーネで攻めれば敗北に直通だ。属性的に乾きを受け付けないだろうエレメンタル=ルーチェルで攻めるのが無難……かな? 他にも実体を伴わない攻撃の方がまだ可能性がある。問題は超越技――砂の概念を変化させるってことは、砂の拳銃を創り出すっていうレベルの変化じゃないってことだ。砂から水を創り出すとか、炎を創り出すとか……そういうあり得ない性質変化も使えると思った方がいい。まあ、ガムバレ』
リーファ達の勝利を確信した草子は、そこでリーファ達に向けていた注意を断ち切った。
草子はリーファ達が勝つと信じているのだ。それに応えられなければ仲間を名乗ることはできない。
「削り取ってください――WORLD ERASER」
「祥瑞装――原初の闇」
武器で触れた物を何でも削り取ることができる超越技で空間を削り取ることで瞬間移動し、星殺しの細剣で渾身の突きを放つエドワードと、あらゆる物質を元素まで分解する闇を操作する祥瑞装を発動するリュドミラ。
「超越技――沙漠の創造主」
ナジームは砂を大量に展開し、その材質を純粋ロンズデーライトに変化させる。
もう一方の手には黒光りする拳銃を創り出し、エドワードに向けた。
いくらあらゆる物質を元素まで分解する闇と雖も一度に分解できる量には限りがある。
極端に厚くした純粋ロンズデーライトを貫通するためには時間が必要だ。
「じゃあな!」
エドワードに向けて弾丸を打ちつつ後方に逃げるナジーム。
エドワードは弾丸を空間ごと削り取ることで回避するが――。
「――◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ッ◾️◾️!! 龍王拡散爆」
エドワードの注意が弾丸に向いている間にエネルギーを充填していたナジームが両手から収束した高エネルギーを解き放つ龍王固有技を繰り出す。
「エレメンタル=ノーミード、お願い!!」
『……畏まりました!!』
リーファの指示に従いエレメンタル=ノーミードが静かに主人の願いを叶えるべく動き出す。
ナジームが作り出した純粋ロンズデーライトの闇に分解されていない部分が無数の小さな塊となり、新たに生み出された純粋ロンズデーライトと共に壁を形成していく。
「『――六角ダイアモンドの壁!!』」
エドワードの前に展開された六角ダイアモンドの壁はナジームの龍王固有技からエドワードを守った。
『――行きますわよ! エレメンタル=サラマンディア、エレメンタル=シルフィード!! 終焉の光劍』
『燃えやがれ!! 赤熱地獄爆炎陣!!!』
『援護するよ! 弄ぶ竜巻!』
エレメンタル=ルーチェルが無数の剣を解き放ち、エレメンタル=サラマンディアがナジームの足元に展開した赤い魔法陣から発生した灼熱の炎にエレメンタル=シルフィードが酸素を大量に含むように大気組成を変更した竜巻を放つ。
「「収束して迸れ、魔を滅する聖剣技――《夜明けを切り開く明星》」」
照次郎と孝徳の勇者固有技が灼熱の炎に焼かれるナジームに直撃する。
「くっ……効いたぜ」
決まったかに思えた攻撃だが、ナジームは連続攻撃を耐え切って見せた。
「【砂乾龍之王】――旱魃の嵐! 喰らいやがれ!!」
乾きの概念が収束した拳が聖魔太極濫煌双剣=最終戦争装備を構えてナジームに迫っていたレーゲンへと放たれる……が。
「ちっ、躱されたか」
ナジームの乾きの概念は拳のぶつかった部分にしか効果を及ぼさない。
レーゲンはナジームの拳を危なげなく躱すことでナジームの乾きの効果を受けずにナジームの懐に飛び込むことに成功した。
――そして。
「だが、至近距離に到達したからって俺に勝ったと思うな! 俺には【物理無効】があるから勇者固有技のような特殊な攻撃しか効かねえぞ!!」
「勇者魔王固有二刀流技・反転する御使の翼」
レーゲンの聖魔太極濫煌双剣=最終戦争装備に青白い輝きと漆黒の闇が宿り――二つの相反する力は剣に宿り、巨大な剣の形を成す。
駄目押しとばかりに黒雷を宿した二対聖魔剣がナジームを切り裂いた。
レーゲンの超越技――会心の光束は筋肉の動かし方、外殻の特徴、動き方の癖など、そういった情報の全てから導き出せる一閃までの勝利への道筋を見通すというものだ。
斬撃を放つまでは見る世界がスローモーションとなり、身体は長年染みついた動きのようにしなやかに動き、速度が上がる。
一つではなく複数の線を見通すことができ、そのいずれかをなぞることで敵を高確率で絶命させることができる。
突き詰めればゾーンと呼ばれる状態を意図的に作り出す能力と勝利への道筋を見通すの複合であるこの超越技には、確かに他の超越技のような強力なものではないかもしれない。
だが、これがレーゲンの――榊翠雨の魂の形なのは間違いない。
勇者として召喚されながらもその力に甘えることなく研鑽を重ねてきた、最早レーゲンの半身とも言える剣の力を最も引き出す力――それこそが会心の光束なのである。
――ナジーム、撃破。