魔王城にて⑧-付与術師だから、とパーティを追放された女性冒険者は本当の仲間を見つけられたようです-
異世界生活百四十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王都市ジュドヴァ、魔王城
「仙人は逃げ足が速い。ユェンもだけど、毎度逃げられるな……今回はぶっ殺しておいた方が良かったけど」
正直ブルーメモリアを逃したのは痛い。しかも、神の領域に至ったが【因果無効】で神殺しが無効化されるだと!? あの円環さんや悪魔さんすら理論上なら秒殺可能なあれが効かないのは厄介だ。
というか、あの場で激情に駆られて仕掛けてきたら殺せたかもしれないけど、いやしくじったな。
〝死が確定する十三分-The god of death keeps ridicule of life for 13 minutes-〟で耐性貫通即死ぶっ放すって手はあったけど、間に合わなかった。
「すまん……アイリスさん、クリプさん。ヘズティスさんやユーゼフ君にも謝らないといけないな」
「草子君のせいじゃないよ……ごめんなさい。私がもっと戦えれば」
『超越者になったばかりでここまで戦えたんだ、アイリスは凄いリプよ。……草子、僕がお礼を言うのは不自然かもしれないけど、ありがとう。今回の件でブルーメモリアには大きなダメージを与えられた。きっと彼女の身勝手で命を散らせた多くの魔法少女も浮かばれる筈だ』
「まあ……そういうことにしておくか。とりあえず、この件はここまでだ。また敵対するようなら今度は確実に息の根を止める。その心算さえしておけばいいんだよ」
さて……魔王様達を呼び戻すとするか。
◆
「随分荒れたな……最早原型を留めていない」
「魔王城くらいは直しますよ。武力を行使した時点で喧嘩両成敗、責任の一端はありますからね。……まあ、データがあるのでそのまま魔王城を復元することもできますし、更に堅牢にすることもできますが。形あるものは直せても、心の傷までは癒せません」
アストリアリンドにとって紅葉……いや、六条夜華は大切な友達だった。
唯一自分を認めてくれた存在――例えそれが偽りだったと知ってもアストリアリンドにとっては大切なものであることに変わりはない筈だ。
どんな種族でもそう簡単に気持ちは変えられない。
「アストリアリンド様、貴女には俺を一発ぶん殴る権利がある。例え裏切り者だったとしても、偽りだったとしても、君の大切な友達を魂諸共消し飛ばしたのは俺だ。俺は俺の信じるもの……いや、そう美化するべきではないな。俺の目的のために殺した……まあ、恨まれても仕方ないよ」
「……今でも分からないわ。貴方に怒りをぶつければいいのか……夜華さんは私を友達だとは思っていなかった。あれは全部偽りだった……」
「いや、全部ではないと思うけど。……少なくとも心のどっかにはアストリアリンド様を想う気持ちがあったと思うな。まあ、他人の気持ちなんてものは分からない。あくまで推論だけどな……で、どうする?」
「そうね……貴方は私達魔族を開発部門から守ってくれた。やり方には見過ごせないものもあったけど、貴方のおかげでこの国が救われたのは事実よ。……貴方に殺したいと思う気持ちはない……寧ろ、夜華ちゃん……いえ橋姫紅葉が所属していたヴァパリア黎明結社……あんな化け物の性格破綻者が集まっている組織をそのままにしておけない。それに、魔族が受けた借りをたっぷりと返さないといけないわね。私達の国を利用価値がないからってゴミに捨てるように……本当に許せないわ。草子さん、貴方と一緒に行けばヴァパリア黎明結社と戦えるのでしょう?」
おいおい、性格破綻者って……ダニッシュみたいないい人もいるんだぞ? 希少だし既にお亡くなりになったけど。後は……あれ? イヴもカンパネラも人格破綻者だ。
「……最初の頃は見ていたから分かっただろう? 魔王の勢力が瞬殺される――それが、俺達超越者の領域だ。そして、ヴァパリア黎明結社にはそんな連中がうじゃうじゃいる……そんな世界で戦えるのか?」
「勿論……って断言はできないけど、でも超越者にならなければならないなら、私は超越者になるわ! エゴはもう分かっている……私はアイツらが許せない。一度ぶん殴りたい。そのための力が欲しい……これでダメかしら?」
「いいんじゃない? なんかサッカーの大会に出たいって理由で超越者になった奴もいるみたいだしな。とりあえず、詳しい話は後ほど……とりあえず、歓迎するよ。魔王の娘――いや、魔王様? 魔王様′? 一回死んだからなのか、アストリアリンド様も魔王になっているし。……で、お前はどうするんだ、近衛さん? まあ既に答えが決まっているんだろうけどな」
「私もアストリア様と一緒に行かせて欲しい」
「近衛だからではなく、一人の友人として側に居たいんだろう? まあ、こういう人は例え地平線の彼方まで追いかけて……あれ? 既視感があるような、ないような? どっかの本で読んだのかな? ってか、愛が強過ぎる!?」
なんか白崎勇者パーティの女子メンバーがほとんど撃沈しているんだが……どうした? 誰にやられた?? ヤラレッタ!? 爆発して財宝を落とすのだろうか??
「とりあえず、城の方は再建するよ。で、その後さっきの災神級魂化者の素体になった連中を回収して事情聴取して、勇者パーティの連中はミント正教会預かりにするので。まあ、アイツらも勇者する前に捕まったみたいだし、被害に関しては災神級魂化者になってからだから連中の罪はヴァパリア黎明結社に被せるということで」
「優しいのだな、草子は」
「まあ、袂を分かったとはいえコンスタンスさんの元仲間だからね。流石に目の前で殺したら寝覚めが悪いでしょう?」
「確かにそうね……配慮感謝するわ」
「いえいえ、当然のことですので。ということで第一段階、城直すけどどうする? 復元? それとも改良?」
「この際いっそ豪華にしてくれ……と言ったら頼めるか?」
「モチモチの論です! 〝世界を構成する有象無象よ、色即是空空即是色の理に従い、新たな世界を作る糧となれ〟――〝雲散霧消-Decompose to elements-〟。〝我が建造物を創り出せ〟――〝要塞創造-Fortification creation-〟」
【主我主義的な創造主】で小物やら美術品やらを作って完成…………あれ? オウロウ、昇天している?
「では、戻ってきたら今後に関する相談と最後のお願いについてお話し致します。もうヴァパリア黎明結社に聞かれる心配はありませんからね」
「そういえばそうだったな。では、楽しみに待つとしよう。……しかし、我だけで決めるという訳にはいかないな。オウロウに他の魔王軍幹部を……」
「いや、その必要はないですよ? こちらゲートミラーといいまして【空間魔法】が付与された特殊な鏡になります。これを魔王領バチカルに繋がるようにしましたので、そこからは門を使ってください。あっ、使用には料金が必要なので、一応その分のお金も置いておきます」
「…………ん? 門の使用にはお金が掛かるのか?」
「はい。ただこれは俺のポケットに入る訳ではありません。各魔王領が回収する言わば税に近いものです。ここで得た収益を魔王領の住民の社会保障に充てる……と、まあこんなところです」
「考えたな……しかし、門を作ったのも草子殿だろう。それだけの装置なら多額の費用を求めることもできた筈だが。今回の城の再建についてもだが……」
「まあ、そんなもので恩を着せたくはありませんからね。それにお金は魔法薬の売買で多少儲けてさせて頂いてますし、エリシェラ学園の給料も案外バカにならないんですよ? だから篦棒な値段を払うように求めるつもりはありません。というか、最初に建設する時点でそういう契約にしなかったのは俺なんですから、後からお金を取れる訳がないじゃありませんか? 道理に反する」
「ハハハ、つくづく真面目な男だな。……だがそのお金は受け取れんな。魔王には魔王のメンツというものがあるのだ」
おいおい、頑固なのはどっちだよ。まあ、いいけどさ。
◆
異世界生活百四十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王城の森
で、その勇者共だけど、案外簡単に見つけられたよ。
まあ、セーフェル=イェツィラーに調べさせていたから戦っている間に見つけていたんだけどね。
ちなみにジェームズと同じ処置を施してある。怒りに身を任せて襲ってこないだろうし、そうすれば殺すだけだ。何の問題もあるまい?
「……まあ、話を総合するとオログ=ハイのミンティス教国侵攻の原因はサウロンさんだけど、その裏で糸を引いていたのは開発部門……紅葉とブルーメモリアの一派だったってことだね」
「はい……ご迷惑をおかけしました」
いや、予想外に素直だな。エリート主義で自分の非を認めるような魔族じゃないって聞いていたんだけど。
「今回の件で分かりました。……俺はエリートなんかじゃない、上に立つべき魔族じゃないんだって。実力を過信した結果がこれです。甘言に乗せられた結果、俺はとんでもないことをしてしまった。……美味しい話には裏があるともっと思慮を働かせていればきっとこんなことには……許されるのなら、俺はもう一から出直します。罪を償い、再出発したいです」
「まあ、被害っていっても結局俺達が出したのが遥かに多いからね。ってか、主犯のヴァパリア黎明結社が部門長消滅、副部門長逃走で罪に問えないからね。そんな大したことにはならないと思うけど……まあ、今回のを教訓にして次に繋げればいいと思うよ」
エリートの鼻っ柱が折られた。そういう意味で今回の件はサウロンにとっていい機会だったのではないかとモブキャラの分際で評してみる。……本当にすみません。
サウロン自体は能力がある訳だし、フリーランスとしてここまで一人で仕事をこなしてきたっていう実績がある。まあ、要するに仕事を受けるところから達成まで一人でやっていたんだからね。
冒険者なら冒険者ギルドがサポートをするところも含めてやっている野良の冒険者……っ表現するのが妥当かは分からないが、まあそんな感じだ。
即戦力にはなるだろうと俺個人としては思うけど、最終決定を下すのは魔王……俺にはサウロンの努力が報われる日を祈ることくらいしかできない。
……さて、と。
「コンスタンスさん。今回のことでよく分かったよ。僕達にはコンスタンスさんの力が必要だ」
「そうだな……俺達はコンスタンスがいなければ勇者パーティは成立しない。それが今回のことでよく分かった。戻ってきてくれ」
「おい。ナナディア、リューズ……お前ら何を言っている。コンスタンスは追放した、みんなの総意だったじゃないか!」
「そうよ! みんなで決めたことよ! なのに、何で翻すのよ! あんな何もできない女を勇者パーティに戻すなんて反対だわ!!」
ってか、なんでメイヴィスはコンスタンスを追放しようとするんだろうね? 少なくともコンスタンスはアズールに恋心を抱いたことはないみたいだし……仲間意識はあっただろうけど、それは全員に平等にだっただろうからね。
「……何を勘違いしているのかしら? なんでこの私が貴方達――勇者とその仲間を自称するゴミ共なんかと一緒にパーティを組まないといけないのかしら? 災神級魂化者になって表層化した貴方達の気持ち、受け取ったわ。女だから、付与術師だから追放する連中のために必死で頑張っていたなんて、あの頃の私は本当に愚かだったわよ。本当に付与術師をやめて良かったわ」
「……コンスタンスさんが、付与術師を辞めた?」
「そう、辞めたのよ。他人のために魔法を使うのなんてもうごめんだわ。今の仲間に使うのはいいけどね? でも単純に私が戦った方が効率がいいもの。高位付加術士の私がね。……勇者ごっこはもう終わり。そんな矮小な力の世界とはもうお別れよ。私はコンスタンス=セーブル――一ノ瀬さんの恋人で、パーティメンバー。そして、因果を超えた超越者よ。そんな私から貴方達元パーティメンバーに一言言わせてもらうわ。アンタラなんて雑魚、私の仲間には必要ないわ!」
おっ、いい顔している。この様子だとどうでもいいと言いながらどうでも良くなかったんじゃないのかな?
「良かったわね、メイヴィス。これで好きなだけアズールとイチャイチャできるわよ。それにアズール達も今まで通り勇者として活動できるんじゃないかしら? ただ、このまま行くと魔王や魔族に危害を加えたら国家同盟が集団的自衛権を使って武力行使をしてくるだろうし、貴方達はジェームズ同様ミンティス教国預かり……要するに要警戒対象として扱われると思うけどね。それじゃあ……草子さん、お別れは済ませたわ。もう言いたいことは言ったしこれ以上は顔なんて見たくないわ」
「俺はコンスタンスさんの従者でも一ノ瀬さんの下僕でもないんだけどね。まあ、今回の件はアズールとかいう似非勇者に弁護の余地はないし、個人的には吐き気がする連中だからとっととミント正教会に移送するけど」
〝移動門〟を開き、アズール達を【紐銃聖女】のリボンで縛ってそのまま中に入る。
まあ、俺達も顔を顰めたくなる粗大ゴミをミンティス教国に頼むってのは少々可哀想かもしれないけど、そもそもコイツらを勇者認定したのはミンティス教国だからな。まあミンティス教国もその辺り理解して監視を引き受けることを約束してくれたし、この件はこれで解決ってことで。
うん。これぞ、追放ものの醍醐味……って、これは創作じゃないし、コンスタンスにとっては切実な問題なんだからそういう風に表立って言えないんだけどね。でもナイススカッとだよ!!
◆
異世界生活百四十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王都市ジュドヴァ、新魔王城
新魔王城の謁見の間に、全ての魔王軍幹部と四天王……いや、一人欠けたから三天王か? とアストリアリンドが集結していた。
いや、壮観だね。……一人欠けているんだけどさ。ってか、ソイツ殺したの俺なんだけど。
「では、皆は人間側と和解するのに賛成なんだな」
「魔王様、俺は賛成反対以前に魔王軍を辞めさせてもらうから発言権ないんだけどよ。でも、俺は人間側といつまでも争っている訳にはいかないと思うぜ? 世界も未だかつてない激流の時代に突入しているみたいだし、これまで主な敵はミンティス教国一つだったが、仮に今後ミンティス教国と敵対することになれば国家同盟と戦争することになる。それに国家同盟と手を組めるのならジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国も、激動の大改革時代の恩恵に預かれる。どっちが利権があるかは一目瞭然だろ?」
ちなみにヘズティスは魔王軍を辞めてもう一度鍛え直すべくシャルミットと二人で旅をするつもりらしい。
なんでも、大切な人を守れなかった自分から強い自分に生まれ変わることと、失われたシャルミットとの関係をもう一度再構築することのために新しい環境でやり直すのが一番だと考えたのだそうだ。
ヘズティスは今日付けで退職届を出して受理されている。
まあ、要するにもう魔王軍幹部じゃないって訳だな。
「我もエリシェラ学園のセリスティア様と共に教育を発展させたいと思っている。そのためには国家同盟との同盟が結ばればならない。……例え他の魔族が反対しても説得を試み続けるつもりだ」
ヴァルルスに関しては国家同盟との同盟を締結した時点で魔王軍を退職し、セリスティアと共に教育機関充実の一大プロジェクトに加わるつもりらしい。
「異世界ガイアとの関係もありますし、ガイアとカオスの橋渡しをするためにも国家同盟との関係樹立は必要です。異世界ガイアとこの世界を繋ぐ常闇の森を含む魔王領シェリダーの魔王軍幹部として、国家同盟との同盟締結を強く希望します」
スフィリアは浮遊島とこの世界を繋ぐ扉がある常闇の森を含む一帯を管轄する魔王軍幹部。
そして、異世界ガイアからやってきた者達に責任を持って対処してくれると確約してくれた。
他の魔王軍幹部や四天王からも反対意見はない……というか、リーリスはアストリアリンド……いやアストリアと一緒に旅をするために退職届を出して受理されていたし、雪乃もショタを求める旅をするためにとかよく分からない理由で退職届を出して「また、草子が一緒にいるなら問題ないだろう」とよく分からない理由で受理されたし……いや、俺ってどんな扱い!?
まあ、実質はオウロウとヘズティスを除く魔王軍幹部の賛成ということで可決されたって話だ。
……後で国家同盟に話をつけないといけないな。
「さて、無事に可決されたことですし。そろそろ残る一つの目的を果たすとしますか」
「……そういえば、結局なんだったのだ?」
「実は……この城、前に立っていた場所からかなりズレた場所にあることに気づきました?」
……あれ? 誰も気づいていなかったようだ。エルヴァダロットやオウロウや魔王軍幹部だけじゃなくて、白崎達までも……おいおい。
「では、実際にその目で確かめてみましょうか? 皆様、旧魔王城に行きますよ」
エルヴァダロット達と共に旧魔王城に赴く…………さて。
「【魔法剣・闇纏】」
「Envelopper avec les ténèbres/Fente pleine lune」
エルダーワンドで描いた魔法陣を突くと、巨大な切っ先が地面を穿ち――。
「……まさか、魔王城の地下にこのようなものが」
現れたのはどこまでも暗闇が続いているただの空洞……うん、こんなものってどんなものって言いたくなるけど、用途不明の空洞があるってのは驚きだよね。
「では、ここからは俺達とアストリア様とリーリス様だけということでお願いします。難易度が高いと思われますが、これくらい勝てないとヴァパリア黎明結社と戦うことはできませんからね」
「……分かったわ。行ってきます、お父様」
「魔王様、アストリア様のことは必ず」
「リーリス、草子。娘を頼んだぞ」
全員で空洞の中に飛び込む……下は果てしなく続いていて、壁が落とし穴になっていた……最果ての迷宮かよ。というか、どこまで落ちるんだろう……いや、分かっているけどさ。
落下終了。特に何もない。死傷者無し、ちょっと危ないかなって思っていたリーリスとアストリアは聖とリーファがキャッチしたようだ。ナイス。
「で、え……っと? 恒例のパスワード? 床にあるこれだよね?」
【はい、面倒だとは思いますが今から表示する文字列を入力してください。ちなみに間違えると電流が流れます】
「うん、いつものことだね。まだ挑戦したの一箇所だけど」
床の切れ目を叩いて岩に偽装された板を跳ねさせ、入力装置にエンリの表示した文字列を入力する。……よし。
【……パスワードの入力を確認。システムコマンド、 LABYRINTH TRANSFERをジェネレートします】
その瞬間、地面に巨大な魔法陣が現れ、眩い光を放った。