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魔王城にて⑥-ジュドヴァ=ノーヴェ二大魔戦争 万物を殺すための十二秒-

 異世界生活百四十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王都市ジュドヴァ、魔王城


【三人称視点】


 能因草子という人間は何の種蒔きもせずに花を咲かせようなどという馬鹿な考えを抱くような男ではない。


 草子は白崎達の中に種を植えていた。

 ステータスとレベルを最大にまで上げて己の限界を理解させる――そのための下準備は、完全に自分のカンストした身体を掌握するに至った白崎達に自らの限界を理解させるという目的を果たした。


 後は自分の死を見つめる強い意志と誰にも譲れないエゴ。

 自分の死を見つめる強い意志は、白崎達が草子について行くと決めた瞬間に固まっている。

 そして、肝心な誰にも譲れないエゴは――。


(あたしにとって草子君は初めてあたしを真正面から見てくれた大切な人。あたしは草子君の側に居たい! 異世界カオスでだけじゃない、草子君の世界(地球)でも!!)


(草子君の側に居られるのなら、私は死ぬことだって怖くない!! そう思わせてくれた貴方のために……私は貴方と共に戦う力が欲しいわ!!)


(元の世界に帰るため……ううん、草子君と一緒にいるために。草子君の大切になるために……そのためなら私はこの身が滅ぶことも受け入れる!)


(私の気持ちはきっと草子君には届かないだろう。……聖さんにもリーファさんにも華代にもロゼッタさんと比べたら私に魅力はないからね。……でも、側にいることぐらいは許して欲しい。……私はあの日常に、いえ草子君とみんなが一緒にいる新しい日常を過ごしたい! そのためなら……覚悟はできている!!)


(草子君はどこまでも行ってしまう……ずっと追いかけて強くなってきたつもりでも、その差は最初に会った時とほとんど変わっていないのよね。……だから、超越者(デスペラード)になるなんてことは前提条件――私は草子君に追いつくために、そして隣で戦うために力が欲しいわぁ!!)


(私は草子君に救ってもらった。フィード様の一件も草子君の力がなければ絶対に誰もが納得できる終わり方にはならなかった。……きっかけはエリシェラ学園の出会いだったかもしれないけど、今は違う。――私は草子君の隣を歩きたい……そう思っているわ。だから、そのためには人を超えた力が必要なの。――その力を寄越しなさい!! 私は悪役令嬢ロゼッタ=フューリタン! どこまでも傲慢に、欲しいものを手に入れるためならいかなる手段も使う女よ!!)


(あの男はこの私から可愛い女の子に触れる機会を奪った。実に、実に憎たらしい!! だからこそ私は転生しなければならない。――魔法のない、契約のない世界に!! さあ寄越しなさい!! 全ては可愛い女の子の、幼女のために!!!!)


(…………私は髪の毛が好きだから、私のエゴは髪の毛に関係するものだと思っていた……でも、違ったんだね。クリプ……私は貴方を失いたくない。例え、最初は目論見があって近づいたとしても、クリプによって私が救われたのは紛うことなき事実なんだよ……だからね、今度は私がクリプの力になる。もう、クリプには指一本触れさせないわ!!)


(最初は嫌な奴だと思った。岸田さんを平気で見捨てようとして……白崎さんの取り巻きの分際でってね。まさか、地球にいた時や再会した時、私が草子君にこんな想いを抱くことになるとは思わなかったな。……でも、ライバルは多いし、きっと白崎さん達に想いの熱では勝てない。そんなことは分かっている。私は主役じゃない……モブキャラ・ビッチリーダーだってことは理解している。だから、側に居られるだけでいい。――それさえも求め過ぎなんだから。私は草子君の側に居られるだけの力が欲しい。そのためならどんな対価でも支払うわ! 私の命で済むなら安いものよ!!)


(あの時、奴隷だった時の私を草子君は救ってくれた。あの日から、私の草子君の印象はガラリと変わったんだよ。皮肉屋で、謙遜が過ぎて、博識で、ツンデレさんで……私は、ううん、私達はそんな貴方に惹かれたんだよ。だから、このままお荷物では終わりたくない。草子君の隣で、仲間として一緒に帰還したい。――そのためには人間をやめるなんて安いものだよ)


(そうよね……帰りたいって思うのは当然よね。草子君に会って、願いを聞いて、帰りたいって思わなかった自分に驚いた。……アタシ、いつからか家族と関係が悪くなって……ずっと家族と話してなかった。あのまま二度と会えないなんて、そんなの嫌だな……。アタシはあの世界に帰りたい。家族ともう一度やり直したいし、草子君と一緒にいたいという気持ちもある……そのためには今のアタシではダメなんだ。だから、もっと強くなりたいよ)


(最初は嫌な奴だと思っていたけど、まさかこんな風に思うようになるなんてビックリよね。……あの日、嫌な顔をしながらも私のために必死でどう教えるべきかと考えていた貴方を見た時、私の中で貴方の印象が変わったわ。――きっとみんな草子君についていくために超越者(デスペラード)になる……置いていかれる訳にはいかない。私も草子君の隣で一緒に歩みたいんだから!!)


(オトちゃんやアクアちゃん……みんなと別れるのは辛い。でも、それでも私は草子君と一緒にいたいから。――みんなと別れる以上に草子君と離れ離れになるのは辛い。例え超越者(デスペラード)にならなくても草子君なら地球に連れて行ってくれるかもしれないけど、そんなの絶対に許せない。――私だって草子君と一緒に戦いたいんだから)


(((地球に帰って私達の尊い趣味を広めるんだ!! こんなところで負ける訳にはいかないわ!!)))


(志島さん達に出会って私の知らない世界を沢山知った。私はもっと世界を知りたい……そのためにはもっと力がいる! 因果を超えた世界に私を連れて行って!!)


(((サッカーの大会があるんだ!! それまでに地球に帰る!! 絶対にだ!!)))


(かつて草子さんのいた世界を僕も見てみたい。初めて出会えた本当の意味での友人と離れ離れになりたくない――そのために人知を超えた力が必要なら、僕は人間だって魔獣だってやめてやる!!)


((一度死んでしまった翠雨(君)に草子(さん)のおかげで再会することができた。もう二度と、お前の手を離さない!! ()達はどこまで行ってもお前の親友だからな!!))


(能因草子――お前のような人に白崎さん達は任せられない。……でも、今のボクに君ほどの力がないのも事実だ。その事実をボクは許せない。白崎さん達にボクと一緒にいること幸せなんだって認めさせるために、ボクは力が必要だ! そのための力をボクに寄越せ!!)


(((一ノ瀬さんと一緒に前に進むために、()達に限界を超えた力を下さい!!)))


(もう貴方達に頼らない。勇者パーティのメンバーだった私とはもう決別したわ。――私の願いは一ノ瀬さん達と一緒にいること。求めるのは一ノ瀬さん達と一緒に地球という世界に行くための力! ……この力で思い知らせてあげるわ! 私はもう弱くなんかない……付与術師(エンチャンター)だったあの頃の私じゃないんだって!)


(ヴァパリア黎明結社を倒す力を、かくて草子と共に歩む力を我に与へよ)


(全てのショタを老いなどという残酷な運命から守るための力を、新たなショタとの出会いを求める旅に出る力をこの私にとっとと渡すのですわ!!)


 そう、この瞬間――超越者(デスペラード)に至る条件が全て揃ったのである。



 耳障りな、鎖の引きちぎられる音が大音量で聞こえた。


 俺はその新たな超越者(デスペラード)達の産声を聞くと、白崎達の方に振り向くこともなく、そのまま紅葉との戦いに戻った。


「まさかとは思ったけど、全員超越者(デスペラード)に至っちゃったか。……これは結構ヤバイ状況だね。逆風も逆風……台風の中外に立っているみたいな自殺行為だよ。ところで、もし彼女達が超越者(デスペラード)に至らなかったらどうするつもりだったんだい?」


「あっ……それ聞いちゃう?」


 思考領域を分割し、その一つで【時空ト矛盾之極神】を発動。

 瞬間、白崎達に殺到していた人造悪堕ち魔法少女(舞台装置の堕魔)《Hexennacht》、魔法少女ブルーメモリア、上映の堕魔《memory》、人魚の堕魔《sirenomelus》、宝石の堕魔《jewelry》、飴玉の堕魔《candy》、精神の堕魔《mind》が何の脈略もなく抗うこともできずに両断された。


「……びっくりしました。まさか、ヨーグルトソース……じゃなかった。伝説の邪神ヨグ=ソートスと同等の力を持っているとは」


「というか、何で生きてんの? 今のは超越者(デスペラード)であっても死ぬやつだったんだけどさ。……お前の超越技は魔法少女や元魔法少女……要するに魔●やサイト管●者、果ては引退した魔法少女に至るまでに超越者(デスペラード)の性質と【魔法無効】を貫通する効果を付与する感じの超越技じゃなかったの?」


「ああ、魔法少女は超越する-Magical girl transcends-のことね。一つだけ付け加えると『超越技を掛けた魔法少女の完全な支配が可能となる』って効果があるんだけど。そもそも超越技が一つなんて誰が決めたんだい? この世は万物流転――それなのに魂やエゴが変化しないなんてそんなことがある訳がないじゃないか。僕のもう一つの超越技――より高みを目指すために捧げられる供物-Make a magical girl a precious sacrifice-は【青い魔法少女の記憶】を取り込んだことで解放された新たな超越技で【青い魔法少女の記憶】を一つ生贄に捧げることで消滅以外の致死量ダメージを受けても蘇生することができる。まあ生贄に捧げるといっても魔法少女の記憶を捧げるだけで手に入れた魔法は使えるんだけどね。……つまり、僕は取り込んだ青い魔法少女の記憶の数だけ生き返ることができるんだ」


『…………その魔法少女ってのは、異世界から召喚した魔法少女ってことかな?』


「察しがいいね、マスコット。その通り――【青い魔法少女の記憶】となった魔法少女は全て異世界から召喚し、僕の血肉となった。きっと彼女達も本望だろうよ。だって、大いなる研究の礎になれたんだから!!」


『『魔法少女ブルーメモリア! 貴様だけは絶対に許さない!!』』


「それって君に言えることじゃないと思うけどな……普通の生活を送る筈だった少女を騙して魔法少女し、その心を疲弊させて自殺に追い込んだ。魔法少女をただの装置としてしか見てなかったフリズスキャールヴの端末が」


『僕達の罪は理解しているよ。決して許されるものだとは思っていない……。すり替えるな、お前の、いやお前達のやっていることはただ知的好奇心を満たすためだけのもの。そのために、なんの生産性もなく魔法少女を研究し、ゴミのように捨てる。貴様が僕達のことをとやかく言える立場にないことくらい理解できるだろ!! お前は、お前は、未来ある魔法少女を、沢山の少女の命を奪ったんだ』


「だから何? この世の全ては僕に研究されるためにある。科学者にはこの世界の全てを研究し、真理を求める権利がある。この世の全てが僕達の研究対象であり被験体なんだよ! 被験体が何故研究者に逆らう? そんな権利があるとでも? 大人しく研究され、大いなる進歩の礎となるがいい! それがこの世界に万物が生まれた理由なんたから」


 クリプじゃないが、俺も紅葉やブルーメモリアを絶対に許せない。

 吐き気を催す邪悪? そんなチャチなものじゃねえ。

 最早生きる価値さえない害悪――己の知的好奇心を満たすために不幸を撒き散らすマッドサイエンティストだ。


「……アイリスさん、白崎さん達と協力してソイツの息の根を絶対に止めろ。これが最後にして最大のチャンスだ。――コイツを取り逃がせば第二、第三の犠牲者が出る」


『勿論…………絶対に許せない。犠牲になった沢山の魔法少女達のためにも、コイツの息の根を止める』


「ハハハ、できるものならやってみろ! フリズスキャールヴ産魔法少女――お前も僕のモルモットだ! すぐに黙らせてそこのマスコットと一緒に解剖(バラ)してやる」


 さて……こっちもそろそろ紅葉戦に集中しないといけないな。



「死したる者を喰らい尽くせ、侵食する餓えた暴食――【貪食ト支配之魔神】!!」


 【貪食ト支配之魔神】を影のように薄く張り巡らせ、HPゲージがゼロになっている死体――人造悪堕ち魔法少女(舞台装置の堕魔)《Hexennacht》とブルーメモリアの悪堕ち魔法少女(ドッペル)、そしてフルゴルエクエス・メタフィジカルを飲み込む。

 ついでだからセーフェル=イェツィラーを付与した俺の分身も食らっておく。……まあ、ここまで来たら必要ないからね。


 さて、エルヴァダロット達も避難したことだし、そろそろ戦闘も動くだろう。――紅葉とブルーメモリアもそんなに長々と戦いを続けたくはないだろうからな。


「ボクの一鬼夜行、一鬼夜行-縮閃-、十鬼夜行、百鬼夜行、千鬼夜行、万鬼夜行、億鬼夜行――その全てを往なすとはね。流石は、というべきかな。だけど、これはどうかな?」


 瀬島の大魔符綴りから一枚を使ったのか? 神刀ダイオニキリマル禍鳴に無色透明の高密度エネルギーが宿った。


「瀬島新代魔法……斥力の刃、止められるか?」


「〝全ての魔法を粉砕せよ〟――〝マジカル・デモリッション〟」


 エルダーワンドを刀剣のまま魔法を発動――鈍色の魔法陣が生まれ、斥力の刃に向かって放たれるが……。


「……消えない? まさか、この世界の魔法とは全く別種のものなのか!?」


「その通り、霊輝(マナ)と呼ばれるエネルギーを精霊に手渡して発動する術――攻撃的なものを魔術、防御的なものを法術と呼び、総称して魔法、又は原初魔法と呼ぶ。それは瀬島家によって瀬島新代魔法でも同じ――だから魔力によって発動した魔法を破壊する魔法では無効化できない。丁度、精霊魔法や魔法少女の魔法を君の魔法で分解できないようにね。ちなみに、瀬島の魔法は【魔法無効】を貫通することはできないけど、【魔法無効貫通】の効果でボクの攻撃は君に届く。……さあ、どうする? ボクの剣は万物を貫けるよ?」


「……これはキツイな。……悪いがこれで終わらせてもらうぞ。【冥府之神】!!」


 【冥府之神】の奥の手を発動すると同時に歪んだ時計が現れた。


「……死ね」


 宛ら即死チートの如く、或いは名前を呼んではならないあの人が冷酷に告げるように、呪われた言葉を呟く。


 瞬間、Ⅻから針が動き出した。


「……一体、何をするつもりなんだ? ボクには【即死無効】がある」


「まあ、ゆっくり味わえよ。人生最後の十二秒間を――」


 一合、二合、三合――究極を超えた挙動で切り結ぶ。

 さあ、これで終わりだ。


 そして時計がⅫになり、俺の発動した即死スキルが発動する。

 これこそが、【冥府之神】の奥の手――【万物を殺すための十二秒-Twelve seconds to kill everything-】。

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