魔王城にて⑤-ジュドヴァ=ノーヴェ二大魔戦争 究極を超えた挙動-
異世界生活百四十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王都市ジュドヴァ、魔王城
【三人称視点】
「本当に悲しくなるわね……貴方達みたいな連中を本気で守ろうとしていたなんて」
コンスタンスの言葉には落胆が篭っていた。
自分を捨てた者達……共に魔王を倒そうと心に誓った者達の醜い姿に、愛想を尽かして袂を分かち、もう赤の他人だと考えていたコンスタンスも、かつての記憶がフラッシュバックし、軽蔑と落胆の感情が心の裡から湧き上がってくる。
「草子さんは『フルゴルエクエス・メタフィジカルと災神級魂化者のことは任せる』と言いました。フルゴルエクエス・メタフィジカルは無効化スキルがありますから、属性攻撃スキルを持たない面々では危険です。【分解のオーラ】が使える聖さん、【法則ノ王】と精霊の力が使えるリーファさん、マルドゥークの武器を持っている八房さん、陰陽術使いの常盤さん、妖術使いの志島さん、雷使いの一さん、属性矢が使える柊さん、雪乃さん、僕でフルゴルエクエス・メタフィジカルを。災神級魂化者達は白崎さんをリーダーに、朝倉さん、北岡さん、ロゼッタさん、イセルガさん、柴田さん、ミュラさん、照次郎さん、孝徳さん、一ノ瀬さん、ゼラニウムさん、コンスタンスさん。回復は高津さんとジュリアナさん。防御はジューリアさんと岸田さん。メーアさんには遊撃をお願いしたいのですが……僕が指揮を取ってよかったのでしょうか? よくよく考えると白崎さんが適任だったような」
「何故か毎回指揮を任されるけど、レーゲン君やロゼッタさんの方が向いていると思うよ。……でも……その作戦、訂正した方が良さそうだね」
「そうですね」
白崎の言葉にレーゲンも同意を示す。
「【――敵捕捉。これより殲滅に移ります。――【調息】によるプラーナの生成を確認。【纏気】の発動を実行……成功しました。対レオーネ戦を軸に戦術を形成……四万手先までフルゴルエクエス・メタフィジカルの行動予測を完了。――これより、オートバトルモードに移行します】」
漆黒の悪魔のような翼と純白の天使のような翼を持つ、目に幾何学模様が浮かんだ能因草子と色が反転したような存在が、全ての神通力を解放し、構える。
「あれは……セーフェル=イェツィラー、草子さんの叡智核ですね」
『あっ、予定変更。セーフェルがフルゴルエクエス・メタフィジカルを全部引き受けるから全員でバカな勇者パーティと残り一匹をぶっ潰して』
「……草子さん、こっちまで視野を広げるって相当余裕そうですね」
『あのな、これのどこに余裕があるっていうのかね。セーフェル=イェツィラーの思考分割利用してブルーメモリア一派にまで気を配らないといけない上に、この人絶対におかしいし! なんなの! 絶対にモブキャラの仕事じゃねえ!!』
『本当に失礼だね、君は。こんなに可愛い女の子に二股をかけて、そのうえまだ浮気するなんて。その余裕な顔が心底うざいよ』
『同意です。――大人しく沈みなさい、能因草子!!』
『うわ……ということで、流石に今回はそっちに気を配れなさそうだから、災神級魂化者は流石に全部潰してもらわないと困るな。…………うりゃぁぁ!! もうどうにでもなりやがれ!!!!』
草子の援護は期待できない……これまで心のどこかでは草子の援護を期待していたレーゲン達にとっては大打撃だ。……だが。
「僕達は足手纏いになりたいんじゃない……草子さんと一緒に戦える。草子さんに期待されている。なら、草子さんの援護がなくても関係ない。僕ら自身の手で災神級魂化者を倒せばいい」
漆黒の薔薇で形作られた人型が中心部、無数の棘と刃が生えた格闘家が左胸、漆黒の醜悪な聖女が背中、巨大な剣を持った三メートル級の漆黒の無貌の騎士が左胸、巨大な剣を持った三メートル級の漆黒の髑髏の騎士が肋骨の中――そこに呪核がある。
『『『コンスタンス、よくも俺達を!!』』』
『雌豚の分際でこの私に……絶対に許さない!!』
「……全員で一斉に呪核に攻撃する。あんな奴ら、付き合ってあげる必要はないわ」
コンスタンスは絶対零度の視線をかつての仲間達に向けつつ、魔力を高めていく。
「――〈刻撃〉」
「――洌流の斬雨」
「確率操作――確定斬撃・九烈斬閃」
「不可視剣舞」
「〈飛び出す骨牌〉――〈唐突な爆発〉!! 命中確率百パーセント!!」
「――【守護者の盾】」
「天より降り注ぐ神の光! ――大軍用殲滅兵器《ヘーリオス》」
「――颶風の晶鋼破魔矢ッ!!」
「十二天を統べる将よ! 我が求めに応じ、十万億土の彼方より〝十二天式符〟の元に現れ、我にその力の片鱗を与え給え! 〝後一天后水神家在亥主後宮婦女吉将〟――急急如律令!」
「十二月を統べる将よ! 我が求めに応じ、十万億土の彼方より〝十二月霊符〟の元に現れ、我にその力の片鱗を与え給え! 〝開門せよ、宝瓶宮〟」
「オトちゃん! アクアちゃん! 力を貸して!!」
『任せて! すとりーむ・おーしゃんッ!!』
『お任せください! おせあん・どらごんッ!!』
「――〈流河水葬〉」
「〈勾玉顕現・妖狐憑依〉!! 〝紅煉の世界の灼熱よ! その熱で全てを焼き尽くせ! 一切合切を焼き尽くして浄化せよ〟――〝灼熱世界〟」
「降り注げ、地を焦がす稲妻。災いを齎す竜となれ」
「六属性矢――乱射撃」
「〝万象を滅却する波動よ! 相反する相剋の力によりて顕現し、その力を思う存分揮い給え! 灰は灰に塵は塵に戻りて万物須らく円環の輪へと還る。今こそその輪を外れ、滅びの道を進み給え〟――〝破滅の波動〟」
「「「「収束して迸れ、魔を滅する聖剣技――《夜明けを切り開く明星》」」」」
「我が手に集う暗黒よ、全ての希望を塗り潰せ――《光を塗り潰す絶望》」
「〝超重力〟」
「死出の案内仕りまで送りましょう!」
「〝漆黒の雷内包する嵐、今大地を削る竜巻となりて塵一つ残さず殲滅せよ〟――〝複合魔法・デスストーム〟」
「青薔薇之姫・蒼雪をセット! 虹薔薇の魔術!!」
「〝神聖なる輝きよ! 邪悪を貫く槍となれ〟――〝聖光収束極槍〟」
「占い師の堕魔《fortune Lady》、槍使いの堕魔《cercueil》!!」
「――二鎗之飛刺」
「――水晶之加速」
「〝双星顕符〟」
「――太極光闇飛斬」
「我が絶対零度の冷気を受けて死になさい! 我が四天王領で暴れる意味不明な存在よ!! 【エターナルフォースブリザード】!!」
「〝付与は新たな境地に到達した。環境を変え、気候を変える力は最早付与術にあらず〟――〝高位付加術〟。――〝宙神の星座崩し〟」
まさに天変地異――エルヴァダロット、アストリアリンド、リーリス、オウロウが驚愕のあまり気絶しそうになる大火力が災神級魂化者を消滅させる。
『…………へぇ、なかなかやるね』
ブルーメモリアが舌舐めずりをした。
◆
異世界生活百四十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王都市ジュドヴァ、魔王城
予備動作や初期動作などの無駄な動き、不要な力み、精神の揺れを一切廃し、全身の筋肉を一斉稼働させることによって0から100の速度を一瞬にして出す合理的に計算し尽くされたただ斬るという一点に収束し尽くされた究極挙動に至りし斬撃。
動いた時はもう斬り終わっている……ということはない。
そもそもこれはインフィニットと全く同じ領域――究極の挙動に至りながらも全くの対局に位置するものだから。
領主ガ●フォードの斬撃も《比翼》の剣も迷●皇の斬撃も……そして、その全てを凝縮し圧縮して昇華させた【究極挙動】も全ては一撃で敵を仕留める……ただそれだけのために研ぎ澄まされた剣だ。
まあ、当然だよな。戦いを長引かせるのは得策じゃない。
敵を殺すために、確実に敵を仕留める最速の一撃を求めるのだから。
だからこそ、紅葉の剣は一層非合理的に見えてくる。
しかし、その非合理さすら合理性で飲み込み、インフィニットと同種ながら全く別の境地に至った。
「打ち込む角度や強さなどをあらかじめ決めておき、何万回も訓練することによって自身の思考を一切廃して限界を超えた圧倒的な速度で打ち続けることを可能にした連撃の極致……そこに予備動作や初期動作などの無駄な動き、不要な力み、精神の揺れを一切廃し、全身の筋肉を一斉稼働させることによって0から100の速度を一瞬にして出す合理的に計算し尽くされたただ斬るという一点に収束し尽くされた究極挙動に至りし斬撃の要素が加わり、究極の挙動は更なる高みへと昇華する。……【究極挙動】で連撃を放つのとは同じようで全くの別物……つまり、無意識によるオートの斬撃で究極の挙動を更に厄介なものへと昇華させたってことか。しかも、唯一あるオート攻撃故の途中で止められないという欠点も0.05秒でも十分並外れたものなのに、それ以上の速度の反射神経で完全に制御し、オートとマニュアルを組み合わせて最悪の状況にも対応する。……もうこれは一つの極致だね。流石にこれを模倣するのは無理だろうな」
「まあ、ここまでのものを積み重ねるために大倭秋津洲帝国連邦とこっち……合わせて二千年か三千年は費やしているからね。そんなものをたった一瞬で掠め取られるってのはちょっと許せないかな。……実はボクって異世界憑依をする前から人間じゃなかったんだよ。……人間によって作られた鬼でも、異国の者を知らない者達が鬼として扱った訳でもない。――正真正銘の鬼という種族だった。だから、最近だと《鬼斬機関》なんて呼ばれる旧《鬼部》の鬼斬連中に追われたりね……でも、私達なんかよりもっと化け物な者達が居たんだよ。選民救世教、三位聖霊教、最終予言教の地下組織が統合され、宗教から独立したことで誕生した対魔女法術機関《聖法庁》――十字軍遠征の裏で起きた魔女と《聖法庁》の法術師、そして悪魔と天使を巻き込んだ聖魔戦争……確か、天魔対戦とも呼ばれているんだっけ? 西洋では瀬島という魔女の家系はそこから逃走した臆病者なんて言われているが、実際は違う……あれは混乱に乗じて可能性を増やすために大倭豊秋津島国に移動したんだ。私が瀬島さんに出会ったのは大学に入ってすぐ……あの頃はまだただのオカルトサークルだったっけ? 私が初めて当時二年生だった瀬島さんに会った時、絶対に勝てないと思った。鬼斬にだって怯えを抱かなかった私が、あの人だけには本能的な恐怖を抱いた。……瀬島さんは人間じゃない。人の言葉で形容できる存在ではない……だから彼女に服従した訳じゃないよ? 彼女がボクを利用しようとしたようにボクも彼女を利用した、それだけの関係。あの晩期のオカルトサークルは欲望と打算が渦巻いていた。あの気持ち悪い男だけだよ、瀬島さんに純粋に従っていたのは。まあ、あれはあれで人間だとは思いたくないけどね。……あんなキモい生物が人間な訳がない。鬼を斬るものがいるのに、なんでキモい人間を斬る機関が存在しないんだろうね?」
「それについては同意するよ。……しかし、饒舌だな。いいのか? ペラペラ喋っていて」
「生憎とボクには心を許せる友達が一人しかいなくてね。だから自分語りに飢えているんだ。……話を戻すけど、ボクの剣は鬼斬と戦っている時からのもの……勿論、瀬島さんの圧力で《鬼斬機関》から狙われなくなってからも、D.D.Dでこの世界に来てからもずっと研鑽を辞めなかった。ボクにとって剣とは自分の半身みたいなものだ……いや、もう魂そのものかもしれない。だからね、ボクから言わせればボク以外の全ての剣士がひよっこなんだよ。だから、スキルでボクの力についてこれるからって粋がるな!! そんな努力で手にした訳でもない力を振り回していい気になるな。そういう連中がボクは大っ嫌いなんだよ!!」
インフィニットからは馬鹿にされ、紅葉からはキレられ……いや、どんだけ評価が低いんだよ、俺。
まあ、モブキャラなんだけどね。はいはい、どうせ努力だけ●報われる残酷な世界を使われたらほとんど何もできなくなるモブキャラですよ。
それを理解しているから【究極挙動】や【不可視】の動きをなぞって自分の身体で、スキルアシスト無しに使えるようになろうと頑張っていたけど、紅葉からしてみればそれは邪道もいいところだろうね。
一合、二合、三合……千合……万合……億合。
未来を予知し、心を読み、演算し、見極めた一手で紅葉の攻撃を一つ一つ丁寧に受け止める。
それと同時に人造悪堕ち魔法少女《Hexennacht》の遠距離攻撃を【法則ト靈氣之神】で相殺する。
白崎達は災神級魂化者を倒したみたいだな。フルゴルエクエス・メタフィジカルも残り一割といったところか。
「なかなかやりますね。やはり、雑魚な勇者を実験に使ったところで大したものは作れませんか。……次は貴方達を素体に《魂化者》を作るとしましょうか?」
ちっ……ブルーメモリア。流石に超越者相手に二対一はキツイ。
これは……いけるか? 白崎達を生き返らせる……一度死ぬことを前提にしても間に合うか?
或いは【時空ト矛盾之極神】を使って……それなら、なんとかブルーメモリアを止められそうか?
「みんな!! 流石に紅葉の相手をしている今の俺だとブルーメモリアの方まで手が回らない。一応奥の手があるが、そっちでなんとかしてくれ」
「なんとか、って、一体何を? 草子君、相手は超越者なのよ!!」
「だからどうした? 白崎さん達の気持ちはその程度なのか? 超越者にも至れない、その程度の価値しかないのか? まあ、それなら白崎さん達の気持ちとやらはその程度ってことだよな。こんな俺でも超越者に至れたんだ。それが選ばれし勇者様とそのお仲間に至れない訳がないよな。ふふふ、あはは、やっと証明されたじゃねえか! それが真実だよ! 俺のようなモブキャラを好きになる訳がない、そんな気持ちはまやかしだってな」
「……こんな時に仲間割れ? いや、違う。ブルーメモリア、気をつけて。この状態で仲間割れのような言葉はフラグだ!」
「分かってます紅葉さん! 殺れ! 人造悪堕ち魔法少女《Hexennacht》!!」