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能力七十パーセント模倣ではただの器用貧乏と解釈されても致し方ないのかもしれない。

 異世界生活百四十七日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王領ケムダー


「…………うっ…………酔いました」


(〝汝らの平衡感覚を正常に導け〟――〝平衡制御フィック・オブ・バランス〟)


 車から降りたフェールムの分体に何度目になるかは分からない酔い回復魔法を掛ける。


「とりあえず、一言。もう二度と車には乗らないでください」


「……はい」


 撃沈したフェールムと共に詰所に移動。


「……何故、人間がここに……って、フェールム様!!」


「初めまして、能因草子と申します。アポ無しで来て申し訳ございません。こちらの魔王軍幹部様にご用があって参ったのですが、フェールム様に本日会談があるとお聞きにしまして、ついでに乗せてきて欲しいと依頼されましたので乗せて参りました。……しかし、魔族って酔いやすいんですね。前に鳥魔人(ハルピュイア)のミュネーム=シュラフェスさんを乗せた時も酔ってたし……」


「……あの……こういう乗り物に乗ることに慣れていないからではありませんか? 私も角獣車に乗ったことがありますが、ここまで酔いませんでしたし……」


「ということだけど、その辺りどうなの? カオス勢も特に酔っている様子はないけど」


 リーファとかケロっとしながらBL本を読んでいるからね……いっそ酔えばって思うんだけど。


「…………怪しい人間ではないのかもしれませんが、上司に報告してから対応を検討させていただきます。フェールム様はこちらへ」


 ということで、待ち惚けの刑。とりあえず、魔導式駆動四輪《Liacdlac(リアクドラック) Organum(オルガノン)》を異空間にしまってから、暇な時間にクリプにあれを渡すことにした。


「クリプさん、アイリスさん。一応試作品ができたよ」


「…………試作品ってなんですか?」


「何って魔法少女強化プログラム――BATTLE SONGを改良して負荷を極力減らしたものだよ。Alchemy Song……ASと名付けたシステムで、Nigredo(ニグレド) Albedo(アルベド)Rubedo(ルベド)の三段階がある。黒→白→赤と出力の段階を調整できるけど、Rubedo(ルベド)に近づくほどエネルギー負荷を避けるための変身の自動解除が近づいてくるから仕様には最新の注意を払う必要があるな。システムのほとんどを書き換えたから流石にすぐ敵さんに解析されることは無いと思う。一応、クリプさんに渡しておくよ」


『これは……凄いシステムだね。大いなる業の三段階かい? しかし……このシステムにウィルスのようなものが仕組まれていたら……』


「俺がそんなことをすると思ったか? 地球に帰るまでアイリスさんは俺の仲間だ。誰が認めなくともな。……それに、そんな意味不明な真似をしてなんの意味がある? 俺には一銭の得もないんだよ」


『そ、そうリプよね……いや、僕達みたいに魔法少女のシステムにエネルギーを回収するプログラムを組み込むような非道な真似をする必要はないし、そんなことをするような性格じゃないリプよね……本当にすまないリプ』


 というか、本当になんなんだろうね? クリプって。

 アイリスと初めてあった頃のクリプはキュ●べぇみたいな人の情を理解せず正論ばかりを語りかける俺達人間が理解できない存在だったのかな?


 ……まあ、異世界カオスの連中も超越者(デスペラード)に至るような連中は本当に何を考えているか分からなかったりするんだが……というか、超越者(デスペラード)になっている時点で人間じゃないよね!! いや、俺はただのモブキャラだから関係ないけどさ。


「そういえば、アイリスさんの魔法少女プログラムは書き換えなくていいの? なんか最近は悪堕ち魔法少女(ドッペル)を召喚して戦うのが魔法少女のトレンド? みたいだし……」


『……その悪堕ち魔法少女(ドッペル)ってのは、僕達の世界の魔法少女には無かった概念リプよ。解析してみたことはあるけど、同じ言語なのに別世界の言葉で書いてあるみたいに意味不明だったリプ。……勿論、強化できるのならそれに越したことはないと僕自身は思うリプよ? でも、それを決めるのはアイリス、リプ』


「クリプ……強くなれる方法があるのなら、試してみたいな。草子さん、お願いできますか?」


「了解。じゃあ、ちょっと待ってて……」


 【叡慧ト究慧之神】を発動してカオス産魔法少女のデータを解析する。

 そういえば、カオス産の魔法少女にはエネルギーを搾取するシステムが存在しないんだっけ? まあ、魔法少女になる時の願いのエネルギーや光堕ちや悪堕ちした時に発生する莫大なエネルギーを情報思念体フリズスキャールヴに供給する必要はないからね。


「完成かな? とりあえず、クリプさんに完成したデータを渡しておくよ」


『……なるほど、そういうことリプね。情報思念体フリズスキャールヴにエネルギーを供給するシステムは必要ないから外して、光堕ちや悪堕ちという概念そのものを消滅――自分の影のような存在である悪堕ち魔法少女を使役できるようにする……改めて見ると、新世代の魔法少女を作り出した連中がどれほど凄いかよく分かるリプよ。だからこそ……僕は連中を絶対に許さない』


 クリプは自分達――情報思念体フリズスキャールヴの行いに対しても否定的で、アイリスに対しても申し訳なく思っている一周回ってまともなマスコットキャラクターになっている稀有な存在だ。

 だからこそ、生存のためにはどうしても魔法少女からエネルギーを搾取しなければならなかった情報思念体フリズスキャールヴとは異なり、ただ興味本位で魔法少女を研究し、改良し、弄ぶ連中を――ヴァパリア黎明結社を許せないのだろう。


 キュ●べえも俺達の価値観ではゲスだが、クリプから見ればやむ終えない部類に入るのだろうし、俺もそれに関しては同意する……まあ、魔法少女にされた連中からしてみれば人間をやめさせられているんだから到底許せないだろうけど。

 だが、ヴァパリア黎明結社の連中がしているのは、「魔法少女たちが殺しあう様子を見たいが為に、特権を行使してルールを捻じ曲げていた」フ●ヴのような非生産的かつ利己的なことだ。


 自己中心的な性格ということに関してはレイ●・ポゥのマスコットのトコに関しても共通するが規模が全然違う……まあ、あれも自分達の隠れ蓑として関係ない人達を巻き込んで、結果的に大量死を出したから大概だけど……でも、背後にはお嬢がいたからな。大体コイツのせいは全てお嬢に行くし……なんの話だったっけ?


 ああ、ヴァパリア黎明結社は許さないって話だったね。俺も許さない……とは少し違うけど、取り逃がすつもりはないよ?

 必ず地の果てまででも追いかけて、追い詰めて、地球に帰還するための鍵――【永劫回帰】を手に入れる。


『とりあえず、草子からもらった二つのプログラムをインストールしたリプ。つまり、今のアイリスは情報思念体フリズスキャールヴ産の魔法少女では無くなったということリプね』


「ついでに言うとヴァパリア黎明結社産の魔法少女でもない。連中に書き換えられないように独自のプログラムに変化させているから、第三世代――オリジナル魔法少女とでも名付けよう」


『要するに、草子産魔法少女ということリプね』


 ……やめろ。俺がキュ●べぇとか、フ●ヴとかトコとか、田中先生とかと同類だと思われるじゃないか……いや、初代ラ●リーヌはやっていることはどうであれあんまり嫌いではないんだが……。


「能因草子ご一行様、謁見の許可が出ましたのでどうぞこちらへ」


「お迎えも来たようですし、行きますか。それでは、クリプさん。何か問題があったら修正を加えるから遠慮なく言ってくれ」


『勿論だよ……しかし、本当に君は凄いね。情報思念体フリズスキャールヴが何千、何万という年月をかけて少しずつ改良を重ねていった魔法少女をここまで一気に変えてしまうのだから』


 いや、俺は大したことをしていないんだけどね。どっちかっていうと、ヴァパリア黎明結社の技術力の方が意味不明だよ!

 というか、連中の技術力ってどっから来ているんだろう? ……もしかして、別の世界線の地球とか?



「Schön dich kennenzulernen(はじめまして)。魔王領ケムダーを統括するランドーゼ=ヒューレノムで〜ございます。Ich habe den Inhalt des Briefes erhalten(書状の件は承りました)、私も流石に《大罪の七獣(セブンス・シン)》をどうにかで〜きませんし、魔王軍四天王にいる可能性が高い裏切り者と暗躍している仮面の者達や魔法少女はも〜と無理そうですか〜らね。Ich werde ein Streichholz erhalten(結界を賭けた勝負も受けましょう)」


-----------------------------------------------

NAME:ランドーゼ=ヒューレノム

LEVEL:800

HP:500000/500000

MP:500000/500000

STR:400000

DEX:300000

INT:300000

CON:300000

APP:1200000

POW:300000

LUCK:1000


JOB:上位模倣者グレーター・ドッペルゲンガー


TITLE:【魔王軍幹部】、【万の顔を持つ無貌】


SKILL

【外観模倣】LEVEL:600

→外観を模倣するのが上手くなるよ! 【形態擬態】の上位互換だよ!

【能力模倣】LEVEL:10

→外観を模倣した対象を七十パーセントの状態で模倣するよ! 能力を模倣できる数は一レベルにつき一体だよ!

【ジュドヴァ=ノーヴェ語】LEVEL:600

→ジュドヴァ=ノーヴェ語を習得するよ!

【掣肘】LEVEL:600

→掣肘が上手くなるよ! 【威圧】の上位互換だよ!

【覇潰】LEVEL:600

→覇潰が上手くなるよ! 【覇気】の上位互換だよ!


ITEM

・眼帯

→眼帯だよ!

・漆黒の軍服

→漆黒に染められたの軍服だよ!

・義手

→義手だよ!

-----------------------------------------------


 うわ……マジかよ。そのときくろれきしがうごいたじゃねえか。しかもドイツ語だし……一応翻訳出ているけど、思わずドイツ語の方で読んじまったよ!!


 というか、凄い厨二病。眼帯に漆黒の軍服と軍帽……そこに卵のようなツルッとした顔に落書きしたような黒丸が見える範囲に一つと眼帯の中に多分一つ……そして、くそっ、静まれ俺の腕よっと言いたげな右手の義手……やべえな、コイツぅ。


「……Enchanté, je m'appelle Soshi NOIN. Merci pour votre compréhension. Alors, commençons le match tout de suite?(はじめまして、 能因草子です。ご了承くださり、ありがとうございます。――では早速勝負をはじめましょうか?)」


 …………あれ? ランドーゼや同席していたフェールムがポカーンとしているんだが……何かまずいことをした?


「草子君……なんでドイツ語に対してフランス語で返しているのよ!! しかも、それ【ジュドヴァ=ノーヴェ語】がドイツ語に変換されているだけだからドイツ語で返しても通じないわよ……多分」


「Comment vous appelez-vous?」


「Je suis Sei TAKANO.――って、【言語理解】があるからあたしが答えられるのは当然なのよ!!」


 いや……迷宮の職質では答えられなかったから随分と進歩していると思うよ?


「……はじめまして、 能因草子です。ご了承くださり、ありがとうございます。――では早速勝負をはじめましょうか?」


「やっと分かるようになりました……さっき、【ジュドヴァ=ノーヴェ語】で話していませんでしたよね。それに、人間の言葉とも少し違うような気がします」


「フェールム様のご想像通り、さっきのは俺達の世界……この世界からすると異世界のフランスという国の言葉です。俺の母国でも話せない人がかなりいるので、分からないのも致し方ないかと」


「……それを見ず知らずの女子中学生との一対一の職務質問でするんだから、相当変わっているよね、草子君って」


 「お前迷宮で何やっていたんだ!」とか「草子君と二人っきりでいいな、聖さん」とか「女子中学生に迫るとか最低な男だね、草子君は」とか小声が聞こえてくるんだが……俺は一ノ瀬、お前ほど腐ってはいないと思うぞ?


「では、改めて勝負をしましょうか? まず、条件ですがランドーゼ様は上位模倣者グレーター・ドッペルゲンガーのようですので、当然何かに変身して戦うと思われますが、ネタバレは厳禁でお願い致します。まあ、要するにまだ回っていない魔王領アィーアツブス、魔王領キムラヌートの魔王軍幹部、魔王軍四天王、魔王以外に変身して戦って欲しいということです」


「……七十パーセントの状態で模倣するランドーゼさんが戦っていない魔王軍幹部や四天王を模倣すれば、相手の対策を立てることができると思うので、草子さんにとっては得だと思うのですが……」


「草子は魔王軍幹部との戦ひを楽しめる節あり。ぶっつけ本番に再現されし状況に戦いて、その中に知恵を絞らばや……その提案はさる草子の案に水を差すことに他ならばなし」


 流石はジューリア。付き合いが長い分、俺の考えを分かっていらっしゃる。


「Ich verstehe Lasst uns unter dieser Bedingung kämpfen!!(分かりました。ではその条件で勝負致しましょう!!)」


 ……ドイツ語なのは変わらないようだ。


【――システム起動。《神代空間魔法・夢世結界》の発動、完了しました。耐性及び無効スキルの無効化、超越者(デスペラード)の優位性無効化、HPゲージの表示完了しました】


 中空に画面が生まれ、エンリの姿が映し出される。


「Imitation:ヴァルルス=ルナジェルマ。〝不可視の地雷よ、不可視の空中機雷よ、我が敵の行く手を阻め〟――〝不可視の天地雷原ダブル・キラー・マイン〟」


 最初はヴァルルスか。序盤から強力な魔法職で攻めてくるつもりか。


「〝世界という名の盤上に干渉せよ! 位置という概念を支配し、我が思い通りに駒を配置せよ〟――〝再配置-game reset-〟」


 ここは定石通りに。〝不可視の天地雷原ダブル・キラー・マイン〟を選択して全て同じ位置に移動――その全てを重ね……って今気づいたけど、前にヴァルルスにやった時とは違うね。まあ、いいけど。


 重なりあった〝不可視の天地雷原ダブル・キラー・マイン〟はトラップに〝不可視の天地雷原ダブル・キラー・マイン〟が引っかかるという意味不明なことが起きたので何もないところで大爆発し、無効化された。


「〝森羅万象を分散し、五素を取り出し、顕現せよ。劫火、暴風、冷気、雷撃、水流――五素の力よ、今こそ荒れ狂って破壊をもたらせ〟――〝五素顕現(アポカリプス・ペンタ)〟」


「【空間之神】!!」


 【空間之神】を発動して、俺とランドーゼの位置を入れ替える……これで、終。


「Unerwartet … es war ziemlich schmerzhaft(まさか、こんな手を使ってくるとか……かなり痛かったです)」


 お、おう……意外とタフだな。HPの半分くらい吹き飛んだか。


「Imitation:ヘズティス=ソードルケーター。汝に死の宣告を!」


「〝嗚呼、我らが崇拝し主よ! その加護により我らが身に降りかかる凡ゆる厄災を祓いたまえ〟――〝聖祈之祝福セイクリッド・ブレイクスペル〟」


 凡ゆる状態異常を無効化する【神聖魔法】で【死の宣告】を振り払い、【不可視ノ王】と【空間之神】で背後に回り込む。


「――hacher(アッシェ)


 これで終了か……七十パーセント能力模倣だったからか案外拍子抜けだったな。

 まあ、これまでに倒してきた魔王軍幹部を模倣しているんだし、そりゃ負けたらどういうことだって話なんだけどさ。

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