流石にモブキャラでも同じ手は何度も通じないよ?
異世界生活百四十五日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王領ツァーカブ
「……死ぬかと思いました」
《神代空間魔法・夢世結界》を解除するとフェールムが青褪めていた……あれ? 《神代空間魔法・夢世結界》内での戦闘の損害は全て消える筈だよね。
というか、ブロムシュテットや侍女達も絶句しているし……いや、普通に戦っただけだけど?
ちなみにカタリナ化は既に解いて、いつものスタイルに戻っている……冴えないモブキャラね……ってホットケー。
「約束通り、結界を解除致します。門の設置はその後に――」
「と、その前に魔法少女の討伐みたいですね。BATTLE SONGを解析して位置を特定できるようになったので常時確認していましたが、今この城の門まで来ているみたいです。……全く『あたしメリーさん。今ゴミ捨て場にいるの……』的な感じで近況報告してくれたらこっちから出向くんだけどな。どうせ狙いは俺みたいだし」
「……あたしの時は最後まで真っ向無視したのに、魔法少女の時は出向くんだね」
聖が頬を膨らませて剥れているんだが……それ、霊体のJCの姿でやるならともかく、使徒の身体でやるとなんかチグハグした感じになるぞ。
「いや、あの時と違って魔法少女って放置しておくと被害が出るじゃ……あれ? 聖さんも爆弾に火をつけて投げてくるんだからどっちも危険!? というか、迷宮崩落するからあの状況下では聖さんの方が危険だった!? なんで浄化しなかったんだろうね?」
「……今も浄化したいと思っているの?」
「いえ、全然? なんでする必要があるの?」
「良かった♪」
良かったようだ……いや、割と長い付き合いだし、ポンって浄化するのは寂しいしね。それに、使徒の身体で行動しているから幽霊じゃないし。
「じゃあ、とりあえず魔法少女のところに行ってくるんで、フェールム様には結界の方をお願いします。まあ、俺が戻ってきてからでもいいですから。聖さん達はここで待機で」
〝移動門〟を開いて城の入り口に移動する。
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NAME:魔法少女マスケッティア
LEVEL:999
HP:999999/999999
MP:999999/999999
STR:999999
DEX:999999
INT:999
CON:999999
APP:999
POW:999999
LUCK:999
JOB:魔法少女
SKILL
【紐銃聖女】LEVEL:9999
→リボンと銃火器を使って敵と戦うよ!
【ジュドヴァ=ノーヴェ語】LEVEL:10
→ジュドヴァ=ノーヴェ語を習得するよ!
BATTLE SONG
→Ver.1.61.81.03.39。絶唱搭載。
ITEM
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黄色いカウボーイハットにブラウスと黄色いのスカートを合わせたカウボーイ風金髪縦ロール魔法少女? だ……マミさんかな?
しかし、カウボーイなのに剣士じゃないのか? 刀身の存在しない剣は持っていないのか……あれ? カウボーイってそもそも剣士だったっけ? やばい、錯乱している……サク●クラ病?
「貴方が能因草子ね。待っていたわ。……退屈な相手ばかりでつまらなかったわよ。……全く、女性を待たせるなんて最悪ね」
「いや、デートの約束をした予定はないんで遅れたからって文句言われても困るんですが。まあ、せっかくお越し頂いたんでデートくらいはしてあげますが。勿論、行き先は【貪食ト銷魂之神】の中ですよ?」
〝極光之治癒〟と〝死者蘇生〟で負傷者と死傷者を癒しつつ、エルダーワンドを刀剣に変形させて構える。
「うふふ、私のお茶会で貴方が生き残ることはできるかしら?」
胸元につけられたリボンのように見える形の石――プリンセスジュエルが眩い橙の光を放つ。
瞬間、俺は悪堕ち魔法少女の結界に引きずり込まれた。
◆
異世界生活百四十五日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国? 悪堕ち魔法少女の結界内
どこかの宮殿の廊下を彷彿とさせる空間――これが堕魔の結界と言われても俄かには信じ難いよね。
現れたのは桃色、青色、黒色、紫色、赤色、緑色、黒ピンクグラデーションのメイド服と同系色の髪色の使い魔達……とことんオマージュしてくるんだね。
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NAME:お粧しの堕魔の使い魔
LEVEL:100
HP:200000/200000
ΣΑ:300000/300000
STR:200000
DEX:100000
INT:1000
CON:100000
APP:1000
POW:100000
LUCK:1000
SKILL
【身嗜み技理】LEVEL:999999999
→魔法みたいなコーディネートで身だしなみを整えるよ! 本人からかけ離れたありえないコーディネートもできるよ! 元の姿から離れるほどコーディネートの時間がかかるよ! 【散髪技理】と【メイクアップ技理】の上位互換だよ!
【侍女技理】LEVEL:999999999
→侍女の技術を極めるよ! 【調理】、【給茶】、【洗濯】、【清掃】、【奉仕】、【舞踏】、【礼儀作法】の上位互換だよ!
【マーシャルアーツ】LEVEL:1
→格闘術が上手くなるよ!
ITEM
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ってか、使い魔さんじゃなくてスタイラーさんだった。
いや、黒ピンクグラデーションって何だろうって思ったけどそういうことなんだね……いや、別ベクトルでスペック上げてどうするの! 肝心のバトルスキルの【マーシャルアーツ】がレベル一だよ!
なんかお粧しの堕魔の使い魔達が白崎達の姿に変化したんだが、あれか? 仲間に変身すれば俺を止められると、一方的に嬲り殺しにできるとでも思ったのか?
「……随分と舐め腐っているようだな」
エルダーワンドを一振りして、血糊を振り払う。
例え相手が本物の白崎達であったとしても殺すのに躊躇は無かっただろう。
俺の地球に帰るという覚悟は、超越者に至ったエゴはそれほど強いものだ。
他者の超越技の恩恵で超越者の俺にダメージを与えることが可能になったくらいで高が使い魔如きに粋がってもらっては困る。
「【貪食ト銷魂之神】」
使い魔達を捕食して、【身嗜み技理】を獲得した。
……なんか、【散髪技理】と【メイクアップ技理】を統合した方が早かった気がするけど、気にしたら負けだから気にしない。
使い魔達を倒し、流石にこれ以上食べても仕方ないので料理の食材用に異空間に放り込み、そのまま巨大で豪奢な扉のある廊下のどん詰まりに到着。
「【光纏】」
「Enveloppez avec de la lumière/Cercle magique du soleil」
円を描くようにエルダーワンドを動かしてから中心を突くと、円から収束された剣にも見える極光と極光を取り巻く螺旋のような光が放たれた……【闇纏】の時とは違って切っ先は巨大化しないんだな。
扉を破壊し、そのまま突き進む。中は豪奢なお茶会の会場のような場所で、テーブルクロスの掛けられた丸テーブルの一つの上に魔法少女マスケッティアが座り、その机の上に置いてあるカップには小さな堕魔が入っていた。
そして、お粧しの堕魔の使い魔が犇めいている……廊下より密度が濃い気がするが、気のせいかな?
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NAME:お粧しの堕魔《princesse》
LEVEL:1000
HP:300000/300000
ΣΑ:600000/600000
STR:12000000
DEX:1300
INT:19000
CON: 1000
APP:100000
POW:1000
LUCK:10
SKILL
【お粧しの堕魔の呪法】LEVEL:9999
→お粧しの堕魔の呪法だよ!
【憑依】LEVEL:9999
→憑依するのが上手くなるよ! また、憑依している時に姿を変化させることができるよ!
ITEM
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「マスケッティアさん、行儀悪いですよ」
「あはは……この状況でそんなことを言えるなんて随分と余裕そうね。《絶唱》――〈罪装・魔綬少女〉」
プリンセスジュエルから現れた漆黒の嵐が魔法少女マスケッティアを飲み込み、その衣装を黒へと染めゆく。
ところどころ布面積が減った代わりに、ところどころ金属質の装備が追加されたようだ。
ってか、いきなり本気モードかい!! どんだけ初っ端から飛ばすつもりだよ!!
『――Primo tiro/Dispersione di proiettili』
お粧しの堕魔《princesse》が憑依したお粧しの堕魔の使い魔の手からリボンが溢れ、ベイカー銃風の小銃(ただし、カラーリングは白ベースで装飾が施されている)を形作り、放たれた弾丸が拡散した。
「【抗えぬ揺らぎ】、MAX POWER!!」
超重力を解き放ち、弾丸を、お粧しの堕魔の使い魔を、果てはお粧しの堕魔《princesse》に至るまで全てを屈服させた。
しかし、この状況下でも動けるとは流石は魔綬少女だ……最早魔法少女ですらない。
「〈Le Théâtre du Ultime Grand-Guignol〉!!!」
竜の翼で飛び回り、張り巡らせた数百万の【粘鋼撚糸】を全て攻撃に繰り出す。
お粧しの堕魔の使い魔達とお粧しの堕魔《princesse》の本体が入ったカップを切り裂き、カップの中身を【貪食ト銷魂之神】で捕食した。
しかし、邪魔するところまでは至らなかったとはいえ、あれだけの糸の猛攻を躱すとは……《絶唱》とは厄介なものだな。
「不協和音」
まあ、その《絶唱》に関しても無効化する術はあるんだけどね。
これまで捕食した魔法少女から取り出したBATTLE SONGのデータを元に、俺は三つのシステムの構築を急いだ。
まあ、要するにエンリ達に丸投げしたんだけど……。
一つ、魔法少女の位置をBATTLE SONGを元に特定するシステム。
一つ、《絶唱》を無効化するシステム――〈不協和音〉。
一つ、《絶唱》の負荷を無効化、或いは軽減しつつ《絶唱》と同じ効力を得られる新システム。
まあ、三つ目はクリプティットが欲しがったらプレゼントする予定だけど、魔法少女でもなんでもない俺にインストールをしたところで意味がないからね。……魔法少女と親和性が出るようにデザインされ直しているみたいだし。
「――まさか、《絶唱》を解除するなんて!! でもまだ終わった訳ではないわ!! ――Primo tiro/Dispersione di proiettili! Secondo tiro/Fuoco continuo! Terzo tiro/Ala di uccello! Quarto tiro/Tempesta di tuoni! Quinto tiro/ Esplosione! Tiro finale/Grande artiglieria!!」
拡散する弾丸に、連射に、翼を広げた鳥型の砲撃に、雷を纏った弾丸に、巨大な砲台から放たれる巨大な弾丸に……いや、詰めに詰め込んだね。
まあ、全て【宅警ノ王】の多種類結界で防いだけど。
正直、《絶唱》強化モードの魔法少女の攻撃ならともかく、ただの魔法少女の連撃くらいなら【宅警ノ王】でも防げるんだよね。
「――nastro elastico」
【堕魔ノ王】を発動し、【お粧しの堕魔の呪法】で床を通して魔法少女マスケッティアの足元にリボンを発生させる。
高速で伸びたリボンは魔法少女マスケッティアに絡みついた。
「【接触吸魔】、【接触吸勢】――統合。【接触吸力】!!」
【接触吸魔】と【接触吸勢】を統合して完成させた【接触吸力】で、魔法少女マスケッティアのHPとMPを吸収する。
統合したことでプラーナ、呪力、妖力、神威、この世界の精霊のみが持つ精霊力、果ては神気まで吸収することができるようになったんだけど、持ってない相手からは奪えないよな。
「ふう、ご馳走さま。……瑞々しい女性が随分を吸われると随分と可哀想な姿になるみたいだねぇ」
【貪食ト銷魂之神】を発動し、魔法少女の夢の跡のような木乃伊を捕食……直接食べた訳ではないけど、身体中の水分が持っていかれるような感覚を覚えた。
……おい、そこ。自業自得とか言わない!!
◆
異世界生活百四十五日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王領ツァーカブ
魔王領ツァーカブに戻り、結界の解除を確認した後、俺達はフェールムの分体とブロムシュテットと共に門建設予定地の広場に向かった。
俺達に敵意を向けてくる魔族に関してはフェールムの分体の説明でどうにか宥め、その後速やかに門を設置した。
「久しぶりですね、草子様。皆様もお元気そうで何よりです」
今回、門から現れたのは魔王領バチカルの警備の全権を委任されている騎士団長のシュトライドフとポテムの村で出会ったキールだった……ってか、白崎を差し置いて俺がメインでいいのだろうか?
しかし、このコンビって珍しいな。
「お久しぶりです、シュトライドフ様、キールさん。……この組み合わせは珍しいですね」
「お久しぶりです、草子さん……いえ、草子師匠。あれから魔王領バチカルから特別教官としての雇用するとのお話を受けまして、今はポテムの村と魔王領バチカルを往復しながら生活を送らせてもらっています。それもこれも、あの日《深淵の大罪》から僕達を救ってくれて、僕に家族を守るための力を与えてくれた草子さんのおかげです」
「いや、俺のおかげとかじゃないよ。キールさんが強くなろうと思わなければ、そんな風に魔王領バチカルに指名されるような特別教官になれなかっただろう。……しかし、チームトライアードといい、キールさんといい、なんで俺よりも出世していくかな? まあ、師匠の立場としては嬉しいような、悔しいような……」
「……あの、草子様。未だかつて草子様を超えられてお弟子さんはいらっしゃらないと思いますが」
聡明なシュトライドフがなんでこういう時に限って目が節穴なんだろう? どう考えてもチームトライアードやキールの方が出世しているじゃん。なんたって世間的に見て分かりやすく凄い立場だぞ。
俺なんて見てみろ。住所不定無職の元国家同盟議長とかいう全く意味不明の、世間的に影響力皆無な立場だぞ? というか、とどのつまり無職ってことだし。
「……草子師匠。そのチームトライアードとはどのような方々なのですか?」
「ああ、キールさんも同門の弟子がどんな人達か気になる? まあ、師匠と呼ばれるようなことは何もしていないし、みんな勝手に強くなっていくんだけどね。そして、どんどん俺より強くなっていく……」
「異世界ガイアの冒険者の最高ランク――金等級よく言ふ」
「それを言うならジューリアさんも金ランクだよね? というか、他のメンバーも基本金ランクだったし。あの世界は異世界カオスと比べたら明らかに下位だし、こっちの世界で通用する身分じゃないから」
「……異世界ガイアの神二柱を殺しし草子よく言ふ」
「いや、片方はただの異世界人だったし、もう片方も異界の神と融合しただけのただの村娘だっただろう?」
「……結局神なり」
「…………………」
ジューリア、論破が上手くなっているな。ただのよく食べ、よく寝る娘だと思って油断していたら変なところで後ろから撃たれる……基本的に無口だけど、たまにグサリと刺さることを言うんだよね、この娘。
ほら、どうするの? 白崎達以外混乱しているよ? なんか俺を見る目が恐怖に染まっているよ!!
「……ま、まあ草子師匠なら神殺しくらいしますよね。だって草子師匠ですから。……ところで、そのチームトライアードとはどのような方々なのですか?」
「あ、その話だったね。俺が過去に潰した奴隷商人のところに囚われていた三人の亜人種の子達が結成したチームだよ。豹人族の魔法剣士の少女に、エルフの槍使いの少年、ドワーフの治癒師の少女……前会った時は金ランクだったっけ? ちなみに、白崎さん達はどこまで行った?」
「私達は黒ランクまで来たよ。……冒険者ギルドで草子君が同程度と言われた虹まであと少し」
「あっ、それは多分リップサービスだから。なんだって言ったのがアルルの町の老害だからね。きっと低位の【上級魔法】の連発にビビって思わず言っちゃったんでしょう? それなら、絶級魔法なんてものを撃ってきたヴァルルス様とかはどうするんだよ? イヴとかカンパネラとかダニッシュとかインフィニットとかは?」
「草子君……一人は魔王軍幹部だし、他はヴァパリアの超越者……ただの人間の枠組みでしかない冒険者ギルドの領域に入る訳がないわ」
とは柴田の弁……要するにお前は化け物だといいたいと。……どこに化け物なモブキャラという矛盾した存在がいるのかね?
「その草子さんのお弟子さん達に会ってみたいです」
……マジで? 会っちゃう? 会っちゃうの?
いや、驚くんじゃね? イオン達が。
「とりあえず、三人に伝えておくよ。今後ポテムの村にでも呼び寄せてみるか……」
「村とバチカルには僕から伝えておきます。きっと喜びますよ」
「あはは……そうだといいね」
いや、本当に大丈夫かな? 亜人種って魔族からかなり蔑まれているみたいだけど。
「あの……草子様、一ついいでしょうか?」
「なんでしょう? フェールム様?」
「実は明後日の午後、魔王領ケムダーで会談がありまして。そこまで草子様に送っていただけないでしょうか? 最近は《大罪の七獣》も出現して更に危険になっていますからね」
「えっと……残るは《空間の大罪》デウス・エクス・マーキナー、《夢幻の大罪》イブリース、《支配の大罪》スラバーですか……残り三体ですが、割と危険なのが残っていますね。……まあ、使えるものはなんでも使え。こんなモブキャラでも露払いくらいにはなるでしょう」
「あの……そんなつもりで言ったんじゃ。確かに草子様に護衛をお願いすれば百二十パーセント大丈夫だと思いますが……」
いや、どんな安心感だよ! 振り切れているよ! モブキャラなのに!!
「分かりました。では、明後日の早朝にお迎えに上がりますね。まあ、魔導式駆動四輪《Liacdlac Organum》を時速百キロ程度でぶっ放していけば二、三時間でつけると思いますよ?」
「……また、あの気持ち悪いのですか? できればもっとゆっくり……」
あれくらいの速度が魔獣に襲われなくて丁度いいんだけどね。前に出てきたら轢き殺せるし。……あれ? 物騒な感じになっている?
「分かりました。酔わない程度の速度でヒャッハーします」
コイツ何も分かっていない的な視線を向けられたんだが、ちゃんと分かっているよ?
ただ、空気を読めるのと空気に従うのは全く別物ということだけで。