パシュエート村の孤児院 後編
異世界生活百四十三日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、パシュエート村
「と、まあこんな感じですかね」
極力スキルを使用せず、純粋な腕とは言い難いものの自力で作り上げた手料理(パン(これは既製品)とスープとサラダとチキンソテー(ポテトを添えて))を机に並べた。
なお、ジューリアは別室にご案内して【堕魔ノ王】を使った料理を食べさせているので、こちらに襲撃を仕掛けてくることはない筈だ……隔離をした時に「私はそんなことをしない(意訳)」とジト目を向けられたけど。
「私達も手伝ったんだよ!!」
料理の配膳を手伝ってくれた魔族の女の子が嬉しそうに自分の成果をクリュールエに報告する。
それに対し、白崎達は……雰囲気が雲泥の差って奴だな。
「……草子君に純粋な女子力で負けた」
「……改めて突きつけられると辛いな」
「今回はぁ、私達に参加できる余地がなかったからぁ、草子君に直接負けた訳じゃ……ないと思いたいわ」
聖、朝倉、北岡……いや、白崎パーティの女子勢が暗澹とした表情で全滅していた。どったの?
『勝とうとする方が烏滸がましいリプ。草子は男にして女……それ以外にも凡ゆる面で完結している、「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」存在だからね』
クリプよ、何を勝手に俺を自己完結超常現象存在と確定しているんだ? そして、白崎達も同意するな。
「ところで……草子さんは何をやっているんですか?」
リーファが俺の手元に視線を向けながら質問を口にした……いや、何って言ってもねぇ。
「ちょっとSNSをね。最初はメールでやろうと思ったんだけど、会話の方が楽だし」
「……万年ぼっちな草子君にもメル友がいたんだね」
一ノ瀬が嫌味を言ってくる。……俺もコイツ嫌いだし、アイツも俺のことが嫌いみたいだ。馬が合わない……なんでパーティを組んでいるんだろう?
「傀儡の邪女神トリカブトについてちょっと確認をね。それと、メール相手くらいはいるよ。浅野教授を含む某県立大学の教授、准教授、講師、浅野ゼミのゼミ生、他大学から来ている講師とか色々とね」
まあ、メル友じゃないけど。どう考えても対等な立場じゃないし。
「……草子君、もしかしてメールをする友達っていないの?」
「メールって事務的なものを送り合うだけだし、今はSNSもあるからね。メールなんてほとんど使ってないよ。大学の教師陣のグループとかゼミのグループとかもあるからそれで済んでいるし……後は学会のグループか? 後は木下女史とも交換していたっけ」
「「「「「「「「「「「「花奏先生と交換したの!!」」」」」」」」」」」」」
いや、生徒と先生の禁断の恋とかそんなものじゃないよ? 同じ近代文学会所属だし、折角だから交換しておこかって話になっただけで。
どっちかっていうとあの人は教師になった今でも現役で俺を好敵手か何かと勘違いしているみたいだからね。いや、近代の領分であの人に勝つのは無理でしょう? 近代詩の研究で博士号を取ったのに何故か高校の現代文担当教師をしているんだからね。
全く大の大人が揃いも揃ってなんの取り柄もないモブキャラに何を期待しているんだって話だよね? まあ、そうやって期待してくれることは嬉しいんだけど。
「僕も似たようなものですね。照次郎君と孝徳君と家族以外だと、『小説を紡ごう』というサイトで知り合った方々と創設したグループ『Cercle de la littérature』のメンバーくらいしかいませんから」
「……まさか翠雨君ってあの有名作家を多数輩出した『Cercle de la littérature』のメンバーだったの? あのアニメ化作品が大量に出ている伝説のサークルの?」
「孝徳君、伝説のサークルなんかじゃないよ。集まったメンバーが凄かっただけだし、僕は最後まで底辺だったからね」
レーゲンがミンティス教国に戻った時に回収したスマートフォンを貸してくれたが……このトーク履歴からは、凄い慕われていたことが分かる。
「Regenさんのお陰で書籍化できました」とか「Regenさんのお陰でアニメ化できました」とか明らかに名指しされているし、相当の古参かつ書籍化作家やアニメ化作家に感謝されるようなことをしていたのだろう。
「なかなか創作について語れる友人には恵まれないからね。だから、同じサイトの同志同士で感想や批評をして高め合っていくグループがあってもいいと思って立ち上げたグループ……もう四、五年くらいやっているかな。まさかこんなにも雲の上の人が沢山になるとは思わなかったな……」
「……翠雨君はただ埋もれていただけだと思うよ。書籍化している先生の文章と比べても遜色ないし」
レーゲンは頑なに知り合いの作家達に手出しをしないように求めていた。
自分の力だけで書籍化を、そしてゆくゆくはメディアミックスを達成したい。
だが、ネット小説サイトとは果てしなき大海原のようなものだ。その中で一粒の原石を見つけることは難しい。
……まあ、うまく掬い上げてもらえるかとかは完全に運だからね。運が悪かったら実力があってもなかなか上手くいかないものなのだろう……ただの持論だけど。
「草子君もレーゲン君も趣味に生きているって感じのSNSのリストだね」
「「まあ、ぼっちなんで!!」」
「おいおい、翠雨。俺達友達だろ!?」
「僕も親友のつもりだったんだけど、翠雨君からは友達とすら認識されていなかったのか」
がっかりする照次郎と孝徳を宥めるのにレーゲンは相当な時間を費やすことになったようだ。
「草子君の友達数二万、レーゲン君の友達数七万……そんなのぼっちじゃないよ……」
友達登録数三桁のクラスの高嶺の花が何故か撃沈していた。
◆
既読「ミント様、お仕事中失礼致します」
既読「傀儡の邪女神トリカブトってご存知ですか?」
12:15「トリカブトさんですか?」
12:15「理由は分かりませんが、神界から出て行ってしまったみたいです」
12:17「最後に見た時は相当思い詰めていたいましたが……」
12:21「すみません! オレガノさんに聞いたのですが、トリカブトさんを追い出した元凶はオレガノさんみたいです」
12:22「私の妹に色目を使ったからってよく分からない供述をしています」
既読「なるほど……アイツが元凶ですか。ところで、トリカブトさんとはどんな人でしたか?」
12:23「優しい方ですよ。博愛主義者で傀儡の邪女神と呼ばれるような方ではありませんでした」
12:23「なんで私は傀儡の女神として生まれてしまったのかとずっと悩んでおられました」
「……よし、オレガノを殺そう」
「草子さん、どうしたんですか? 急に。確かにオレガノ様はタチの悪い変態ですが……ギャンギャンギャンギャン頭の中で叫ぶのはやめてください、オレガノ様」
「いや、トリカブト様を神界から追い出したの、どうも変態妹狂愛女神オレガノらしいんだよ。『私の妹に色目を使ったから』からって」
「ああ……文句なしのGUILTYですね。えっ、弁護しろって? とんでもない無理難題を言いますね。ロス疑惑以上に難しい弁護ですよ。最初からオレガノ様の有罪が確定で、そこから死刑か懲役∞年のどちらでするか争うんですから」
うわ、死刑の方がマシに見えるわ。オレガノが死刑になると代替わりが発動されてまともなオレガノが生まれてくるかもしれないからね。……ってそういうことじゃないって?
「まあ、オレガノ様の生死はどうでもいいんで本筋に戻ります……ここから少し行ったところにある墳墓? に、超強力な神反応を検知したんですよ。で、何かなって答えが今さっき出たってことです。いや、ウムル・アト=タウィルクラスの邪神が出てきたらどうしようって思ったけど、そもそもクトゥルフと相対した時すら神の気配を検知できなかったからな。神っていうか多分管轄者を識別することしかできないんじゃないかな? フェアボーテネやミュレニム、自然神ルテンも判別できなかったし」
「あの……草子様はさっきから何を仰っているのですか? 神……管轄者? の場所を認識できる……ということですか?」
「まあ、簡単に言えば神様と知り合いということですね。ミント正教会の御神体、ミント様やその自称姉のオレガノ様、武神のウコン様とか……あっ、信仰している訳ではありませんよ。う〜ん……ビジネスパートナーっていう表現が一番近いのではないでしょうか?」
絶句したまま固まるクリュールエと子供達……う〜ん、別に大した間柄という訳でもないんだけどな。それに、アイツら全知全能デースって感じの神じゃないし。
俺は神っていう一つの生き物だと認識しているんだけどな。
「ということで、俺は超強力な神反応があった墳墓に向かおうと思います。もしかしたらトリカブト様がいらっしゃるかもしれませんからね。結界を賭けた勝負はそれからということで――」
「私も連れて行ってくれませんか! もし、トリカブト様が降臨なされているというのならば信者の一人としてお迎えに参らなければなりません」
「……………………あっ、了解です。ということで、ミュネームさん。このことを魔王領アクゼリュスの方々に伝えてくださいませんか?」
「……私も護衛として同行した方が良いのでは」
「あっ、大丈夫だと思います。地下大墳墓や真●帝国クラスなら割と余力を残して制圧できそうですし、たかが墳墓如きではモブキャラを止められませんよ」
「……畏まりました。ご武運を」
白崎達が「草子君って絶対にモブキャラじゃないよね」とか「地下大墳墓とか真●帝国とかなら余裕とか言っている時点で色々とおかしい!」とか言っているが聞かなかったことにした。
◆
異世界生活百四十三日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、アルファス大墳墓
アルファス大墳墓は初代トリカブト教闇枢機卿の墳墓らしい。
地下五階まであるらしいが、放置しておいて迷宮化してからはその難易度から中に入ろうとする者はほとんどいなくなってしまったようだ……というか、迷宮化ってあるんだな。
噂によると魔力が強い場所では地形も変化してしまうらしいが、どうにも信憑性がねぇ。……まあ、地球の物理法則をそのまま当てはめられる世界じゃないのは確実なんだけど。
出現するのは三つ首の猛犬とかゴブリンディザスターとか魔王領では割とオーソドックスな雑魚敵さん達だ。
人間側と魔族側では雑魚敵という考え方に大きな違いがあるからね。人間側でこいつらを見ても雑魚敵などとは判断しないだろう。
まあ、俺達……というか、白崎勇者パーティ御一行座にとっては雑魚も雑魚なので瞬殺だけど。
「〝小型大量槍魔法〟――〝増殖する小槍〟」
「〈勾玉顕現・妖狐憑依〉!! 〝真紅の炎よ、火球となって焼き尽くせ〟――〝劫火球〟」
「降り注げ、地を焦がす稲妻。災いを齎す竜となれ」
「〈飛び出す骨牌〉――〈唐突な爆発〉!!」
「〝超重力〟」
「――〈数珠繋永劫連環撃〉」
「――洌流の斬雨」
あゝ、暇だ暇だ。白崎達がいると俺にほとんどターンが回ってこないんだよね。
あっ、ゴブリンディザスターさん。遊びに来てくれたの?
「〈絵画顕現ミュレニム=セイント=エンシェルテ〉」
『虚無から無限が生まれ、無限から生まれ出づるは世界創造の聖なる光――現在に集約された力によって爾は滅ぶ。絶対必中、故に逃れる手はなく、たた消滅するのみ。――無限光!!』
あ……瞬殺だね。まあ、そうだとは思ったけど。
『なっ、なんだい!! 今の開闢の魔法少女クレアシオンクラスの化け物は!!』
「何って、ほら前に説明しただろう? 忘れたのかい、クリプ君。やれやれ……さっきの神々しいまでの女神様は異世界ガイアを一度滅ぼした神殺し――つまり神に至った少女ミュレニム=セイント=エンシェルテだよ」
『まさか……神を実体化させたってことリプか!? そんな……そんなこと……まあ、草子なら別段不思議でもなんでもないリプね』
約一名、クリュールエを除いて納得してしまったみたいだ。というかクリュールエ、立ったまま気絶しているし。
「いや、別に完璧に模倣できる訳じゃないよ? 超越技の模倣は無理だったし」
「……もう超越技まで模倣できたら超越者になる意味がないよね? というか、それ以外にデメリットないのかしら?」
何やら【色彩聖女】の弱点に興味がおありの聖さん。……攻略するつもりなのかな?
「なんだろう? 筆でいちいち描かないといけないからちょっと疲れるってだけかな?」
「……ちょっとなんだね」
白崎が露骨に肩を落とした……あれか? モブキャラ如きがそんな強い能力を持つなと言いたいのか!! 文句なら魔法少女カリカチュアに言ってくれよ!!
「……私達にも見せ場を残してもらいたいな。草子君の力になりたいし」
うん、普通は逆だよね? モブキャラのために戦うヒロインってなんだよ!!
ところで……。
「ところで草子君……さっきから壁が動いてきている気がするのだけど、気のせいよね?」
うん、俺も思った。さっきから不自然に壁が動いている気がするんだよね?
まさか、あれかな? みんなのトラウマ、文字通り壁ボスのアイツぅ!?
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NAME:悪魔の大壁
LEVEL:99999999
HP:99999999/99999999
MP:99999999/99999999
STR:99999999
DEX:99999999
INT:0
CON:99999999
APP:0
POW:99999999
LUCK:99999999
SKILL
【圧殺突撃】LEVEL:99999999
→突撃が上手くなるよ! 【突撃】の上位互換だよ!
【全体化即死】LEVEL:99999999
→敵全体を即死させるよ! 【即死】の上位互換だよ!
【物理耐性】LEVEL:99999999
→物理に対する耐性を得るよ!
【魔法耐性】LEVEL:99999999
→魔法に対する耐性を得るよ!
【状態異常耐性】LEVEL:99999999
→状態異常に対する耐性を得るよ!
【即死耐性】LEVEL:99999999
→即死に対する耐性を得るよ!
【絶望の波動】LEVEL:99999999
→絶望の波動を放つよ! 【恐慌】の上位互換だよ!
ITEM
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……アイツだったよ。
原子核の混沌世界の究極的破壊エネルギーを操作して迫り来る壁にぶつける。
大爆発を引き起こして第二層まで貫く巨大な穴ができた……相変わらずこの力はヤバイな。
「下に行きましょうか」
「……あっ……私は一体」
あっ、クリュールエが気絶から回復したようだ。そして、地面に空いた巨大な穴を見て絶句した……別にこれくらい普通だと思うんだけどな?