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パシュエート村の孤児院 前編

 異世界生活百四十三日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、パデォフェルの森


『……それが君の魔法少女としての姿ということリプか? いや、魔法少女の姿に偽装しているというところか?』


 一人冷静なクリプはぷかぷか空中を浮遊しながら質問を口にした。


「魔法少女の力を使える魔法少女のような見た目の女の子と魔法少女にどれほどの違いがあるのかな?」


『……リスクがない分魔法少女の力を使える魔法少女のような見た目の女の子の方が高スペックな気がするけど……まあ、本人が魔法少女だと言い張るのなら魔法少女でいいんじゃないかな? ヴァパリア黎明結社とやらが改造した魔法少女のせいで、もう魔法少女の定義が崩れ去っている訳だし』


 おいおいクリプ君、秘密結社産の魔法少女と俺を同列にしないでくれ給へ。

 まだボク(・・)の方が可愛げがあると思うけどな〜。


「…………悔しいですが、美しいです。悔しいですがァ!!」


 猛烈に敵対心を向けてくるジュリアナ。理由はすぐ側で鼻を伸ばしている一ノ瀬だろう……つくづく相性が悪いな。俺と一ノ瀬パーティは……っていうと関係ない人にまで被害が及ぶけど……具体的に言うとゼラニウムとメーアとコンスタンスだな。


「一ノ瀬クン、浮気はダメよ。浮気は。一度手をつけたんだから一途に愛さないとね」


「(……もしかして、既成事実を作ったら草子君も私を愛してくれるのかな?)」


 白崎の口から高嶺の花には明らかに相応しくない言葉が飛び出し、聖、リーファ、白崎、ロゼッタ、アイリスの目が光った気がしたが、た、多分気のせいだろう。……気のせいだろう。


「……あ、貴方がび、美少女になって誑かすから、一ノ瀬さんが惑わされてしまうのよ! 女狐!」


「う〜ん、ボクって狐に形容するなら女狐じゃなくて牡狐だと思うんだけどなぁ。……こんな紛い物に惑わされるってことはその程度の愛なんじゃないかな? もしくは、一ノ瀬クンが単に欲張りなだけか。他人の持っているものも正当な理由をつけて奪おうとするタイプみたいだからね。……まあ、実際は僕のものって訳でもないんだけどさ。二択だよ、二択。『女なら渡り鳥な男を受け入れてどっしりと構えていなさい』か、『あの人が浮気をしているのなら私だって浮気するもん』か、『あの人が他の女に誑かされないように私しか愛せないように自分の魅力を高める』か……あれ、三択だった。愛想尽かすのもそんなところも含めて『スキ』でもいいけどさぁ。ボクのせいにしないでもらえないかな? ボクは一ノ瀬クンなんて視界に入ってない(アウトオブ眼中だ)し、そんな誑かされた一ノ瀬クンを見て怒るのは自分に自信がないからでしょう? そんなことで怒られるとか、混ぜるな危険と表示されている塩素系漂白剤と酸性タイプの洗剤を混ぜて苦情を入れる人みたいな理不尽さだよ……まあ、この比喩は分かってもらえないと思うけどねぇ」


 勝手に好意を抱いて勝手に振られたのなら、その責任は相手にあるのか? っていう話だ。俺はないと思うけど、まあ人によって考え方は様々だよね。


 もう必要ないので魔法少女化(女体化)を解除。

 残念そうにする一ノ瀬は無視だ無視。



 異世界生活百四十三日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王領アクゼリュス


 かがく?のちからってすげー。


 正確には魔工学とか魔導工学とか魔法工学とかに分類されそうだが、魔法を使っていても科学の要素がある以上、科学の力なのだ!


 ということで魔導式駆動四輪《Liacdlac(リアクドラック) Organum(オルガノン)》を使ったことで約三時間で魔王領アクゼリュスに到着することができた。


『あれは……何だ?』


 見たことのない金属の塊に警戒心を露わにする魔族達……今までにない反応だな。

 純粋な敵愾心ではなく、どう対応すべきか決めかねているご様子。


 エンジンを止め、車を降りる。魔族達は一気に敵愾心を溢れさせた。……はいはい、いつものことですね。


「初めまして、能因草子と申します。アポ無しで来て申し訳ございません。こちらの魔王軍幹部様にご用があって参ったのですが……こちら、魔王軍幹部様への書状です」


「……ニンゲンが魔族の領土に何をしに来たというのだ。まさか、我々魔族を殲滅するために!! もしかしなくてもこれは魔王軍幹部に対する果たし状か!! 他の幹部様もまさかコヤツに!!」


 う〜ん、否定し辛いな。確かに俺は魔王軍幹部を(特殊条件下で決闘して)倒しながら旅をして、ここの魔王軍幹部にも(特殊条件下の)決闘を申し込みに来たんだけど、俺は魔王軍幹部を殺しに来た訳じゃないし、魔族にも手を出すつもりはないんだけどね。


「……う〜ん、ニュアンスは違うけど大凡間違ってはない気がする。俺は魔王軍幹部様に挑戦しに来たけど殺すつもりはないし、魔族にも手を出すつもりはないよ。一応、他の幹部様からの書状に大まかなことは書いてあると思うけど……」


「……確かに他に四通書状があるな。しかも、四人の幹部の捺印も押してある……これはどうやら私如きでは判断できない話のようだな。今から確認を取ってくる。お前はその奇妙なものの中で待っておれ」


 鬼人の兵士はそのまま手紙を持って中に入っていった。

 俺は魔導式駆動四輪《Liacdlac(リアクドラック) Organum(オルガノン)》の中に戻って待機。その間、魔導式駆動四輪《Liacdlac(リアクドラック) Organum(オルガノン)》は兵士達から槍を向けられておりました……敵愾心が危険ゾーンだ。


 そのヨーロッパの火薬庫のような緊張状態は鬼人の兵士が戻ってくるまでの数十分間続いた。


「先程の無礼、申し訳ございませんでした。どうかお許しくださいませ。……草子様とそのお仲間の皆様ですね。本領の魔王軍幹部クリュールエ=ファナティック様ですが、本日は周辺の村を巡られておりまして、現在留守にしております。明日までには帰ってくると思われますので……その間の宿代はこちらで負担させてもらいます」


「……魔王軍幹部に確認を取って来た訳じゃないの?」


「いえ、クリュールエ様の側近を務める滑瓢(ぬらりひょん)とおさん狐のハーフの左沢(あてらさわ)真穂(まほ)様に確認を取って参りました」


 江戸時代に描かれた妖怪絵巻などにその姿が多く確認できるものの百鬼夜行の一員、海坊主の一種など民間の伝承ごとに全く印象が変わる瓢箪鯰(ひょうたんなまず)のように掴まえ所が無い化物で、水木しげるや佐藤有文の妖怪図鑑などを通じて一人歩きした滑瓢(ぬらりひょん)と美女に化けて妻帯者や恋人のいる男へ言い寄ってくる狐の妖怪で恋路を邪魔する女性や浮気相手の女性に対し、呼ぶ女狐という蔑称の発端となったおさん狐……いやぁ、とんでもない組み合わせですなぁ。どんな人なんだろう……全く想像がつかない。


「あっ、宿については大丈夫ですよ。クリュールエ様のいる場所に直接向かいますので、場所を教えてくださいませんか?」


 勿論、邪魔をする気は毛頭ないよ。まあ待っていても仕方ないので。

 鬼人の兵士から場所を聞き、事情の説明のために鳥魔人(ハルピュイア)の新人女騎士のミュネーム=シュラフェスを連れてパシュエート村に向けて出発した。



 異世界生活百四十三日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、パシュエート村


「…………うっ…………気持ち悪い」


(〝汝らの平衡感覚を正常に導け〟――〝平衡制御フィック・オブ・バランス〟)


 青褪めてえずいているミュネームに酔い止めの魔法を掛けると大分顔色が良くなった。

 普段は歩くか飛ぶかの二択らしい鳥魔人(ハルピュイア)。乗り物との相性が悪いことが多いというのは初耳だった……ドラゴ●スレイヤーなのかな?


「ところで、クリュールエ様はどこにいらっしゃるのでしょうか?」


「本日、クリュールエ様は傀儡の邪女神トリカブトを信仰するトリカブト教団が運営する孤児院にいらっしゃいます」


「……邪女神トリカブトねぇ。もしかして、マイナー宗教?」


「流石にニンゲンの間で信仰されているミント正教会ほどの信者はいませんが、魔王領アクゼリュスを中心に三百人ほど信者がいる歴とした邪神教です!!」


 まあ、ミント正教会はほとんどミンティス教国でしか信仰されていないし、現在の宗教の最大派閥は大聖女教(カタリナファンクラブ)らしいけど……主にミンティス教国とエリシェラ学園を中心に信者を増やしているらしいが……カタリナさんは存在を認めていないぞー。


 ……でも、邪神か……邪神ね。神である以上実在はしている……いるのか? というか、そもそも管轄者に分類されるのかすら分からないけど……後で神界に問い合わせてみるか。


「とりあえず、その孤児院とやらに行きましょうか?」


 村の門でミュネームが事情を説明し、俺達は村の中に入ることを許された……まあ、睨まれっぱなしだけど。


 孤児院は村の小さな教会にあるらしく、トリカブト教団の闇枢機卿(ダーク・カーディナル)であるクリュールエは月に一度程度ではあるが必ず孤児院訪れるようにしているらしい……邪神教徒っぽくないな。ただの優しい宗教家って感じだ。


「クリュールエ様、お客様がいらしております」


「…………人間、ですか?」


 子供達が俺達を見て怯えている……まあ、魔族の視点から見れば俺達は敵だからね。そりゃ怯えるのも致し方なしだ。


-----------------------------------------------

NAME:クリュールエ=ファナティック

LEVEL:800

HP:80000/80000

MP:1900000/1900000

STR:80000

DEX:80000

INT:1000000

CON:80000

APP:150

POW:80000

LUCK:300


JOB:闇枢機卿(ダーク・カーディナル)


TITLE:【魔王軍幹部】、【闇の枢機卿】


SKILL

【闇魔法】LEVEL:600

→闇魔法を使えるようになるよ!

【回復魔法】LEVEL:600

→回復魔法を使えるようになるよ!

【祈祷】LEVEL:600

→祈祷が上手くなるよ!

【物理耐性】LEVEL:600

→物理に対する耐性を得るよ!

【魔法耐性】LEVEL:600

→魔法に対する耐性を得るよ!

【状態異常耐性】LEVEL:600

→状態異常に対する耐性を得るよ!

【恐慌】LEVEL: LEVEL:600

→恐慌を起こせるようになるよ! 【恐怖】の上位互換だよ!

【掣肘】LEVEL:600

→掣肘が上手くなるよ! 【威圧】の上位互換だよ!

【覇潰】LEVEL:600

→覇潰が上手くなるよ! 【覇気】の上位互換だよ!

【魔力操作】LEVEL:600

→魔力操作が上手くなるよ!

【魔力付与】LEVEL:600

→魔力付与が上手くなるよ!

【魔力治癒】LEVEL:600

→魔力を使って治癒ができるようになるよ!

【魔力制御】LEVEL:600

→魔力制御が上手くなるよ!

【傀儡之王】LEVEL:600

→傀儡にするのが上手くなるよ! 傀儡にした相手を思い通りに操れるよ! 意識を保ったまま傀儡にすることや意識を歪めて傀儡にすることもできるよ! 【傀儡】の上位互換だよ!


ITEM

闇枢機卿の黒杖ダークカーディナル・スタッフ

→闇枢機卿の杖だよ! 闇系回復魔法の効果を上昇させる効果があるよ!

闇枢機卿の法衣ダークカーディナル・ローブ

→闇枢機卿のローブだよ! 闇系回復魔法の効果を上昇させる効果があるよ!

-----------------------------------------------


 ……しかし、この人。半魔族(ハーフ・魔族)だな。人間と魔族のハーフ……いるんだな。


「初めまして、能因草子と申します。ぞろぞろと連れて来て申し訳ございません。クリュールエ様にお願いがあって参りました。……詳しい事情はその書状に書かれていますので」


「――クリュールエお姉ちゃんをイジメるな!!」


 クリュールエの前で通せんぼする魔族の子供達……随分慕われているんだな。


「……いや、別にイジメないよ? みんな、クリュールエさんのことが好きなんだね」


「クリュールエお姉ちゃんは優しいの! そんなお姉ちゃんを困らせちゃダメなの」


「困らせるつもりはないんだけどな……とりあえず書状はお渡ししましたので、俺達は一旦魔王領アクゼリュスに戻らせて頂きます」


「お待ちください……もし、この後ご予定がないのでしたらこの子達と遊んでくださいませんか?」


 ……いや、怯えている子供達と遊べって難題だと思うけどな……とりあえず。


「〝距離に隔てられし世界を繋ぎたまえ〟――〝移動門(ゲート)〟」


 一番危険なイセルガには屋敷に帰って頂きました。


「ってか、魔族どころかこの世界の人間の子供の遊びすら分からないんだけど。……もしかして、竹とんぼ飛ばしたり貝独楽やったりするの?」


「……草子君、貴方って本当に高校生なのよね?」


 聖がお前は何歳だって目を向けてくるけど……いや、ゲーム機とかもないんだしそういう系かな……と。


「なら、蹴鞠とか歌合とか?」


「草子君、この世界の貴族も蹴鞠や歌合はしませんよ?」


 ロゼッタに半眼を向けられた……なら、異世界カオスの貴族は一体何をするのだろうか? ……あれ? ロマンス小説を読んでいる印象しかないんだけど!! ……あっ、後詩と音楽があったか……やっぱりインドアなんですけど!! ちなみに、狩猟とかクリケットとかスールとか地球の西洋貴族はスポーツも楽しんでいたみたいだけど、こっちの世界では特にそういうことはないらしい……あっ、魔獣と戦ったりするのがスポーツに分類される……のか!? いや、それ死合だよ!!


「……おーい、サッカー部の脳筋共。出番だぞー」


「ん? もしかしてサッカーの試合ができるのか!! どこでだ! どこで試合だ!!」


「……試合(ゲーム)はするかどうか分からないよ。いや、孤児院の子供達にスポーツっていうものがどんなものかを教えてもらいたいと思ってさ。まあ、お前達に教えられるのはサッカーくらいだと思うけどさ。俺もインドアな遊びしか思いつかないんだよね? 小説を読んで先行研究と照らし合わせるとか」


「……草子君、それスポーツじゃないよ?」


 白崎が「草子君ってスポーツをやったことないのかな?」って疑問符を浮かべているけど、勿論冗談だよ? やったことくらいあるさ。得意なスポーツはバドミントンだな。パトリオットサーブ……なんちゃって。



 俺は進藤達にサッカー教えろと言った筈だ。何故、超次元サッカーをやっているのだろうか?

 村付近の森の一部を切り拓いて作ったコートに【保護魔法】を掛けたボールをいくつか置いて、進藤達がどんな風に教えるのかと思っていたんだが、気づいた時には超次元サッカーになっていた。


 まあ、剣あり魔法ありの世界だからね。使うなって方が無理だろうけど。

 参加者の男子達も楽しそうだしこれはこれで大成功なんじゃないかな? 厨二病な決め台詞と共に必殺技を繰り出す少年達に、女子達の冷ややかな視線が注がれていた……多少は大目に見てやれよと思ったが、こっちにも被害が来そうなので閉口した。


 「男ってバカよね」という呟きが聞こえる……バカで悪かったな、おい。


 進藤達に任せておけば大丈夫だろうということで、俺達は孤児院に戻り、早速料理に取り掛かった。

 右手にはオレイミスリル製の包丁を……あっ、【堕魔ノ王】は使いません。


「草子君、あの一瞬で料理を作れるスキルは使わなくていいの?」


「さり……我もあまた食はばや」


 いや、ジューリアが鱈腹食べる会じゃないんだけどな……。


「スキルに頼らない戦い方の発展系だよ。一応、【究極挙動】と【不可視】にチャレンジしているけど、料理にもチャレンジしてみようかなと思って」


「草子君って地球に帰ったら忍者にでもなるつもりなのかしら?」


 柴田よ、俺が忍者とかあり得ないだろう? というか、地球に帰ってまで物騒なことをするつもりはないから……今、物騒なことをしているつもりもないんだけどね。

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