第8.5章エピローグ:異世界ガイアに別れを告げまして。
第8.5章
エピローグ 〜約二日間の冒険は終わりを告げ……〜
異世界ガイア生活三日目 場所浮遊島
戦後処理は本当に大変だった。
なんたって世界創造――ってほどの所業ではないけど、未来が失われた異世界ガイアを復活させなければならなかったからね。
《概念魔法》と【無限の魔力】を使い、なんとか異世界ガイアを限りなく元通りに近い状態にまで建て直した。
といっても完全に元通りという訳ではない。
そもそも、俺が異世界ガイアに到達した瞬間から世界の法則は少しずつ変化していた。
俺の持つ超越者の概念が異世界ガイアでも適応されるように法則が変化したことは、ミュレニムが超越者に至ったという事実が証明している。
それに、元々異世界ガイアに存在していた可能性エネルギーは失われた。《概念魔法》と【無限の魔力】を使い、世界を存続させることはできたが、この星に内包されたエネルギーは完全に別物となっている。
少なくとも、ミュレニムに破壊される前の異世界ガイアが進む筈だった変化とは完全に別物となるだろう……まあ、長い目で見ればだが。
黒の戦女神アーゥティルキフォ=ヌワール=アッシュドゥーフについては、獲得したアーゥティルキフォの欠片を取り込んでもらい、記憶のほとんどを取り戻している。
といっても完全に記憶が戻った訳ではなく、死ぬ間際の記憶だけは欠けてしまった……まあ、あっても仕方ないし結果オーライだろう。
そして、ミュレニムだが……。
俺にはミュレニムを滅ぼす瞬間、いくつかの選択肢があった。
〝DIES IRÆ〟――存在そのものを消滅させる耐性無視の究極魔術。
【即死魔法】――文字通り、即死効果を持つ魔法群。ミュレニムは耐性を全くと言っていいほど保有していないので【即死魔法】でも十分殺すことができた。
【全体化即死】――スキルの方の即死。【即死魔法】と同じ効果を得られる。
〝霊体崩壊〟――魂を破壊する究極の【神聖魔法】。
そして、〝終末を照らす虚無の光〟。
このうち、〝DIES IRÆ〟と〝霊体崩壊〟は魂諸共破壊してしまう。今回はミュレニムに同情の余地があった。だからこのまま魂諸共消し去るという手は打ちたくない。
【即死魔法】や【全体化即死】はミュレニムを殺しても、ミュレニムの身体と融合している主格の神霊が復活する可能性があったので論外。
ということで、〝終末を照らす虚無の光〟を使って身体を消滅させ、魂が輪廻の輪に入る前に《非物質魔法》で捕獲。その後、ミュレニムの記憶を読み取り、それを元に《概念魔法》でなんとか身体を構築してみたという感じだ……うん、上手くいくとは思わなかったよ。
「ということで、ミュレニムさんを復活させたって訳だよ」
「…………本当にとんでもないことをするわね。草子さん、貴方が創造神だったとしても私は驚かないわ」
「美春さん、そんなことある訳がないよ。俺は単なるバグったモブキャラさ」
『…………星を延命させ、擬似蘇生まで行っておいて、それでもモブキャラだと言い張るのね』
ユエ達の視線が突き刺さる。というか、なんで助けた筈のミュレニムとアーゥティルキフォからもジト目を向けられないといけないんだろう?
「……なんで、なんで私を助けたんですか! 私に哀れみを感じたからですか!!」
「Non non.違うよ。俺はね、ミュレニムさんに知ってもらいたかったんだよ。神様にもいい奴と悪い奴がいるって。結局は人間と……いや、人間だけじゃないな。人間、魔人族、魔族、亜人種、天使、神――一人一人、性格も考え方も違う。それをミュレニムさんは一括りにして鏖にしようとした……まあ、カテゴリー化し、偏見を持つことは誰にでもあることだし、ミュレニムさんだけが悪いという訳じゃない。……だから、猶予が欲しい。そして、それでもミュレニムさんが神殺しを望むのなら、もうそれは運命として受け入れるよ」
「…………そのために、貴方は」
「まあ、ね。仲違いしたまま一方的に殺して終わりなんて終わり方を許せないっていう俺のエゴだよ。……まあ、今回は俺の目的に直接的に関わらない案件だったからこそ勝手にやれたのであって、俺が渦中にいる時はこんな風にはできないだろうけど」
少なくとも、ヴァパリア黎明結社と戦う時にこんなことはしない。
奴らはそんな甘い考えを抱いて太刀打ちできる相手ではないからね。まあ、流石に今回も圧倒的優位に立てたからできたことなんだけど。
「とりあえず、これで一件落着か」
「……お腹減りき」
「はいはい。それでは、皆様。昼食にしましょうか?」
神と人――その立ち位置が近い世界で起こってしまった悲劇。
きっと、ミュレニムだけではない……何人もの名もなき人々が神に深い憎しみを抱いていたのだろう。……ただ、名のなき人々とミュレニムの差は叛逆の力を持てる運命に巡り会えるか否かだった。
異世界ガイアは一度滅び、バグったモブキャラが無い知恵を絞って世界を再構成した。
願わくば、俺が新たな世界に願った――「全ての者達が健やかに暮らせますように」という願いが叶わんこと。
この戦女神、異世界人、神、現地民が仲良く食事を囲む昼食の席を眺めていると、きっとこの荒唐無稽な願いが叶うかもしれないと希望を抱くことができる。
◆
ユエはしばらく異世界ガイアにいるつもりらしい。
今後は浮遊島と常闇の森を往復する日々が続くのだろう。
ウコンもしばらく異世界ガイアに残るつもりのようだ。ただし、理由は「武者修行」らしく、ヱンジュ達とは別行動を取り、単独で各地を巡るらしい……まあ、フリーダムな方なので。
ヱンジュ、ツバキ、戦女神達、ユエ、ミュレニム、裕翔、美春、英里、セフィーレア、レイミア、メルドにはゲートミラーと、持っていない面々にはミニルービックを手渡しておいた。
今後はそれぞれがそれぞれの目的に向かって動いていく。でも、たまには浮遊島のホテルに集まり、ゆっくりして気分を変えるのもいいかもしれないな、というモブキャラの老婆心ですじゃ。
裕翔、美春、英里の三人には「異世界ガイアの旅を終えたら、次は異世界カオスを旅するのも面白いかもしれない」と伝えてある。
もしかしたら、三人の同郷の連中がいるかもしれないからね……えっ、誰かと誰かを忘れているって? 気のせいだと思うよ?
さて、異世界ガイアのその後の処理を現地民に押し付けてきた俺とジューリアは――。
◆
異世界生活百三十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、常闇の森
「なんか久しぶりな気がするな」
《神代空間魔法・世界転移》で二日前の常闇の森に俺達は戻ってきた。
異世界ガイアと異世界カオスを繋ぐ扉はまだ存在しない……二日後にこの森のどこかに出現する筈だ。
「さて、ジューリアさん。行きますか!」
「三人目の魔王軍幹部と勝負なり」
「……まあ、いつものパターンで魔法少女の襲撃を受ける可能性もあるけど」
「……草子ならばなになどせらる」
「……モブキャラに対する過剰評価が重くのし掛かってくるであります」
〝移動門〟を開いて魔王領シェリダーのスフィリアの城に移動。
「ただ今、ヱンジュさんを届け終えて戻りました」
「は、早すぎませんか!!」
スフィリア、吃驚仰天。……そんなに驚くことはないし、スフィリアにとっては一瞬でも俺達にとっては二日なんだよ? 二日も経っているんだよ!!
「えっと、ユエさんはしばらく異世界ガイアに残るそうです。二日後、異世界ガイアと異世界カオスを繋ぐ扉が現れると思いますので、それからは異世界カオスと異世界ガイアを往復する日々が始まると思います」
「………………えっと、状況が分からないのですが」
「詳しくはこちらをお読みください。ユエさんからの手紙です」
俺が無事にヱンジュを届けたという証明。異世界ガイアでの戦いの詳細……後、書かれているとしたら異世界ガイアから人が来た場合にどう対処して欲しいかって話かな?
「……分かりました。どうやら想像もつかないような大変な戦いをしてきたようですね。……異世界ガイアからやって来た方については、魔王領シェリダーが責任を持って対処します。人間も魔人族も分け隔てなく」
「ありがとうございます」
まあ、実際に裕翔達がこちらの世界に来るかどうか分からないけどね。
「では、約束通り中断していた模擬戦を始めましょうか? 条件は前回提示して頂いたものでよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です。俺が勝ったら魔王城の結界を解いてもらいますよ」
「私に勝てたらですよ。では、始めましょう」
【――システム起動。《神代空間魔法・夢世結界》の発動、完了しました。耐性及び無効スキルの無効化、超越者の優位性無効化、HPゲージの表示完了しました】
中空に画面が生まれ、エンリの姿が映し出される。
◆
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NAME:スフィリア=ソーダライト=ラピスラズリ
LEVEL:800
HP:400000/400000
MP:1000000/1000000
STR:500000
DEX:400000
INT:1000
CON:500000
APP:290
POW:500000
LUCK:3000
JOB: 蜘蛛人の女王
TITLE:【魔王軍幹部】、【蜘蛛人の女王】
SKILL
【糸理】LEVEL:600
→糸使いの真髄を極めるよ! 【糸術】の上位互換だよ!
【糸生成】LEVEL:600
→糸を生成するよ!
▶【粘鋼撚糸】LEVEL:600
→粘着力と硬度を両立した糸を生成するよ!
【粘糸】と【鋼糸】の上位互換だよ!
【万能毒生成】LEVEL:600
→猛毒や麻痺毒、睡眠毒、神経毒の効果がある毒を生成できるよ! 【猛毒生成】、【麻痺毒】、【眠毒】、【神経毒】の上位互換だよ!
【強酸生成】LEVEL:600
→強酸の生成が上手くなるよ! 【酸生成】の上位互換だよ!
【ジュドヴァ=ノーヴェ語】LEVEL:600
→ジュドヴァ=ノーヴェ語を習得するよ!
【掣肘】LEVEL:600
→掣肘が上手くなるよ! 【威圧】の上位互換だよ!
【覇潰】LEVEL:600
→覇潰が上手くなるよ! 【覇気】の上位互換だよ!
【漆黒魔力解放】LEVEL:600
→自身が生まれ持った漆黒の魔力を解放するよ! 制御ができないと暴走するよ!
▶【漆黒魔力解放・偽リノ世界】LEVEL:600
→漆黒魔力を解放して相手の視界に偽の映像を映し出すよ!
▶【漆黒魔力解放・魔力ノ崩壊】LEVEL:600
→漆黒魔力を解放して魔力と魔力で作られたものを崩壊させるよ!
▶【漆黒魔力解放・心蝕ノ暗黒】LEVEL:600
→漆黒魔力を解放して精神に直接攻撃するよ!
▶【漆黒魔力解放・幻想ノ矢】LEVEL:600
→漆黒魔力を解放して別の漆黒魔力解放を付与できる矢を作り出すよ! それ単体では意味をなさない触媒スキルだよ!
▶【漆黒魔力解放・幻想ノ槍】LEVEL:600
→漆黒魔力を解放して別の漆黒魔力解放を付与できる槍を作り出すよ! それ単体では意味をなさない触媒スキルだよ!
ITEM
・蜘蛛糸の正装
→蜘蛛人の女王の糸で作られたAラインのドレスだよ!
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……確か、生まれつき持っている漆黒の魔力に関連する技を使うんだっけ?
さて、どうやって戦うか。
「――《偽リノ世界》」
いきなり相手の視界に偽の映像を映し出すスキルを発動してきたか。
「焼撃を望む、彼の者を焼け――“火球”」
【妖怪ノ王】の狐火と異世界ガイアの“火球”を融合し、【法則ト靈氣之神】で九つに分散――。
「【九尾玉】」
九つの“火球”を食らった狐火が飛び回り、無差別に攻撃していく。
これでは偽の映像があってもなくても関係ない。
「《幻想ノ矢》《心蝕ノ暗黒》《偽リノ世界》」
《偽リノ世界》を解除し、《心蝕ノ暗黒》と《偽リノ世界》を上乗せした《幻想ノ矢》を放ってきたか。
「【宅警ノ王】!!」
多種類結界で《幻想ノ矢》を弾き、そのままスキルを使用せずスフィリアに向かって走る。
「《幻想ノ槍》《心蝕ノ暗黒》《偽リノ世界》」
【九尾玉】を操作し、スフィリアに一斉攻撃させつつ、自身は追加発動した【宅警ノ王】できっちりガード。
「《魔力ノ崩壊》《魔力ノ崩壊》《魔力ノ崩壊》《魔力ノ崩壊》《魔力ノ崩壊》《魔力ノ崩壊》《魔力ノ崩壊》《魔力ノ崩壊》《魔力ノ崩壊》《魔力ノ崩壊》《魔力ノ崩壊》《魔力ノ崩壊》《魔力ノ崩壊》《魔力ノ崩壊》《魔力ノ崩壊》……なんで、壊せないの!」
いや、【九尾玉】は魔法ではなくスキルに分類されますので……。
【九尾玉】、連続直撃。スフィリア、ボロボロ。勝負あったか?
「ま、まだです! 【クモノイト】!!」
【粘鋼撚糸】を【糸理】で操作してきたか。しかも、ご丁寧に【強酸生成】で作り出した強酸を塗ってある……これ、受けたらかなりのダメージになりそうだな。
「concasser/glacer flamme」
凍冷焔華を纏わせたエルダーワンドで強酸が塗られた糸を切り捨てる。
更に糸伝いにスフィリアの手を凍結させ、動きを封じた。
そのままスキルを使わないイメージで【究極挙動】の動きを真似てみる……おっ、大分使えるようになってきたか。
かなりコツを掴めてきた。
ちなみに今のでスフィリア撃破。三つ目の結界もこれで解除だ。
◆
【三人称視点】
“
「しりとり、リュート、陶器、陶器を桃花に、桃花、金輪、金輪を金具に、金具、グラッセ、戦闘機……これでよし」
私が言葉を紡ぐと虚空から洋琵琶が出現し、次に陶器が出現し、陶器が桃花に変わり、金輪が現れ、金具となり、グラッセ、戦闘機と次々と何もない空間から出現し、戦闘機を最後に物体の出現と変化は止まった。
作り上げた戦闘機を満足気に眺めた私は分厚い本を片手に舷梯を使い、内部へと乗り込んだ。
私は魔王領シェリダーに向かって飛行機を発進させる。
「桃花、唐瓜、リング、グラス。コップを国旗に、国旗、機関銃」
私は魔王領シェリダーの地に到達すると同時に見慣れぬ戦闘機という乗り物に驚く魔族達に向けて機関銃の引き金を引いた。
戦闘機の機銃から雨のように弾丸が降り注ぎ、魔族の命を奪っていく。
”
*****
そこまで確認したところで学者風少女は分厚い本を閉じて、戦闘機の隣のシートの上に置いた。
どうやら、魔王領シェリダーの蹂躙作戦は良い出だしを迎えそうだ。
そう確信し、学者風少女は戦闘機を動かし魔王領シェリダーへと向かう。
言葉を弄する魔法少女が、魔王領シェリダーへと迫っていた。




