1.異世界で屋敷を建てまして。
第8.5章
2章 ~自称〝神〟殺しが始まります~
異世界ガイア生活一日目 場所浮遊島
「〝我が建造物を創り出せ〟――〝要塞創造-Fortification creation-〟」
浮遊島の一角にある更地で建造物を創り出すを発動し、一軒の邸宅を創り上げた。
まあ、参考にしたのがフランク・ロイド・ライト設計、1923年竣工の帝国ホテル・ライト館なんで、無駄にデカいんだけど……いや、丁度土地余っていたし、固定資産税とか関係ないし、丁度スマホの中にデータがあったから作ってみよう、そうしよう的なノリでね。
あっ、木製の備え付けの家具はきっちりついているけど布製品とかは置いてないので、今からサクッと【主我主義的な創造主】で作ってきます。
ということで作業すること二十分……否、三十分。
「ようこそ、ホテル? 浮遊島へ。……すみませんついつい楽しくなって色々なものを追加していたら二十分も経っちゃいました。まあ、戦女神様の憩いの場にでもしてくだされ」
『…………草子、お前は一体何者なのだ?』
サファリアが意味不明な質問をしてきた。いや、普通のモブキャラですが? 建築家とかじゃないよ?
「まあ、とりあえず図面はこんな感じです。室内プール、大浴場、遊戯室、大食堂、宴会場、室内運動場、地下トレーニングホール、二百九十を超える客室があります。なんということでしょう。ただの更地が匠を気取ったモブキャラによって無駄に無駄を重ねた無駄空間に……色々あるんで有効活用してください」
≪ほんまにエゲツない建築力やな。今度神界で建物建ててくれへんか?≫
「なお、匠を気取ったモブキャラは気まぐれのため、やる気にならないと建物を建てない模様。というか、神界にはもっと凄腕の建築家……ならぬ建築神がいるだろ?」
神様のモブキャラに対する評価が意味不明過ぎるんだが!! ……これ、ライトノベルの題名に使えそうだな。書かないけど。
『ヱンジュ、見て回りましょう。何があるか楽しみです』
「あっ、待って! テルミヌスさん!! ……すみません、お先に失礼します」
テルミヌスを追いかけてヱンジュが走っていく……迷子にはならないだろうし、大丈夫だろう。
現在地を示す表示も貼っといたし。
「……お腹減りき」
「はいはい。では、ジューリアさんもお腹が空いたようですし、大食堂に向かいますか…………ってか、今から俺一人で全員分の料理のかよ!!」
何故か俺がいると飯作り担当は俺になるんだよね……何故でしょね。
例え料理できる女子(“天使様”とかロゼッタさんとか)がいても何故か俺に回ってくるんだよ? しかも、ジューリア一人で行動していた最大人数分くらい食べるし……いや、俺も食べられるけどね。ジューリアが食べている姿を見るとどんどん食欲が……。
「あっ、ちなみに戦女神様達は食事摂りますか? フツミさんは食べてたし、必要なら作るけど?」
『ふん、人間が作ったものなど食わん。始祖精霊は食事など必要ないからな』
『お兄ちゃんが作る料理、食べてみたいな』
『私も頂いてよろしいでしょうか?』
『そうですね。……野菜メインの料理をお願いします。肉は苦手なので……』
『私も頼ませてもらおう。お任せで』
『では、私も』
『お願い致します』
『――なんだと!?』
『オーケーオーケー、ソレイフィア様以外には料理をお持ち致します。裕翔さんと美春さんはどうします? もう食事にします? それともお風呂にします? それとも…………お二人用にスペシャルスイートルームをご用意しておりますので、今晩はお楽しみくだされ』
「……R18を避く草子が、いよいよR18の領域に手を出だしき」
「…………とりあえず、俺も飯をお願いします」
「お楽しみは夜に、ね」
こりゃ、どっちが攻めか決まったな。ちなみに、誰も見ない密室でやってくれる分にはR18にギリギリ入らないので大丈夫です。
「ユエさんとウコン様はどうなさいます?」
『私も頂くわ。とびっきり美味しいものをお願いね』
≪ガッツリ系を頼む≫
そんな訳で注文を取り終え、一人寂しく厨房? 擬きへ!!
『待て! お、お前がどうしても私に食べて欲しいというのなら』
「ちょっと何言ってるか分かんない。別に食べたくないのに用意する必要ないでしょう? 食べたくないなら食べなくていいじゃん」
『………………くっ、わ、私にも作ってください! とびきり激辛な料理をお願いします!! こ、これで気が済んだか!!』
なんで涙目でキレられないといけないんだろう? こっちは今から大量の料理を作らないといけないのに。
「あっ、すっかり忘れていた。今、〈ホテル? 浮遊島〉を探検中の二人を見かけたら食べたい料理を伝えに来るように伝えといてください。後で用意するなら後で用意するでいいんだけど……」
『ヱンジュさんとテルミヌスさんに伝えればいいんですね。分かりました』
なんと、エメレティスが引き受けてくれた。ありがたやー……戦女神様に頼むことじゃないね、これ。
◆
人数分? の料理を作って戻ってくるとヱンジュとテルミヌスを含め、俺を除く全員が着席していた。
数が多過ぎて【重力魔法】で浮かせて運んできた料理の配膳を開始する。……自分でもかなり横着していると思っております。
戦女神達とユエは、互いの世界の精霊について話していたようだ。
同じ名称でありながら全く別種の存在――世界が変われば同じ名称でも概念が全く変わるからな。
例えば、この世界で言うところの異界の天使は、俺の知るメタトロン達天使とは明らかに異なる。
まあ、紛らわしくて困惑するなら天使(神界)とか天使(ガイア)とかそんな感じに呼ぶのもありかもしれないと思う。
『なるほど……こちらの世界では、精霊を直接武器の形状にする精装武具という力があるのですが、異世界カオスという世界では精霊の力をその身に宿すのが精霊武装と精霊武装を使った戦闘方法が【精霊鬭術】があるのですわね』
インディーアスが熱心に話を聞いているようだ。
というか、ほとんどインディーアスとユエの会話? 何人かの戦女神は話を聴いている程度で、自分から話そうとはしていない。
インディーアスがこちら側の精霊の情報を話す代表者的役割を果たしているから問題はないのか。
『ええ……精霊武装の利点は契約者と精霊――二人分の戦力があるということね。精装武具では、精霊一人分数が減ってしまうでしょう? 戦力が欠けるのは大きな問題になるわ』
「はい、お待ち。ご注文の料理です。……まあ精霊武装は一人につき一体が限界ですからね。五人の“精霊王”と契約を交わしたエルフのBL魔は持て余しているように感じました」
料理を配膳しつつ、話せそうな内容なので口を挟んでみた。
『あの“精霊王”五人と契約ね。……そういえば、元仲間のエルフと“精霊王”巡りをしていたといっていたわね。加護はその時に半ば押し付けられる形でもらったと』
「まあ、ね。元々一人で挑戦してみたけど、その頃組んでいたパーティのリーダーに姿が見えなくて心配だって言われてね。で、こっそり尾行していたら“水の精霊王”との一騎打ちで負けそうになっていたからちょっと割り込んだのが最初かな? あっ、勿論“水の精霊王”ファンテーヌさんにはエロフ一人で勝ったから問題ない。で、そのまま精霊王”巡りをしたってところだな。俺がやっていたのは何故か俺を挑戦者と勘違いした“火の精霊王”(脳筋)を超空洞現象で倒したくらいで後は観戦に徹していたよ?」
『……まあ、あの熱血莫迦なら後先考えずに真っ向勝負を挑みそうね。あの莫迦なら』
どうやら、“火の精霊王”は“精霊王”全体で莫迦という認識のようだ。
まあ、莫迦という以外に形容できないんだけど。
「では、頂きますか。用意したの俺だから断る相手もいないけど」
『…………ジューリアさんだけ尋常じゃない量だけど、本当に大丈夫なのかしら?』
「トパーシュ様……ジューリアさんは見かけによらず相当食べるので、心配する必要はありませんよ。……皆様、早く召し上がった方がいいですよ? どんどん食欲が失せていきますので」
『――辛いィ! 草子、いくらなんでも辛すぎだろ!!』
ソレイフィアが涙目で抗議してきた……いや、『とびきり激辛な料理』って言ったじゃないか?
「……ドラゴンズ・ブレス・チリ、キャロライナ・リーパー、トリニダード・モルガ・スコーピオン、などなど激辛唐辛子をこれでもかと詰め込んで焼け石に水感があるけど花椒を入れた超激辛麻婆豆腐、お口に合いませんでしたか?」
『何事にも限度があるだろう!?』
「喰らい尽くせ! 【貪食ト銷魂之神】。さて、SHU値チェック……残念発狂には至りませんでした」
まあ、辛いけど不味いに比べたらマシじゃね? ちなみに、SHU値とはスコヴィル値――唐辛子の辛さを計る単位だ。場合によってはSAN値より厄介な可能性があるな。
SAN値お化け? なクトゥルフも下手をすればSHU値チェックで死ぬってもしかして最強は唐辛子だった!?
「とりあえず、普通な辛さの麻婆豆腐を用意するんでしばらくお待ちください」
自分の分の食事は【貪食ト銷魂之神】でパパッと食べた……うん、あんまり食った気しないなぁ。
◆
食事が終わったところで、それぞれ自由行動になった。
ジューリアはそのまま部屋に戻って眠っている……寝る子は育つ? ……育つのか?? あっ、勿論身長の話ですよ?? 何か?
ヱンジュはテルミヌスとユエと一緒に地下トレーニングホールに向かった。……あの三人って何故か〈最強の剣舞姫〉とその契約精霊の剣精霊と闇精霊を彷彿とさせるんだよな……まあ、ヱンジュは〈最強の剣舞姫〉と違って歴とした女だが。
ウコンは追加で作ったバーカウンターでウォッカとかテキーラとかを飲んでいるらしい……雷神で武神で酒神……アイツ、一人で何役こなすんだ!?
しかも、ウコンを信仰する世界ではアイツが唯一神らしい……色々な意味で終わってんな、その世界。
ということで、残ったメンバーと共に遊戯室に向かった。
「これは凄いですね、草子さん!!」
「……まるで映画に出てくるカジノみたい。……ホント、無駄ね」
「美春さん、辛辣なご意見どうもありがとうございます。そういや、娯楽系やってなかったな、ってことで作ってみた。ポーカーとか色々なものを用意したからごゆるりとお楽しみください。明日は明日でジェットコースターみたいな一日になるだろうし」
「ジェットコースターみたいな一日にしている元凶はどう考えても草子さんですよね?」
そう言われてもな。そこまでたらたらと無駄に旅をしても仕方ないだろう? できるところは短縮短縮。最速でフェアボーテネを倒しましょう。
『わぁ、更衣室まであるんだぁ〜』
「はい、トワイライナ様。とりあえず、二十万着ほど衣装を用意させて頂きました。まあ、なんとなくゴージャス感を出すためですね」
「……本当に能力の無駄遣いね」
美春の視線が突き刺さるゥ〜。ってか、文句あるなら遊戯室に来ることなかったのに。
まあ、明日の朝「ゆうべはお楽しみでしたね」って言って裕翔の方にダメージを与えてプラマイゼロにしてやるけど。
……えっ、攻撃する相手間違っているって? いや、あの嫁の方は無敵だからつけいる隙がないんだよ。だから、旦那の方に、ね。
『ねぇ、サファリア。早く行こ〜』
『な、なんで私まで!?』
『だってサファリアって全然オシャレしないんだもん。可愛いのに勿体ないよ』
『かっ、可愛いだと!? わ、私に可愛さなど、ひ、必要ない! そ、それにこんな性格だぞ、絶対に似合う訳がない!!』
『はいはい、サファリア。性格は可愛さに関係ないよ〜♪ それじゃあ、私達はファッションショーをしてくるんで』
「行ってらっしゃいませ」
『――そ、草子、助けてくれ〜!!』
「はい、では皆様参りましょうか? いくつかゲームを用意しましたが――」
『無視するなァ! 覚えてろよ〜』
あれが騎士・サファリアの最期か。ありふれた捨て台詞だったな。
まあ、とって食われはしない……しない? 美味しくいただかれたりするのかな?(性的な意味で)。
……エリシェラ学園の百合好き腐令嬢達が笑顔で飛んできそうなネタだ。……もしかしてノリで【空間魔法】を使えるようになったり……怖えよ!
残ったメンバーは俺、裕翔、美春、ソレイフィア、トパーシュ、エメレティス、アメジェス、インディーアス――邪魔者でモブキャラな俺さえいなければハーレムが完成しそうなこのメンバーで行うのは。
「……人数も多いですし、神経衰弱でもやりますか」
ポーカーとかブラックジャックとかもできる設備はあるけど、流石にこの人数だとね……。
で、実際の勝負だけど――。
『うふふ、また揃いましたね』
ずっと俺のターンならぬ、ずっと私のターンで記憶力の高いエメレティスの圧勝だった。いや、俺に回って来れば勝てたんだよ? 俺には【叡慧ト究慧之神】があるからね。
途中から他の参加者は飽きてファッションショーを見ていたからね。いや、サファリアが恥ずかしそうにしていたのがよっぽど新鮮だったのでしょう。ドレスとかブレザーとか色々試していたな……あれ、お遊びで置いたんだよ? ネタで置いたのにわざわざ双子コーデでやらなくても……。
あの後、サファリアに滅多刺しにされましたが超越者耐性でノーダメージ。いや、今回の件は俺のせいじゃないし、攻撃される覚えはないんだが……。
◆
【三人称視点】
『単刀直入に言わせてもらうわ。ヱンジュ、貴女、強くなりたいのよね?』
地下トレーニングホール――その中央部でヱンジュに向き直ったユエは、一つの質問を口にした。
「私はフェアボーテネを倒したい。そのためには力が必要です。……もし、力が手に入るのなら、フェアボーテネを倒せるのなら、例えこの身が滅ぼうと構いません」
『…………ヱンジュ』
『私は別にそこまで求めていないわよ。寧ろ、私は貴女に死んでほしくないと思っている。……私は“精霊王”達から爪弾きにされ、常闇の森に押し込められた。私には他の精霊の仲間がいたけど、私は闇精霊の頂点である“闇の精霊王”――対等な関係は望めなかった。ヱンジュ、私にとって貴女は初めて対等に接することができた親友だと思っている。貴女と出会ったから、私の運命が動き始めた。……まさか、異世界に行くことになるとは思わなかったけれどね。だから、貴女が望むなら私は力を貸したい。貴女が、私の子供達を苦しめた《黄昏の大罪》を倒すために力を貸してくれたように、今度は貴女を苦しめる敵を倒すために力を貸したい。……それを貴女が望むのならば』
「……ユエさんは私のことを友達だと思ってくれていたんですね。ユエさん、私は貴女に助けられてばっかりです。右も左も分からない世界で貴女に出会えなければ、私は死んでいました。“精霊王”――カオスの精霊の頂点に君臨する貴女を友達として扱うのは不敬かもしれません。しかし、もし友達として認めてくれるのなら、これほど嬉しいことはありません。――ユエさん、改めてお願いします。私に力を貸してください!!」
ヱンジュには知る由もないが、この瞬間――彼女のステータスに【精霊魔法】と【精霊鬭術】、【闇の精霊王の加護】という三つのスキルが刻まれた。
彼女は、未だかつて誰もなし得なかった“闇の精霊王”と契約を結ぶという偉業を達成したと同時に異世界カオスと異世界ガイア――二つの世界の精霊と契約を交わした唯一の存在となったのである。
『契約、成立ね。貴女は【精霊鬭術】――つまり、私の力を使えるようになったわ。この力は、例え私が近くにいなくても〈魂の回廊〉で私と繋がっている限りいつでも使えるわ』
もし、この戦いが終わればユエは元の世界に戻ることになる。
ユエは異世界カオスの精霊を統べる王の一人で、彼女には彼女の為すべきことがあるからだ。
いずれ訪れるであろう別れの時――ヱンジュはこの時から次第にその瞬間の存在を強く意識するようになった。
『それじゃあ、早速使ってみましょう。実戦までに使えるようにしておかないと意味がないからね』
ヱンジュは、ユエの教えを一つ一つ噛み締めるように学んでいく。ユエとの時間を記憶にしっかりと刻み込むために。
そんな契約者の姿をテルミヌスは静かに見守っていた。