神々を喰らう霧に魂を喰らう怪鳥がセットメニューでついてきまして。…………って、はぁぁぁぁぁッ!? この悪しきセットメニューは可及的速やかに廃止すべきだと思います!!
異世界生活百三十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、ジュペッペの森
昨日のうちに魔王領シェリダーの首都に到達することはできなかった。
ということで、日を改めて二日目。
本日は天気も良く(相変わらずの暗い森)、絶好の魔王軍幹部挑戦日和でございます。
……まあ、その前に魔獣スタンピードをどうにかしないといけないんだけど。
【法則掌握】を発動して不可視の加重で魔獣達の自由を奪う。
「〝双星顕符〟」
「――太極光闇飛斬」
「Le Théâtre du Grand-Guignol」
と、まあこんな感じでたまにやって来る魔獣スタンピートを倒し続けた俺達はその日の昼頃、魔王領シェリダーの首都に到着した。
「お前達、ニンゲンか!? くそ、この忙しい時に!!」
はい、最早お馴染みの敵愾心満載の視線、ありがとうごぜえます……いらねえよ!!
門番さんは蜘蛛人さんと蜘蛛人さんと蜘蛛人さんとだった……蜘蛛の王国? 蜘蛛の糸で救済してくれる……雰囲気ではないよな。
「初めまして、能因草子と申します。アポ無しで来て申し訳ございません。こちらの魔王軍幹部様にご用があって参ったのですが……あっ、こちら魔王軍幹部様への書状です」
今回は書状を二通用意した。
一つはいつも通り、俺の目的を書いた書状。具体的に言えば、魔王軍幹部への挑戦状とその内容ってことになる。
戦いの条件や俺が勝利した際にこちらが求めること、俺が敗北した際に魔王挑戦を諦めることなどが書かれている。
もう一通はヴァルルスが用意してくれたものだ。
詳しくは分からないが、俺という人間が信用に足るものであること、条件を呑んだ上で正々堂々と戦って欲しいこと、仮面連中については調べないようにして欲しいこと、魔法少女という存在が出没するようになったこと……まあ、この辺りが書かれているんじゃないかなと思っている。
「――これは、ヴァルルス様の紋章!? ……どうやらただの人間のようではないようだな。この二通の書状については魔王軍幹部スフィリア=ソーダライト=ラピスラズリ様にお渡ししてくる。ニンゲン……お前達はしばらく騎士団詰所で待っていてくれ」
リーダー格っぽい蜘蛛人さんが門の奥に入っていき、蜘蛛人さんと蜘蛛人さんが残された。
「しばらくこの中で待ってもらおう。……まだ完全に信用した訳ではない。変な行動を取れば殺す」
「変な行動って言われてもね。暇だし読書するけど、それくらいはいいかな?」
「…………まあ、それくらいはいいだろう」
「おやつを食ふべからず?」
「どこから出した!? ……まあ、いいだろう」
蜘蛛人のお姉さんもお兄さんも困っちゃうでしょ!
ちなみに、お姉さんの方はカカンガリ=コンドライト、お兄さんの方はグロッシュラー=ツァボライト……隕石とか鉱物とかそっち系の名前なんだな。ってか、石と蜘蛛人って……。
「美味なり」
「……美味しそうだなぁ」
「グロッシュ、今は仕事中だ」
「分かっているけど……でも、あんなに美味しそうに食べているなら、きっと美味しいだろうなって思って」
「確かに美味しそうだな……っていかんいかん、仕事中だった」
「食はばや? あぐるぞ?」
珍しい。食の権化と言えるジューリアが食べ物を他人にあげるなんて。寧ろ全力で奪いに行くタイプ……ではないけど。
「あの、よろしければ飲み物も用意しましょうか? 飲み物無しでエンドレスにどら焼きを食べられるのはジューリアさんと青い猫型ロボットくらいですし。……膝蹴りが得意なシノビさんの好物でもあるけど、流石にお茶を片手に食べていたからな」
「……我は化け物ならず」
別にジューリアを化け物扱いするつもりはないんだが……ただ、よく飲み物無しで甘い物を食べ続けられるなとは思う。
「それには及ばない……お茶ならこの詰所にもある」
ということで、お茶会が始まった。……てか、結局カカンガリも参加しているし。
どら焼きとテネグロでレッツ・茶会!! このままのテンションで大規模戦闘にいっちゃう〜? ってそれは放蕩者のの方か。
「能因草子殿とジューリア=コルゥシカ殿だな。スフィリア様がお二人にお会いなさるという…………一体何が起きている!? お前達、職務怠慢だぞ!!」
戻ってきたモリディナ=オブシディアンにカカンガリとグロッシュラーはこっぴどく叱られた。
……しかし、モリディナ第三騎士団長様……どら焼き片手に叱っても説得力はないと思うのだが。
◆
「初めまして、この魔王領シェリダーを任せられております、魔王軍幹部のスフィリア=ソーダライト=ラピスラズリです」
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NAME:スフィリア=ソーダライト=ラピスラズリ
LEVEL:800
HP:400000/400000
MP:1000000/1000000
STR:500000
DEX:400000
INT:1000
CON:500000
APP:290
POW:500000
LUCK:3000
JOB: 蜘蛛人の女王
TITLE:【魔王軍幹部】、【蜘蛛人の女王】
SKILL
【糸理】LEVEL:600
→糸使いの真髄を極めるよ! 【糸術】の上位互換だよ!
【糸生成】LEVEL:600
→糸を生成するよ!
▶【粘鋼撚糸】LEVEL:600
→粘着力と硬度を両立した糸を生成するよ!
【粘糸】と【鋼糸】の上位互換だよ!
【万能毒生成】LEVEL:600
→猛毒や麻痺毒、睡眠毒、神経毒の効果がある毒を生成できるよ! 【猛毒生成】、【麻痺毒】、【眠毒】、【神経毒】の上位互換だよ!
【強酸生成】LEVEL:600
→強酸の生成が上手くなるよ! 【酸生成】の上位互換だよ!
【ジュドヴァ=ノーヴェ語】LEVEL:600
→ジュドヴァ=ノーヴェ語を習得するよ!
【掣肘】LEVEL:600
→掣肘が上手くなるよ! 【威圧】の上位互換だよ!
【覇潰】LEVEL:600
→覇潰が上手くなるよ! 【覇気】の上位互換だよ!
【漆黒魔力解放】LEVEL:600
→自身が生まれ持った漆黒の魔力を解放するよ! 制御ができないと暴走するよ!
▶【漆黒魔力解放・偽リノ世界】LEVEL:600
→漆黒魔力を解放して相手の視界に偽の映像を映し出すよ!
▶【漆黒魔力解放・魔力ノ崩壊】LEVEL:600
→漆黒魔力を解放して魔力と魔力で作られたものを崩壊させるよ!
▶【漆黒魔力解放・心蝕ノ暗黒】LEVEL:600
→漆黒魔力を解放して精神に直接攻撃するよ!
▶【漆黒魔力解放・幻想ノ矢】LEVEL:600
→漆黒魔力を解放して別の漆黒魔力解放を付与できる矢を作り出すよ! それ単体では意味をなさない触媒スキルだよ!
▶【漆黒魔力解放・幻想ノ槍】LEVEL:600
→漆黒魔力を解放して別の漆黒魔力解放を付与できる槍を作り出すよ! それ単体では意味をなさない触媒スキルだよ!
ITEM
・蜘蛛糸の正装
→蜘蛛人の女王の糸で作られたAラインのドレスだよ!
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八本の蜘蛛の足を持つドレスを纏った女性だ。蜘蛛人の女王――つまり、蜘蛛人の女王様か。
道理で、蜘蛛人が多い訳だ。
「能因草子です。仕事は無職やってます。書状をお読みくださったと思うので不要だと思いますが、目的は魔王城の結界を掛けて俺と勝負して欲しいということです」
側近達(こちらも蜘蛛人)の視線が厳しい。まあ、俺がやろうとしているのは魔王を倒すこと……自分達の王を殺そうとしているんだが、そりゃ怒りを覚えるよね。
「草子様とジューリア様が我々を一方的に蹂躙する力を持ちながらも、正々堂々と勝負しようとしていること、魔族を一人も殺さず、寧ろ魔法少女と呼ばれる者の襲撃から守ってくださる優しさを持っていること……あのヴァルルス様がここまで貴方のことを評価しているということは、それだけ素晴らしいことなのでしょう」
「過大評価ですね。俺はただ俺の目的のために旅を続けているだけです。……魔王を倒そうというのも正義感からでは決してない。ただ、俺の目的のために必要なプロセスだからに過ぎません。ただ、俺は少々欲張りだ。その過程で縁を繋げられるのであれば繋げたいし、守れるのであれば、守りたい。俺の身勝手のせいで傷つく者を少しでも減らしたい。……今の俺の目的はこの世界からカオスを消し去ること。魔王を倒すのであって殺す訳ではありません。……まあ、そのためには人間や亜人族と仲直りしてもらわないといけませんけどね。いや、無茶苦茶な話だな……あの老害、こんな大役をモブキャラに任せるなって話だよ!!」
本当に俺のことをあの老害は理解しているのだろうか? お前が残り物を押し付けた張本人だから、分かっている筈だが……あっ、ボケ入っているから忘れちゃったかぁ。
「……話が全く見えませんが。つまり、魔王を殺すつもりはないということですか?」
「まあ、そういうことになります。……だからと言って、誰も殺さないという訳ではありませんよ。ここ最近この国で暗躍している者達――彼らの悪行を止め、息の根を止めるつもりでいます。それが魔族――魔王軍四天王の誰かであると思われますが、もしかしたら人間の協力者がいるかもしれませんね。まあ、関係なく殺しますけど」
あれ? スフィリア、震えてる? ついでに側近達も震えてる? というか、涙目になっている?
「…………とてもお怒りなのですね」
「俺の怒りなんて対したことありませんよ。ヘズティスさんやジューリアさんに比べたらね。――単刀直入に言えば、魔王軍四天王の中に裏切り者がいると思います。信じるか信じないかはスフィリアさんが選ぶべきですし、信じたところで決して詮索はしないでください。今の俺にスフィリアさんの攻撃が通用しないように、因果を超えた俺達超越者に勝つことはできませんから」
「ヘズティス様が調査していた仮面の者達……それに魔王軍四天王の誰かが関わっているかもしれないということですね。分かりました、この件に関しては私達も一切触れないことにします」
「ありがとうございます。正直、敵が増えるとしんどいので、不干渉というのが一番嬉しいんですよ。――では、そろそろ本題の勝負を」
「分かりました。では、場所を移して――」
「スフィリア様! お取り込み中、申し訳ございません!!」
応接間に息を切らせた騎士風の女性蜘蛛人が入ってきた。
「ローズクォーツ第二騎士団長。どうしましたか?」
「はっ! スフィリア様に大至急謁見したいという者が二人、東門の前に来ております」
東門? 俺が入ったのは西門だから逆側か。
「謁見ですか? 今日は来客が多いですね。どのような方ですか?」
「はっ!! 一人は、人間の女です。異国の巫女衣装を纏っております。もう一人は、“闇の精霊王”ユエ=オプスクーリタースです」
“闇の精霊王”……確か、魔界中央図書館の本にあったっけ?
精霊の森を放逐された精霊達が暮らす森、常闇の森――そこで女王として君臨する“闇の精霊王”ユエ。
「あっ、俺は構いません。バトルは先送りにして、まずはお二方の謁見を優先した方がいいと思います。……何やら嫌な予感がしますので」
「ありがとうございます。――ローズクォーツ卿、お二人をここへお連れしてください」
◆
艶やかな黒髪に桔梗色の瞳をして黒い翼を持つ闇色のドレスを着た少女――それが、“闇の精霊王”ユエに抱いた第一印象だ。
……なんか闇堕ちモードのユーゼフに似ているな。まあ、それよりも剣精霊と張り合っている闇精霊を彷彿とさせるな。
『……あら、貴方。“精霊王”の加護を持っているのね。しかも、五柱も……ほんと、忌々しいわ』
「会って早々嫌われたな。……いや、これ元仲間のエルフが“精霊王”巡りをしてたから、一緒について行ったら何故かお土産としてプレゼントされたんだよね。要らないって言ったのにさ」
『…………それは、意味不明な精霊親和性を持っているからでしょう? ……正直貴方とは戦いたくないわ。もし、戦えば百回やって百回負けるもの。……貴方となら契約してもいいわよ』
「「「「「「――なっ!?」」」」」」
この闇精霊。ずっと魔族側から求められた契約を拒否してきたんだな。
「要らないよ。“精霊王”の協力は必要ないし、加護も要らない。俺、誰かを戦わせるより自分が戦う方が楽だからね。……というか、ただのモブキャラが精霊使いになれる訳ないでしょ?」
「そのモブキャラが勇者と魔王の力を使ふやよき?」
ジューリア、攻めてくるな。……正直、俺もおかしいと思うよ。だから使ってないじゃん。剣折れるし。
「……草子様、勇者と魔王の力を使えるというのは本当なのですか?」
「なんか理屈はよく分からないけど、使えるみたいだよ。勇者にすることはできるけど、魔王にする方法に関してはさっぱり。だけど、技だけ使えるって謎だよね」
「……勇者にして魔王。光と闇の二つの性質をその身に宿す者がいるなんて」
スフィリア、別にそこまで驚くことじゃないと思うんだけど。職業がもたらした矛盾に過ぎないからね。
「まあ、ツンデレな“闇の精霊王”様のことは置いといて……問題はそっちの女性だな。……えっと、七曜ヱンジュさん? 貴女、異世界人ですね」
あれ? みんなそんなに驚くこと? 異世界人って割と沢山いるよ? 俺達地球人とか、マルドゥーク人とか、クトゥルフ達旧支配者とか。
「やはり……ここは、ガイアではないのですね」
「異世界ガイア? エンリ、該当データある?」
【該当データ、マルドゥーク文明のデータベースにはありません。続いて、魔導文明サドォリュムのデータベース解析……該当無し、続いてフォトリアル文明のデータベース……】
エンリの姿を映し出す。ジューリア以外は半透明の妖精のような少女が現れたことに驚いたようだが、それに構う時間はない。
【シュトォベレス文明のデータベースにアクセス……該当一件。異世界ガイア、座標取得に成功しました】
「ありがとうエンリ。ってことで、ヱンジュさん。貴女の故郷の異世界に送り届けることが可能になりました」
「……えっ、あっ、ありがとうございます」
まあ、ヱンジュが驚くのも仕方ないか。普通、異世界に飛ばされたら帰るのは困難だからな。
「ですが……まだ私は元の世界に帰る訳には参りません。私は三毒ノ禍穢神を祓わなければならないのです!!」
ヱンジュとユエの話を総合し、ようやく事態の全容が分かった。
「…………突如、常闇の森に現れた霧が魔精霊や邪精霊、闇精霊を呑み込んだ。ユエ様はその霧をどうにかしてもらうために私達に救援を求めたということですね?」
『ええ……。今回は一大事。私は我が子も同然な子達が戦場に行くのを見たくない……そう思って精霊契約を拒否してきたのだけど、我が子同然の精霊達がこのまま食べられ続けるくらいなら、魔族に力を借りる方がまだマシだと思ったのよ』
「……しかし、私達にもその霧の正体は分かりません。相手が何者か分からないまま、騎士団を派遣する訳には参りません」
『そうよね……』
「ですが、その霧がいつ私達に牙を剥くか分かりません。損得勘定抜きで、この霧は絶対に倒さなければなりません」
正直無謀だ。敵の正体を知らずに突っ込めば間違いなく魔王領シェリダーの騎士団と精霊達は喰われる。
「無策で挑めば喰われますよ。相手は間違いなく、《大罪の七獣》相当の敵――しかも、敵はその霧だけではありません。ユエさん、ヱンジュさん、スフィリアさん。貴方達は霧と《魂魄の大罪》フレースヴェルグ――これら二体を相手にして、果たして生き残れますか?」
「……何故、ここで《魂魄の大罪》フレースヴェルグの話が出てくるのでしょう? ……もし、二体の《大罪の七獣》、うち一体が新種と私達が戦えば間違いなくこちらが負けますが、まだフレースヴェルグが現れると決まった訳ではありません」
……こりゃ、しっかり説明しないといけないな。
まずは、どっからしよう?
「まず、《大罪の七獣》が《大罪の七獣》ではなく《大罪の九獣》であることから説明しましょう。……と、実物を見せた方がいいですね。〝金属の騎士よ、我が前に現れよ〟――〝金剛騎士〟」
金属の騎士を作り出す【金属魔法】だ。ちなみに、材質はミスリルを指定している。
「金属の騎士を作り出したのですか? 一体何をなさるつもりですか?」
「……まあ、見ててください。【抗えぬ揺らぎ】、MAX POWER!!」
瞬間、不可視の加重が金剛騎士を襲い、一瞬で砕いた。
その余波で床は崩壊し、地面が見えている。
「〝時よ巻き戻れ〟――〝時間巻戻〟」
床を対象に破壊される前に巻き戻して、はい終了。
「ミスリルの残骸についてはプレゼント致します」
「あ、ありがとうございます。……今のは一体」
「あれは新たに現れた《大罪の九獣》――《重震の大罪》の力です。《重震の大罪》とは即ち、超重力という現象。それは、今回の敵――霧とも共通します」
魔獣と付けられていても、魔獣というより現象に近い存在――それが、《重震の大罪》だった。そして、今回の敵も恐らく……。
「今回の敵に心当たりがあります。といっても、昔読んだ本に出てきた敵に似ているという話ですが……。ソイツも同じように霧という現象であり、神性や精霊、魂を喰らう化け物でした」
大方、今回の敵は霧により外界と隔絶された世界を創造し、その地で死んだ者などを霧で捕らえ住民とする存在なのだろう。
倒せないということはないだろうから、《重震の大罪》の時と同じように核がある筈だ。……そして、元ネタから想像するに、その核は。
「状況から鑑みて、霧に囚われた【〝貪〟ノ禍穢神】が核にされていると見てまず間違いないですね。つまり、この霧をどうにかするためには霧と同化して霧霊になる前に核を討伐することが求められることになります。そして、トドメは《魂魄の大罪》フレースヴェルグ――魂を喰らう鳥にとって、あれは食べ物の山です。いずれ、《魂魄の大罪》フレースヴェルグによって霧に囚われた者は全て食べ尽くされるでしょう。つまり、放っておいても霧は消える……ただし、被害は今より拡大するでしょう。何より、《魂魄の大罪》フレースヴェルグ――言葉の通じない厄災に全てを懸けるというのには、甚だ同意しかねます」
「……確かに、《魂魄の大罪》フレースヴェルグに賭けるというのは危険過ぎますね。……しかし、もしその話がほんとうであれば、私達ではどうしようもない相手ということになりませんか?」
「まあ、どっちにしろ俺がどうにかするんで大丈夫ですよ。超越者に至った俺ならなんとかできますし……」
「――草子さん、私も連れて行ってください。私の世界で私が祓えなかった、助けられなかった禍穢神が災いの核となっているのに、私が何もしないという訳には参りません!!」
『私も連れて行ってくれないかしら? 戦力にはならないかもしれないけど、我が子が霧の中に囚われているのに、私が何もしないという訳にはいかないわ』
ヱンジュ、ユエ……無理しなくてもいいのにな。
だが、ここで断れば二人は一生後悔する。どうせ後悔するならやってから後悔した方がいいか。
「分かった。……一応、《魂魄の大罪》の対策に作ったものが使えそうだから、超越者ではないヱンジュさんとユエさんでも霧の中で問題なく行動できると思う……。それから、ヱンジュさん。霧の討伐が終わったら異世界ガイアに送り届ける……でもって、その世界を支配しているフェアボーテネ・エヒト・フリュヒテだっけ? ソイツを倒すの、協力するよ。……スフィリアさん、すみません。こちらから頼んでおいて変えるのは申し訳ございませんが、模擬戦は俺が霧を倒し、スフィリアさんを元の世界に送り届けてからということにします」
「分かりました。……なんとなく、ヴァルルスさんが貴方を信用した理由が分かった気がします。見ず知らずの相手にも手を差し伸べる……そういうことができる人は少ないです。貴方のような人がもっと増えれば、この世界は優しい、素晴らしい世界になると思うのですが、なかなかそううまくはいきませんね。――全てが終わったら魔王軍幹部としてお相手致します」
相変わらずの過大評価だ。だけど、悪くないな。
甘さといえばそれまでのことを誰かから評価してもらえるというのは。
「……ジューリアさん、俺が霧を倒すまでは魔王領シェリダーで待っていて欲しい。お金は渡しておくから、魔王領バチカルでも魔王領エーイーリーでも魔王領シェリダーでも人間の国でもいいから、好きなところで食べてきていいよ」
「ありがたし」
――さて、準備を整えてから常闇の森に行くか。