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ご注文はクール系妹キャラですか? それとも甘えん坊な妹キャラですか??

 異世界生活百三十三日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、ダークウォーフの森


 泣き喚く鳰の声が聞こえなくなった頃、鵠が姿を現した。


「……雲雀ちゃんのいいところを全部消し去ってしまうとは。草子……おそろしい子!」


 うん、少女漫画の画風なんだろうね、きっと。

 元ネタの月影先生なのか、そのパロディのアニメ版の転生したらスライムだった奴なのか、それともパロディのパロディなのか……って、リアル・インターテクスチュアリティ!?


「……まあ、本人が望むなら戻すけどね。別に俺が好きでやっている訳じゃないし。……というか、代わりにロリ化した鳰をもふもふすればいいんじゃないかな? 鵠お姉ちゃん」


「確かにそれもそうだな……ん? そういえば、草子。お前も女体化できるよな? 女体化して私の妹になってくれないか? 一日だけ、一日だけでいいから!!」


 この人どんだけ妹に飢えているんだ!? どんどん見境なくなっている気がするんだが……。

 というか、妹は別に人間でもいいのか!?


「……というか、妹は人間でもいいのか?」


「別にニンゲンだろうと魔族だろうと妹は妹だろう?」


「……うん、とても人間を目の敵にしていた氷柱女さんだとは思えないな。……まあ、仕方ない。一日だけだよ」


 【利己主義的な創造主】で子供サイズのワンピースを作ってから、【性換者】で幼女に変身……変身早々もふもふされた。


「では、剣の使い方を練習しましょう。お姉ちゃん」


「お姉ちゃん!! なんて素晴らしい響きなの!?」


「……とっとと始めますよ、クグイお姉ちゃん」


「一体何キャラなの!? 草子さん!!」


「何キャラって妹キャラですよ。お姉ちゃん呼びをして欲しいと言ったじゃないですか……」


「ぐぬぬ……私が思い浮かべていた可愛い妹じゃない」


 分かっていてあえてクール系妹キャラ設定にしたが、やっぱり突っ込まれたか。


「一緒に頑張ろうね、クグイお姉ちゃん♡」


 クール系妹キャラからお姉ちゃんに甘える系妹キャラにキャラ変してみた。


「…………なんか、これはこれで違う気がする」


「デスヨネ……じゃあ、どうすりゃいいの?」


「前のクール系妹キャラの方がまだマシかな?」


 ということで、クール系妹キャラに固定された……俺は一体何をやっているんだろう?


「では、クグイお姉ちゃん。早速始めていきましょう」


 【利己主義的な創造主】のスキルのみで白剣を二本作り出す。


「【二刀流】と言っても、基本的には一刀流となんら変わりません。一刀流の基礎を固めたら、後はそれを二刀に応用するだけです。頑張ってください、クグイお姉ちゃんなら絶対にできます!」


「うん♡ お姉ちゃん、頑張るよ!!」


 ……なんか色々間違っている気がするが、多分気のせいだろう……気のせいだろう。


 上から下に斬る【唐竹】、下から上に斬る【逆風】、相手の左肩から右脇腹を斬る【袈裟斬り】、相手の右肩から左脇腹を斬る【逆袈裟斬り】、袈裟斬りの逆に斬り上げる【左斬り上げ】、逆袈裟斬りの逆に斬り上げる【右斬り上げ】、相手を突く【刺突】、敵を薙ぐ【薙ぎ払い】をそれぞれ実践して見せた。


「……こんな感じかな?」


「もう少し腕を伸ばしてください。そう、そんな感じです。流石はお姉様です!」


「……今度は何キャラ?」


「何キャラってさすおにのお姉ちゃんバージョンですよ? 命名するならさすおね?」


「……とりあえず元? のクール系妹キャラに戻ってくれ……ください」


「分かりました。……クグイお姉ちゃん、後反復練習あるのみです。後は……そうですね。実戦でおさらいしましょうか?」


「お姉ちゃん、ご褒美がないと頑張らないよ〜」


 鵠さんがダメお姉ちゃんキャラに成り果てているんだが……鳰といい鵠といい、本当に五箇伝大丈夫か?

 まあ、モチベーションを維持できるものがあった方がいいよな。その気持ちは分からないこともない。


「分かりました。クグイお姉ちゃんが頑張れば一つだけ願いを叶えます」


「本当!? うん、お姉ちゃん、頑張っちゃうよ♡♡」


 俺が出したのは森に出る魔獣を剣だけで二百匹討伐するというもの。

 それを、謎のお姉ちゃんパワーを発揮して五分で片付けた鵠を見ながら、俺は人知れず溜息を吐いた。



「……鵠さん、どっから拾ってきたんだ? こんな可愛い人間の女の子を」


「鵠様、どういうことですか? 人間は黒髪の男と巫女装束の女の子だけだった筈です。……まさか、ミンティス教国に攻め込んで人攫いをしてきたのですか?」


 前者は街中の魔族、後者は鵠の部下と思われる女性魔族の言葉だ。

 【性換者】の効果でロリ化し、更に鵠との約束で、鵠の趣味の甘ロリを着せられてしまった。

 その上、甘えん坊な妹キャラを演じることまで強制されている……いみがわからないよ。


「……おねえちゃん、こわいよ」


「ご、ごめんな。別に怖がらせたくて言っているんじゃないんだ。……ど、どうしよう。泣いている人間の女の子ってどうあやせばいいんだ!?」


 すみません、人間であることは間違いないですが、女の子じゃなくて男子高校生です。……【性換者】のキャラ付けで、今の俺は年相応に涙脆くなっていますが。ちょっとしたことで泣きます。壊れ物注意、天地無用……はかなり違うな。


「アリサちゃん、大丈夫だよ。二人ともいい人だから」


「……ほんと?」


「ああ、ごめんな。……実はおじちゃん、この近くで店をやっているんだ。君が飲めるものはあんまり置いてないけど、お詫びにサービスするよ」


「……ほんと? ありがと、おじちゃん」


 なんなんだろう……これ。というか、誰か止めてくれ!! というか、鵠! お姉ちゃん気分に浸って顔が蕩けているぞ!! ……キャラが崩壊して……いないだと!?


 店には鶫と鳰と雲雀の姿があった。

 鶫はホイップクリームに埋め尽くされ、その上に大量の蜂蜜をかけたことで原型が無くなった飲み物と、ホイップクリームと蜂蜜で埋め尽くされて原型をとどめていない皿。

 鳰はホットチョコレートのような飲み物とチョコレート……色的にミルクっぽいな。

 雲雀はミルクティーとパフェ?


 ……うん、全体的に甘いな。コイツら。


「あっ、お帰りっす。どこ行っていたっすか……というか、どこでその女の子拾ってきたっすか!?」


「鵠……遂に犯罪に手を染めたか!? しかもそんな幼い少女を!! ……堕ちるところまで堕ちたな。その悪行、止めねばなるまい。それが仲間として私にできる唯一のことだ」


「……大丈夫? 鵠に変なのことされなかった? 雲雀が守りますので、安心してください」


 あっという間に三対一だ。俺、知〜らない。


「ち、違うよ! この子は草子さんだよ!!」


ロリっ娘、鳰「嘘っすね。あからさまな嘘を吐くくらいなら素直に認めた方がいいっすよ」


 ロリなせいで気迫減。……というか、鳰。お前、俺の【性換者】でロリキャラになったんだから俺が自分に【性換者】を使ったって発想もできるよな?


巨乳な女性、雲雀「……嘘は言わないでください。罪が増えるだけです。……雲雀は悲しいです。鵠さんは妹に飢えていましたが、まさか人攫いという犯罪に手を染めてしまうなんて。今からで遅くはありません。本当のことを話してください。一緒にその娘の母親に謝ってあげますから」


 ……うん、雲雀は分かっている上であえてやっている節がありそうだな。内心で笑ってそう……いや、流石にそんなに悪い子じゃないか。


いつもと変わらない鶫「その子の正体が草子!? ……いや、あり得るかもしれない。草子はミント正教会の大聖女(アーク・ピュセル)を演じていたこともあるそうだし、純粋無垢な子供を演じるくらいは容易にできてしまうだろう」


ロリになっても中身は全く変わらない鳰「ちょ……ああ、鶫っちは真面目っすよね。せっかくの機会だから揶揄おうと思っていたのに……ネタバレは酷いっす!! 少しは悪戯心を持つべきっす!!!」


純粋無垢で騙されやすい鶫「本当にそうなのか!? まさか、あの子の正体は草子!?」


空気は読める塩対応お姉様、雲雀「……ネタバレしたのは鳰です。……雲雀は鳰の罰ゲーム時間の延長を草子に要求します」


純粋無垢な少女アリサ(?) 否、女体化能因草子「あいあいさー」


騙されていた鶫「……本当に草子だったのか」


本気で騙されていたマスターな魔族「だっ、騙された!!」


 ……うん、台本風にしても台本として成り立っていないな。ツッコミはご遠慮願います。

 三文芝居のせいで全く関係のない? 魔族のマスターが精神ダメージを受けたようだ。


「草子師匠! お願いがあるっす!! ウチを元のナイスバディに戻して欲しいっす!!」


「におおねえちゃん。ひばりおねえちゃんがいいっていうまではもどさないよ」


「酷いっす! ……というか、なんで正体がバレたのにその口調なんっすか!!」


「ごめんね……じぶんにかけた【性換者】のせっていでよわきないもうとになっちゃったから、くちょうがなおせないの」


「……ってことは、今ならウチでも師匠に勝てる!? いざ、下克上っす!!」


 ……舐められたものだな。というか、超越者(デスペラード)であることには変わらないから鳰の攻撃は通用しないし。

 少々痛い目を見せた方が良さそうだな。――【殺気圏域】!!


「きっ、切られたっす! ウチのモチモチな顔に傷がついたっす!! 女の子にすることじゃないっすよ!!」


「……やったのも女の子だし、いいんじゃないのか?」


「鶫っち、辛辣っすよ! …………すみません、なんでもございません」


 鶫の絶対零度の視線を前にして、流石の鳰も撃沈したようだ。


「それで、草子さんと鵠様は何を飲むんだ? ……約束したから奢るよ」


「……では、グリーンマウンテンきんかろくまいでおねがいします♡ おじさま♡♡」


「勿論です! ユーアーワングリーンマウンテン! 仰せのままに、マイプリンセス」


 うん、なんか色々と混ざっている気がする。

 これって直訳すると「貴方は〇〇です」ってなる喫茶店のマスターのセリフと、銀河皇国の皇女様の専用艦のセリフの掛け合わせか?


「この店で最も高いグリーンマウンテンを注文するとは……雲雀の予想を超えていました」


「ひばりおねえちゃん、飲みたいならおごるよ?」


「…………いえ、雲雀は苦いのが苦手なので」


「……というか、草子の嬢ちゃん。普通に払えるのか!? 奢る必要ないよな、これ。いや、約束したから奢るけどよ」


 まあ、ちょっとした贅沢ということならグリーンマウンテンのクーフェを注文してもいいと思うけどね。

 流石に毎日飲むのは勿体無いなと思う。


「はいよ、グリーンマウンテンだ。砂糖とミルクは入れるか?」


「だいじょうぶ♡」


 ふう、味覚は子供にしなくて良かったよ。この苦味が素晴らしいよね。


「私は……クーフェオーリェを一つ」


 注文し遅れた鵠が思い出したように注文した。ちなみに、鵠の方はきっちり代金を取られた模様。


「ちなみに、ひばりおねえちゃんはからだをもどさなくていいの?」


「……そうですね。今はこの身体を堪能したいと思います。明日、元の姿に戻してもらえませんか?」


「もちろんだよ♡ あした、もとのすがたにもどすね♡♡」


「アリサちゃん、ウチのことも戻してくれるっすよね? ウチだけこのままってのは無いっすよね??」


「あ〜♪ グリーンマウンテン、おいしい♡♡♡」


「あっ、これ一生元に戻れないパターンっすね。ウチは一生幼女っす。さよなら、ボインボインなナイスバディ。さよなら、美女だったウチ。ウチはこれから一生美少女として鵠っちに弄られまくる生活を送るっす」


 ……というか、今更だけど鳰って自分のことを美女だと思っていたんだよな。自意識過剰もここまでくると怖えよ。まあ、実際に美女なんだけどさ……自分で言うとなんか鼻に付くよね。まあ、事実なんだけどさ。



 喫茶店で支払いを済ませ(代金は全て俺がポケットマネーで支払った)、俺達はジューリアが参加している大食い大会の会場に向かった。


『遂に始まりました、食の祭典決勝戦!! 赤コーナー、その目的は魔族の兵糧攻めか!? 小さな身体にブラックホール。彗星の如く現れたミンティス教国からの刺客――ジューリア=コルゥシカ!! 青コーナー、魔王領エーイーリーが誇るフードファイター! 底無しの胃袋で数多くのフードファイトを制した王者――【暴食の赤鬼】グリーディー=茨木童子!!』


 決勝戦が始まったみたいだな。……しかし、マイクも使わずによく声が響くな……あっ、【拡声】を使ったのか。


「お嬢ちゃんの快進撃もここまでだ! このフードファイター、茨木童子には勝てねえ!! 優勝賞金、白金貨は俺のものだ!!!!」


「……あまた食はばや」


 うん、見事にすれ違っているな。茨木童子、お前の相手は賞金よりも沢山の飯を食べることに興味津々みたいだぞ。


「本当に決勝まで進んでいるっす!? まさかと思ったけど、本当に沢山食べるっすね!!」


「まあ、確かにジューリアさんは大食らいだが…………しかし、よくそんなに食べられるな」


「あのね♡ おんみょうじゅつはつかうとおなかがすくってジューリアおねえちゃん、いってたよ?」


「舌足らずで聞き取り辛いっす! 戻して欲しいっす!!」


「…………ごめん、なさい。ありさには、もどせないの。…………ぐすん」


「鳰がアリサちゃんを泣かせた……雲雀は罰ゲームの更なる延長を要求します」


「あいあいさー」


「それって懲役141,078年とか、絶対に終わらないだろって奴っすよね!? ウチは一生このままっていうことっすよね、分かっているっすよ!!」


 懲役141,078年って懲役のギネス記録だよな……なんで鳰が知っているんだろう? もしかして、こっちの世界にも同じくらいの懲役になった囚人がいるのかな?


『ジューリア選手、食べる食べる食べるゥ! 全く手が止まらない。一体食べたものはどこに行っているのでしょう!! おっと! 茨木童子、ギブか? ギブアップか!? 今回、予選から猛烈な速度で平らげてきた茨木選手も遂に、遂にここに来てストップ。ここで終わるのか! おっと、ジューリア選手、お代わりの要求だ!! 茨木選手、手が止まってから十秒経過。その間、ジューリア選手はノンストップだ! 今、茨木選手が手を挙げた! ギブだ、あの鉄の胃袋が遂にギブアップ! しかし、まだジューリア選手は食べ続ける! おっと、お代わりの要求だ!! ――一体どこまで食べ続けるんだ!!!!!!』


「……草子さん。なんで皮の袋に手を突っ込んでいるんだ?」


「……だって、ジューリアおねえちゃんがたべすぎたぶんはアリサがはらわないといけないから」


 まあ、ジューリアが食べ過ぎるのは何と無く想像がついていたし、最初から支払えるようにお金を用意しておいたから問題ないんだよね。


「つぐみおねえちゃん。このおかね、うんえいさんにわたしてきてね」


「分かった。責任持って渡してくる」


『まだまだ食べ続けるジューリア選手。もう、大会運営側が用意した食材も残り僅か。このまま全部平らげられてしまうのか!? ――というか、今から食材を調達してくる必要あったりする!! 絶対に赤字になるじゃねえか!!!』


 あっ、司会者の地が出た。……これ、もう司会が司会になってないな。

 うちのジューリアがご迷惑をお掛けしました。



「ご馳走様なりき」


 満足そうな表情で賞金を持って帰ってくるジューリアと、青褪める司会者、鶫から布袋を受け取って固まっている運営側のお偉いさんが三者三様で異様な雰囲気を醸し出しているな。


「おつかれさま、ジューリアおねえちゃん」


「満腹なり。……草子、紹介してありがたく」


「…………ジューリアっちには普通に分かるっすね」


 いや、分かるだろ? お前も分かったじゃねえか。


「次はデザートなり」


「「「「「「「「「「まだ食べるの!?」」」」」」」」」」


 会場から盛大なツッコミが入れられたが、ジューリアは可愛らしく首を傾げて華麗にスルー。

 残念、ジューリアに突っ込みは効かないのだよ。


 その後、俺達はジューリアと別れ、ヴァルルス城に戻り、鵠の部屋に連れ込まれた。

 えっ、美人なお姉さんと一緒に過ごせるなんて最高じゃないかって? ……あの着せ替え地獄の何が羨まなんだよ!!

 まあ、約束したから付き合ったけど……もう、二度とごめんです!!

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