口調変わってないし武器まんまだし、それ、変幻する意味あったかな?
異世界生活百三十三日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王領エーイーリー
残り二人。つまり二対一の状況だが、ここまで来れば数の利など全く関係ないだろう。
「いや、これ絶対に無理ゲーっすよ! 一体どこに勝てる要素があるっすか!?」
「……勝てる要素など最初からある訳がない。手加減されてこれだからな……監視役としてついていた時は何度絶望したことか」
「いや、なんで鶫っちは嬉しそうなんすか? まさかドMっすか? 打ちのめされ過ぎてドMに目覚めたっすか!?」
「……心外だぞ。確かに勝てる可能性はないかもしれない。だが、私にはこの剣が――私が最強クラスと確信する武器がある。これならば草子、お前を倒すことができる――そうだろう?」
「確かにその武器は危険過ぎるよ。変なとこ斬られたら本当に死亡扱いになる。……というか、鶫さんとは小細工無しで剣士として戦いたいと思っていたし、【究極挙動】と【超過之神】は使わないよ」
エルダーワンドを杖に戻して皮の袋に放り込む。……さて。
「【武装創造――純粋な片手剣】」
一切素材を使用せず、【利己主義的な創造主】の力だけで作り出された純粋武装。
レーゲンの【創剣】と対を成すように、その色は白――白剣とでも呼ぶべき武器だな。
「……す、スキルだけでそれだけの武器を生み出すっすか!? 鍛冶屋要らないじゃないっすか!!」
「本当に鍛冶屋泣かせだと思うよ、この【利己主義的な創造主】ってスキルは。――この剣は雑魚も同然だけど、何本も創造できる。その数は無限だ。それと、俺は初級魔法で作り出した光剣を二十本を消費して二十連を超える斬撃を受け切ったことがある。剣を折ったからといって、油断していると斬るぞ」
「なんか、さっきより殺気が強いっす! もう訳が分からないっす!!」
「鳰、援護を頼む。私一人よりも鳰と二人で戦った方が可能性は増える」
「もうどうにでもなれっす! 【変幻】!!」
鳰が鶫に化けたか。まあ、どっちがどっちかは見分けがつくけど。
「ウチの武器は刀だけじゃないっす!」
「口調変わってないし、武器まんまだし、それ、変幻する意味あったかな? ――風魔手裏剣か。……威力高そう」
風魔手裏剣をキャッチしてそのまま投げ返した。――おっ、全弾命中。痛そうだな。
「ぜ、絶対におかしいっす! 投げられた手裏剣をキャッチして投げ返すとか意味不明っす! というか、なんでウチより早く【投擲】できるっすか!?」
「【武器理】のおかげだよ。俺は大体の武器は扱えるんだ」
「そんな……反則っすよ。でも、時間は稼げたっす」
鶫の聖魔混淆妖刀紅桜-桜花繚乱-に大量の妖力が溜まっているな。
……ここまで溜めているのは見たことないな。
「――妖華一刀流総集奥義・飛花満開」
〈妖華一刀流・飛花〉と同じように桜吹雪のような妖力が吹き荒れる……だけど、妖力の量から見て、威力は段違いに上がっているだろうな。
「――《流星之煌嵐》」
洗練された美しき白き軌跡と、妖華の名に相応しい怪しき桃色の斬撃――かつて、ユーゼフと俺が作り出した白と黒の斬線がコントラストに匹敵する荘厳な光景が、ヴァルルス城内で生み出される。……うん、こんな感じで自画自賛したくなる感じの光景だ。
だけど、それも次で終わりだ。白剣二十一本目――これで斬撃を放てば鶫を斬ることができる。
これで俺の勝ちだな。そして、風魔手裏剣がぶっ刺さった鳰も戦闘不能になった。
「五箇伝が全滅か……これほどの相手と戦わねばならないとは……今日は最悪の一日だな」
さて、次は魔王軍幹部ヴァルルスとの決戦……と行きたいところだが、邪魔が入ったな。
「ジューリアさん、敵襲っぽい。反応的に見て、魔王領バチカルに攻めてきた魔法少女マルミットと同種――魔法少女だ」
「――ッ! 開発部門の魔法少女」
「今回も俺がどうにかするよ。どうせ、超越者の性質を付与されているだろうからな。……ってことで、ヴァルルスさん。一旦中断ということで。俺の客? が来ているみたいだけど、奴らは見境ないから魔王領エーイーリーの戦闘員、非戦闘員を見境なく巻き込んでくる。迷宮が完成してしまった時は全員安全地帯に転送するから、避難誘導お願いします」
「――ッ! 一体どういうことだ! 魔法少女とは何のことだ!!」
「草子が魔王領バチカルのヘズティス様に挑戦しに行った際に戦ったという敵だそうです。……ヘズティスさんの側近――シャルミットさんを利用して作り出された魔法少女マルミットは、草子とヘズティス様を殺すために現れた――それは、草子と同等の力を魔法少女が持つという意味に他なりません!」
「……はっ? まさか、この厄災に匹敵するのが他にもいるというのか!?」
「いや、世界を探せば割といると思うよ。というか、俺って超越者の中でも雑魚の方だし。超越技も解放していないからね。有名なところでいくと超帝国マハーシュバラの大将軍インフィニット=ショットシェルも超越者の領域に至っている。……自由諸侯同盟ヴルヴォタットで戦った時は……まあ、あの時からバケモノだったけど、ミンティス教国の四陣営戦争では一段と化け物さに磨きが掛かっていたからな。しかも、なんか全部無視して俺だけに殺意を向けてくるし……って、そんなことはどうでもいっか。とりあえず、俺とジューリアは一旦城の外に出るよ。結界使われる前に潰せたらいいけど、もし無理だった時はさっき伝えた通りによろしくお願いします。――事情とその他諸々は後で話すんで」
ジューリアと共に城の外に移動する。――さあ、勝負だ、魔法少女!!
◆
【三人称視点】
魔王領エーイーリーの上空に突如現れたのは、魔族の国には不釣り合いな人間の少女だった。
炎と同化した赤毛のポニーテールと燃えるような真紅の瞳が印象的な体育会系美少女。
ノースリーブの上着の下にスカートを履いた衣装はところどころ燃えており、彼女が火を扱う魔法少女であることを連想させる。
武器は自分の背ほどある巨大な偃月刀。比較的華奢で筋肉質でもないが、その巨大な武器を軽々と持っている。
「さて、そろそろ始めよっかな。焔の大虐殺を」
胸元につけられた炎型の石――プリンセスジュエルが眩い赤色の光を放つ。
やがて、プリンセスジュエルの光が赤色から黒へと変わり、広がった光は魔王領エーイーリー全体を呑み込んだ。
◆
異世界生活百三十三日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国? 悪堕ち魔法少女の結界内
今回の結界は火属性っぽいな。地面は岩とマグマで構成されているらしい……落ちたら死亡確定だな。
今回は転送直前にジューリアの腕を掴んでおいたので転送先も一緒になった。
「んじゃ、〝移動門〟を開いて魔王領エーイーリーに転送するから、避難誘導よろしく」
「――了解なり」
ジューリアを〝移動門〟で転送して行動開始――今回は首都一つを呑み込んだだけあって相当な広さだな。
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NAME:紅煉の堕魔の使い魔
LEVEL:100
HP:50000/50000
ΣΑ:50000/50000
STR:100000
DEX:10000
INT:30
CON:4000
APP:1000000
POW:4000
LUCK:150
SKILL
【炎掌握】LEVEL:4000000
→炎の掌握が上手くなるよ! 【炎操作】の上位互換だよ!
ITEM
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おっ、早速出なすったか、使い魔供…… 炎の魔法少女っぽい見た目だな。
真っ赤な髪と炎のようなグラデーションの瞳を持ち、赤色のワンピースドレスに身を包んでいる……炎の湖さんなのだろうか? やっべ! マジカル消火器忘れた!! って元々持っていないけど。
『――ヤケシネ。〈上ハ燎原、下ハ煉獄〉』
うん、技のセンスが炎の湖さんだった。……これ、魔法じゃなくて【炎掌握】だよね?
「竜種変化」
【竜爪】、【竜尾】、【竜鱗】、【加速の翼】をその身に宿した龍人擬き――竜種変化を発動して、現れた紅煉の堕魔の使い魔をすれ違いざまに切り裂く。
「喰らい尽くせ! 【暴食之神】」
そして、【暴食之神】で死亡した紅煉の堕魔の使い魔を食らい尽くす。呪力を回収しておいた方が後々のためにはいいからね。
――おっ、居た居た。何十人か魔族が集まっている。鶫が誘導しているみたいだな。流石は五箇伝。
「草子、見つけられたのは二十人だ」
「了解……ん? 六箇所にきっちり分かれているみたいだな。五箇伝とヴァルルス様のおかげで仕事が楽になった。――ということで、今から皆様を魔王領エーイーリーに転送します。先にジューリアがそっちに行っているので、合流しつつ俺が魔法少女を倒すまで待っていてください」
「……今回も勝てるのだな?」
「勝つよ。他人から貸し与えられた力で超越者に並んだ奴に俺が負ける筈ないだろ? それに、武器を作る約束もしちゃったしな」
「頼んだぞ、草子!!」
随分信用されるようになったな。……俺って魔族にとっては外敵なニンゲンなんだけど。
その後、俺は結界の中を巡り、残りの五箇伝と合流――魔王領エーイーリーに転送した。
さて、残りはヴァルルスのところか。
「お疲れ様です。他のところは全員脱出させたので、後はここだけになります」
「無事に脱出してくれたか……それで、能因草子。お前はこれから今回の元凶と戦いに行くのか?」
「はい、そのつもりです。――これが終わったら結界の解除を賭けて勝負して頂くので、そのつもりで」
「ああ、分かっている。――負けるなよ」
……う〜ん、ここは魔法少女の方を応援した方がいい気がしないでもないけど、まあ本人がいいならそれでいっか。
さて、ヴァルルスと残りの魔族も〝移動門〟で送ったし、そろそろ決戦に行きますか。
さて、到着しました、内側の結界。……今回のフィールドは燃えるコロッセオ……なんで燃えてんの?
「ようこそ、能因草子! あたしは“煉獄の使徒”カリエンテ――炎の魔法少女だ!」
「……実は厨二病サークル出身だったりする? いやぁ、そっちだったか。てっきり槍と幻惑魔法が武器の魔法少女タイプだと思っていたんだけどな……やっぱりマジカル消火器が必要だね。使ってよし、殴ってよしの優れもの……まあ、無いなら無いなりに工夫して戦えばいいけど」
「ハハハ、舐めてくれるね! あたしは炎の魔法少女――弱点は明らかだけど、弱点を攻められたところで負けるような柔な奴じゃないよ! あたしの本気、見せてやるよ!!」
厨二病魔法少女カリエンテの足元から炎が吹き出して、一体の化け物を形作った。
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NAME:魔法少女カリエンテ
LEVEL:999
HP:999999/999999
MP:999999/999999
STR:999999
DEX:999999
INT:999
CON:999999
APP:999
POW:999999
LUCK:999
JOB:魔法少女
SKILL
【武器理】LEVEL:9999
→武器使いの真髄を極めるよ!
【炎熱聖女】LEVEL:9999
→炎を使って敵と戦うよ!
【ジュドヴァ=ノーヴェ語】LEVEL:10
→ジュドヴァ=ノーヴェ語を習得するよ!
ITEM
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NAME:紅煉の堕魔《flamme》
LEVEL:1000
HP:1000000/1000000
ΣΑ:1900000/1900000
STR:1200000
DEX:9000000
INT:-10
CON:1000000
APP:-1000
POW:1000000
LUCK:100
SKILL
【嚙み殺し】LEVEL:1500000
→噛み殺すのが上手くなるよ! 【噛み砕き】の上位互換だよ!
【突撃】LEVEL:1500000
→突撃が上手くなるよ! 【突進】の上位互換だよ!
【捨て身】LEVEL:1500000
→捨て身攻撃が上手くなるよ!
【紅煉の堕魔の呪法】LEVEL:1500000
→紅煉の堕魔の呪法だよ!
ITEM
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緑の炎を体の節々から噴出させる九つ首の猟犬。青い炎を宿した瞳を持つ紅煉の堕魔《flamme》か。
「行くよ!」
偃月刀が多節棍に変形したか……どうやら、武器は槍一本で猛者と渡り合う魔法少女と同種みたいだな。
おっ、魔法少女カリエンテが手をかざして発生させた爆炎の中に入っていったか。……だが、俺には【法則ノ王】がある。炎に潜ったところで無意味――。
ちっ、操作できんか。魔法少女カリエンテの能力はこれまでで判明したところで炎との同化、爆炎の生成、敵からの炎操作を阻害する炎の固定の三つ……もっとありそうだな。
しかし、この魔法少女――魔法少女の波長の解析を利用して本体を看破できるようになった【叡慧ト究慧之神】で調べてみたが、魔法少女マルミットの時のように魔族を素体にしている訳ではないみたいだな。
コイツのステータスにはホムンクルスとしか表示されない……つまり、ホムンクルスを基に作り出した人造魔法少女ということになるな。
救出は最優先事項じゃない。というか、固有魔法を手に入れて戦力を増強する方がいいから、この魔法少女諸共喰らった方がいいな。
「Una grande ondata che mangia tutto!!」
【法則ノ王】を発動して俺を起点に部屋全体に向けて大津波を発生させる。
津波は魔法少女カリエンテが溶け込んだ炎と紅煉の堕魔《flamme》を巻き込み、魔法少女カリエンテを炎から追い出し、紅煉の堕魔《flamme》に大きなダメージを与えた。……消火器要らなかったな。
「ゲホ、ゲホッ! ――流石に水攻めとか酷くないか!!」
「いや、酷いも何も弱点を攻めるのは定石だし、お前も言っただろ? 『弱点は明らかだけど、弱点を攻められたところで負けるような柔な奴じゃないよ!』って。……で、言っている側からそれか。弱点を攻められたところで勝つんじゃなかったのか?」
「五月蠅い! あたしの本気、見せてやるよ!!」
仕込み偃月刀を今度は分銅鎖に変形させたか…… 橘流十●芸か?
――おっ、どこまでも伸びる分銅鎖か? 魔法の武器特有の物理法則を無視した奴だな。
「――《流星之煌嵐》」
皮の袋からエルダーワンドを取り出し、分銅をひたすら弾き続ける。
「ちっ、紅煉の堕魔《flamme》!!」
突進しつつ九つの首で【嚙み殺し】を発動するつもりか!
「……というか、お前らが自由に戦えるフィールドをいつまでも与える訳ないっしょ。Sfera blu dell 'oceano」
【水掌握】を対象した地点を中心に大量の水を発生させてフィールドとする第八●海みたいな技だ。まあ、追尾効果と術者を呼吸可能にする効果はないけど。
「Un pesce d'angolo del mare」
液体の流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅が起きる物理現象を利用した超高速移動手段――“火の大精霊”アオスブルフ=フィアンマとの戦いで使った超空洞現象だ。
……しかし、流石は魔法少女。弱点の水の中でも普通に戦えるみたいだな。
だが、魔法少女カリエンテの【炎熱聖女】はほとんど封じられたも同然――こりゃ、勝ったな。
おっ、分銅鎖を今度は蛇腹剣に変形させたか……もうなんでもありだな。
「Charybdis dell 'oceano」
無数の氷のカリュズティスに攻撃させる技だ。
これで、魔法少女カリエンテと紅煉の堕魔《flamme》を攻撃させる。
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NAME:魔法少女カリエンテ
LEVEL:999
HP:790064/999999
MP:869999/999999
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NAME:紅煉の堕魔《flamme》
LEVEL:1000
HP:5900/1000000
ΣΑ:1600000/1900000
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紅煉の堕魔《flamme》の方が早く沈みそうだな。
「giavellotto di ghiaccio」
【法則ノ王】で作り出した無数の氷の槍を紅煉の堕魔《flamme》に向けて解き放つ。――よし、撃破。
「喰らい尽くせ! 【暴食之神】!!」
【法則ノ王】で空気の膜で取り囲んでから、【暴食之神】で喰らい尽くす。
ふう、ご馳走様。相変わらずの不味さです。
「残りは魔法少女カリエンテ、お前だけだ!」
「あたしはまだ、負けた訳ではないよ!!」
蛇腹剣を鞭に変形させて広範囲攻撃を仕掛けてきたか。
「【魔法剣・闇纏】」
「Envelopper avec les ténèbres/Croissant de lune envoyé」
水の中でも【魔法剣理】は使えるのです! ってことでやってみた。
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NAME:魔法少女カリエンテ
LEVEL:999
HP:15940/999999
MP:799999/999999
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かなり追い込めたな。――あともう一踏ん張りだな。
「giavellotto di ghiaccio」
駄目押しとばかりに全方位から氷の槍を放つ。えっ、嬲り殺しで苛めているようにしか見えないって? いや、バトルって本来なんでもありだから。
「Envelopper avec les ténèbres/Croissant de lune envoyé」
「喰らい尽くせ! 【暴食之神】!!」
魔法少女カリエンテ、撃破。……武器の偃月刀は残ったな。
魔法少女によくある死後も武器が残るタイプか。とりあえず、これは貰っていくよ。……って断りを入れる相手、もう食っちゃったんだけど。
さて、魔法少女を倒したことだし、魔王領エーイーリーに戻りますか。
――と、その前にこの水をどうにかしないとね。