表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

262/550

「あなたの最愛の人の人格が変わって別人になってしまっても、あなたはその人を愛し続けることができますか?」

 異世界生活百三十日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国? 悪堕ち魔法少女の結界内


 魔法少女マルミットは中空から杖を生み出した。

 てっきり料理人っぽい見た目だから武器も調理道具かと思ったんだけど違うのか……。


 ――そう思っている時もありました。


 いや、意味分かんねえだろ? 杖を一瞬で飴の剣? 鞭? 間をとって鞭剣って呼ぶべき武器に変えるとか。


「わたしはね、料理人なんだ♡ だから、食材発見能力を使えば食材と認識したお兄ちゃんがどこにいるかを知ることができるし、食材知識会得能力を使えばお兄ちゃんの特徴が分かる♡ 食材解体能力を使えば食材と見做した敵を切り刻むことができるし、同時調理能力を使えば分身だってできるんだよ♡♡ 調理能力を使えば高熱や冷気を操ることができるし、時間を操って発酵させることもできるんだぁ♡ でも、わたしの最も強い能力は自身と自分の触れたもので触れたものを料理に変える技♡♡ 流石にお兄ちゃんでも、わたしは倒せないよ♡♡♡♡」


 能力的には即死チートさんが無双する異世界の料理人(コック)の能力が八割、魔法少女同士のサバイバルバトルを描いたラノベの料理系魔法少女が二割の構成っぽいな……。

 杖を飴に変えたのは最後の能力だろう。そして、その理由は鞭剣を使って遠距離でもこの能力を使うためということか。


 ……あれ? 堕魔の方が雑魚に思えるんだが……もしかして、堕ちる前の魔法少女の方が強いのか? いや、たまたまか。


「わたしの鞭剣は伸縮自在♡ 神出鬼没なんだよ♡♡」


 ちっ、とんでもない速さだ。狙ったのは俺の足元……まさか。


 鞭剣に触れた地面が一瞬で蟹鍋に……えっ? なんで蟹鍋!! いや、南瓜と海老の冷製スープに落とすって選択肢も何故に冷製って思うけどさ。


「蟹鍋を味わい尽くせ! 【暴食ノ王】!!」


 蟹鍋は責任を持ってスタッフ(【暴食ノ王】)が美味しく頂きました。

 空になっても熱は残っているだろうから、鍋の中に落ちるのを【瞬間移動】を発動して回避する。


「「「「「――逃がさないよ♡♡」」」」」


 ちっ、同時調理能力か! ……ウザいな。


「〝引力を高め、万象を引きつけろ〟――〝万象引力(グラビテーション)〟」


「〝神聖にして大いなる光よ! 眩い光と共に世界を照らせ! その光で全ての諸悪を消し飛ばせ〟――〝極聖光爆(ホーリー・ノヴァ)〟」


 【重力魔法】で分身と本体を一箇所に纏めて【神聖魔法】を打ち込む。

 ……流石に一撃では沈められないか。でも、分身は消えたな。


「こうなったら、お兄ちゃんの弱点を暴いて……ウソ、弱点無し!? ……でも、まだわたしには食材解体能力と調理能力、料理に変える力がある……この力でお兄ちゃんを倒してあげる♡♡」


 もう一回分身を発動したか。七体のうち二体が灼熱と冷気の操作、四体が包丁を生み出して接近戦、最後の一体が鞭剣を持って攻め込んでくる。

 ……殺さずに無力化するとなると、あと一撃が限界だな。

 本体は鞭剣を持って攻め込んでくる奴……本体を戦闘不能にしても分身が止まるというのは確定じゃないし、ここは先に分身をどうにかするか。


 まずは……そうだな。冷気と灼熱を操る奴らの冷気と灼熱を【冷気操作】と【プラズマ操作】で操作してそれぞれの本体にぶつける……成功。やっぱりお前らは分身だったか。


「【魔法剣理・闇纏(ヤミマトイ)】」


Envelopper(オンブルベ) avec(アベック) les() ténèbres(テネーブル)/Croissant(クロワサン) de(ドゥ) lune(リュンヌ) envoyé(アンヴォワイェ)


 次に包丁を持って襲ってくる奴を【魔法剣理】に上位互換化した魔法剣で切り捨てる。

 コイツらも偽物。つまり、本体は俺の予想通り鞭剣を持った奴だ!


「〝お菓子な世界(スイートワールド)〟――これでトドメよ♡♡ お兄ちゃん♡♡♡♡」


 地面をお菓子でできた家へと変化させ、その家にある全てのお菓子を操る魔法少女マルミットの奥の手……まあ、そんなところだろう。

 まあ、ぶっちゃけ関係ないけど。


 魔法剣を解除したエルダーワンドを構え、【不可視ノ王】を発動して姿を隠すと、【瞬間移動】で魔法少女マルミットの背後に飛び、エルダーワンドを振るう。

 よし、狙った通り【峰打ち】のスキルを獲得したことで魔法少女マルミットのHPをゼロにせずに大きなダメージを与えることができた。

 今ので魔法少女マルミットは気絶したみたいだな。魔法少女の変身が解けてクールビューティっぽいお姉さん魔族の姿になっている。


 それと、結界? 迷宮? とにかく、この場が崩壊しつつある。とりあえず、このお姉さんを連れてこの結界から脱出した方が良さそうだな。


「〝浮遊させよ〟――〝レビテーション〟」


「〝距離に隔てられし世界を繋ぎたまえ〟――〝移動門(ゲート)〟」


 お姉さんをオリジナル魔法の〝レビテーション〟で浮かせ、〝移動門(ゲート)〟を通ったのとほぼ同時に、この迷宮が完全に崩壊した。



 〝移動門(ゲート)〟を開いてジューリア達を転送した地点に移動する。


「とりあえず、終わったよ。いや、かなり厄介な相手だった」


 ……ん? ヘズティス達の視線が心成しか痛い気がする。

 あんまり恩着せがましく言うつもりはないんだけど、俺ってヘズティス達を救ったんだよね? 睨まれる覚えはないんだけど。


「……草子、なんで失踪したシャルミットと一緒にいるんだ? もしかして、あの迷宮内に囚われていたのか?」


 いや、突然「失踪したシャルミット」とか言われても知らんがや。

 ……そういえば、変身を解いた時のステータスにシャルミット=シャーヌフって表示されていたっけ?


「知り合いか? この人は魔法少女マルミットの変身前の姿だ。……口調が子供っぽかったからてっきり変身前も子供だったと思ったんだけど……ギャップでも狙ったのか?」


「そんな……。クールビューティなシャルミット様が……」


 救出した蛇人(ラミア)の反応を見ると、シャルミットって人はクールビューティなデキる女性だったようだ。

 ……いや、そもそもだ。もし、シャルミットという人がヘズティス達の仲間なら、標的にヘズティスを入れないだろう。


 それに、魔法少女マルミットが現れた時も初対面っぽい反応をしていたし……分からないことが多過ぎる。


 性格の変化、知っているにも拘らず初対面――この二つの問題を同時に説明できる方法は……。


「……はぁ。こういうのって藍色の魔法少女の専門分野だと思うんだけどな」


「何か分かったのか?」


「まあ、仮説が立てられたというだけだよ。街中で調べるのも野次馬が多くて気が散るし、一旦城に戻ろう」


 再び〝移動門(ゲート)〟を開いてヘズティスの城に向かう。

 部屋の一室を借り、ヘズティスに頼んで人払いをしてもらった。


 部屋にいるのは俺、ジューリア、ヘズティス、気を失っているシャルミットの四人だ。


 皮の袋からスマートフォンを取り出す。ヘズティスが奇異な目で見てくるが、説明する時間も惜しいので説明を省いて早速取り掛かることにしよう。


「――エンリ。《非物質魔法》を用いて記憶を可視化することはできるか?」


【可能です。《神代非物質魔法・可視記憶》を発動しますか?】


「ああ、早速やってくれ」


 スマートフォンに魔力を流し、神代魔法を発動する。

 瞬間、シャルミットの頭から長いフィルムのようなものが飛び出した。


 フィルムは三分ほど掛かって全て取り出された。

 俺はそのフィルムを丁寧に観察していく。このフィルムはシャルミットの記憶そのものだ。もし俺の予想した通りなら、二枚重なるように上書きされている場所がある筈なんだが……綺麗なんだよな。弄られた箇所がどこにも…………ん? いや、そう来たか。


「ヘズティスさん」


「……どうした? シャルミットを助けることはできるのか?」


「残念ながら、ヘズティスさん(・・・・・・・)のよく知る(・・・・・)シャルミットさんに戻すことはできません。シャルミット=シャーヌフという人物はもうこの世には存在しませんから」


「……おい、なんの冗談を言っているんだよ。シャルミットは俺達の目の前にいるじゃねえか。……こんな俺に嫌味を言いつつも、決して俺を見捨てなかったシャルミットは、俺の大切な人はここにいる!! シャルミットは死んでない!!! 草子、嘘を言って俺を謀るのはやめてくれ!!」


 確かにシャルミットという存在は生きている。だが、それはヘズティスの知っているシャルミット=シャーヌフという人物ではない。


「……信じたくはないだろうが、信じるしかない。酷なことだということは言っているのは承知している。……ここを見てくれ。記憶に繋ぎ目がある。生後三ヶ月の時点だな。……ここから先の記憶は完全に別のものに変えられている。つまり、偽の記憶だ。……人格ってのは記憶を元に形成されている。つまり、偽の記憶により、シャルミットさんという女性は幼稚な言葉で話す女の子へと改変されたってことだ。……洗脳だったなら、記憶の貼り付けであったならどうにかすることができたかもしれないが、切り取られた記憶を完全に再現するなんてことは不可能だ。俺は過去のシャルミットさんの記憶を見たことはないからな。……そして、トドメが魔法少女化だ。この時点でシャルミットさんという人物は魔法少女マルミットという存在へと変化している。つまり、それ以前というものが存在しないということだ。……だから時間遡行を行ってシャルミットさんを過去の状態に戻すこともできない。……力になれなくてすまないな」


「……草子、ありがとう。……お前に当たったって仕方ないよな。これは、シャルミットが敵の手に落ちることを防げなかった俺の責任だ」


「俺も悔しいよ。……この世界で力を手に入れ、なんでもできると思っていた時もあった。……でも、所詮俺はバグったモブキャラだ。本当に必要な時に役立てない。……今の俺にできるのは、シャルミットさんの記憶の継ぎ接ぎ部分の結合を破壊して、偽の記憶を消し去ることだけだ。それをしたとしても、シャルミット=シャーヌフの人格を蘇らせることはできない。……辛いだろうが、これから新しくシャルミットとの関係を作っていくしかないだろう」


 俺は《神代非物質魔法・記憶操作》を発動してシャルミットの偽の記憶を取り外した。


「…………ここ、は」


「目覚めたか? 初めまして、俺はヘズティス=ソードルケーター。魔王軍幹部をしている」


「魔王軍……幹部? 魔王軍の偉い人?」


「草子、どういうことだ? 分かることと分からないことがあるようだが」


「シャンミットさんの記憶だけど、日常的なことをする記憶に関してはきっちり存在している。問題は自分の名前や他人の顔と名前、過去の出来事といった人格を形成する記憶だ。……日常生活を送ることに関してはなんと支障もないよ。……初めまして、シャルミットさん。俺は能因草子、ヘズティスさんの友人だ。……今は怖いかもしれない。知らない人や知らない場所……心細くなることもあるだろう。安心できないかもしれないけど、安心してくれ。そこにいるヘズティスさんは、君を大切に思っている。きっと、あらゆることから君を守ってくれるだろう」


 さて、ここからは二人だけにするとしよう。お邪魔虫はとっとと退散だ。


「それじゃあ、ヘズティスさん。魔王城の結界の件は頼んだよ」


 ジューリアと共に、俺は部屋を後にした。



「草子様、ジューリア様。この度はありがとうございました」


 部屋を出た俺は、この城の全使用人を統括する執事長セバスチャン=モランに案内され、場内の食堂に通された。

 ……しかし、ロンドンで二番目に危険な男と同姓同名って……まあ、突っ込むのはやめておこう。


「しかし、いいのか? 俺達は魔族にとっては敵だろう? しかも、魔王殺害を企てている訳だし」


「草子様は、誰一人殺さずにヘズティス様に勝利しただけではなく、敵に襲撃された際も捕らえられた我々を助け出し、そして失踪していたヘズティス様の右腕――シャルミット様を殺さずに助けてくださり、その治療までしてくださいました」


「……いや、最後のは褒められたことじゃないけどな。今のシャルミットさんはかつてのシャルミットさんじゃない……記憶が失われ、人格が変わってしまっているからな。……そういえば、シャルミットさんは失踪していたって話だな。その辺り、詳しく聞かせてくれないか?」


「はい……シャルミット様は最近、とある事件を調査していました。その最中に連絡が取れなくなり、我々も全力で捜索いたしましたが見つかりませんでした。……草子様は、ミンティス教国からこちらにいらしたのですよね? それでは、オログ=ハイ率いるトロルの軍勢がミンティス教国に攻め込んだ事件についてはご存知でしょうか?」


「ああ、その事件に関してはミント正教会に潜入している時に調査させてもらったよ。ミンティス歴2030年5月20日、神聖騎士修道会と獣法騎士修道会、両騎士団が近隣冒険者と協力してオログ=ハイ率いるトロルの軍勢を撃破したって話だろう?」


「はい。……詳細を説明させて頂きますと、偶然発生したオログ=ハイをフリーランスの魔族で【猛獣使い】のスキルを持つサウロンという者が支配し、ミンティス教国に侵攻したというものになります。この事件の裏には仮面の者達の存在があることが目撃者の証言から分かり、その事件はヘズティス様が管轄するこの魔王領バチカル領内で起きたということで、ヘズティス様の右腕であるシャルミット様が調査を行っていました。しかし……」


「大方目撃者の魔族とシャルミットさんとの連絡が取れなくなったってところだろう? 貴重な情報をありがとう。これで、敵の能力と最近の動きが分かったよ」


「……左様でございますか!!」


 セバスチャンだけではなく、この場にいる使用人やメイド達の視線も俺に集中する。

 そりゃ、仲間をこんな酷い目に遭わせた相手だからな。


「まず、暗躍していた仮面の奴らの正体だが、そいつの正体がanonymousって呼ばれている奴らだってことはここに来る前から分かっていた」


「……アノニマスですか? 初めて聞く名前ですね」


「ヴァパリア黎明結社開発部門――通称アノニマス。今回、俺がこの国で狙う命の一つが、その部門長のものということになる……まあ、副部門長がいたら副部門長も殺すし、アノニマスのメンバーも基本的に全員殺害するけどな」


「ヴァパリア黎明結社は生かしおかず。ミント正教会を弄びし奴らはさながら滅ぼす」


「てな訳で、このジューリアさんもそのヴァパリア黎明結社って組織には怒り心頭に発しているんですよ。……話を戻しますけど、俺はこのジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国に開発部門(アノニマス)の部門長がいるという話を聞いて来ました。分かっているのは、その人物が魔王軍四天王の誰かということのみ。あっ、別に情報はいいですよ。俺は魔王の命を狙う敵なんですから、その敵に塩を送るのは不本意でしょうし」


 うん……まだ序章なんだけど、誰もついて来れていないっぽいな。


「あの……つまり、魔王軍四天王の中に裏切り者がいると……草子様はそう仰りたいのですか?」


 質問してきたのは、最初に救出した三人のメイドの一人――蛇人(ラミア)のリュドラ=スミゥエか。

 まあ、いきなり敵対する人間が魔王軍の中に裏切り者がいるって言ったら、そりゃ驚くよな。


「まあ、確かに俺がこの機に乗じて魔王軍の分裂を狙うって考えるのはもっともだ。かくいう俺もそこまで信頼できる情報筋から聞いた訳ではない。その情報を提供してくれたのは、元ヴァパリア黎明結社開発部門所属のとある伯爵貴族様だ。その人とは少し前に戦ったことがあってな。その件で倒してからは、ヴァパリア黎明結社とはすっかり縁を切ったと言っていたが……その人は残念ながら開発部門部門長と面識は無かったらしい。ヴァパリア黎明結社と直接のコンタクトを取っていたのは執事だったからな。その執事さんは魔法学園の学園長さんが魔法で消滅させたから情報を聞き出すことはできない。……それに、もし四天王の一人がヴァパリア黎明結社開発部門の部門長ならば、この地を拠点に活動するというのも可能な筈だ。……例えば、四天王の保有する城で匿うとか、領地の人達を洗脳し切るとか。……それに、ここ最近起きている事件も、この国とミンティス教国――隣り合う国で起きている」


「確かに……それなら、辻褄が合いますね」


 まあ、そこまで辿り着いても敵が何者かまでは特定できないんだけど。


「ここまでに起きた事件を整理したい。まず、ミンティス歴2030年5月20日、仮面の者がサウロンを使ってオログ=ハイ率いる軍勢を動かしてミンティス教国に侵攻して失敗……そういえば、サウロンってどうなったの?」


「その後、行方不明になっております」


 サウロンは行方不明と。……そういえば、行方不明ついでに。


「そういえば、最近人間の勇者が攻め込んできたってことは無かった? アズール=アージェントっていう奴が仕切っている勇者パーティらしいんだけど……」


「ここ数年は勇者がこちらの国に来ることはありませんでした。ですので、ヘズティス様はミンティス教国の動向を気にせず《大罪の七獣(セブンス・シン)》と仮面の者達の対応に専念することができておりました」


 勇者アズール=アージェント、武闘家ナナディア=ギュールズ、盗賊リューズ=ヴァート、魔法師ジェームズ=アーミン、治癒師メイヴィス=オーア。

 かつては、一ノ瀬のパーティにいた付与術師のコンスタンス=セーブルも在籍していた勇者パーティとは最近連絡が取れなくなっているとハインリヒが話していた。

 人間守護戦線の最前線に立つ勇者――人間にとっては希望の光である彼らの消息は重要だからな。


「……と、なると連絡が取れなくなったアズール達も囚われていると考えたほうがいいか。後、俺が聖女様をやっている時にユーゼフってミント正教会の司祭(プリースト)が闇堕ちする事件があったんだが、そのきっかけとなったペトロニーラっていう人も、ユーゼフを闇堕ちさせるために使った力を誰から貰ったか覚えていないって言っていた。……その時は分からなかったが、今なら分かる。敵の能力は、記憶操作だ。……こりゃ、とんでもない敵だな」


 藍色の魔法少女のように短期間の記憶を消すってレベルじゃないし、飴玉を使って記憶を抜き去る三代目の能力とも少し違う。

 まるで、記憶をフィルムのように取り出して加工したみたいだ。……ってことは、そういう能力なんだろうな。


「とにかく、俺が言えるのは今後一切ヴァパリア黎明結社と関わろうとするなってことだ。どちらにしろ俺とジューリアさんが殺す。それに、今回の件で分かっただろうが、相手は魔王軍幹部の攻撃すらも全く通用しない――そういう存在だ。超越者(デスペラード)の相手は超越者(デスペラード)に任せとけ。なんなら、ついでに《大罪の七獣(セブンス・シン)》もどうにかしちゃうから」


 あれ? なんか、雰囲気がおかしいんだが……いや、なんか俺、変なこと言った。


「草子様は魔王と魔王軍四天王の中にいる裏切り者を殺しにきたんですよね?」


 質問してきたのは助けた三人のメイドの一人――鳥魔人(ハルピュイア)のミッシュル=ハーピー。

 まさか……三人目の蜘蛛人(アラクネ)ルビーユ=ジュエッテも質問してくる流れなのか?


「……そうだけど? まあ、他にも魔王城地下に眠っている古代遺跡に挑戦する目的もあったりするけど」


「……古代遺跡、は分かりませんが。……でしたら、わざわざ関係ない魔獣を倒すために力を使う必要はないのではありませんが?」


 ごもっともな意見だな。確かに、別に《大罪の七獣(セブンス・シン)》を倒す理由は俺にはない。


「何か目的を成すついでにちょっと寄り道すれば誰かを助けられるのなら、少し寄り道したっていいと思うんだよね。本当に困っているのなら力を貸したい、強くなりたいと願っているのなら、俺のできる範囲で強くなれる方法を教えてあげたい。そりゃ、際限なくってのは無理だよ。シャルミットさんの時みたいに限界はある。……でも、できるのにしないってのは少々怠惰が過ぎると思うんだよ」


 ……いや、別に特別なことは何も言っていないよ! だからさ、尊敬の眼差しを向けるの、マジでやめてください!!

 俺って尊敬されるような類の人じゃないから!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ