「ゾンビタイムしゅーりょー!」って敵のモブキャラに言われたらおしまいだよね?
異世界生活百三十日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王領バチカル
「……仲間を殺されたのに、動揺も怒りも無しか。てっきり大切な仲間なのかと思っていたが、死を悲しむほどの関係では無かったのか、それとも俺が人間を買い被っていただけなのか……てっきりお前のことを律儀で慈悲深い者だと思っていたのだが」
……なんか勝手に落胆されたんだが。まあ、別にヘズティスに落胆されたからって何か起きる訳ではないから、どうでもいいけど。
「いや、別にそこの死を呼ぶ飛行者に怒りを覚える必要は全くないけど? ある程度の強さになると時間停止対策と即死対策は必須だってどっかで聞いたことがあるし、寧ろ対策しない方が悪い? ……まあ俺自身、時間停止対策は完璧じゃないからあんまり言えないけど……。強いて言うなら、悪いのは即死対策を怠ったジューリアさんや、ジューリアさんに即死対策を用意しなかった俺ってことになるな」
えっ? なんかヘズティスも含めて全員固まったんだが……変なこと言った?
「【即死】を使われた場合、魂が剥離して自動的に神界に転送されるまでの十五分の猶予がないからとっとと蘇生させてもらうよ。〝君、死にたまうこと勿れ。我が願いは世界の理を覆す歪んだ願い。然し、それでも我は求める、我が愛する者が甦ることを。君、死にたまうこと勿れ。我が愛する弟よ。君、死にたまうこと勿れ。我が愛する家族よ。君、死にたまうこと勿れ。我が愛する親友よ。運命で定められた理不尽な死。今こそ、その理不尽を歪んだ願いで覆し、愛する者を我が元へ〟――〝死者蘇生〟」
本来は教皇と大聖女以外には使用不可能だけど、一応俺も使えるんだよね。
はい、ジューリア復活。
「……まさか、完全な死者の蘇生を行えるとは。道理で余裕だった訳か。……しかし、となると草子、お前は【神聖魔法】を使う我々の仇敵ということになる」
「まあ、そうなるね。……ジューリアさん、死んだら瞬時に蘇生するから……そうだね、そこの死霊騎士を二体引き受けてくれない? 残りは俺の方で処理するから」
「――了解なり」
さて……アンデッドを【神聖魔法】で浄化する……ってのはあんまり芸がないし、折角だから少し捻ってみるか。
「〝殺せ、殺せ。我が死へと導く指揮よ! 振れる指揮棒よ、死と音楽を奏で、汝らの魂を冥界へと送れ〟――〝死の行軍-Death march-〟」
とある男は言った「死んでるって言われても動いているんじゃないの?」と。
実際、考えてみると死んでる者を殺すとか、既に終わりきった者を殺すとか、意味が分からないけど、やってみたらできるんじゃね? って思ったんだよ。
で、やってみたら実際に死を呼ぶ飛行者と死霊騎士が死んだ。
「……死んでいる者にも即死は通じるみたいだな。全ての生命、物質が行き着く終わり切った者の残滓に即死は通用するのか……まあ、検証する相手もいないんだけど」
「嘘、だろ。既に死んでいるアンデッドを殺すことができるのか?」
ヘズティスは前の段階すら理解できていないようだ……アンデッドの死を受け入れられないって気持ちは、まあ分からないことはないけど。
「ゾンビダイムしゅーりょー! ……ってまだ完璧に終わってはいないけど。まあ、ジューリアさんもすぐに終わらせるだろうし、それまで少し読書させてもらうよ」
皮の袋からポテムの村で手に入れた書物の複写を取り出し、読み始める。
さて、どれくらいかかるかな?
「〝双星顕符〟」
「――太極光闇飛斬」
……あんまり効いていないっぽい? そもそもHP0だから通常攻撃で減らそうと思ってもダメなのか?
たく、しゃあないな。……とりあえず、この複製は喰っておくか。
「ジューリアさん、浄化じゃないと無理っぽいから俺がやるよ」
「……了解なり」
「〝嗚呼、大いなる主よ! 今こそ汝の慈悲でこの世を彷徨える者達の心をお清め下さい!〟――〝光聖霊浄化〟」
残りも浄化完了。……今度こそ不死機団は全滅だな。
「……マジか、不死機団が全滅。……というか、お前みたいな意味が分からない強者にどうやって勝てって言うんだよ? まさか、俺を浄化する気か! 浄化して結界を解こうっていうのか?」
「そんな暴力的なことはしないよ。……俺には超越者ではない者の凡ゆる干渉を無効化する力がある。まあ、普通にやってもヘズティスさんにはコンマ一ミリも勝ち目はないってことだな」
「それ、酷くねえか! そっちの攻撃が一方的に俺を蹂躙するってことだろう!! 絶対負けるじゃん!!」
「……だから、俺の魔法で作り出した空間で一対一の勝負をしようって提案だ。この空間内では俺に対する攻撃が通用するようになる。後、結界内で死んでも夢と判定されるから現実世界では一切ダメージを負わない。そのルールで戦い、俺が勝てば魔王城の結界を解除する。もし、俺が負けたら結界解除の件はさっぱり諦めるよ」
「そういうことなら、まだ俺にも勝ち目がありそうだな。いいぜ、その勝負乗った!!」
◆
【――システム起動。《神代空間魔法・夢世結界》の発動、完了しました。耐性及び無効スキルの無効化、超越者の優位性無効化、HPゲージの表示完了しました】
中空に画面が生まれ、エンリの姿が映し出される。
「……しかし、とんでもないな。死すら無かったことにできる魔法なんて効いたことがねえぞ。……身体にも違和感がないし、とても夢だとは思えねえ」
「昔、超古代文明が破壊した文明が持っていた《神代魔法》って呼ばれるものらしいよ。有用だけど、とにかく魔力をバカみたいに消費する……実用的ではないな」
「……はっ? 何、面白いこと言ってんだ? 超古代文明とか、ファンタジーかよ?」
ファンタジーの世界の住人が「ファンタジーかよ」って……笑えねえな。
まあ、こっちの世界の奴らからしたら科学の方がファンタジー……って訳でもないか。実際、マルドゥーク文明は存在している訳だし。
「んじゃ、始めるとしようか?」
皮の袋からエルダーワンドを取り出し、剣の形に変形させて構える。
「汝に死の宣告を!」
いきなり【死の宣告】を発動してきたか。
「〝嗚呼、我らが崇拝し主よ! その加護により我らが身に降りかかる凡ゆる厄災を祓いたまえ〟――〝聖祈之祝福〟」
凡ゆる状態異常を無効化する【神聖魔法】で【死の宣告】を振り払い、【不可視ノ王】と【瞬間移動】を発動して、背後に回り込む。
「――ッ! どこに行った!!」
ヘズティスは頭を天高く放り投げた。【視野拡張】を発動したな。
ろくでもない世界のデュラハンは頭を投げることで視野を広げていた。それと同じことをしたのだろうが……。
見られる力をゼロにする【不可視ノ王】を発動した俺を捉えられる者は存在しない。
【視野拡張】を発動したところで、その中に俺が映っていたとしても、俺を認識することはできない。
「ど、何処にいる!!」
少し可哀想になってくるな。まあ、これも勝負なので。
【究極挙動】を使って連続で攻撃を仕掛ける。ヘズティスのHPが確実に削られていく。
【究極挙動】で放たれる斬撃もまた人の目で捉えることはできない。
そこからは一方的な攻撃になった。……まあ、この状況で負ける方がおかしいよね。
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ヘズティス=ソードルケーター
HP:0/400000
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よし、撃破。これで終わりか。
ヘズティスがポリゴン状になって消えるのと同時に結界の外にヘズティスが出現する。
さて、勝負も終わったし、結界を解くか。
◆
「約束通り、魔王城の結界を解除してくれ」
「……不本意だが、約束は約束だ。魔王領バチカルの分の結界を解くよ……ちょっと待っていてくれ」
これで魔王城の結界が一つ消えることになる。
魔王軍幹部は残り九人……まだまだ先は長そうだ。
……ん? 新しい反応? この城の中にか?
「ちょっと待ってくれ」
「なんだ? 魔王城の結界の解除は約束するが、他の魔王軍幹部や四天王の情報は渡さないぞ。勿論、魔王のもだ」
「違うよ……今日、俺以外に来客の予定あったか?」
「いや、お前だけの筈だぞ。……それがどうかしたか?」
「ってことは招かれざる客か?」
現れたのは薄暗い城には不釣り合いな青い瞳の人間の少女だ。
フリルを大量にあしらった裾口幅の広がった白色上着を着て、首下に赤いスカーフを巻き、腰にはスカーフと同系色の巨大なリボンをつけている。胸元には桃色のハート型の石が嵌っていた。
下には飴玉型のリボンが大量にあしらわれ、パニエによって広がったスカートを履いている。
ブラウンの髪をヘアピンで留め、白いベレー帽を被っている……コック帽じゃないんかぁい!!
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NAME:魔法少女マルミット AGE:21歳
LEVEL:600
HP:300000/300000
MP:250000/250000
STR:300000
DEX:300000
INT:10000
CON:300000
APP:120
POW:300000
LUCK:2500
JOB:魔法少女
SKILL
【片手剣理】LEVEL:600
→片手剣の真髄を極めるよ! 【片手剣】の上位互換だよ!
【唐竹】LEVEL:600
→唐竹が上手くなるよ! 上から下に斬るよ!
【逆風】LEVEL:600
→逆風が上手くなるよ! 下から上に斬るよ!
【袈裟斬り】LEVEL:600
→袈裟斬りが上手くなるよ! 相手の左肩から右脇腹を斬るよ!
【逆袈裟斬り】LEVEL:600
→逆袈裟斬りが上手くなるよ! 相手の右肩から左脇腹を斬るよ!
【左斬り上げ】LEVEL:600
→左斬り上げが上手くなるよ! 袈裟斬りの逆に斬り上げるよ!
【右斬り上げ】LEVEL:600
→右斬り上げが上手くなるよ! 逆袈裟斬りの逆に斬り上げるよ!
【飛斬撃】LEVEL:600
→斬撃を飛ばすのが上手くなるよ!
【無拍子】LEVEL:600
→無拍子が上手くなるよ!
【刺突】LEVEL:600
→刺突が上手くなるよ!
【連続突き】LEVEL:600
→連続で突きを放てるようになるよ!
【貫通】LEVEL:600
→攻撃を貫通させられるようになるよ!
【薙ぎ払い】LEVEL:600
→薙ぎ払いが上手くなるよ!
【ジュドヴァ=ノーヴェ語】LEVEL:600
→ジュドヴァ=ノーヴェ語を習得するよ!
【料理聖女】LEVEL:600
→美味しい料理とお菓子を作ることができるよ!
ITEM
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「魔法少女……なんで、そんなんが魔王軍幹部の城に来てるの?」
「へぇ。お兄ちゃん、わたしのこと知っているんだ♡ はじめましてぇ、わたしは魔法少女マルミット。魔王軍幹部ヘズティスと能因草子って人を殺しに来たんだぁ♡」
稚拙な口調は作ったものか、彼女の天性のものか……魔法少女ってその見た目からは年齢を予測できないんだよな。
小学生から大人、果ては男や動物まで、魔法少女に変身したって前例はある。……これは前例の作品があるってだけではなく、クリプが実際にそういうのもあったって言っていたから、この世界でも当てはまる。……って21歳って書いてあったよ! 二十一歳でこれは流石にイタイ。
……問題はこの魔法少女が何者かってことだ。
現状の情報を総合すれば、クリプと同じ情報思念体フリズスキャールヴの端末と契約した存在……ってことになるけど。
「……可愛い女の子だな。頭を転がしてスカートの中、覗いてもいいかな?」
「あの、変態首無しの騎士さん、状況を考えようぜ? ……あれは、魔法少女っていう願いと引き換えに人外の存在に至った者達の一体だ。……ステータス的にはお前より弱いが、だからと言って油断はできない。……それに、魔法少女マルミットは俺を殺すと言った。つまり、俺という存在を知っているということになるが……果たしてどこまで知っているのか? もし、俺が超越者であることを理解しているとしたら、それを突破する術を用意した上で俺の前に現れたのか……いずれにしても油断はできないよ」
「へぇ、お兄ちゃんが草子なんだぁ♡ よかったぁ♡♡ ……わたしねぇ、お兄ちゃん達アクニンを殺すためにここに来たのぉ。魔法少女はセイギの存在――だから、お兄ちゃん達アクニンを倒して世界を平和にするんだぁ♡♡♡ だからねぇ……死んで、お兄ちゃん達」
胸元のハート型の石が、眩い桃色の光を放つ。
まさか、あれはコスチュームじゃなくて……。
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・プリンセスジュエル
→人造魔法少女が変身するために必要なアイテムだよ!
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ユーゼフが闇堕ちするきっかけとなったソウルハゥトと呼ばれる魂を変換させた石。
まさか、あれは人造魔法少女を作り出すための実験の副産物だったりするのか!!
「……あれは、情報思念体フリズスキャールヴ産の魔法少女じゃない。別種の存在だ!」
プリンセスジュエルの光が桃色から黒へと変わり、ヘズティスの城に居た全ての者を呑み込んだ。