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辞表を持っているのに提出する機会が訪れるまでに意外と時間が掛かったのだがそんなに長期間モブキャラをパーティに入れておく必要があったのだろうか?

 異世界生活八十三日目 場所エシュガテの町、冒険者ギルド


 もうそろそろ用事が終わる頃だろうし、白崎達を迎えに行くとするか。


 おっ、白崎達は別の冒険者のグループと話しているみたいだな。……えっと、一ノ瀬梓? えっとどっかで聞いたことがあるような。誰だっけ?


「……へぇ、白崎さん達はそんな危険な旅をしてきたんだ」


「確かに波乱万丈だったけど、楽しいことも沢山あったよ」


「でも、草子君は白崎さん達を何度も危険に晒したんでしょう? 助けたからと恩を着せていつまでも連れ回して……それって、 本当に白崎さん達を思っての行動なのかな?」


 ……あぁ、遂に解雇の瞬間か。というか、よく今までこんなモブキャラをパーティに置いていたよ。


「お取り込み中失礼。噂の草子さんです。話に割って入ったのは謝るよ。まあ、すぐに済む話なんでね」


 ああ、用意しておいて良かったよ。今この場で書いたら格好がつかないからね。まあ、モブキャラは格好を付けてもモブキャラだから、別に付けなくてもいいんだけど。


「どうせ解雇されるなら、パーティを追放される前に自分から辞める方がいいと思うんだよ。外聞的にも? こんなモブキャラのために勇者パーティの名声を傷つけるなんて妥当な判断じゃない。ということで、本日をもって俺、能因草子は白崎さんのパーティを退職させて頂きます。まあ、二週間前に言わないといけなかっただろうけど、その辺りはご勘弁くだされ。それから、レーゲン君。俺と一緒に追放されるのは心底嫌だと思っているだろうけど、少なくとも狩野照次郎、藍川孝徳両名を救出するまでは目的が同じだ。それが終わってからは白崎パーティに戻るなり、助けた二人と冒険するなり好きにしてくれていいから、それまでは協力してくれないか?」


「……それは、勿論構いませんが。それなら、白崎さん達と一緒でも」


「榊翠雨……お前の目的がなんだったのか、もう一度深く考えろ。白崎さん達と一緒に居たいのなら、それで構わない。……俺が救う中に狩野照次郎と藍川孝徳は含まれていない。立ち塞がるのであれば、やむを得ない事情があろうと無かろうと殺す。……それが嫌なら、最適解を選べ。いや、そもそも俺と一緒に行かずとも一人で乗り込むって手もあるけどな。もう、国の中に入っちゃった訳だし」


「……分かりました。それでは、二人を助けるまでは協力します。そして、その後は草子さんの考えを変えさせます」


「……まあ、好きにすればいいんじゃね。先に言っとくが、俺の中で地球に帰還することに勝ることはない。もし、地球に帰還するためにはこの世界の生きとし生けるものすべての命を捧げるというのであれば、俺はそれを厭わない。まあ、そんなことはあり得ないんだけど。まあ、今の例え話で覚悟は伝わっただろう? そんな感じだ」


 念のため俺とレーゲン以外の時間を〝時空停止(クロックロック)〟で止め、〝移動門(ゲート)〟を開いた。



【一ノ瀬梓視点】


 ボクは、草子君に嫉妬していた。

 クラス一の美少女の白崎さんを初めとして、多くの美少女に囲まれた彼を。


 もし、そんな彼女達をボクのハーレムに加えることができたら、どれほど素晴らしいかと。


 そうして、欲を出した結果……ボク達の周りは最悪の空気になっている。


 何が起きたのか理解できなかった。白崎さんに辞表を提出し、レーゲンという白崎さんの取り巻きの一人を誘ってパーティを脱退した……そういうことで、多分間違いないんだと思う。


「……追放されちゃったね、あたし達」


 天使のような美しさと可愛らしさを併せ持つ女の子が、溜め息混じりに呟いた。

 どう考えても追放されたのは草子君とレーゲンっていう取り巻きなのに、どうして白崎さん達の方が追放されたってことになるんだろう?


「物凄い居心地が悪い。俺達も出て行くよ」


「進藤君、久嶋君、大門君、待って!!」


「……なんで待たないといけないんだ? 能因が出て行く切っ掛けを作った一ノ瀬とパーティを組むなんてごめんだ。それに、男に恐怖を抱いている奴もいるんだろう? それなら、俺達もいない方がいいだろう」


「では、私も失礼致します。可愛い幼女達が私を待っているので!!」


「……待ちなさい、イセルガ。混乱に乗じて脱出しようだなんて、そうはいかないわ! それに、草子君の契約が持続しているからどちらにしろ手は出せないわよ!!」


「……全く、とんだ呪いを掛けてくれたものです。あの男は」


「それ、草子君がいないから言えることですわよね?」


 お嬢様風の少女が〝精神振盪(マインドビート)〟と唱えると、イセルガと呼ばれた執事風の男はピクピク痙攣して、その後動かなくなった。……だ、大丈夫かな?


「とりあえず、作戦会議をしましょう。リーダーの草子君がいませんので、代役は白崎さんにお願いしたいと思います。まあ、いつもの女子会と同じですけど」


「私だと力不足な気がするけど、ロゼッタさんがそこまで言うのなら。……まず、ここにいるメンバーで意思の確認をしたいと思います。草子君を連れ戻すことに賛成の方」


 全員の手が上がった。つまり、全員が草子君を連れ戻すのに賛成ということ。

 なんで? あんなに自分勝手に振りまわしていたのに。


「……なんで、白崎さん達は自分勝手な草子君を連れ戻そうとしているの?」


「一ノ瀬さん、まず前提が間違っているの。私達は無理を言って草子君と一緒に旅をさせてもらっていた。つまり、自分勝手なのは私達の方。でも、草子君はそんな私達の我儘を受け入れてくれて、色々と配慮してくれた。返せないくらい沢山のものをもらった。……それに、私は草子君が好きなの。友情じゃなくて、恋愛の方の好きね」


「あたしも同じく。というか、草子君のことを一番よく知っているのはあたしだし、こっちに来てからころっといった白崎さんに負ける訳にはいかないわよ」


「私だって聖さんにも白崎さんにも負けません! 草子さんは同じBLを愛する同志です! ですから、私と草子さんは心が繋がっているのです!!」


「……草子君はBL好きじゃないと思います。……皆さんには言っていませんでしたが実は私、揺れているんです。草子君と一緒にいると心が安らぎます。……ジルフォンド様と婚約を結んでいますが、最近は婚約を解消してしまおうかとも考えていまして。正直、ジルフォンド様よりと、草子君の方が私と相性がいいですし」


「「「えっ、本当に!?」」」


「……これは、とんでもないライバルの参戦ですね」


「うふふ、私も負けないわよぉ〜」


『北岡、安心するリプ。……お前はどう考えても候補に入っていない。とりあえず、取らぬ狸の皮算用な能因草子の正妻戦争をするよりも先に、どうやって彼を連れ戻すかを考えた方がいいんじゃないのか? 実際君達は全員見限られてポイ捨てされた訳だろう?」


 ふわふわした左右非対称の瞳を持つ白狐のような生物が辛辣な言葉を口にしたけど……あれってキュ●べぇと同類なのか?


『アイリス、能因草子の髪は持っているかい?』


「私が好きなのは女の子の艶やかな髪だけだよ。男のチクチクした短髪なんて拾う訳がないよ」


『まあ、例えあったとしても情報は掴めないだろうけど。超越者(デスペラード)だったっけ? あの人を超越した存在には、超越者(デスペラード)以外からのあらゆる干渉が通用しない。……つまり、彼の行方を特定するのは無理ということだ』


「いえ、まだ諦めるのは早いわ。草子君は必ずミント正教会の中枢を――枢機卿(カーディナル)マジェルダを襲撃する。なら、ミント正教会の動向を調べていれば、草子君を見つけられるかもしれない」


『……白崎の言葉には一理あるが、彼がそう簡単に居場所を特定させると思うかい? それに、会ったところで君達に何ができる? 元より君達の望みと草子の望みは異なる。その彼の望みを捨てさせてまで一緒にいることを強要するのかい? そして、それができるほどの力を、覚悟を君達は持っているのかい? 能因草子が彼の本来の居場所に戻るために超越者(デスペラード)に至ったように、君達は超越者(デスペラード)に至れるほどの覚悟を持っているのかい? ……まあ、僕個人としては、紅麗亜紫苑以上の素質を持つあの少年がどこに行き着くのかを見てみたいけどね」


 このモフモフした生き物が魔法少女のマスコットキャラクター……それも、キュ●べぇと同種と考えてもいい彼が、そこまで草子君の強さを買っているなんて。

 彼は、一体何者なんだ?


「……私達は、草子君に美咲さんを救ってもらったし、色々なものを貰った。まだ、私達は何も彼に返せてない。……何もお礼できていないのに、このままお別れなんてごめんだわ! 私は、なんとしても草子君を探すわ!!」


 あの柴田さん達が傲慢じゃなくなったのは、もしかして草子君のおかげなのかな?

 草子君と柴田さん達の間で何があったのかは分からないけど、多分柴田さん達を変えてしまうくらい大きなことをしたんだと思う。


「……たく、仕方ないな。俺達も能因には借りがある。探すの、協力するよ」


「……進藤君。三人とも、ありがとう」


「仕方ありませんね。あの人のことは憎いですが、ロゼッタお嬢様のお望みとあらば捜索をお手伝いさせていただきます」


「馬車馬のように働くのよ、イセルガ。いつもは全く役に立っていないのだから、今回くらいはきっちり働いてもらうわよ」


 あのロゼッタっていうお嬢様。相当辛辣だな。まあ、相手がその変態執事ならそうならざるを得ないと思うけど。


「……一ノ瀬さん。私は貴方のことも大切なクラスメイトだと思っているわ。だから、力を貸してくれないかな。……私の望みはもう一度クラスを一つにしたい。そこには、一ノ瀬さんも能因君もいないといけないから」


「……仕方ありませんね。分かりました、委員長。元はと言えば、ボク達のせいですし」


「ありがとう、一ノ瀬さん」


 ……あぁ、この笑顔は草子君に向けられているんだよな。

 君は本当に幸せものだと思うよ、能因草子。



【白崎華代視点】


「草子殿ならついさっき来たぞ。しばらく休暇をもらいたいということだった。代わりに教科書を置いていってな。これさえあれば、誰でも授業ができると言っていたが……何があったのか?」


 草子君が教師を務めているエリシェラ学園に行けば会えるかもしれないと思っていたけど、一歩遅かった。

 草子君は既に長期休暇の申請を出していた。時間を遡ってエリシェラ学園に講義をしに来ていた草子君が休みを取るということで、セリスティア学園長も不審に思ったみたいだ。


「……そうか。やっぱり見捨てられたか。いずれこの時が来るとは思っていたが。……前に私は、草子殿が孤立してしまうことを危惧して、白崎さん達に戦う術を教えた。が、それでも足りなかったようだ。……どこまでも飛べると分かっているのに、足枷をつける鳥は居ないだろう? 草子殿は、それでも白崎さん達の同行を認めていた。どこまでも飛べるにも拘らず、他人のペースに合わせていた。だが、それも限界に近づいてきたんじゃないか?」


 イヴとカンパネラ……超越者(デスペラード)という私達では太刀打ちできない敵。

 彼らを相手にする時、私達はただのお荷物になってしまう。


「それに、今回。これまでの頑張りを否定された。それが、彼を怒らせたのだろう。ああ見えて、意外と草子殿は子供染みたところがある。……と言いたいところだが、彼は多分それほど怒っていないな。彼はほとんど見返りを要求しない。見返りを求めるならば奴隷解放などはしないだろう? 恨まれるこそすれ、賞賛されることはほとんどない。金ばかりかかる仕事だ。……そうだな。彼は難読の文章のような人間だ。言葉と行動が乖離していることはザラにある。彼が何を望んでいるのかを、彼の行動の結果、何が起こるのかということと絡めて考えれば、自ずと分かる筈だ」


 草子君の本当の狙い。言葉の内に隠された、本当の思い。

 それを読み解かないと草子君の本当の気持ちは分からない……全く、草子君らしいな。


「――草子先生が休むって本当なのですか!!」


 バタンと音を立てて学園長室に入ってきたのは……貴族令嬢?

 確か、草子君のクラスの生徒さんだよね?


「エカテリーゼさん。もう少しお行儀よく……」


「申し訳ありません。……そ、それよりも草子先生が休むのって本当なのですか?」


「草子殿にも色々とやることがあるのでしょう。……寧ろ、週一程度で来てもらえれば問題ないという特殊な非常勤という形で無理を言ってお願いしたにも拘らず、これまで一日も休まず学園で教鞭を取ってくださり、更に学園生徒の悩みにも乗ったりするなど、ほとんど常勤講師と変わらないほどの仕事をしてくださっていたということが、あり得ないことだったのです。草子殿はまだ学園の教師を辞めていませんし、きっと戻ってきますよ。だから、エカテリーゼさん。心配しなくても大丈夫ですよ」


「……べっ、別に心配してなどいませんわ!!」


 エカテリーゼさん、ツンデレなんだぁ。


「そういえば、草子殿は文芸同好会にも顔を出してきたようです。新作の劇の台本が書けたので、提出してきたと言っていました。……教科書も完成して、草子殿が教えられることは全て私達だけでも教えられるようになった。文芸同好会は副顧問の先生が監督をしていますし、文芸同好会に提出を約束していた台本も提出し終えた……もしかしたら、彼がこの学園でするべきことは既に終わってしまったのかもしれませんね」


 セリスティア学園長はとても寂しそうだった。セリスティア学園長は誰よりも草子君のことを買っていたからね。

 もし、このまま草子君がエリシェラ学園の教師を辞めてしまったら……いえ、最初から分かっていたことだよね。

 地球に帰るのなら、エリシェラ学園の教師を続けることはできないから。


 その後、草子君が国家同盟の議長の仕事も休業していることが判明し。


「……どうして、どうして開かないの!」


 草子君の屋敷に移動できた筈のゲートミラーが、草子君の屋敷に突然繋がらなくなり、私達と草子君の繋がりは完全に途絶えてしまった。

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