【三人称視点】天啓の救済の大聖女と正教会④
ミンティス歴2030年 8月16日 場所ミンティス教国、ウァレレムの町、教会(教派:ミント正教会、宗派:セペァジャ派)
「……次は僕が出します。……護衛なのに、カタリナさんよりも弱くて本当に申し訳ございません」
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NAME:ユーゼフ=クランマー AGE:14歳
LEVEL:9
HP:90
MP:100
STR:30
DEX:30
INT:150
CON:30
APP:50
POW:30
LUCK:60
JOB:司祭(ミント正教会)
SKILL
【光魔法】LEVEL:10
【回復魔法】LEVEL:10
【祈祷】LEVEL:10
【自己治癒】LEVEL:10
【魔力操作】LEVEL:10
【魔力付与】LEVEL:10
【魔力治癒】LEVEL:10
【死霊視】LEVEL:10
【魔力制御】LEVEL:10
【ミンティス語】LEVEL:60
ITEM
・癒しの杖
・司祭服
・癒しの指輪
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カタリナショックで心を折られたユーゼフは、嫌そうに紙を出した。
これほどのものを一番に出されるというのは後の者にとっては酷な話である。
そんなユーゼフを気遣い、ゼルガドが「ありゃ、規格外だから仕方ないぜ」と声を掛けている。
カタリナは心外だとばかりに頬を膨らませた。
「では、次は私が出そう」
ユーゼフに続いてユリシーナが紙を提示した。
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NAME:ユリシーナ=クィルス AGE:25歳
LEVEL:70
HP:2000
MP:3000
STR:1900
DEX:1000
INT:80
CON:2000
APP:80
POW:2000
LUCK:40
JOB:大司教(リコリス教)、修道女(ミント正教会)
SKILL
【聖魔法】LEVEL:100
【回復魔法】LEVEL:100
【祈祷】LEVEL:100
【自己治癒】LEVEL:100
【魔力操作】LEVEL:100
【魔力付与】LEVEL:100
【魔力治癒】LEVEL:100
【死霊視】LEVEL:100
【魔力制御】LEVEL:100
【反魂】LEVEL:100
【ミンティス語】LEVEL:60
ITEM
・ミスリルスタッフ
・ウィンプル
・ベール
・トゥニカ
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「ユリシーナさんは、リコリス教の大司教の方も残したんですね」
「はい、勿体ないですから」
ユーゼフの問いに、ユリシーナは即物的な答えを出した。
大司教などの階級に縛られる宗教職は、その立場ごとに取得できる魔法のランクにも差が出る。具体的にはスキルの光系の魔法のレベルが制限されるのだ。
とはいえ、その差は教皇や枢機卿のように隔絶した差が生じる訳ではない。
助祭は【光魔法】の一万、司祭と修道女は【聖魔法】の十、大司祭は【聖魔法】の百、司教は【聖魔法】の千、大司教は【聖魔法】の一万、枢機卿と聖女は【神聖魔法】の百、そして教皇と大聖女が制限なし。
しかし、この制限を覆すものがある。【全属性魔法】という反則級の魔法だ。
これにより、理論上は教皇でなくても〝霊体崩壊〟を使える筈なのだが、未だにその存在が現れていない理由は推して知るべしである。
ちなみに、ミンティス教国は教徒のJOBについて何かしらの制限を設けてはいない。
ミント正教会の助祭などにも他宗教の司教職をそのまま残している者もいる。
その方が戦力的に都合がいいからというミント正教会の為政者達の思惑である。
中には他宗教の職を残すことに異を唱える派閥(ネメシス派やハインリヒ派といった特に信仰心が強いグループ)もあったが、マジェルダに一蹴された模様。
「じゃあ、最後は俺か。……カタリナ様、あんまり笑ってくれるなよ?」
「勿論、笑ったりはしませんよ」
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NAME:ゼルガド=ソウブル AGE:25歳
LEVEL:70
HP:5000
MP:100
STR:6000
DEX:2000
INT:80
CON:2000
APP:50
POW:2000
LUCK:30
JOB:聖騎士
SKILL
【聖剣術】LEVEL:20
【魔法剣】LEVEL:20
【聖刃】LEVEL:20
【閃光斬撃】LEVEL:20
【飛斬撃】LEVEL:20
【無拍子】LEVEL:20
【無念無想】LEVEL:20
【蛮勇】LEVEL:20
【受け流し】LEVEL:20
【立体起動】LEVEL:20
【縮地】LEVEL:20
【閃駆】LEVEL:20
【全属性魔法】LEVEL:20
【全属性耐性】LEVEL:20
【魔力纏】LEVEL:20
【ミンティス語】LEVEL:60
【自己治癒】LEVEL:20
【魔力操作】LEVEL:20
【魔力付与】LEVEL:20
【魔力治癒】LEVEL:20
【死霊視】LEVEL:20
【魔力制御】LEVEL:20
【威圧】LEVEL:20
【気配察知】LEVEL:20
【魔力察知】LEVEL:20
【熱源察知】LEVEL:20
【振動察知】LEVEL:20
【危機感知】LEVEL:20
【快楽調教】LEVEL:20
ITEM
・ミスリルソード
・フルプレイトミスリルメイル
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「ゼルガド様は聖騎士だったのですね?」
「……初対面の時は武器を使わずいきなり【快楽調教】を仕掛けたからな……本当にすまなかった」
「私は別に何もされていませんからいいですよ。被害者の皆様に謝ってくだされば、それで充分です」
カタリナは【快楽調教】の毒牙に掛かっていない。
カタリナは、ゼルガドから謝られるような立場にはないと考えていた。
「ゼルガドの剣の腕は超一流だ。頼りになるぞ」
「分かりました。楽しみにしておきますね」
「ユリシーナ様、そりゃ酷いぜ! カタリナ様に比べたら俺なんて雑魚だ、雑魚!!」
「……あの、ゼルガドさん。それを言うなら全員雑魚です……その中でも僕が一番の雑魚です」
「おい、ユーゼフ! 大丈夫だ! まだ強くなれる!!」
生気のない目のユーゼフを揺さ振り、元気づけようとするゼルガド。
そんな二人を微笑ましそうに見つめるカタリナに、ユリシーナは内心戦慄した。
◆
教会の食堂で食事を終えた後、カタリナ達は浴場に案内された。
入り口で男女別に分かれ、ユーゼフとゼルガドは左側の男湯に向かう。
ユーゼフは簡易的な脱衣所で服を脱ぎ、身体を掬った湯で流した後、湯船に浸かった。
一方、ゼルガドの方は簡易的な脱衣所で服を脱ぐまでは同じだが、そこから女湯と隔てる壁の方に向かうと何かを探し始めた。
探すのは無論、覗き穴である。
「……おい、ユーゼフ。お前も手伝え」
「嫌ですよ。そもそも、僕は覗き反対派です!」
「……向こうには花園が広がっているんだぞ。ユリシーナ様もだが、カタリナ様は破壊力が違うだろ? 服を着ててもアレなんだから、脱いだらきっと凄いだろうな」
思わず想像してしまい、茹で蛸のように顔を赤くしてしまうユーゼフ。
そんなウブな姿を見てゼルガドは「ウブな奴だな!」と笑うと、再び覗き穴の捜索を開始した。
一方で、女湯では。
「……やっぱりか。どいつもこいつも男は覗くことしか考えていないのか。この変態どもめ」
「まあまあ、仕方ないじゃないですから。男の本能に逆らうのはきっと難しいことだと思いますよ」
苛立ちを募らせるユリシーナに対し、カタリナは余裕の表情を浮かべたまま湯を堪能している。
同性ですら思わず視線を向けてしまう双丘……ユリシーナ以上に注目の的にされるであろうカタリナだが、全く気にしていないようだ。
「……まさか、そういう性癖があるのか?」
「違いますよ? 殿方に進んで身体を見てもらいたいとは思っておりません。でも、見られるくらいなら別にいいと思いますよ。別に減るものでもありませんし」
「……いや、そうだが」
あまりにも達観しているカタリナの言動にユリシーナは返答に困ってしまう。
「しかし、本当に覗き穴なんてあるのか?」
「ありますよ? ほら、そこの壁に少し切れ込みが入っていますよね? そこをズラせば向こう側が見えます。きっとこの教会の重役の方が造らせたんでしょうね。修道女の裸を堪能するために」
当然のように覗き穴の場所を看破したカタリナに言葉を失う。
そんなユリシーナがなんとか紡ぎ出した言葉は……。
「……最低だな」
「ですね」
カタリナもユリシーナの言葉に同意する。ミント教の闇を見た二人の女性の言葉は、「最低」の一言に尽きた。
「どうしてもお灸を据えたいということであれば……万天照らす日輪の大杖」
カタリナの手に純白の杖が現れた。
「〝発動〟――〝氷結〟」
万天照らす日輪の大杖の杖先に魔法陣が一瞬現れ、消えると同時に覗き穴の周囲が凍結した。
「……凄いな。これが、万天照らす日輪の大杖の七十七の魔法の一つか?」
「そういうことになりますね。ですが、この杖に込められているのは初級魔法だけではありませんよ」
ユリシーナは、三つの武器に比べて万天照らす日輪の大杖は明らかにスペックが劣っていると考えていた。
しかし、もしこの杖に最高クラスの【神聖魔法】――〝極聖光爆〟や火属性上級魔法――〝灼熱世界〟などが封印されていたら……。
ユリシーナが身を震わせるのを、カタリナは不思議そうに見ていた。
◆
「おはようございます。昨晩はよく眠れましたか?」
語彙力のない男であれば、天使としか形容できない笑顔も、ゼルガドやユリシーナから見れば悪魔の如き恐ろしいものに思えてしまう。
ユリシーナは、彼女の持つ底なしにすら思える強さを改めて見せつけられたが故に。
ゼルガドは、ようやく覗き穴を見つけたところで〝氷結〟によって指を凍らせられてしまったが故に。
ユーゼフの【回復魔法】が無ければ今頃ゼルガドは指を切り落とす羽目になっていただろう。危うく凍傷になりかけた指を救ってくれた未熟な司祭に、ゼルガドは内心で魂の友人と呼ぶほどの恩を感じていた。
「皆さん、元気がありませんね。それでは、ドライグ・ゴッホとグウィバーを倒せませんよ」
今日ばかりはカタリナの底なしの元気が恨めしい。
「ところで、ジュレェウの村までは後どれくらいなんだ?」
「……ゼルガド、まさかジュレェウの村がどこにあるか知らなかったのか?」
意外とゼルガドには脳筋のところがあるのかもしれない。
ふと、ユーゼフがカタリナに視線を向けると、一瞬だけ嫌そうな顔をしていた気がしたが、温厚で聖母のように懐の深い彼女がその程度のことで怒ることはないだろう。
「ジュレェウの村まではもう少しです。決戦は間近ですよ。より正確に言えば、次の集落がジュレェウの村です」
「そうなのか! なら、とっとと進もうぜ!」
「……ゼルガドさん。その前にまずはお祈りですよ」
「ッ! そうだった。俺としたことが」
カタリナの目がどんどん冷えていっているが、多分気のせいだろう。……気のせいだろう。
教会の神父や修道女達と共に朝の祈りを礼拝堂で捧げた後、食堂で食事を摂り、カタリナ達は大勢の信徒達に見送られて出発した。
◆
「〝届け、届け、我が祈りよ! 戦場に立つ我が愛しい人を癒せ〟――〝聖祈之治癒〟」
紡がれたのは仲間を癒す【聖魔法】。しかし、その対象はブラストウィーゼルと呼ばれる魔獣の群れ。
癒しの御技であるこの魔法を敵である筈の魔獣に向けて放つという愚策とも取れる行動をとった理由は、本来の〝聖祈之治癒〟とは違う深淵のような闇にあった。
即ち、【反魂】――その性質を反転させるスキルの効果で、傷を癒す御技は対象を傷つける凶悪な技へと変化したのである。
しかも、その闇は触れた部分を直接傷つけ、強制的に命を奪っていく。
治癒魔法が患部を直接回復させる光なら、【反魂】を用いた治癒魔法は直接その部分に死を与える闇。
更に、【反魂】を用いた治癒魔法にはHPを回復させるという元来の性質が残っていた。
ただし、回復される数値はマイナス。つまり、直接確実にHPを削ることができるという下手な攻撃魔法よりも厄介な性質があった。
「素晴らしい力ですね。……しかも、【反魂】を用いた治癒法術の威力は通常の治癒法術よりも上がっています。性質を反転させるという本来の条理から逸脱させる行為により、大きなエネルギーが加わったのでしょう」
「……そうなのか?」
ユリシーナはカタリナの言葉を聞き、自分が【反魂】について知っているつもりで全く知らなかったということに気がついた。
「光と闇の反転だけではなく、炎と氷の性質の反転のようなことも行える興味深いスキルだと思います。ユリシーナ様は、別に回復職を選ばなくても法術職であれば相当な使い手になれたと思いますよ」
カタリナは語らなかったが、この【反魂】というスキルは本来【模倣】、【完全掌握】、【即死】、【強奪】、【魅了】、【傀儡】、【運率操作】などの所謂チートスキルに分類されるものである。
魔法にしか使えないスキルのため、【魔法無効】とは悉く相性が悪いが、使い方さえ理解すればとんでもない存在になることができる。
属性の反転は光と闇、炎と氷など性質が顕著に異なる場合にのみ成立する。
仮にその力に気づけても、やるとすれば精々【火魔法】を冷たい炎にする、【回復魔法】で直接傷を与えるくらいが精々だろう。
だが、真に賢いものであれば、もう一つの反転する性質に気づくことができる。
――即ち、生と死。
【反魂】を用いて発動した〝死者蘇生〟による即死と、【反魂】を用いて発動した【即死魔法】による使者蘇生。
つまり、この力は生と死を司るどちらか片方の魔法を得た時、もう片方の――反転した側の力すらも手に入れることができるということである。
「そうか。……法術を勉強してみるのもいいかもしれないな」
戦闘中にそんなガールズトークをする二人を見ながら、ゼルガドとユーゼフは改めて強くならなければと思った。
特に、レベル一桁のユーゼフに関しては、切実なところがあった。
カタリナの護衛であることに、側仕えできることに一種の誇りを持っていたユーゼフ。その自分の存在価値が徐々に失われつつあるのだから。
「魔法剣・煉獄の刃! おら、焼き尽くせ!!」
ユーゼフは魔獣と戦うユリシーナとゼルガドの姿に憧憬の念を抱きながら、必ずカタリナと共に歩める強い存在になると、そう心に誓った。