花園の恋人
さあて、今夜も私は夜に生きるわ。
私、24歳、女。1Rの独り暮らしの部屋で、お気に入りの場所はベッドだけ。
さあて、今夜も眠って『生きましょう』。
私はぼふん!と、勢い良く布団に入ると、眼を閉じて眠りについた。
気がつくと、私は白いワンピースを着て、蓮花達の花園の中に座っていた。青空の様だけど霞がかかっていて、どこまでが花園なのか検討もつかない。どこまでも続いてみえる蓮花、芝桜、クローバーなどの花花が続く丘。その蓮花の中で教会で神に祈るように手をあわせ、私はいつも通り彼を待っていた。
ふと、人の気配。
「今日も来てくれたんだね」
目を開けて見上げると、いつもの少年が微笑を浮かべながらもう私の前に立っていた。繊細そうで髪がさらさらで薄茶色が陽に透けて、とてもきれいな16歳くらいの少年。私の、たった一人の恋人。
私も微笑み返した。
「今日は、君に見せたいものがあるんだ」
「ふふ、なあに?」
私達は手を繋ぎ、楽しそうに花園を歩き始めた。
はにかんだ少年の、名前は知らない。毎晩会うけど、なんとなく聞きたくないし、こちらも何も言ってない。夢がなくなりそうで。私も、少年にあわせて16歳くらいに映っているに違いないから。
それがいい。それがわたしのここでの現実。
「ほら、これだよ」
自慢気に少年が指を指す。綺麗にのびた指の先には、虹色の光を放つ四ツ葉のクローバーがあった。
「わあ、素敵!私のために探してくれたの?」
「うん、摘み取ろうか」
私は少し考えて、同じように輝く少年に言った。
「ううん、これはここにあるから輝いているんだわ。また見に来ようよ。二人で幸せをお祈りしましょう?」
私はそっと輝く四つ葉をなでた。いとおしそうに。
「優しい君なら、そう言うと思った」
はにかみながら、彼が言う。
「それがいいね。君ってホントに素敵な人だ」
ゆっくり私は首を振る。
「そんなことないのよ」
「私はあなたがいるから優しくなれる気がするの」
「そんなことないよ、君は元から、とても優しくて綺麗だ」
見つめあった私達は、抱き合いながら蓮花の中に横たわり、長い長いキスを交わした。
ああ、私は今この人と生きているわ。なんて幸せな恋をしている私達。ずっと続いて。お願い。一生この恋人といたいの……
ジリリリリリ…!!
目覚ましが無情にもなり響いた。
「もー!わかってるっての!」
しぶしぶ止める。もう朝8時なのかよー、ちっ!
「よっと」
布団をはね除けると、埃がたち、もうもうと夢のように霞がかるとともに空のスナック菓子の袋が風圧で宙を舞った。
「トイレ行こっと」
パジャマがわりの伸びたデカTシャツのまま、床に落ちてる空き缶や、弁当のから、開きっぱなしの雑誌を避けつつ向かう。
「いてっ!」
どうやら弁当についてたつまようじを踏んだようだ。
忌々しく摘まんでそこら辺にポイする。
「ああ、今日も職探しにいかなきゃだわ」
ふー、と用を足しながらつぶやく。何て面倒くさいの。それにしてもひでー部屋だなあ。生ゴミ出さなきゃ。
あの恋人と過ごす夜が、私にとって永遠ならいいのに。
そしたらわたし、一生幸せなのにな。
私は襲ってくる現実に、懸命に生きるの止めたんだ。
眠っている夜、私は恋人と生きている。
終わり