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性悪聖女は自分の為に生きたい  作者: ナナイロ
9/9

レオナルド・アシュレイ


『王都魔法学院』は、アルメニア国一の学院である。全寮制の学院であり国内の貴族の子は十二歳からこの学院に通う様に義務付けられている。学問の学びの場であり社交を学ぶ場でもある。


家柄ではなく成績順にクラスを分けられるとされているが、家柄も多少は絡んでくる。王族は特別クラス。上級貴族は特別クラスかAからCクラスに必ず入っている。成績上位者は家柄関係なく特別クラス。バカでも上級貴族であればCクラスだ。


レオナルド・アシュレイは、特別クラスに所属していた。入学試験では満点主席合格の文句なしの成績を収め、家は次男ではあるが公爵家。十二歳でありながら既に将来有望だと太鼓判を押されていた。

見た目も美麗であり人形の様な整った顔立ちをしているため、令嬢達が目をつけないわけがなかった。

いつ、何処にいてもわらわらと群がってくる彼女達に

疲弊していた。

従姉妹の少女達には「レオナルド様のお嫁さんになるぅー」と大泣きされたり、服が破れても離してくれない事が何度もあり、同学年の令嬢は言わずもがな。年上の女性には「お姉さんが色々教えてあげる」と襲われかけたりと女性関係で哀れられる程幼い身で苦労している。

今では、立派な女性嫌い。父には生涯結婚はしません。とまで宣言している。


学院の食堂内では、視線は感じるがレオナルドが女性嫌いな事を知られており一つ上の第一王子がいる事もあり無茶な特攻を仕掛けてくる者はいない。

食事が囲まれる事なく食べれる事はありがたいく、いつもは穏やかな気分で食事を取っているが今日だけは眉間にシワ寄せていた。刺々しい空気を放っている。


「レオ。随分、機嫌が悪そうだね」


明らかに不機嫌なレオナルドへ穏やかな口調で声を掛けた男は、レオナルドと同い年であり同じクラス。

すれ違う令嬢達は見惚れ、頰を染める。彼もまた整った顔立ちであるが、冷たい印象を与えるレオナルドと真逆で優しい雰囲気をしている。


「るせーよ。アル」


アルファンス・ベルナールド。親同士が友人であり、幼馴染のアルファンスはレオナルドが最も信頼できる友人だ。


「昨日呼び立たれていたのが原因かな?」


聞きはするが、深くは追求する気がない事を知っている。アルファンスの家も公爵家だ。お互いに家の事は話さない。

レオナルドは、周りに視線を向けるとそれだけでアルファンスは理解した様で立ち上がったレオナルドの後に黙ってついてきた。


学院内にいくつかある談話室という名の小部屋は貸し切る事が出来、人に聞かれたくない話をするにはうってつけの場所だ。

レオナルドは、年間で一室を貸し切っておりちょっとした避難所にしている。



「なにかあったの?」



戸を閉めてすぐに投げかけられた質問にレオナルドは設置されているソファに腰掛けため息をついた。


「お前の家の薬師の元で助手をする事になった」


「うち?」


「ああ。相当優秀な薬師なんだろ?父上がベルナールド卿に頼み込んだらしい」


昨日突然呼び立たれたと思えば、父にそう言われたのだ。レオナルドが聞いた時点で決定事項であった為、拒否権などない。


レオナルドがアルファンスに視線を向けると、眉間にシワを寄せ首を傾げている。


「うちに薬師はいないハズだよ。雇うなんて話聞いてないけど…」


考え込むアルファンスに心当たりはない様だった。アルファンスの様子にレオナルドは眉を寄せた。

アルファンスは、学院にいても家と密に連絡を取り合っている。ベルナールド家の事でアルファンスが知らない事はない。


「あ。もしかして、アレかな。ーー実は、アリアに『悪魔の爪』を飲ませようと仕組んだ奴がいるんだ」


「は?!お前、そんな事俺に言ってもいいのか?」


アルファンスの妹であるアリアに『悪魔の爪』を飲ませようとしたなど、いらぬ噂がたちかねない。こう言った事は陛下への報告は必要だが内々で処理すべき事項だ。

他家に知られると、アリアが『悪魔の爪』を飲んだと決めつけられ悪い噂がたつ可能性があるのだ。


「調査した結果、アリアと同年代の上級貴族の令嬢も被害に遭っていたんだよ。隠していたみたいだけどね。他にも被害者がいるかもしれないから、公表するみたいだから大丈夫だよ。

幸いアリアは口にしていないし、検査結果に異常はなかったから」


「アルの妹と同年代が狙われたって事はーー第二王子の婚約者候補を排除したかったってとこか」


第二王子は六歳であり、上級貴族令嬢が狙われたのならば何処かの家が有利に娘を婚約者にする為に先手を取ったとレオナルドは考えた。アルファンスも無言で頷く。


「父上は、ある程度誰の仕業かは分かっているみたいだけど…相手が相手だからね。下手な証拠は残していないだろうし。実行犯を処分して終わりかな…。ーー僕の可愛い天使に手を出したんだ。このままで終わらせないけどね」


穏やかな表情が、黒い笑みに変わる。顔は笑っているのに目は笑っていない。溺愛する妹に手を出されたアルファンスの腹わたは煮えくり返っているのだろう。

レオナルドは、アリアと会ったことはないがアルファンスの話でお腹いっぱいになる程聞いている。


「アル、落ち着け!あー。つうことは、アレだろ。その件で薬師を雇ったってことか?」


「多分、そうじゃないかな。父上に聞いてみようか?」


「いや、どうせ学院が終わってから行く事になっている。アルが知っていたらどの様な人物か知りたかっただけだ」


「そうなんだ。あ、その薬師って女性なんだね」


アルファンスは、レオナルドの女性嫌いも原因も知っている。「ああ」と短く答えるだけだったレオナルドの不機嫌の原因に納得した。

自意識過剰とも取れるが、話を聞いている為レオナルドの警戒心は頷ける。


「じゃあ、僕も行こうかな。薬師がどんな人か見てみたいし。アリアに会いたいし」


「助かる」


アルファンスの本心は、後者だろうと思いつつも助け舟に感謝した。







学院が終わり、本来なら馬車と列車でベルナールド家へ行く予定だったがアルファンスがいる。寮の扉に魔石がついた金の鍵を差し込み開くとベルナールド家の一室に繋がった。滅多に見る事が出来ない転移魔法だ。


転移魔法は専用の魔石が必要で魔石を持っていれば出発地点は鍵付きの扉さえあれば自由だが、着地地点は魔法陣と対をなす魔石が設置された場所にしか行く事が出来ない。

使われている魔石には古代魔法(失われた魔法)が込められており、作成などできない。国の管理下にあり、特定の貴族しか持つ事が許されていないのだ。

アシュレイ家にもあるが、レオナルドは転移魔法に必要なカギは持っていない。


応接間に案内され、レオナルドの目の前にはベルナールド家の当主ハワード・ベルナールドがいる。


「わざわざ、すまないね」


「いえ」


威厳のある出で立ちにレオナルドの背筋が伸び、緊張が走る。何度か会った事はあるが、同じ公爵なのに父であるアバンズとは違った圧を感じるのだ。


「緊張しなくていい。家でまで堅苦しい事振る舞いをしたくないんだ」


「ありがとうございます」


肩を竦めて微笑んだハワードはアルファンスによく似ている。笑っている所を初めてみたレオナルドは少しだけ驚いた。


「父上、薬師とはどの様な方なのですか?」


「む?何を言っているんだ」


談笑をしつつ、レオナルドの緊張が解れた事を見計らってアルファンスがきりだした。しかし、ハワードは質問の意味が分からないと言わんばかりの表情をしている。


「え?薬師を雇ったのですよね」


「いや。雇っていないよ」


不思議そうな顔をするハワードを前にレオナルドとアルファンスが顔を見合わせた。


「えっと、父からはベルナールド家が優秀な薬師を雇ったので助手をして勉強してこい。と言われたのですが……何か行き違いがあった様ですね」


レオナルドがそう言うと、ハワードが記憶を探っているのか俯き頭を抱えた。「そうか。…そういえば」と思いたある節があるのか呟いたハワードはレオナルドを見て頭を下げた。


「すまない。少々、会話に行き違いがあった様だ」


「!頭を上げて下さい。詳しくは分かりませんが父も勘違いしていた様ですから!」


ハワードに頭を下げられたレオナルドは慌てならがらそう言うと申し訳なさそうに頭をあげた。


「父上、どういった事があったのでしょう?」


「実はアリアが薬学を学びたいらしくてな。アバンズには教師を頼んだつもりだったのだが……。

思い出せば、アリアの事も教師を頼むとも言っていないのだ。ーーそれで、レオナルド君を家にと言ってたんだな。

申し訳ない。完全にこちらのミスだ」


「いえ。父も誤認していた様ですから父に変わり謝罪します。申し訳ございませんでした」


「頭を上げてくれ。君が謝る必要はない」


レオナルドは、内心安堵していた。この話は白紙になるだろうと父の命令でなければ女性に自ら近づく理由はない。助手になれなど、レオナルドにとっては学ぶための生贄になれと言われる様なものだった。


「父に説明し、教師をこちらに「ーー父上」


急ぎ派遣します。という言葉はアルファンスによって遮られた。なんだ?とアルファンスを見た。


「レオは優秀です。そこら辺の薬師より、良い教師になると思うのです。別の薬師よりは信頼できます。学院があるため休日のみとなりますが、私も一緒に学ぶという事にすればいつでも屋敷に来る事ができます」


「アル…っ!お前」


長い付き合いの為か、レオナルドはアルファンスの考えが直ぐに読めた。アルファンスは『転生者』であり、行動に制限がある。転移魔法が使えても『理由』がなければ屋敷に帰ってくる事が出来ない。詳細が必要であったり、厳しい規約があったりするわけではない。報告義務があるだけで、家族に会う為と言う理由でも大丈夫なのだが、頻繁にその理由が使える訳ではない。

何故、頻繁に帰る必要があるのか?何か企んでいるのではないか?とあまりに多いと変な疑念を持たれてしまうのだ。

その為、アルファンスは帰省は多い時で月に一度程度で我慢している。


学ぶと言う理由なら例え学ぶ相手がレオナルドであろうと勉強熱心だと言う理由ができる。学院でやればいいと言うのもアリアがいる為、ベルナールド家の屋敷で行うのも不思議ではない。


アルファンスはレオナルドを理由に自由に心置きなく屋敷に帰ってくる事が出来るのだ。


話の意図を理解したのはハワードも同じだ。嬉しそうに口元を緩ませたが、レオナルドの手間おおっぴらに喜ぶ事は出来ずにすぐに引き締めた。


「なるほど、私共としては有難い話だが…。レオナルド殿の返事次第だ。どうかな?」


ハワードとアルファンスの期待に満ちた瞳にため息を吐きたくなったが、グッと飲み込んだ。


「分かりました。私でよければ、お引き受けします」


親友の為。アリアが自分に興味が湧かない人間だと信じる事にした。


アリアが薬草の温室にいると言う事で、案内された。途中で聞かされた話はアリアの事だった。アルファンスが妹バカだとすれば、ハワードは親バカだ。

「娘は絶対にやらんからそのつもりでいてくれ」と何度も言われ、会った事はないが「大丈夫です」と何度も力強く頷いた。

あとは、どれだけ可愛いかとレオナルドの目が虚ろになるまで聞かされた。


レオナルドが唯一、興味が湧いたのは薬草の温室だった。アバンズに頼み、最新の設備を整えたという程であっと外観は立派なものだった。


「ーーアリア」


「……アル兄様?わ、汚れちゃうよ」


アルファンスに抱きしめられ、見えたのは戸惑った少女の顔だった。土で汚れた手をアルファンスに触れさせまいと、両手をあげている。アルファンスの妹だけあって顔立ちは整っている。汚れていても、愛らしい様は損なう事はない。


日頃、天使だ。と言っていたアルファンスの言葉も素直に頷ける。


「アリア、紹介するよ。薬学の先生だ」


アルファンスから抜け出し、レオナルドの正面に立ったアリアと目があった。頰を染める様子がなくレオナルドは安堵した。


「レオナルド・アシュレイです。よろしくお願いします」


ジッと見つめられ、視線が痛い。反応がないアリアにアルファンスが「挨拶しようね」と優しく諭した。


「アリア・ベルナールドです。よろしくお願いします」


にっこりと笑った可愛い少女にレオナルドは何故か背筋が凍る様な感覚がした。

不思議に思ったレオナルドだったが、気のせいだろうと気づかないフリをしたのだった。












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