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性悪聖女は自分の為に生きたい  作者: ナナイロ
6/9

アリアのシナリオ 後半


一息ついたアリアが、優しい口調で話はじめた。


「このまま、何も無かった事にすれば簡単よ。けれど『悪魔の爪』を渡してきた男とは接触しているでしょう?

ジゼルがこっそりと捨てたとしても、私の体調に変化がないとバレればジゼルが口封じで消されてしまう可能性があるわ。

私が子供じゃなかったら、自分で処理したい所なのだけど残念ながら今の私にそんな力はないの。

だから、この件を一旦お父様に報告するわ。いいわね?」


「はい」


「けれど今報告してしまうとジゼルは罪に問われてしまい、私は折角手に入れた下僕を手放さなくてはいけなくなるわ。私にとって最悪の展開になるわ。

だから、昼のティータイムにお芝居をするの」


「お芝居、ですか」


目を丸くしたジゼルにアリアは分かりやすく流れを説明する。昼のアリアの紅茶に『悪魔の爪』をもう一度入れる。次はアリアが飲む前に思い留まり、『悪魔の爪』をアリアに飲ませようとした事に後悔して泣き叫ぶ。という所からお芝居はスタートする。

あらかじめの設定は、昼が『悪魔の爪』をいれた事が初めてという事だ。


「大人しくジゼルが罪を認めていれば、お父様はジゼルが何故こんな事をしたのか聞いてくれるはずよ。昼に入れたのが初めてだと言う事以外は真実を話しなさい。今までの分は捨てていた事にしなさい。昼が初めてだという事が重要になるから、間違っても飲ませたことがあるなんて口にしてはダメよ?

おそらく、私はジゼルから引き離されるわ。お父様は、私には何も言うなと使用人達に言うだろうから

貴女が連行される前に貴女の元へ行くわ。

そこからは、貴女は喋っちゃダメよ。なんて事をしてしまったのだろうと装って泣いていなさい。

あ、ジゼル。涙は流せるかしら?」


「はい。いつでも泣けますけど、お嬢様…『悪魔の爪』は身体に馴染むまで三ヶ月ほどかかります。馴染まなければ魔術医師が調べれば簡単に分かってしまいますよ?」


「それは、大丈夫よ。馴染まなければ簡単に治せるから」


「え?呪毒はどんなに軽いものでも体内に入れば浄化治療が最低一月はかかりますよ」


『悪魔の爪』は呪毒という種類の毒だ。銀にも反応せず、毒の検知に使う魔法にも反応しない毒。体内に摂取された時点で魔力に反応して毒物反応を出すのだ。

呪毒は、体内に入れるまで分からない毒物なのだ。

摂取してから馴染むまでが治療可能期間であり、馴染めば不治の病となる。


「あら、そんな面倒なモノじゃないわよ。『悪魔の爪』程度なら薬ですぐに浄化出来るわ。あとで、見せてあげるから続き言うわよ」


アリアの常識とジゼルの常識には大きなズレがある。一番は、魔法薬についてだろう。アリアの魔法薬についての知識は今の時代の魔法薬を遥かに凌駕する。エリザベスだった頃の知識だが、カルディアが魔法薬の先進国であったわけではない。単にエリザベスが凝り性で執務の合間に研究をしていたからだった。自身を含めた被験体が多かった事も功を奏していた。

しかし、この知識をアリアは重要だと思っておらずそのまま話を続けた。


「あとは、魔術医師を呼び出してジゼルが未遂だと言うことを確定させる事が出来ればどうにかなるでしょう。問題はジゼルがベルナールド家に害をなしたという事なのよね。毒を盛った事事態は大したことないはないのだけれどーー」


うーん。と空を見上げ考えているアリア。ジゼルを無罪にする手数はアリアの頭の中に幾つも浮かんでいるが、それらは全て子供らしくない行動をとらなければならない。


「黒幕を侍女長にでも仕立てあげるのがいいかしら?」


アリアの呟きにジゼルはギョッとした。侍女長のアンは気のいいおばさんで歳の割にわがままを言わないアリアを心配しており、侍女の中で最年少のジゼルがアリアに付けたのは大人よりもジゼルの方がアリアの気が休まるのではないかという心配りだった。


「お嬢様、黒幕をアンさんに仕立てあげるのは無理があるのではないでしょうか?

彼女は、旦那様や奥様、使用人達にも慕われておりますし」


「あら、どんな人間にも裏はあるものよ?優しい顔して裏では人を殺す人間なんて山程いるわ。血の繋がった人間でも、恩人でも、恋人でも気を許すと背後から刺されちゃうわよ」


「ブスってね」ナイフで人を指すような素振りをさせたアリアにジゼルは目を細めた。穏やかで優雅な素振りの中で一瞬だけアリアが冷たい目をした事をジゼルは見逃さなかった。アリアが『転生者』である事で只の子供として見ていなかったから気づけた。ジゼルが両親に愛されていた事、叔父と叔母が実の娘の様に可愛がってくれた事が気づかせてくれた。


アリアは、誰も信用していないのだ。周りの人間は全て敵だと思っている。だから、ジゼルが毒を盛った事に驚きもせずにいたのだ。アリアにとってそれは当たり前の事なのだからーー。


ジゼルは、貴族の世界とはどんなものかは知らない。学院に貴族の子供はいるが、アリア程完璧ではない。


感情を見せず、弱みを見せず、優雅に笑う。


完璧な公爵令嬢。


「お嬢様、お嬢様に侍女が付くのは何故かご存知ですか?」


「私の監視をする為でしょう」


「奥様が何故一日一度お嬢様に会いにくるのは」


「何故かしら?疲れているのならば休めばいいのにね」


「旦那様がご帰宅の際、お嬢様を抱きしめるのは」


「?健康状態の確認かしら?」


アリアの返答を聞いて、ジゼルは頭を抱えて大きくため息をついた。

完璧な公爵令嬢。一つだけ、一つだけ欠点があるとすれば周りからの愛情に疎いという事だ。


ジゼルから見ても、ハワードとレイティアはアリアを溺愛しておりワガママを言わないアリアを寂しく思っている。他の兄弟もいるが、大人しいアリアには特に目をかけていた。アリアの兄や弟、妹も一緒に過ごせる時はべったりだった。他の兄弟間の仲は良いが、アリアに対しては格別だった。


呆れた表情をしているジゼルをアリアは不思議そうな顔をしてみている。


「お嬢様、アンさんを黒幕に仕立てあげなくとももっと簡単な事がございます」


「あら、どんな方法なの?」


「お嬢様が旦那様にワガママをいえばいいのです。例えば、侍女は私でないとイヤだとか大嫌いなるとかそういったを言えば私は罰せられず、お嬢様の侍女のままでいられます。恐らく、監視はつくでしょうが」


「そんな事で上手くいくはずないわ」


困った様に眉を下げているが、ジゼルは大丈夫ですと確信がある風にアリアへ視線を送っていた。


「旦那様は、私が飲まなくともお嬢様に毒を盛った事自体に大層お怒りになります。殴られるか斬り伏せられるくらいにお怒りです。

ベルナールド家に害をなしたという事でお怒りになるのではなく、お嬢様に害をなした事にお怒りになるのです」


それが上手くいくなら、アリアは子供のフリをして怪しまれずにジゼルを手に入れる事が出来る。

しかし、アリアはジゼルの言う事を理解できていなかった。


「……上手くいかない可能性が高いわよ。感情でうったえる取引など、ちょっとした同情をかうことしか出来ないわ」


「本来ならば、罪に問われる身です。裁かれて当然なのです。上手くいかずとも、私は文句などいえる立場ではございませんので…試しに行ってみてはいかがでしょう?」


アリアは、少し考えた後に小さく息を吐いた。ジゼルを失う可能性が高い以上、無謀な策だが自分のこの先がかかったジゼルが言うことを無下にはできない。


「分かったわ。では、『弟の命と私を天秤に掛け、私の命を救った』という美談に話をもっていきましょう。単にワガママを言うだけよりは可能性はあるわ。

ついでに、ジゼルの弟の話を持ち出せば温室が貰えるかもしれないわ」


ーーこうして、作り上げられたシナリオは見事に成功した。ジゼルの予想を上回る程に。




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