A:関節を極めます
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そのあとみんなは勝手に部屋割りを決めいた。時間は早いけど、もう休む事にしたらしい。
今いる部屋が僕の部屋で隣に大森さん、次が神くん、そして椿原さん、佐々宮くんの順番だった。一応何かあった時のために男子が女子を挟むような部屋割りにしたらしい。
まぁ、部屋割りなんて気にしないので好きにしてもらって良いんだけど、神くん、佐々宮くんは自分に部屋に引き上げて行ったのに 何故か大森さんと椿原さんが残っている。
精神的な消耗が今まで経験した事が無いくらい激しいので今すぐベッドに入って眠りたいんだけど先に寝ちゃっていいのかな。二人が自分達の部屋に戻るまで待つべきなんだろうか。
そんな僕の葛藤を知らずに、二人はコソコソ内緒話をしながらキャッキャしている。可愛い女の子がキャッキャしているのを見るのは大好きだけど、(変な妄想があったり無かったり。ある意味健全な男子高校生だからね)こちらをチラチラ見てクスクス笑うのは止めてね。被害妄想と劣等感が猛烈に刺激されて立ち直れなくなっちゃうからね。僕はナイーブで繊細で微細で極小なんだよ。でも表情には出さないよ。中身は小者でも外観だけは取り繕っとかないとね。
そうしていると椿原さんがお風呂の方に行ってしまった。あれ。お風呂に入っていくつもりかな。男の子の部屋でお風呂に行くなんて椿原さん 大胆だね。
なんてバカな事考えてないで、もう寝よかな。いいよね。
「ねぇ ゆうたん」
ベッドに行くために立ち上がろうと思ったら大森さんが僕が座っている三人掛けのソファーに勢いよく座ってきた。しかも至近距離。近いよ!大きいソファーなんだからそんなに近づかなくてもいいのに。と言うか、 勘違いでフラグ立ったとか思って浮かれて大惨事になるからこの距離はやめて欲しいな。
大森さんとは親同士が友達だったので産まれた時からよく一緒にいた幼馴染だから、距離感が難しいんだよね。記憶には無いけれど一緒にお風呂に入って、一緒の布団で寝た仲だからね。子供の頃は下の名前で瀬梨華ちゃんって呼んでたしね。
他人から見れば美少女と幼馴染って血の涙を流してしまうくらい羨ましいかも知れないけれど実際はそんなにいいものじゃ無いよ。学校のアイドルの大森さんは高嶺の花で、存在感の無い一般人の僕はミミズくらいの格差があるからね。世界が違うよね。
中学生くらいになって現実がわかってくるともう名前で呼べなくなって大森さんって呼ぶようになっちゃたよね。
それでも大森さんは今まで通りだったから勘違い妄想が爆発しないように自制するのが大変なんだよ。釣り合わない幼馴染なんてヘコむだけだよね。
「異世界に来ちゃったね。本当 びっくりだよ。教室に居たのに急の凄く光って、目を開けたら全然知らない石造りの部屋にいるんだもんね。パニックになりそうだったよ。でもね。隣にゆうたんが居てくれたから。ゆうたんの顔見たら凄く落ち着けたよ。ゆうたんが一緒に居てくれて良かった」
さぁ 皆さん。こんな思わせぶりな台詞ですが騙されてはいけません。この台詞には翻訳が必要ですね。訳してみましょう。『一人だったらパニックだけど、みんながいるから安心だね』うん、多分こんな感じだね。佐々宮くんや神くんや椿原さんもいるもんね。勘違い野郎にならないように気を付けなきゃね。
「ゆうたんってどんな時でも落ち着いてるよね。いつも通りだよね。でも謁見の時はドキドキしちゃったよ。王様相手でも通常運転なんだから。頼もしいんだけど、あんまり心配させないでね」
ちょっと大森さん。距離が近すぎて色んなところが当たってますよ。肩とか太腿とか密着してますよ。これはフラグなのか。行けるのか?
いやいや待て待て。そんなはずは無いんだよ。冷静になるんだ。冷静になってさっきの大森さんの言葉を翻訳してみるんだ。『いつも通りなのもいいけどちゃんと時と場合を考えてね』だね。とても気を使った、遠まわしな注意だね。空気読めってことだよね。あの状況で空気読めてなかったのは僕だったんだね。
「ゆうたんと一緒に居られれば異世界召喚も旅行みたいな気分だよ。ゆうたんと旅行するのって久し振りだからちょっとワクワクしちゃうね。この先どうなるかわかんないけど、いっぱい楽しんで、美味しいもの食べて素敵な異世界旅行にしようね」
はぁうっ!ここだけ聞けば恋人同士のラブラブな会話だけど現実は違うんだよ!
一緒に旅行したのって家族旅行なんだよ。二人で旅行したことなんて無いよ。親が友達だから一緒行っただけなんだよ。しかも最後に行ったのは小学校の時だからもう六年くらい前なんだよ。子供の頃の話なんだよ。中学生に成ってからは大森さんの部活が忙しくて、たまにみんなでご飯食べるくらいだったよね。リア充感はどこにも無いよね。誰かに聞かれたら物凄い誤解で僕が抹殺されるかも知れないから。自分の可愛さとか人気とかわかってないのかな。
「ゆうたんのこと頼りにしてるからね。私の事守ってね」
翻訳しましょう。肉壁になれということですね。了解です。なんとかやってみますから、距離をこれ以上詰めないで。理性が限界です。
少し下から見上げるようにちょっと潤んだ目で見上げるのは反則です。頑張れ 俺の理性。頑張れ 俺の表情筋。ここで勘違いのデレデレな顔を見せたら一気に軽蔑されちゃうからね。心臓が高速鼓動で破裂しそうでも、外観はマネキンのように振る舞うんだ。
「ねぇ ゆうたん・・・・・・」
うぁぁぁっっ。更に接近ですか!?
スポーツ少女らしい控えめな胸の膨らみが二の腕に当たってます。ムギュ。 やばい。ムギュギュ。こんなの初体験です。未知との遭遇です。どうしよう。意識が二の腕に持って行かれてしまう。判断力が低下している。あぁぁ。柔らかい。
更に大森さんの手が僕の手に重なってくる。温かくて柔らかい手が僕の手を包み込んでくる。
もう意識が飛びそうです。脳内処理が追いつきません。ここまでの接触は未だかつて経験がありません。淫らな妄想が期待を喰らい、欲望となって理性を崩壊させています!
これはいいんですよね。いいんですよね!!
大森さんの手が僕の手を取り、そっと持ち上げると、そのまま自分の胸の方に引き寄せて少しづつ、少しづつ・・・捻りを加えていきます。
痛い。痛いよ。あれ、とても痛いよ。まだ捻るの。人間の関節はそれ以上曲がらないよ。本当に痛いから。タップするね。タップしたら終わるよね。終わらないの。あれっ、まだ捻るんですか。あっ、そのまま脇固めに入るんですか。
「あはははははぁぁぁぁ。ゆうたん 面白い!」
いやいやいや。面白いんじゃなくて、痛いんです。本当に痛いから。お願いだからやめてください。あれですか。変な事考えた罰ですか。それとも美少女に関節技掛けられるご褒美プレイですか。僕はまだ そこまで突き抜けた性癖持ってないんですが。痛たたたぁぁ。
ごめんなさい。誰か助けてください。
コンコン
「しっ、失礼いたします。し、白田様は、白田様は大丈夫でしょうか」
ちょっと慌てた感じでメイドさんが入って来た。
メイドさん、ノックをしたなら、返事を待ってから入室して下さいね。そうじゃ無いと美少女に脇固めをかけられている無様な男の子が恥ずかしい思いをしちゃうからね。
まぁ、でもこれで解放してもらえるかな。だから、一応ありがとうだよね。
でも白田って誰?
「シロちゃん?さぁ。お風呂かトイレ?寝てるのかな?」
大森さん 普通に返答してますけどシロちゃんって誰?
そして脇固めは解かないんですか?あれっ、ちょっと力が加わってませんか?関節が更に痛いですよ。あっ、体重も乗せてきましたね。痛たたたぁっぁぁ。
メイドさんはそんな僕の窮地を無視して寝室のドアをいきなり開けました。いやいや、それは慌てていたとしても無作法ですね。メイドさんらしく無いですね。しかし何をそんなに焦っているのか。白田って誰なのか?関節はどうして痛いのか?世の中は疑問だらけだね。
メイドさんは慌てたまんまで寝室に入って行って「白田様!」って大きな声を出した後は、何か喋っているけど、あまり大きな声でも無いので良く聞き取れない。
しかし大森さんは落ち着いているので多分何が起こっているのか分かっているんだろうな。何の悪巧みなんだか興味は有るけど巻き込まないでね。それと早く解放してね。痛みが半端無いです。これはもう痛みを超えるほどの妄想で密着に集中するしか無いのか。そうだ、ある意味、手だって握られているんだ。女の子に(しかも可愛い女の子だ)手を握られるのっていつ以来だろう。柔らかい手でギュッとされるのなんてとてもドキドキするじゃ無いか。冷静になって感覚を研ぎ澄ませ!肘の辺りに胸の感触が有るじゃ無いか!今まで何をしてたんだ!僕は馬鹿なのか!痛み?そんな些細な事より今は胸と手の感触に集中するんだ!我が人生の絶頂期が今なんだ!
「大変失礼致しました。白田様、桃谷様がお部屋にいらっしゃいませんでしたので、何かあったのではと慌ててしまいました。お寛ぎ中にお邪魔いたしてしまいまして申し訳ありませんでした」
「気にして無いよ。私達多分今日はこっちで寝ていくから。ごめんね。先に言っととけばよかったね」
「いえ、とんでもございません。それでは桃谷様、赤蝮様ごゆっくりお休みくださいませ。失礼致します」
そう言ってメイドさんは深々とお辞儀をして部屋から出て行った。
桃谷に赤蝮って、そう言えばそう言う名前名乗ったよね。忘れてたよ。当然だね。僕は名乗ってないからね。そうそう、椿原さんは白田さんだった気がする。下の名前は思い出せないよ。偽名を使うなんて面倒だね。僕の名前、後で確認しなくちゃ。呼ばれて反応出来なかったら嘘がばれちゃうからね。