A:攫われます
今僕は生まれて初めて馬車に乗っています。
王城からコケッコー?が待機している王都の外壁の外までちょっと距離があるので馬車での移動になりました
流石は王城の馬車です。キラキラしてて、装飾も施され、大きくて豪華な馬車です。
テンション上がって喜んで乗り込みました。
今、とても後悔しています。なんなんだろう。地面のガタガタの振動が、とてもダイレクトに僕の内臓を刺激します。五臓六腑が経験したこと無い悲鳴を上げています。はい。気持ち悪いです。次の駅で降ります。早く止めて。
異世界三日目にして、初めてお城から出たのに、周りを眺める余裕もないよ。
「それにしても、何かパッとしない街だな」
「中世風の石造りの街並みですねぇ。なんで異世界物は中世風なんでしょうぅ。オリジナリティが足りないですねぇ」
「異世界物って良くわからないけど、きっと魔物がいる事と、魔法がある事が影響してるんじゃないかな」
「何で、何で。何で、中世風と魔物や魔法が関係するの?」
「多分だけど、魔物が多いこの世界は人間が安全に活動できる範囲が狭いんだよ。その中で鉄などの鉱石を入手しようとしても量に限界があるだろう。その多くない鉱石の使い道は、魔物と戦う武器や防具になると思うんだ。だから、鉄などは無駄に使えない。普段の生活に絶対必要なもの以外は石や木を使う事になると思うよ。そして魔法があると、科学は発展しにくいよね。一から難しい理論を考えていくよりも、今ある魔法を使って、魔道具を発展させる方が簡単だろうからね。コンクリートやアスファルトを開発するより魔法で石を切り出す方が簡単なんじゃないかな」
「「「よくわからん」」」
馬車の中に居るのは、僕達五人だけだ。ゆったり座れる広さが有るのは素晴らしいけど気分は最悪です。なのに何でみんなは平気そうなんだろう。これが人間力の差なんだろうか。肉体的に劣っているからダメなんだろうか。あぁ、ダメ人間でごめんなさい。
しかし、何かよくわからない話をしてないで、誰か一人くらい僕の体調不良に気づいてくれないかな。もちろん馬車なんて平気ですの無表情鉄仮面装着してるのでわかりにくいと思うけど。お願い、ヘルプミー。
「さっきまでは大きな屋敷があったから、きっと貴族や高級官僚が住んでる地区だったんだろうね。街並みは綺麗だったし、道も良く整備されてたよね。今、通っているのは一般市民が暮らしてる地区だと思うけど活気が有るとは言い難いよね」
「お城ってとっても豪華な感じだったけど、街が微妙って事は、あのデブちん王は搾取してるって事なんじゃない?」」
「悪者の親玉は実はブヨだるま王だったんですねぇ。悪は滅ぶべきですぅ。悪即斬ですぅ」
「う〜ん。そこまでじゃないと思うな。魔物がいるこの世界は、僕達の世界に比べて、危険が身近に有るから、防衛費はとても重要だと思うんだ。騎士団を揃えて、武器や防具を集めて、街を守るための城壁を作ってとお金がかかるし、何より命懸けの仕事だからね。その分命を懸ける人達の人件費は高くなるだろう。だから税金が僕らの世界より高いんだろうね。税金が高いと市民は無駄ずかいしないから、経済は停滞するよね。この辺の舵取りが王様や官僚の資質なんだけどね」
「いや、あのブクブク達磨具合から考えて、税金で贅沢な暮らしをしてるな。間違いねぇな」
「ラノベやアニメの異世界はもっと楽しそうだったのに残念ですぅ。さっさとクーデターを起こしましょうぅ。新しい王様は優くんでいいですよねぇ」
「「「「いいね!」」」
良くねぇよ。
僕が一人で気持ち悪さと激闘している時に何を言ってるのかな。みんな危険思想の持ち主だね。本当にお願いだから僕を巻き込まないでね。
あっ、でも、王様になったらハーレム簡単に作れるかも。どうしよう。まよっちゃうな。
「まぁ、何でもいいじゃねぇか。俺達は俺達で楽しもうぜ!」
うん。神くん、そのとうりだね。
ハーレム目指して楽しむよ。
「皆様、到着いたしました。どうぞ、お降りください」
護衛でついて来てくれた、イケメン第一騎士団長から声をかけられる。
名前は、まだ覚えていないよ。って言うか、イケメンの名前なんて絶対に覚えてあげないんだから。ふん。
やっとだよ。やっと長かった拷問馬車から解放されるよ。
おぉ。大地だよ。揺れない大地だよ。感動だね。今なら感謝と親愛を込めて大地に頬ずりしたいくらいだよ。しないけどね。痛い子に思われちゃうからね。
振り返れば、巨大な石の壁がありました。これがきっと、王都の外壁ですね。でかいな。五階建てのビルくらいあるね。それがずっと続いてる。よくまあ、こんな物を作ったね。感心しちゃうね。
おっ、いつの間にか、僕の背後に筋肉ムキムキメイドリーダーさんが居るね。こんな所まで付いてくるんだ。いつもの四人組じゃなくて一人だけだけど、いつもより威圧感が凄いのは気のせいかな。うん。睨まないでください。怖いからね。
騎士団の人達も揃ってるね。十五人くらいかな。きっと僕達の護衛だね。筋肉巨神で甲冑みたいなの付けてて頼もしいね。僕は皆さんの後ろで隠れているつもりなので、ぜひ、僕のミートウォールになってくだたい。お願いします。
そう言えば大森さんがイケメン第一騎士団長に魔物討伐ダービーの点数集計頼んでたみたいだから、その分人数も多めなのかな。
「コケーッコッコッコッコー」
とってもメジャーな鶏の鳴き声が聞こえるよ。
振り向いて見てみると、とってもおかしな鶏が世話役みたいな人達に引っ張られてやって来た。
これがコケッコーなんだね。うん。デカイよ。だいたい二メートルくらいありそうだね。しかも顔がでかいな。三頭身ぐらいだね。その内のボスっぽい鶏は三メートルくらいのデカさだよ。デッカい顔に、立派なトサカが生えてるね。嘴も巨大で、僕くらいなら余裕で食べられそうだね。でも食べないでね。
「なんだ、こりゃ。デフォルメ鶏か!デケェな!」
「これがコケッコーです。大人しいですし、しっかり調教してありますのでご安心ください」
「うわぁ、何か想像していたよりも可愛くないですぅ。チョ◯ボが良かったですぅ」
背中の所に騎乗用の椅子みたいのが取り付けられてるから、きっとそこに乗るんだと思うけど、何か怖いね。それにボス鶏、何か僕の事睨んでない。気のせいかな。
「コケッコーは馬よりも早く、体力があり、悪路をものともしない優れた鳥です」
「凄いな。異世界にはこんなに大きな鳥がいるんだね」
「ねぇ、ねぇ。シグマさん。これって魔物なの」
「いえ、魔物ではなく、ただの鳥です。魔物は体内に魔素を貯蔵した魔石を持っていますがコケッコーにはありません。ですので魔物ではないのです。我が国が誇る、高速機動巨鳥です」
ねぇ、ねぇ。三流イケメンさん。その誇らしい鳥さんが僕の事を睨んでますよ。いやいや、思いっきり高所から見下していますよ。躾がなってないんじゃないですか。僕がビビって、おもらししちゃう前に何とかしてください。
カパッ
「「「「「!!!!!!!!」」」」」
うわぁぁぁぁ!僕の頭をカパって!嘴でカパって!両側から挟むようにカパって!食べられちゃうよ。食べられちゃうよ!食べられちゃうよぉぉぉ!!!
「テメェ!この鳥!何してやがんだ!ブッ殺す!」
おぉ!神くん。早く助けて!食べられちゃうよ!
神くんの気合のこもった強烈な右ストレートが、ボス鶏に炸裂し・・・・・しない!
ボス鶏が華麗なジャンプでかわしてる!
巨体なのにこのジャンプ力!凄いんですけど!
うわぁ、急激に動かれるとGが凄いんですけど。
「優。すぐ、助けるから!ハッ!」
佐々宮くん!君だけが頼りだよ。信じてるから、早く助けてくれ給え!
佐々宮くんの剣がボス鶏の着地の瞬間を狙って、横薙ぎ一閃に振るわれた!
しかし、ボス鶏は着地する寸前に、体の割に小さい羽を羽ばたかして、空中で二段ジャンプ!
こんなことも出来るのか!高速機動巨鳥の名は伊達じゃないね。
「ゆうたぁぁん!この鳥!ゆうたんを離しなさい!そして殺す!」
大森さん、怖いよ。マジの殺気がビンビンくるよ。
大森さんが着地した鳥の上空からバトルアックスを振り下ろす!
凄いジャンプ力だ!って、おい、鳥!避けろ!この軌道は僕まで真っ二つだよ!早く、避けて!
ボス鶏が高速バック走で何とかギリギリでかわした。
エライぞ!よくかわした!なかなかやるじゃないか!でも、気持ち悪くなるから、あまり振り回さないでね。
「優くんがぁ!優くんが死んじゃうよぉ。どうせならぁ、私がぁぁぁぁ!エクスプロージョン・ボム」
おらぁぁ!椿原さん、何するつもりですか!助けてくれるんだよね。助けてくれるんだよね。大丈夫だよね。信じてるよ!
椿原さんの放った爆裂魔法が爆発する!
ボス鶏!高速機動だ!ジグザグ走行で狙いを絞らせるな!
爆裂魔法が連続で炸裂してるよ!
ヤバイよ、ヤバイよ!あぁぁぁぁぁ!誰か助けて!
「避けんな!この鳥!おらぁぁぁぁ!」
神くん!君だけが頼りだよ。大森さんと椿原さんはちょっと怖すぎるんだよ。ちゃんと助けてね。
神くんのライダーキックが炸裂し・・・・・・しない!
かわした勢いを利用して、ボス鶏が走り出す
うわぁ、高速移動は胃に響くからやめてね。
「逃がさないよ。優は返してもらう!」
佐々宮くんの剣を袈裟斬りに切りつける。さらに、逆袈裟斬り!
しかし、ボス鶏は高速サイドステップ!
追いついてきた神くんが左フックからの前蹴り!
ボス鶏、何とかかわすも、大勢を崩した。
「ゆうたんの仇!その首貰った!ギロチンアーックス!」
またしても、上空から大森さんがバトルアックスを振り下ろす。僕、まだ死んでないから!生きてるから!仇とか取らなくていいからね!
そして、その軌道は僕の首もチョンパしちゃうから!
ボス鶏がゴロゴロと転がりながら緊急回避に成功した。よくやった!ボス鶏。褒めてあげよう。
「優くんを傷つける奴は皆殺しですぅぅ!唸れ千刃の暴風!サウザンドウインドぉぉ!」
風がカマイタチの刃を纏って吹きつけてくる。
危ない。危ない!危なすぎるよ!!
完全に僕も巻き込まれてるよ。一石二鳥?一網打尽?一蓮托生!頑張れ!ボス鶏!僕を助けて!
ボス鶏が転がった勢いを加速させて風の刃をかわしていく。そしてそのままジャーンプ。着地と同時に全力で逃走開始した。
「うぉぉっ!逃げやがった!追いつけねっ!椿原!魔法だ!逃すな!」
「ガッテンですぅぅ!ファイヤーアロー!アイスアロー!サンダーアロー!!!ダメですぅぅ!届きません!」
「シグマ氏!早く、コケッコーの準備を!追いかけます!急いで!」
「ゆうたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
ボス鶏早いね。さすがは高速機動巨鳥だね。
大森さんが倒れこんで泣きながら手を伸ばしてるね。うん。何か映画の別れのシーンみたいだね。可愛い子はどんな時でも絵になるね。
ちなみに僕は全身タイツ型防御魔法『スキン』で体を守ってるので、嘴で挟まれてても痛くないです。Gが凄いので気持ち悪いけどね。
皆様、僕が美味しく食べられちゃうと困るので早く助けてね。お願いします。
しかし、このボス鶏どこまで逃げるんだろう。