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A:正座で反省します

 はぁぁ、やっと佐々宮くん達が帰ったよ。男の熱い友情は出来るだけ僕のいない所でお願いしたいな。きっと僕が火傷するからね。

  でも、これで寝れるね。出来るなら、ずっと寝ていたいよ。そして明日は遅刻、欠席したいな。無理かな。

  まぁ、そんな無駄な事を考えても仕方がないから、さっさと寝よう。このベッドと布団はなかなか良いものだね。ふかふかでよく寝れそうだよ。昨日はベッドで寝れなかったから、今日はふかふかを堪能しよう。明かりを消して。部屋は真っ暗じゃないと眠れないからね。じゃぁおやすみ〜。


「赤蝮様」


  なんだろう。寝室のドアの向こうで誰かが呼んでる気がする。僕の恥ずかしいニックネームを呼ばないで。


「赤蝮様。もう、お休みになられましたか」


  ゆっくりと寝室のドアが開いていく。うっすらとした明かりが広がってくる。筋肉ムキムキメイドさんかな?でも、声が違うよね。なんだろう。


「赤蝮様。夜分に大変失礼いたします」


  うわっ、なんですか?何が起こってるんですか?僕の視力と頭が正常なら、ドアの所に立っているのは女性ですね。しかもネグリジェっぽいものを着た女性ですね。女性が手に持っているランタンのような物の薄明かりでネグリジェが少し透けてる女性ですね。何となくですけど胸がとっても自己主張している女性ですね!

 腰をくねらせてゆっくりゆっくり近づいてくる女性ですよね!!


「赤蝮様。こんな夜遅くに大変失礼だとは思いますが、よろしければ少しだけでもお話させて頂きたく思い、お訪ねさせて頂きました」


 そう言いながら、女性はさらに近づいてくる。

 薄いブラウンの髪のもみあげの部分が縦ロールしていてお嬢様ぽい。年齢は少し年上くらいかな。とても色っぽくて綺麗な人です。ランタンの明かりが薄いので何か艶かしい雰囲気になってるね。

  慌てるな僕。落ち着くんだ僕。こんな時は、どうしたんですか、お嬢さん。こんな夜中に男性の部屋に訪れると襲われてしまいますよ。ハハハって感じの落ち着いた確固不動の鉄仮面を装着するんだ僕。決して初めてのドキドキワクワクシチュエーションに舞い上がってる童貞野郎って悟られちゃいけないんだ。


「赤蝮様はとても素晴らしい光の魔法をお使いになられるとお聞きしました。是非ともお近づきになりたいですわ。もちろん大人な意味でです」


  そう言いながら、ベッドの足元の方に手をかけて、ゆっくりと四つん這いの体勢ね移行しながら僕の方へ近寄ってくる。

  うぉぉ!もしかしてこれは本当に大人の階段登っちゃうんですか!誘われてますよね!間違いないですよね!どうしよう。心の準備か未完成です。

  ランタンの薄明かり見える女性は結構美人です。何の取り柄もない一般人の僕にこんなこんな美人が迫ってくるなんてあり得るなのかな。でも、そんな事はどうでも良いよね。こんなチャンスは逃しちゃダメだよね。


「私、セオロ大公家の娘リアンヌと申します。私、お強い方が大好きですの。赤蝮様は私と仲良くしてくださいますぅ?」


  しっとりとした声でリアンヌさんが囁いてくるよ。胸がキュンでドキワクが止まらないよ。とっても大人な期待と妄想が暴走して体の一部が弾けそうです。

  リアンヌさんは四つん這いのままゆっくりと僕の足元から、僕に跨るように進んでくるよ。白くて大きなお胸がゆっくりと揺れて僕を挑発しているね。チョット挑発的な目にしっとり濡れた唇、そして四つん這いのポーズはまさしく女豹です。女豹きたぁぁぁ!僕を食べちゃうの。パクっていっちゃうの。あぁぁぁぁ!お願いします。是非ともパックリいっちゃってください!


  「赤蝮様ぁぁ・・・・・・」


  リアンヌさんが切なくて色っぽい囁きで接近してきます。お胸様が目の前で布団越しに接触してます。あぁぁ!布団が邪魔だよ。生まれて初めて布団に殺意を覚えたね。手を出して触っちゃても良いのかな。キスかな。キスが先かな。でも触りたい!柔らかそうなお胸様に挨拶したい!でも、がっついてるって思われて引かれちゃったら折角のチャンスが大崩壊で僕の評価も大暴落しちゃうよね。ここは我慢なの。待ちに徹しなきゃいけないの。あぁぁぁぁ!これが童貞の混乱なのか!


「・・・・・・」


  リアンヌさんが目を閉じたよ!綺麗なお顔がゆっくりと僕の顔に近づいてくるよ。

  これはキッスですよね!直接キッスですよね!

  どうしましょう。どうすれば良いのでしょう。残念ながら僕ごときはチッスの礼儀作法を習得しておりません。目を瞑るの?チューってするの?どうするの?ドラ◯もん〜〜。

  焦るな僕。慌てるな僕。こんな時こそ不動心だ。お任せすれば良いんだよ。リアンヌさんは綺麗なお姉さんだ。きっと僕を新たな未来に導いてくれるはずだよ。表面上は微動だにせず、目を瞑って、柔らかそうな唇が迫ってくるのを待ってれば良いんだ。そうだよね!

  あぁぁぁぁ!ちゅうぅぅぅぅぅ!




  ・・・・・・・・・・・・。



  こないよ・・・・・・。

  魅惑の桃源郷に誘う接触がこないよ・・・・・・。

  大人の扉ジャンジャンバリバリ大開放の直接チッスがこないよ・・・・・・。


「ゆうたん。何してるのかな」


  何か地獄の底すら凍りつくような、怒りの声が聞こえるね。うん。きっと気のせいだね。

  さぁ、明日も早いし早く寝よう。おやすみなさい。


「ゆ〜う〜た〜ん」


  あ、やばいね。怒りのボルテージあげちゃったよ。仕方がないな。

  目を開けると目の前にはリアンヌさんの顔があったけど、かなり引きつったびっくり顔でした。よく見るとリアンヌさんの後頭部を鷲掴みにした右手が見えますね。さらにたどっていくと激怒中の大森さんが僕を睨んでます。

  大森さんと目が合った瞬間、ふん!って掛け声と共にリアンヌさんが後方に放り投げられました。山なりでなくて、ライナーで。

 

 がしゃーーーーーーん


  可哀想なリアンヌさんは扉をブチ抜いてリビングの色んなものを巻き込みながら飛んで行きました。

  大森さん、ちょっと怪力過ぎませんか。たった一日の訓練で片手で人間をライナーで投げれるようになったんだね。怖いね。恐ろしいね。これはもう絶対服従決定だね。

  しかし何でかな。大森さんは何で怒ってるのかな。僕は何にもしてないよ。寝てただけだよ。女豹さんが襲ってきただけだよ。だから僕を怒らないでね。僕もブン投げるとかやめて下さいね。お願いします。


「正座!」


  あっ、正座ですね。もちろん僕に反論も異論もございません。可愛くて綺麗な女の子に怒られる事に喜びを覚える変わった性癖はありませんが、今、この場は喜んで正座いたしましょう。

  新しい未来へと旅立つ事が出来なかった悲しみで胸とある一部が張り裂けそうですが、この瞬間を生き延びるためにおっしゃる通りにいたします。


「ねぇ、何で布団の上で正座してるのかな。正座と言ったら床だよね!」


  おっしゃる通りでございます。私としたことが焦りすぎて、ビビりすぎてうっかりしておりました。申し訳ございません。


「ねぇ、ゆうたん。私達、異世界に来てまだ二日目なのに、もう部屋に女の子に連れ込むとかどういう事かな。チョット浮かれすぎだよね。ねっ!ねっっっ!」


  やばいね。大森さんがお説教モードに突入しちゃったね。欲望と煩悩で膨らんだ脳と体の一部をリセットして、しおらしく聞いてますって感じを醸し出そう。決して夢と期待が大崩壊して叫び狂いたいのを気付かれないように無表情鉄仮面を三重に装着しておこう。頑張れ僕の表情筋。


「私みたいな可愛い女の子が側にいるのに他の女の子に手を出すなんてどういう事かな。ねぇ、胸なの!胸が足りないからかな!!」


  しかし、魔法って凄いね。体にピッタリ『スキン』の防御魔法のおかげで正座してても痛くないんだよね。うん。痛くな〜い。これなら床でも大丈夫。きっと剣山の上でも大丈夫。しないけどね。でも、心にポッカリ空いた失望の穴は埋められないのが残念です。


「ねぇ!聞いてる!わかってるの!女の子は胸じゃないの!本当なんだからね!」


  大森さんの怒りの方向がイマイチわからないけど、取り敢えず聞いてるふりして寝る事にしよう。まだまだ続きそうだからね。落胆と失意を抱きしめながら心で号泣してる時は寝るのが一番だよね。あぁ、チューしたかったな。

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