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クラスの朝



僕は下駄箱で先輩と別れた後、教室へと向かう。

人の声という雑音(ノイズ)はシャットダウン。いちいち気にしても意味がない。

一年生の教室は全て二階にあるので、階段を上るのが最小限で済むのは良いところだ。移動という無駄な時間が少なくて済む。


僕が教室に入ると、教室内が静寂に包まれる。

しかし、それも一瞬のことで、すぐにいつもの喧騒を取り戻す。

僕は自分の席につくと、スマホを取り出して、何となくいじってみる。


「よっ。部活はどうだった?」


そう言いながら話しかけてきたのは、僕が先輩以外で唯一近くに置きたいと思う人物、古峰(ふるみね)一輝(かずき)


「気に入った。あの先輩は一輝とは違う感じで興味深い。」

「そうか。『策略の王子』とまで言われたお前がそう言うとはよっぽどだな。」

「中学の頃の名前を出すのはやめてほしい。僕たちの中学からこの学校に来たのは僕と一輝しかいないから、その呼ばれ方ともおさらばだと思ってるんだから。」

「そうか。じゃあ、『魔王』と呼ばれた方がいいか?」

「それもやめて。『王子の懐刀』は普段そんなこと言わないじゃん。」

「その呼び方はやめてくれ。」

「じゃあ『情報の王』?」

「俺が悪かったからもうやめてくれ。」


その一言に満足した僕はまたスマホを眺める。

正直、この情報の内、僕に関係あることはごくわずかだ。

だが、他にすることもないので眺めているだけ。深い意味はない。


「零様!」


そう声が聞こえたかと思うと、後ろに重みを感じる。


「邪魔。」

「そんなに照れなくてもいいのですよ?未来の夫婦じゃありませんか。」

「お前が勝手に言ってるだけだ。僕は知らん。」


この女子は入学式に急に話しかけてきたかと思うと、こんなことを言い出した痛い奴だ。

ただただ面倒くさいのだが、見た目は良いため、何も知らない男子からの人気は高い。尤も、クラスメイト達はめんどうな奴という認識で一致しており、誰も話そうとはしない。


「お前じゃないですよ。私は若菜ですわ。」

「で?僕にとってはどうでもいい情報でしかない。とっとと僕から離れろ。邪魔だ。」

「もう!恥ずかしがりやなんですからっ!」


そう声が聞こえ、背中の重みがなくなる。


「……お前も災難だな。」

「全くだよ。」

「顔だけで見たら学年で二位なんだがな。性格が残念だ。」

「一位って誰だった?」

「隣のクラスの深星(ふかほし)(さき)ってやつだ。会長の妹らしい。」

「ああ、そんなことも聞いていた気もする。」


興味のないことに対する認識なんてこんなもんだ。

無駄に記憶する必要はない。


「あのくっついてくるやつは迷惑だな。せめてストーカーに走ってくれれば被害届を出せるんだけど。」

「まあ、暫くは耐えるしかないだろう。」

「面倒くさいな。」


そこで担任が教室に入ってきて、立ったままの生徒は急いで各々の席に戻る。










特技である、『無意識下での板書』スキルを駆使して午前中の授業を乗り切った僕は、昼食を持って席を立つ。

教室を出ると、いつも通り結構な数の視線を感じるが、いつも通り無視する。

渡り廊下を通って、部活棟に入り、階段を上がって三階に着く。


「失礼します。」


僕はそう言いながら、部室の扉を開ける。

中には先輩が椅子に座っており、僕の姿を認めると、手を振った後、手招きしてくる。

それに従って近づくと、先輩の隣の椅子を先輩はポンポンっと叩く。


「ここに座ってくれる?」

「向かいの席も空いてますよね?」

「食事中は前に座られるよりも横に座ってもらった方が落ち着くんだ。」

「なるほど。そういうことなら。」


僕は先輩の指示通りに座る。

何だか知らないけど、昨日よりも急に先輩との距離が縮まったように感じる。僕もそれだけ信用されたと喜ぶべきなのだろうが、その理由を知りたいと思ってしまう。

いや、なんで先輩が絡むと急に知識欲が強まるんだろうか。

それだけ僕の中では古都先輩という存在が大きくなっているということなのだろうか。


「なあ、食べないのか?」

「ああ、すいません。考え事していて。」

「そうか。ちなみに何を考えていたの?」

「秘密です。」


僕はそう言いながら、人差し指をたてて口に持っていく動作をする。

先輩はそこまで深く聞く気もなかった様子で、「そうか。」とだけ言って弁当を開きだした。


「いただきます。」


先輩はそう言って、弁当を食べ始める。

その弁当は、見たところしっかりと栄養価などを考えて作られているようにも見える。

しかも、見た目が悪くならないように配置なども考えてあるように見える。

一言で言うと、おいしそうだ。


「? ボクの弁当を見てどうしたの?」

「いえ、ただおいしそうだなぁっと。」

「そうか。ボクが作ったんだが、そう言ってもらえると嬉しいよ。あ、少し食べるか?分量を間違えて少し多く作ってしまったんだ。」

「じゃあいただきます。」


先輩が箸でから揚げを掴んでこちらに近づける。僕がそれを食べると、口の中にうまみが広がる。


「ど、どう?」

「とてもおいしいです。料理、上手なんですね?」

「そうでもないぞ。こういうのは慣れだからな。キミも頑張ればできると思うよ?」

「いや。頑張ってもなかなかここまではたどり着けないですよ。」

「そんなに褒められると照れるな。どう?胃袋は掴まれた?」


少し質問がおかしいと思ってしまったのは僕だけだろうか。普通、胃袋が掴まれたかどうかを恋人でもない人に聞くだろうか。いや、それ以前にこのシチュエーションになること自体がおかしいのか。


「掴まれましたね。もういつものコンビニのおにぎりには戻れないかもしれません。」

「そうか?じゃあ、明日からはボクがキミの分まで作ろうか?」

「えっ!?いいんですか?」

「もちろんだとも!一人分も二人分も大して労力は変わらないしな。あ、でも箸は二人分なかった筈だから持ってきてくれるか?」

「もちろんです。」

「じゃあ、明日は二人分作ってくるよ。ん?箸?」


何故か先輩はそう言うと、箸をくわえた状態で固まる。

その動かなさはまるで美しい彫刻の様だった。

暫くそうしていたが、やがて顔を赤くすると、慌てた様子で箸を口から離す。


「ちょ!この箸、も、も、も、もしや……え?ちょ、え?」

「せ、先輩?どうしたんですか?」


何故か先輩はかつてないほどに慌てている。

だが、その様子が何故か今の僕にはとても魅力的なものに見えてしまった。


「さ、さっき、キミがから揚げを食べた時、この箸だったから、か、か、か……」


か?何だろうか。蚊?いや、絶対に違うとは思うが、今の僕にはそれ以外の選択肢が思いつかない。

それは僕の鈍さから来るのか、それとも誰が聞いてもわからないのかはいまの自分では知る由もない。


「か?何ですか?」

「か、か、間接キスだっただろっ!!」




はい。お気づきの方もいるでしょうか?

実はこの作品は、『天然先輩としっかり後輩が(以下略)』の二年後の世界になっています。

そのうち夜空君と零君の共演がある……かも?

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「絵が好きな君と絵を描かない僕」
面白いよ!(たぶん)

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