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好奇心=興味深い



翌日の放課後、僕はまっすぐに部室へと向かった。

昨日の情熱からして、早くいかなければ怒られるだろうと言う考えの下だ。

今日一日、何故か数人の教師から「部活入ったのか。」とか、「よく入れたな」など、よく話しかけられた。

正直言って少し煩いと感じたのは仕方がないだろう。


昨日と同じ、冷たげな廊下を歩いていき、部室の前までくる。


「こんにちは。」


そう言いながら部室に入ると、意外なことに部室の中には椅子が向かい合わせに置いてあるだけで、誰もいなかった。

すると、後ろから人の気配を感じる。


「うわ!!」


急に後ろから大声を出してきた古都先輩に僕は特に驚くこともなく、部室に入る。

そういえばあの後、古都先輩の漢字の読みがわかった。


古都ふると 葉奈はな


それが古都先輩の読みらしい。


「こんにちは。古都先輩。何してるんですか?」

「あれ?驚かなかった?」

「はい。中にいない以上は外だろうなと予測はできていたので。」

「つまんないなぁ。」


古都先輩は残念そうにそう言うと、僕の横を通って椅子に腰かける。


「じゃあ、さっそく活動に入ろう!そこに座ってくれ!」


なぜか異様にテンションの高い古都先輩はそう言う。

僕は大人しく指定された席……古都先輩の正面に座る。


「じゃあ、まずは活動の内容を説明しようと思う。この部活は、部長が適当に選んだお題から連想される言葉の中から『美しい言葉』を見つける。もしくは探す部活動だ。で、その方法なんだが……ホワイドボードがあるだろう?ここに、とりあえず思いついた言葉を書いていって、それからそれをもとに探す。というのでどう?」

「良いと思いますよ。で、さっそく活動ですか?」

「そうだよ!物分かりのいい後輩はいいね!こっちも楽だよ!」


昨日から見ていて思ったのだが、この先輩はどうもどうやら説明するときとそれ以外の時では全然話し方が違うようだ。

見ていて飽きないなぁと思う。


「じゃあ、さっそくお題を出そう!お題はこれだ!!」


そう言いながら古都先輩が出したのは、A4の髪にピンクの太いペンで大きく書いた『美しいモノ』の文字。


「じゃあ、ここから広げていこう。あ、じゃあキミはそこの青いペンを使ってくれ。ボクは赤を使うから。」

「了解です。」


とは言ったものの、どのようなものを書けばいいのかわからない。

ちらりと先輩のほうを見てみると、丸い文字で『桜吹雪』や、『宝石』などと書いてあった。

なるほど。そんな感じのことを書くのか。

とはいってもそんなには思いつかないなぁ……










「じゃあ、今日はここまでにしよう。」


先輩の声に、思考の海から意識が戻ってくる。

時計を見ると、既に六時だった。

しかし、お互いに無言で考えた成果か、ホワイトボードにはたくさんの文字が書かれていた。


「明日からはこれを組み合わせたり、並べ替えたり、さらに増やしたりして、言葉を創っていこう。ホワイトボードは消さないで置くよ。」


そう言う感じで創っていくのか。

面白い。単純にそう感じる。


僕は鞄を持って部室から出ようとする。

が、廊下の窓から見える外がもう暗いことに気が付く。


「先輩。もう暗いので送っていきますよ。」

「え?いいの?ありがと。カギ返してから行くから、校門前で待っててくれる?」

「わかりました。」


僕は昇降口で靴を履き替えると、言われた通りに校門で待つ。

……静かだ。

僕はこの静寂という空間が好きだ。

何故かは知らない。ただ、好きだ。

暗闇で落ち着く人と恐怖を感じる人がいるように、この静寂を好きな人と嫌いな人がいるだろう。

決して喧騒が嫌いだというわけではない。なぜなら、誰かの声や何かが発した音はほとんどが僕の興味の対象となり得ないからだ。

その点、静寂はその無駄な音がなく、シンプルで美しいと感じる。


興味といえば、古都先輩はなかなか興味深い。

なぜなら、僕が興味を持ったからだ。僕が興味を持てたのは、『星空深夜』という歌手の歌くらいしかなかったが、先輩には興味が湧いた。

そのことがさらに僕の知的好奇心をくすぐる。

彼女の思考回路はまだよくわからないが、似ているところがあると思う。

僕も先輩も、気になる知識に貪欲だ。だからこそ僕と先輩の知識欲の方向性が同じである今の状況は自分にとっても先輩にとっても刺激があって面白いものであるのだろう。

お互いに同じ『美しさ』を追い求める。

だが、先輩はそれを『探す』ことに情熱を注ぎ、僕は『吸収する』ことに重きを置く。

僕らは『美しさ』に対しての姿勢は違うが、その方向性、本質は同じ。

『自分が満足する為に』

それだけだ。


「あ、ちゃんと待っててくれたんだな。ありがとう。」


先輩の声で思考の海から意識が強制的に戻される。


「……いえ。自分から言い出したことですから。では行きましょう。家はどのあたりですか?」

「数宮駅の近く。駅から五分ぐらいのとこ。」

「そうですか。僕の家もそのあたりなのでちょうどよかったです。」


そうとだけ言うと、僕たちは既に暗くなっている街を歩きだした。

車の音や家から漏れ出すテレビの音が静寂を壊している。

でも、それは人類の英知の結晶だ。かつての人々が利便性を求めた結果なので、この音を煩いとは思わない。それでは発明家が可哀そうだ。


「ねえ、改めて聞かせてもらいたいんだが、どうしてこの部活に入ってきてくれたの?」

「昨日も話したと思いますよ。『美しい』と感じる“モノ”をこの部活でなら見つけられると思ったからです。」

「うん。それは覚えている。聞きたいのはそこじゃなくて、どうして最初はあんな態度だったのに、急に入る気満々になったのかが知りたいんだ。」


そう言う先輩の瞳からは、抗えない好奇心が見て取れる。

僕も先輩と同じだからよくわかる。これは答えが見つかるまで収まりきることが無い衝動だ。しかも、先輩のほうが勘が鋭そうなのが僕以上に質が悪い。


「知識欲に抗えなかった、からですかね。」

「もっと分かりやすく。出来ればあの時部室に来た経緯から教えてくれる?」

「この部活は『美しい』という個人の価値観を基にした曖昧なものを探すという興味深い名前をしています。まずはそれが僕の興味を引きました。なので見学に行ってみると急に面接が始まり、僕が素直に答えたところ、先輩は見事な豹変を見せてきたんです。」

「あはは……それは忘れてくれないか?」


そう言う先輩は頬をポリポリかきながら恥ずかしそうな表情を浮かべる。


「それはともかく、僕はその先輩に勢いで押されて入部届を出しました。でも、あの時先輩が『加入してくれるか?』と僕に聞いた時に、色々なことを考えました。そうしたら、先輩がいるこの部活がとても興味深い存在に思えてきたんです。」

「興味深い?ボクが?」

「そうです。先輩の熱意を向かせるこの部活は一体どんなものなのだろう。こんなに知識欲を出せるほどの価値がある美しい言葉とは何なのだろう。それが気になったんです。」


僕がそう言うと、先輩はくすくす笑い始める。

不快。というわけではないが、何がそんなに面白かったのかが気になる。


「どうしました?」

「……いや、本当にキミが加入してくれてよかったと思ってな。キミは本当に面白い。そんな風に考える人と出会えたことは貴重な財産になり得ると思うよ。ボクは本当に幸運だ。でだ、キミに提案があるんだ。」

「提案?」


まさか初対面の人間に対して無茶ぶりはしないだろうとは思うが、この人なら知識欲のために何か馬鹿げたことを要求してくる可能性もある。

そう思い注意してみると、先輩はポケットからスマートフォンを取り出し、僕に見せてくる。


「ボクと、アドレスの交換をしてくれない?」


一気に心が落ち着くのがわかる。


「良いですよ。とはいえ僕は交換なんかほとんどしたことが無く、方法がよくわからないので、先輩に任せてもいいですか?」

「え?ボクもよくわからないが……」

「…………」

「…………」


今の瞬間に僕たちが家に帰る時刻が遅れることが決定した。





全然恋愛じゃない気がしてきた……

こ、これからですからね!!

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「絵が好きな君と絵を描かない僕」
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