ボクはキミを探していたんだ!
「零君、キミは、ずっとボクが探していた人だよ!!」
「は?」
その「は?」の声は、思い返せば心の底から発した疑問の声だったとわかるが、テンションが上がりまくっていたこの時ではわかりようもなかった。
「ボクはずっとキミのような考えができる人を探していたんだよ。でもなかなかいないから結局部員は増えなくて、もうこの部も廃部かなと思っていたところにキミが来てくれたんだ!
まさにキミはこの部活の救世主!英雄だ!」
「は、はぁ……?」
「だから、ボクは欲を言えば今日、今からでもキミと活動をしてみたい!けれども、“部活動加入届を提出した翌日からしか活動をしてはいけない”というよくわからない校則があるせいでそれもできない。だが!せめて明日からは活動をしたい!キミともっと話してみたい!……このような言い方をするとプロポーズのようにも聞こえてしまうかもしれないが、そうではない。っと、話がそれたな。でだ、明日から活動するために必要なのは今日中に部活動加入届を顧問に提出すること。幸いにもこの場には顧問の北見先生がいらっしゃる!だから、今すぐ加入届を提出できるんだ!素晴らしいだろう?
さあ、早く加入届を出してくれ!もらっているだろう?」
ボクが一気に言いすぎたせいか、零君は固まっていたが、暫くして再起動をすると、鞄から一枚の紙を出してきた。
『部活動加入届』
そう書いてある、意味ボクにとっては教科書よりも大事な、下手をすればこの世のどの書類よりも大事に思えるそれには零君の名前とクラス、出席番号しか書いていない。
ボクは机の上のシャープペンで部活動名と、部長の署名を記入する。
ボクは自分ができる最速の動きでそれをすると、素早く立ち上がりそれを北見先生へと提出する。
「先生!お願いします!」
「あ、ああ。だが、良いのか?さっきからあいつ何もしゃべっていないが。」
「あ……」
完全にテンションが崩壊しきっていたボクは気が付いていなかったが、言われてみれば確かにそうだ。「は、はぁ……?」くらいしか言っていない。
「か、加入してくれるか?」
ボクは最悪の可能性を考えてそう訊く。
零君は暫く黙って何かを考えていた。その時間がボクにとっては裁判の判決を待つ時間のように思えて仕方なかった。
零君の口がゆっくり開かれたことで、その緊張感はピークに達する。
「僕は――
――加入します。」
少しの溜めの後にそう言われ、ボクの緊張の糸は粉々に砕ける。糸が砕けるというのも違う気がするが。
「決め手は?」
冷静に考えれば、ここにきている段階で入部したかったのだとわかるものだが、この時のボクにはそんなことを考えることのできる余裕はなかった。
「そうですね………僕なりに『美しい』と感じる“モノ”をこの部活でなら見つけられると思ったから、ですかね。」
「そうか……じゃあボクもキミがキミなりの美しい言葉を見つけられるように頑張らないとな。よろしく。零君。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
零君はそう言うと立ち上がって深く頭を下げる。
頭を上げると、何故かボクの顔を見て、ふっと笑う。
「……なんかついてる?」
「……いえ。ただちょっと……」
零君はそう言うと、どこか遠いところを見るような目をする。
「これから、面白くなりそうだなぁっと。」
「ふふっ。そうだな。キミの期待に応えられるよう、ボクも頑張らないとな。」
これは半ば自分に対して言った言葉だったが、それに対して零君はまたふっと笑うと、からかうような口調で言う。
「もし先輩が部活動を引退するまでに『美しいと感じるモノ』が見つからなかったら、訴えますよ?」
「おお、それは怖いな。キミならそんな無茶苦茶な訴訟でも勝ってしまいそうだ。」
「口から先に生まれたようなものなので、負ける気はしません。まあ、結局戦うのは弁護士ですけど。」
「その通りだな。」
何となく。
この他愛もない会話だけで少し心が近づいた気がした。
それが、何故かボクは嬉しくて、もっと近づきたい。
そう思えた。
ふと、零君が思い出したように言う。
「そう言えば、先輩ってボクっ娘だったんですね。」
「あ……ま、まあ。このことは他の人には言わないでくれ。」
「それは良いですけど……参考までに理由を聞いても?」
「変じゃないか?女の子が自分のことをボクって言うのは。
ボクもボクなりに変えようとはしたんだが、すっかりボクと言うのが定着してしまったから変えることもできなくてな。
クラスなどでは一人称を使っていない筈だから、このことを知っている人はたぶんキミしかいない。
だから、このことは秘密にしてくれないか?」
「それくらいなら全然問題ありませんよ。約束します。
……でも、そんなに変ですかね?いえ、確かに変わってるなぁとは思いましたけど、先輩らしくていいと思いますよ。少なくとも僕は、先輩が『ボク』というのも似合っているというか……まあ、可愛らしくていいんじゃないかと。」
「ふえ!?今、何て言った!?」
突然の発言にボクの顔が熱を帯びるのを感じる。
「いいんじゃないかと。」
「その前!可愛らしいって言わなかったか!?」
「言いましたね。そんなに驚くことですか?」
「は、はじめて言われたんだから仕方ないだろう!ボクだって女の子なんだから!」
「見ればわかりますよ。それに始めてってことはないでしょう?」
はぁ、はぁ。
まだ心臓がバクバクうるさい。
勢いで入部させてしまったが、考え直した方がいいかもしれない。
零君は危険だ。
顔が良いのに、ああいうことを平然と言ってくるなんて……
いつか刺されそうだなと心配になる。
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