ありのままのキミがいい
感情は厄介だ。
いくら押し殺そうとしてもどうしようもないし、なくなればいいと思うほど強く自覚してしまう。
「……零君、大丈夫かなぁ……」
本当に零君を信じるんなら、心配する必要はない。
そうわかっては居ても、何故か悪い予感が拭えない。
一度そう思ってしまったらもうその感情は消えなくなってしまう。
「古都さん、本当はお腹痛くないんでしょ?」
唐突に養護教諭の佐藤さんから言われて、ボクは思わず固まってしまう。
「え?ど、どうして?」
「勘よ~、勘。でもまあ安心して。追い出したりしないから。」
「あ、ありがとうございます。」
仮病がばれて、少し申し訳ないような気持ちになる。
「まあ、あれでしょ?部長のあなたの代わりにあの子が会議に行くためでしょ?」
「あはは……そこまでわかっちゃうんですか……」
「保健室にくる子は本当に具合が悪い子か、何か問題がある子ばかりだからねぇ。何となくわかっちゃうんだよ。」
「そうなんですか……」
「だから、あなたがあの子のことを好きなのも分かっちゃうの。」
まさかの発言を受けて、ボクは思わず息を止めてしまう。
やっと息ができるようになったと思ったら、今度は自分の顔が熱を持っていることに気がついて、余計焦ってしまう。
「え?ちょ、何でばれ……」
「私にもそんな頃があったもの。彼、上手くいくといいわね。」
「……はい。」
何でばれたのかわからないのがちょっと怖いけれど、これ以上尋ねるのも恥ずかしい。
……もし、ボクの態度がわかりやすいからばれたんだとしたら、他の人にもばれてる可能性が……
うわあぁぁぁぁあああああ!!!!!!
そんなの耐えきれない!!恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!
……はぁ。
心の中で騒いで、落ち着いた心に残るのは不安。
零君なら大丈夫だってわかっていても、落ち着かない。
「じゃあ、私は少し用事があるから外すわね。あと、彼が来たら勝手に帰ってていいわよ。」
「あ、は、はい。」
「うん。頑張ってね。」
佐藤先生はそう言うとドアを開けて保健室から出て行ってしまう。
書類を書く音すらしなくなって、いよいよ寂しさと不安が本格的になってくる。
ああ、零君遅いなぁ……
もう結構時間経った筈なんだけどな……
ボクの事なんて、どうでもいいのかな……
そんな風にいくらでも悪い方向に進んでしまう想像を、何とかいい方向にもっていこうとしても、結局は不安だけが残る。
そんな状態でもうしばらくして、誰かが駆けてくる音がした。
零君だろうかと思い、暫く待ってみるけど、その足音はドアの前で止まったまま動かない。
なにか、あったのかな?
ボクはベッドから出ると、ドアの方に進む。
そして、ドアに手をかけた瞬間、声がした。
「……零。話は聞いた。」
「一輝か。」
やっぱり、ドアの外にいる人は零君で、一緒に居るのはその友達だった。
「何でそこでじっとしてるんだ?」
ボクも尋ねたかったことを、零君の友人は訊いてくれる
でも、零君はなかなか答えてくれない。
ボクはボクで出るタイミングがつかめずに、ドアに手をかけたままでいる。
「……僕は、勝てなかった。結局宝井に負けて、会長を侮った癖に肝心なところは助けられて……
それで、屋上に居たら、会長に言われたんだ。『何でここにいるんだ』って。馬鹿だよね。そう言われるまで、古都先輩を不安にさせてたって気が付かなかった。
でも、どんな顔をして先輩に話したらいいかわからないんだ。
『大丈夫でした、会長が何とかしてくれました。』って言えばいいのか、『すいません、僕一人じゃ駄目でした。』って言えばいいのか。わからないんだ。」
そっか。零君は、会長に助けられたんだ。
だから、恥ずかしくなっちゃった。
でもね、零君、ボクはそんなこと気にしないよ。
だって、零君が頑張ってくれたのを知ってるから。どんな零君もかっこいいって思うから。
だけど、ボクがそう言ってもダメなんだろうな。
だって……
「そっか。そうだよな。お前にだって、プライドはあるもんな。」
……ボクは女の子で、零君は男の子で、きっと価値観が違うだろうから。
「うん。先輩にくらいは、かっこいい姿を見せていたいんだよ。でも、負けた。だから、そんな僕を先輩には見せたくないんだよ。先輩の前では、少しでもかっこいい自分でいたいから。」
思わず、ドキリとさせられる。
零君の言う『先輩』って、ボクのことでいいんだよね?
もし、そうだとしたら、もう十分お腹いっぱいになるくらいに、嬉しい。
「ねえ、一輝。好きな人の前でかっこつけたいって思う、古都先輩の前でかっこつけたいって思う僕はどうしたらいいと思う?」
それって、つまり、零君は、ボクのことが――
聞き間違えじゃないよね?
零君は、ボクのことを好きって言ってくれてるんだよね?
期待して、いいんだよね?
「……そうだな。そんなことは俺でもわから――」
「零くんっ!!」
嬉しさとか、色々。
もう、耐えきれなくて、保健室のドアを開けて零君に飛びつく。
「せ、先輩?」
そこでボクは、自分の選択を後悔した。
驚く零君の目の中には、強い不安の色が、後悔の色が残ってて。涙が残っていて。どれだけ零君が悩んでいたか、苦しんでいたかがわかったから。
ボクの為に、そんなに苦しんでいたことが分かったから、おこがましいかもしれないけれど、ボクが零君を軽くしてあげないとって思った。
「そんなことしなくてもっ!!」
そこで、急に不安が襲ってくる。
本当に、聞き間違えではなかったか。
本当に、零君はボクのことを好いてくれているのか。もしそうでなかったら、今の関係はどうなってしまうのか。
でも、零君の目から消えない不安の色を見て、そんな考えは何処かへ消えてしまった。
そんなことはどうでもいいから、早くこの不安の色を消したい。
そう、思った。
「ボクは、キミのことが、零君のことが、好きに決まってるじゃないか!
だから、キミはかっこいいとか、気にしなくていいから、ありのままの自分を見せてくれ!」
ついに想いを言ってしまった葉奈!!
二人の恋の行方は!?
次回に続く!!(次回更新:未定)




