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絶望の淵



月曜日は忙しかった。

部活に行く時間は取れなかったので、先輩にはメッセージを打っておいた。

本当は行きたかったけど、部活動の為ならば仕方ない。


そして、今日は火曜日。

ついに、決戦の時がやってきた。


「じゃあ、先輩はお腹が痛いということで、部長代理の僕が出席しますね。」

「ああ。わかった。」


心配そうな表情の先輩。

そんな先輩を保健室のベッドに寝かせ、僕は会議室に向かう。

既に打てる手は打った。

そして、最後の一手として、先輩の代わりに僕が出席する。


「ふふっ。勝った。」


僕はそう呟くと、階段を上がる。

宝井を直接潰せなかったのは残念だけど、仕方ない。

今は部活動のほうが大事だ。

部活動のほうが……


「やあ、元気かい?」


そんな不快な声に、思わず振り返ってしまう。

すると、そこにいたのは人を十人ほど引き連れて歩く宝井の姿。


「まあまあですね。」

「そうかそうかそれは良かったよ。それより、昨日は色々な部長に話しに行って忙しかったそうじゃないか。」

「……何の話ですか?」


何とかそう返したが、心の中は疑問符でいっぱいだ。

何故こいつが知っている?

何故知ったうえで余裕そうなんだ?

何故……


「後ろにいる人、見覚えがあるんじゃないのかな?」


後ろ……っ!!?


「ふふっ。やっと気が付いた?君が昨日お話してた部長たちは、全員こっち側だよ。」

「っ!?なんで……」

「君が色々嗅ぎまわているのに気が付いていないとでも?」

「じゃ、じゃあ……」

「君が昨日お願い(・・・)ネタにしていたのは、ぜーんぶ嘘。」


やられた。

まさか、全部ばれて……

っ!!?まさか、もう打てる手がない?

じゃあ、部活動は?

先輩は?


どうなるんだ?



「ふふっ。いい顔してるねぇ?ねえねえ今、どんな気持ち?」

「くっ!」

「いやあ、面白いねぇ。じゃあ、会議室で待ってるよ?」


そう僕に告げて、会議室に入っていく宝井と部長たち。

僕はそれを茫然と見ているしかなかった。









「――以上の理由から、『美しい言葉を探そう部』は廃止にするべきです。」


なにも、頭に入って来ない。

ただ、何も考えられない。


「では、これに関して何か意見などはありますか?」


議長の先生の声が響く。

何故か会長はここにいなかったし、既にほかの部長たちは宝井側についている。

だから、ここで何を言っても、どうせすべては無駄。

全部、終わったこと。


ああ、何があっても廃部にはしたくなかったのに。


頬を伝う雫の感覚も、歪む視界も、もはや何も関係がない。


先輩、ごめんなさい。


ただ、どうしようもない自分の無力さだけが心を支配する。


ごめんなさいごめんなさい。


「では何も意見がないようなので、採決を取りたいと思います。」


ごめんなさいごめんなさい。


「賛成の者は挙手を。」


沢山の手が上がる気配がする。


「では、反対の者は挙手を。」


震える手をゆっくりとあげる。

でも、他に手を上げるのは数人しかいない。


「では賛成多数において可決されます。」


全てが終わった。

もう、何を言ったところで無意味。

何をしても、意味がない。


もう、意味が――


「失礼します。」


おおきな声という訳ではないのに、よく通る声。

独特な雰囲気を持つその人は、そんな言葉とともに会議室に入ってくる。


「生徒会長の深星夜空です。遅れてしまい申し訳ございません。」


遅いんだよ。

もう、終わったんだよ。


「会長、もう採決は終わりましたよ。賛成多数において廃部が決定しました。」

「そっか。」

「ええ。だから貴方はもう……」

「みなさん。ただいま決定したことをお伝えします。」


宝井の声を無視してそう話し始める会長に、全ての視線が釘付けになる。

少し間を開けてから、会長は一枚の書類を取り出す。


「昨日、岡凪(おかなぎ)哲志(てつし)副会長より第五十五期生徒会会計宝井智の罷免の請願があり、学校長、生徒会担当職員、生徒会長、以上三名の承認によって認められました。」


その発言は、場の全員を硬直させるのに十分な効果を持っていた。





やっぱり、最後に美味しいところを持っていくのは、彼なんですよね……

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「絵が好きな君と絵を描かない僕」
面白いよ!(たぶん)

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