捜査+操作=手の平の上
精神的に疲れた……
あの後、先輩に昼ご飯を作ってから僕は自分の家へと帰った。
そして、今のこのソファーに沈み込んでいる状況が完成している。
「疲れた……」
先輩の部屋にいる間はずっと緊張しっぱなしだったから、精神的な疲労が半端じゃない。
――プルルルル
そして、こんな時に限って鳴るスマホ。
電話の相手をディスプレイで確認すると、僕はその体勢のまま電話に出る。
「もしもし。」
『もしもし。昨夜はおたのしみでしたか?』
「……用がないなら切る。」
『あれ?なんか疲れてる?』
「そりゃあね。」
一輝との会話は先輩と違った意味で疲れる。精神的に。
「で、何の用?」
『ああ、各部の部長の痛いところは調べ終わった。メールで送る。』
「それだけ?だったらメールでもよかったじゃん。」
『いや、実はもう一つの件なんだが……』
「もう一つ?ああ、会長の件か。なんか収穫はあった?」
『いや。残念なことに、大学生の彼女がいるという情報しかなかった。住所すらわからなかったよ。奇妙なほどに情報が隠されてた。』
「ん?じゃあ尾行すれば?」
そもそも、尾行は一輝の十八番だったはずだ。
それをしないということは、何かあったのか?
『いや、それが……』
「どうした?歯切れが悪い。」
『尾行してみたんだが、即ばれた。』
「はぁ?」
『言葉通りだ。学校から五分くらいは順調だったんだが、そこでいきなり対象を見失って、気がついたら後ろから話しかけられた。「尾行は良くないなぁ」って笑顔で言われた。』
「何それ怖い!って、一輝の尾行に気が付くなんて……」
『あと、こっそり鞄に仕掛けておいた盗聴器と発信機はいつの間にか俺の鞄に入っていた。』
「ねえ、会長ってほんとに人間?」
スパイも真っ青な動きをしてるんだけど……
というか、一輝がばれたってことは、僕が会長を探ってたこともばれたってことに……
「はぁ……面倒なことになった。」
『本当にすまん。まさかばれるとは……』
「いや、仕方ないよ。まさかそこまでハイスペックだとは思ってなかった。」
まさか尾行に気が付くとはね。
でも、それでわかった。会長はそこまで警戒すべき相手ではない。
弱みを握れなかったのは確かに誤算だけど、あそこで一輝に話しかけた時点で、彼は敵じゃない。
僕が会長の立場だったら、わざと尾行させて、偽の情報を掴ませるくらいはできる。
つまり、あそこで一輝にわざわざ尾行を見破ったと伝えるということは、所詮はその程度だったってこと。
「まあいいや。会長の尾行はやめにしていいよ。それより、宝井の情報は?」
『なんか所か怪しいところはあるんだが、肝心の証拠が出てこない。正直、会議までに間に合うかどうか……』
部活動の存続を決める会議は火曜日行われる予定だ。今日は土曜日。
……もう、時間がない。
「じゃあそっちは会議の後で。一輝は各部長たちに脅迫しておいて。」
『俺もそれがベストだと思う。だが、流石に全員は無理だ。月曜にはお前にも手伝ってもらうぞ。』
「わかってるよ。それじゃ、いい報告を待ってるよ。」
僕はそう言うと、電話を切る。
あとは、一輝に任せるしかない。
勝負は火曜日。
不確定要素もないわけじゃないけれど、特に警戒すべき相手はいない。
「部を潰させるわけがない。」
さて、彼は僕の思い通りに動いてくれるかな?
今のところは、全部思い通りになってるんだけどね。
そもそも、彼の行動には少し粗さが目立つ。たぶん中学校ではそれでもよかったんだろう。
ただ、今回はちょっと相手が悪かったかな?
小さい頃から悪い大人たちを見てきて、場数が違う宝井。
彼相手にその程度の手は通用しない。
さらに大きなお金の力で対処されるだけ。
「たぶん、今頃は『会長程度どうとでもなる』とか思ってんだろうなぁ……」
その驕りが、足元を疎かにしてるんだよ。だから、僕の思い通りに尾行を外す。
まあ、僕がそうなるようにしたんだけど。
まあ、仮に僕を尾行し続けてても問題はなかった。僕に協力者がいないと思い込んでたからね。誰も僕の勢力が僕だけだなんて言ってないのに……馬鹿だよね。
まあ、実際は琴木君がいて僕も助かってるんだけど。
彼の粗い行動に気を取られて、宝井から僕への警戒が緩んでるから、そこだけは助かってる。
それも含めて僕の狙い通り。
まだそれに気が付いてないんだろうなぁ……
出来れば、この経験を生かして成長してほしい。
そうしたら、次期生徒会で活躍してくれるだろうしね。
頑張っている零君と謎の人物Y。
いやあ、誰なんでしょうね~~(棒)




