回復と朝食と二回目
看病中は飛ばして、翌日の朝です
「……ん?」
朝起きたら、何かいつもと違う気がする。
それが体勢だと気が付いたのと同時に、何故僕はここにいるのかを思い出す。
そうだ、昨日は夜遅くまで先輩の看病してて、そのまま寝ちゃったんだ。
「……ふぁあ……」
欠伸をすると、今まで足りていなかった酸素が体に入って来たのか、頭が少し冴える。
どうもどうやら先輩の寝ているベッドに寄りかかるように寝ていたようだ。
先輩はもう起きているのだろうかと思い、僕は先輩の寝ているベッドを見る。
そこには昨日よりも具合のよさそうな顔色をして寝ている先輩の姿があった。
つらそうではないその姿に、思わず安堵の息を漏らす。
「……綺麗だな……」
ぽつりとつぶやいた言葉は朝の空気に溶け込んでいく。
そこに答えを返す人はいないけれど、それでいい。
沢山の人が魅力的だと思っても思わなくても先輩の価値は変わらない。
そんなことを考えていると、先輩が「んん~~……」と少し唸って、体勢を変える。
すると、ちょうど先輩の顔が僕の顔の近くになる。
あまりに近いその白い肌と綺麗な顔に、金縛りのように体が動かなくなるほど心奪われる。
「んん……ん?」
うっすらと先輩の目が開いて、暫く焦点が合っていない瞳で此方を見つめた後、急にその目に光が灯る。
暫くそのまま固まっていたが、やがて目が見開かれると、凄い勢いで上体を起こし、後ずさる。
その顔は紅く染まっていた。
「な、な、な、何で零君が!?こ、ここ、ボクの部屋だよね!?」
「あ、は、はい。昨日先輩の看病してたら寝落ちしてしまったみたいで……」
「そ、そうだよなっ!看病だよなっ!!」
「? それ以外に何か?」
「い、いや。何でもない。うん。」
先程よりもさらに顔を真っ赤にしながら、布団を抱き寄せ口元を隠すその様子は、昨日とはまた違った魅力が……って、何を考えているんだ?僕は。
「じゃあ、先輩。朝ご飯、作ってきます。あ、食欲ありますか?」
「ああ、食欲はあるが……零君は、料理できるの?」
「まあ、多少は。」
先輩程おいしくは作れないけれど、食べられるものを作るぐらいはできる筈だ。
「だ、だが、看病してもらって、さらに朝食も作ってもらうなんてそんな……ぼ、ボクが作るから、キミは……」
「先輩、病み上がりなんですから気にしないでください。いま無理に動いて、また具合悪くなったら元も子もないですよ?」
「で、でも……」
「『でも……』じゃありません。とりあえず昼前くらいまで様子見て、大丈夫そうなら動いていいですから、まだ安静にしててください。」
「……わかった……」
我ながら、若干過保護(保護者じゃないけど)な気もするが、決して間違えたことは言っていない筈だ。
「あ、そう言えば、今日学校は……」
「今日は土曜日ですよ。学校はありません。そう言う訳なので、遠慮しないでください。」
「あ、ああ……」
まだ何か言いたげな先輩が気にならないと言えば嘘になるが、そろそろ朝食を作りに行きたいので、僕は一言断ってから、先輩の寝室を出た。
「うん、美味しい。」
「そう言っていただけると作った甲斐があります。ほら、先輩は昨日ろくに食べてないんですから、ちゃんと食べてください。」
「す、少し多いんだが……」
「じゃあ残していいですよ。食べれる分だけ食べてください。僕が食べます。」
僕はそう言うと、自分の前にある皿に載っているトーストを齧る。
昨日は先輩に付きっきりだったから、ご飯を食べるタイミングが無かった。
なので、いつもの朝食よりは多め。とはいっても目玉焼きの分だけだけど。
「キミはそれだけで足りるのか?」
「ああ、はい。朝って食欲が出なくて……」
僕は空っぽになった皿を重ねながら、先輩の問いかけに答える。
まあ、確かに自分の分より先輩の分のほうが多いけれど、心配されるほどじゃないと思う。
「ほら、キミに倒れられたらボクが困る。ほら、これを食べて。」
「は、はぁ……」
何故か先輩は手に持った食べかけのパンをこちらに差し出してくる。
「ほら、ボクはもうお腹いっぱいなんだ。代わりに食べてくれ。」
「わかりました……」
「ほら、あーんだ。」
「あ、あーん……」
何これ!?
すっごく恥ずかしいんですけどっ!!?
思わず叫びそうになるのを抑えて、大人しく口を開ける。
すると、トーストが僕の口の中にいれられたので、ゆっくりと咀嚼し、呑み込む。
「あ、すまない。ジャムが少しついてしまった。」
「え?あ、はい。」
僕はそう言われて自分の口元を拭おうとするけれど、それより先に先輩の手が僕の唇の近くに触れる。
「よし、取れた。結構人に食べさせるのも難しいんだな。」
僕はそんな先輩の言葉に返事もできずに、ただ今起きたことを整理するしかなかった。
細く、白い指先。
少し笑いながらトーストを差し出す姿。
……トースト?
……ああっ!?
「ん?零君?顔真っ赤だよ?」
先輩の心配するような声がしたのがわかったけれど、それよりも今は間接キスだったという衝撃的な事実を呑み込む方が先決。
結果、先輩のことをスルーするような感じになってしまう。
「れ、零くーん?どうしたの?返事が……」
「せ、先輩?さっきの、間接キスじゃ……」
「ん?間接きs……っ!!?」
その事実に先輩も気が付いたのか、顔を真っ赤にしてしまう。
というか、今思い出したんだけれど前にも間接キスした気がする。
駄目だ!僕、二回目なのに全然成長してない!!
久しぶりの更新……遅くなってすいません。
次は、頑張りますとしか言えない……




